●リプレイ本文
「おいおい、俺かよ」
水のウィザード、セルフィー・リュシフール(ea1333)の頼みでクールな射手、ヴィグ・カノス(ea0294)にフランクの考古学者、ギィ・タイラー(ea2185)と、イギリスの通訳、レジエル・グラープソン(ea2731)、そして無謀と蛮勇のマート・セレスティア(ea3852)にエジプトの少年、ベガ・カルブアラクラブ(ea5215)といったレンジャー陣は時間稼ぎという事で、各階の窓にトラップをしかける事になった。
残りの面々である若手の騎士のランディ・マクファーレン(ea1702)にコナン流の破壊者、トール・ウッド(ea1919)。
子供でもジャイアント故、容赦されないシクル・ザーン(ea2350)。きびだんごのガゼルフ・ファーゴット(ea3285)に『花枯らしの詩人』オレノウ・タオキケー(ea4251)と、アルスター流のレイ・ファラン(ea5225)と、ウォーモンガー忍者の暁らざふぉーど(ea5484)と言った面々は大きな岩を運び込み、ストーンの魔法で石となったクラーク氏を偽装するためにダミーも本物も含めて布をかけていく。
さすがにシフールであるシャクリローゼ・ライラ(ea2762)はどちらの仕事も無理の為、周囲の監視に回されている。
発案者であり、実行者。パリの実力者と目される、殴りクレリック、ノリア・カサンドラ(ea1558)曰く。
「ストーンの呪文が完成する前に、任せなさい、みたいな事を言って安心させたかったのに‥‥」
と漏らすが来た時にはすでにクラーク氏は石化していたのだから仕方がない。
ギィが、一段落すると人員点呼をして、怪しい人員が塔内に紛れ込んでいないことを確認して、各員の打ち合わせ通りのポジションにつく。
食事はキャシー・バーンスレイ(ea6648)のクリエイトハンドで一同の分を賄う。 これでは毒の混入などできる隙はない。
食事の旅にシクルが一々、ニュートラルマジックで人遁の術と顔をぐにぐにしてで化けていないか確認。
安心して保存食ではなく、セーラの恵みに預かる彼等。
そして、最終日、襲撃が始まった。
雨の降る宵の口。道すがら堂々と歩いていくる浪人の少年『五の字』である。
レイの感覚では殺気は感じられない。だが、茶を飲みに来たのではないだろう。
緊迫した空気を感じたのかオレノウが三味線を弾きながら歌を歌い、全身を銀色の光に包ませる。
(雨の日は余り好きじゃないんだよなぁ‥‥調弦がすぐに狂うから‥‥‥‥で、誰か来たか?)
(ひとりだけだ)
シャクリローゼも外を覗く。塔そのものの視界が狭まっているのが恨めしい。おまけにトラップで迂闊に窓に近寄れないのも善し悪しだ。
オレノウの報せにレジエルは皆に注意を促し、それは全階に伝播する。
頷いたシクルも合掌し呪文を唱え、黒く淡い光に包まれる。タロンの加護が魔力を全て遮断する。
(私は前回の依頼で大赤字だったようです。
家賃未納で差し押さえられるであろう借家を取り戻すためにも、依頼を確実に成功させてボーナスも手に入れねばなりませんね)。
家出少年ならではの切実さである。
泣きたくなるが、それをこらえ戦いの準備にと盾を構える。
一方、1階では、ギィが一種狂気にかられた目でロングボウに急ぎ弦を張る。
クレイモアを鞘から抜くだけ、というトールの準備のシンプルさとは大違いである。
「前回の雪辱を果たさせてもらうのは‥‥こちらの方だ」
とヴィグも口と鼻を布で覆いつつ、呟く。
「前回は痺れ薬のおかげで殆ど何も出来なかったが‥‥今回はそうはいかんぞ」
スピアを構え最後の備えに入る。
さすがにガゼルフの援助に入った白クレリックまで信じられなければ、仕方がないのだが。
だが、次の瞬間、木の扉を一太刀で切り裂き『五の字』の姿が現れる。
飛び込み様にヴィグのスピアに一撃を浴びせると、手元から30センチ残しポロリと落ちる。
棒術としても使えないようにしたのだ。もっとも彼に棒術の嗜みはないが、その限定された空間へ──。
シャクリローゼがダーツを『持って』、ツンツンとつつくが、ダーツは飛ばす事で運動エネルギーがあるからダメージになるのであって、非力なシフールでは当たってどうこう以前に無害である。
そうしている間にもレイはロングソードを構え『五の字』と斬り結ぶが、圧倒的な剣術の地金の差が出て、劣勢に立たされる。
相手が武器破壊を狙っているのはヴィグの例で判っているので、そこは華麗な足捌きで何とか外す。
だが、若干の時間稼ぎにはなったようだ。
「退け──レイ」
破壊者へと己を切り替えるトール。
敗者には何も与えるな、ごちゃごちゃ言う前に殺れという戦場のルールの実践者である。
そして、肉を斬らせて骨を断つの精神であった。
それに対して五の字は、白木の柄に白鞘に刀を収めた。
「参る」
「殺し合おうぜ、年も性別も種族も関係ない」
粗暴そうに見える顔が更に歪んだ。
居合い相手に防御を完全に捨てて、クレイモアの全重量を乗せた一撃が炸裂する。 だが、それに対し五の字はカウンターアタックで相手の攻撃を受けてからの一撃で返す、相手が完全に防御を捨てていると判った時点で『五の字』もダメージを与えられるだけの技を総動員していた。
深手を負った五の字だが、トールの弱々しい一撃はぎりぎりで急所をかわされる。
「畜生。餓鬼のクセに‥‥」
一刀でトールは倒れ伏す。
退こうとする『五の字』にギィが矢を向け問いかける。
「なぜ『聖遺物』を狙うのか」
「さあ、腐れ縁でつき合ってやっているだけだ」
「なら、不死の力を与える、もしくは死者を蘇らせる力について心当たりは無いか」
「悪魔に魂を売り渡せば悪魔になれるし、死者を蘇らせたければどこぞの国にでも当たるんだな」
そこへギィが引き絞った矢を放つ。
本来なら深手を負った『五の字』では受けもかわしもならない一撃だが、なぜかギィの秀でた技量に裏付けられた一撃は外れた。
これを奇禍として逃げ出す『五の字』。
「何故逃がす? ギィの腕なら外す距離ではないだろうに」
「狙いすぎただけだ」
そうしている間にも次の手が打たれていた。
「またふたりと、馬かな? が近づいてきた」
シクルが警告を上下の階に飛ばす。
怪盗3世の姿が3階からはっきりと見えた。馬からは下りているようだ。
何やら印を結び呪文を唱えると、煙と爆発に包まれる。
空中に躍り上がると高速詠唱で再び煙に包まれ、空中浮遊する。
「3階に飛びついたようです」
シクルが声を飛ばす。
一方、怪盗3世は窓にしがみつくとロープを足らし、相方を上へと誘う。
罠のクロスボウを何とかかわし、窓を開き進入する。
だが、岩が乱立する現状には困ったようである。
ロープを意外に早い速度で伝っていく相方だが、2階でも窓を開けて対処しようとするが、窓の罠を解除するのに一苦労し、まんまと上へ逃げられた。
「来たぞ、怪盗だ!」
ランディが下へと叫ぶが、2階や1階から誰か来ても、この状況では人間と石像のごった煮が出来るだけだろう。
3階への入り口をセルフィーが封印している間に、一同は対峙する。
「はっきり言えば、仲間がここに辿り着くまでの時間稼ぎだよ。早く逃げた方がいいんじゃない? そうそう、あたしはセルフィー・リュシフール、怪盗を退ける者よ」
言いながら、アイスコフィンを唱えようとするが──。
「大介、頼むぜ」
「あいよ」
と言っている間に大介と呼ばれた、相方が高速詠唱で呪文を唱え始める。
「まさか、この距離で?」
自分は3メートル以内に居なければ、アイスコフィンは成就できないが、相手は他人にウォーターウォークを成就できるだけの腕前の持ち主であった。
魔力に抗しきれず氷像と化すセルフィー。
「おいらマートって言うんだ、おいらと遊ぼうよ」
と、赤い布の石像から顔を出すマート。
「さーて、何をして遊ぶのかな」
「現れたな怪盗3世! これ以上の悪は少年探偵ベガが許しはしないぞ! マート邪魔!」
と同時に現れたベガはナイフを投げるが、囓っただけのナイフ投げはあっけなくかわされる。
「怪盗さん。残虐行為手当てははずんでもらうよ、美少年で探偵でサディスト!」
鞭を振るうベガ。しかし、石像に阻まれてあまり有効な攻撃は出来ない。
というより、相手の体術が違いすぎていた。
「わっわっわ、危ないな。あ、おいらの事はマーちゃんて呼んでね」
全然危なくなさそうに言いながら、つかつかと、怪盗3世に近寄ってきて、懐からちょろっと、何か取り出そうとするが、怪盗3世は一陣の煙に包まれると、石塊のひとつと入れ替わる。
「すっげー、オリエンタルマジック!」
「遊ぶなマート、俺がもっと楽しい遊び方をおしえてやるぜ」
喜劇俳優のガゼルフが、この笑劇の一幕に波乱を与えんと、剣を振り衝撃波を放とうとするが、乱立する石像に視界をふさがれ、思うように技を振るえない。
開き直って石像に昇り、不安定な足場のままダガーからの衝撃波で怪盗を釘付けにする。
「怪盗3世、ね‥‥何事も3代続くと廃れると言うが、今度の相手はどうだかな‥‥」
ランディも石塊の隙間を縫うようにして接近を試みる。ガゼルフはなおも剣を振るう。
「きびだんご。それは友好の証!! だが鬼には容赦はしない。そう、きびだんごとは、俺のことだ〜〜!!」
キャシーも誰かが傷を負わないか、はらはらしながら見ている。
下ではレジエルが封印された3回への入り口が封印された事で何か起きたと知り、オレノウを通じて、連絡を取ろうと試みている。
「待って下さい、ニュートラルマジック!」
シクルがかけた魔法で、氷は消失し、3階への突破口が広げる。
だが、シクルは1時間に1度かけていた術で魔力は底をついている。
ランディがフレイルを振りかざし、ガゼルフに足止めされている怪盗に一撃を浴びせるが、印を組み、一陣の煙に紛れると、そこには頭に一撃浴びて、伸びているカサンドラの姿があった。
「しまった、入れ替わりか?」
ガゼルフが叫ぶ!
「だが、この石像だけは死守してみせる、なにしろ俺は『きびだんご』だからな、しかも毒入りだ!」
「そうか、それが本物か!」
緑の瞳を煌めかせて怪盗が叫ぶ。
次の瞬間、高速詠唱でアイスコフィンが飛び、ガゼルフを封じる。
そのまま、布ごとずれ落ち、クラーク氏の石像が露わになる。
「ねぇ、まーちゃんと遊ぼうよ」
「オッケー、よし頼むぞ、大介」
「いいぜ」
懐からハンマーを取り出し、エルスハイマーを固定している鞘の革帯部分を粉砕する。
次の瞬間。
「困りましたね〜、誰と戦っても負ける気しかしませんよ〜」
へらへらと笑みを浮かべながら、らざふぉーどが現れる。
「ああ‥‥血が沸きますね、対人戦‥‥」
と、笑みは邪悪に染まり、大介の懐へと飛び込んでいく。
だが、基本的な格闘の地金がなければ、この技は真価を発揮しない。間合いを詰める前に高速詠唱が発動。抵抗力があまりにも低かった、らざふぉーどは封じられる。
「確かに頂いたぜ」
「じゃあ、撤収〜! じゃ、また今度遊ぼうぜ、マート」
駆け上げって来るオレノウ。思わずトンチンカンな反応をする。
「‥‥おや? これは‥‥‥‥初めまして」
「こちらこそ。でもね、あばよ!」
と、言いながら、三味線を掻き鳴らし、オレノウは月の精霊力で眠りにつかせようとするが、相手はそれよりも早く、高速詠唱で魔法を発動、窓から飛び出していく。
大介はロープを血に染めて掌をずりむけにし、滑り落ちていった。革の手袋故、些かダメージは軽減されているだろうが、そう楽に魔法は使えないだろう。
シクル達が踏み込んだときには怪盗は空中にあり、大介は深手を負った浪人を馬に乗せ、逃走した後だった。
「ハン、これじゃクレオパトラとのデートが台無しだね。責任とってもらうよ」
ベガは失敗に憤慨して鞭で床を叩いた。
6時間後、シクルが魔力を回復する為の睡眠から目覚め、ストーンを解除。一同、詫びを入れるべく、その間中、言葉を考え始めていたのであった。
それに対し、クラーク氏は笑った。
「おやおや、剣を握っていなくて良かったよ。握っていたら指ごと砕かれただろうからね」
「あの──怒っていないんですか? エルスハイマーは取られてしまったんですよ?」
困惑したシクルが一同を代弁する。
クラーク氏は自分の経っていた床板を剥がすと、そこにはひとふりの剣があった。
「騙すつもりは‥‥まあ、結構あったんだが──本物のエルスハイマーは私の足下にあった訳だ。魔法の武具でもないし、感知系の魔法を持っていないだろうと、今までのギルドの報告書から判断してね」
こうして、一同は聖遺物であるエルスハイマーが教会に引き渡される現場に立ち会い、見事任務を果たしたのであった。
もちろん、トラップや石塊の始末はそれからの事である。
これが事件の顛末である。