●リプレイ本文
「はじめまして、わたくしはシャクリローゼといいますの。ローゼと読んでいただいて構いませんわ(笑)。えぇと、一応ジプシーなのですが、まだ見習いなので魔法もつかえないし‥‥攻撃も‥‥。‥‥え?何につかえるかって?失礼ですねぇ‥‥見習いでも占いとかはできますし、殺気の感知や動物への知識もあるんですよ? ‥‥あ、あなた、今わたくしに殺気をいだきませんでした!?‥‥なんて(苦笑」
などと、エジプトのシフール、シャクリローゼ・ライラ(ea2762)が自己紹介を行っていると、姿勢正しく、志士の九条 葵(ea3563)も礼を返す。
「これが私の始めての冒険になります。しかし、こんな所で、まさか故国の物を目にするとは思いませんでした。‥‥いや里心をつけている場合ではないですね。修行、修行‥‥。
おそらく、人形は守るべき墓に戻りたくても現在自分が何処にいるのか分かっていないのでしょう。だから、墓を探して無作為に動いている。そう考えれば纏まって行動していない理由も納得が行きます」
「おい、変な人形が冒険者街を沢山歩いているってさ!」
「‥‥残念ですが、私の推論は外れたようですね」
「大丈夫! 世の中どうにかなるものですッ! 早く行きましょう、葵様」
“それ”は異形であった。
素焼きづくりの人形であるにも関わらず、手足は柔軟に動き、空虚さと愛嬌を表現した笑い顔を顔に張り付く。ヨーロッパでも滅多に見ることのない、伝説の怪物に『ゴーレム』という動く人形があるが、それと同じ流れだろうか?
「表情があるような無いような‥‥なんだか不思議な造りですね」
と華国の武道家、荒巻 美影(ea1747)が告げる。
「なかなか不思議な感じの人形ですね。ギルドで詳しく教えてもらえなかったので推測しかできませんが、十二支という東方文化をもとに創られたのではないかと読んでいます。十二支は方角も表すことができると言いますし。ひょっとしたら、全ての人形は同じ場所に向かうのではないかとも‥‥。
マリウス・ゲイル(ea1553)は人魚を見てとりとめもなく、そんな事を思っていたが、シフールから情報を聞き込んでいたノリア・カサンドラ(ea1558)はもっと端的に。
「死者である主人を守るために故郷に戻ろうとしてるのかな? まったく、
人形なら人形らしく大人しくしてなさいっての」
「人形らしく大人しくしててくださいね」
とその言葉を引き取るかの様にジャパン語で投降を呼びかけようとするマリウスを、アルフレッド・レインマイヤー(ea1776)が抑えようとする。
「ひょっとしたら、後の11体の所に連れていってくれるかもしれませんよ」
「だが、街の人に迷惑が‥‥」
「いつまでも野放しにしろ、とはいいません。行動パターンを解析するまでです」
と、言っているとそこかしこに悲鳴や怒声が上がる、目を凝らすと埴輪たちは一直線に西らしい方向、有り体に言えば、コンコルド城を経由して月道を目指しているようであった。
残りの11体も冒険者街にいる事に、皆この混乱で気づいた。
カイザード・フォーリア(ea3693)は心の中で呟いた。
(くっ、力得る為とは言え人形捕獲とはな)
その黒と淡い琥珀色の視線の先には──。
「さてと、骨董品鑑賞をするためにはまずは仕事をしないとな」
アルベール・クマロ(ea3129)が指を鳴らし呪文を唱え始める。
気流が彼を中心に渦巻き、皆の動きを抑制した。
やはりゲルマン語が怪しいルイス・マリスカル(ea3063)は冒険者ギルドをつてにして、商人に描いてもらった人形の絵と、同じ外見である事を確認すると、両手から毛布を垂らしまま、つかつかと間合いに忍び寄り、毛布を勢い良く投げかけるが、気流で動きが乱れた。完全にはかからない。
ジャン・ゼノホーフェン(ea3725)がロープでぐるぐる巻きにしようとするが、それより早く抜剣される。
葵が持ってきた木の板で受けようとするが、盾の様に使い勝手の良くない、そして相手の腕の方が上ではそのいとまはなかった。
「しまった!」
飛び込んだ美影が己の闘気を高め、剣の一撃をかすり傷の域まで落とす。
しかし、二撃目が浴びせられる。
だが、目の前にいたルイスがその剣に飛び込み両掌で挟み込むと、気合い一閃、人形の手からもぎ取った。
更にマリウスが飛び込み、毛布を掛け動きを封じる。
気流に流されながらもシフールのリィル・コーレット(ea2807)が重そうにロープを持ちながら、周囲を飛び回り、完全に梱包する。
葵がルイスの掌を見ていられず、埴輪の方に視線をやって告げる。
「足掻くのは止めてください」
(どうでも良いけど……中って入れるのかな?)
思わず毛布の裂け目から、潜り込み──口から潜り込もうとした所で、頭が引っかかり、カイザードに引きずり出される。
無言の彼に乱気流の中に放り込まれ、目を回すリィル。
とりあえず、次の人形を縛るロープを借りにギルドに戻る。ここでちょっとフェードアウト。
ともあれ異郷で見た見事な白羽取りに僧兵の五所川原 雷光(ea2868)が感嘆のあまり、言葉が出ない。もっとも、ゲルマン語でこの気持ちを表現できはしなかったが。ルイスの白羽取りも完璧には決まらず、掌から血を滴らせていた事には気づいていた。
同時に怒りがこみ上げてくる。
「墓の副葬品を盗んで売買するとは愚かな」
呟くと、念仏を唱えつつ、次の人形──いや埴輪へと向かう。
「さあ、こちらへくるがいい。月道の元、主達の元へ戻そうぞ」
シャクりーゼも片言の日本語で話しかける。
「ねえねえ、おうちにかえりたいんでしょう? こっちこっち」
だが、相も変わらず埴輪達はマイペースに動いていた。
──まあ、この様な副葬品が合葬されるという制度は仏教渡来以前だから、雷光の予想通りであると言えば、言えなくも無かったが。
「墓の副葬品を盗んで売買するとは愚かな。
埴輪人形が動き出したのも、見知らぬ地で迷子になりつつも守護地に帰る為でござろう」
ともあれ、一同が最初の戦いで結論を出したのはアルベールの魔法は諸刃の剣という事だった。
毛布がかかり辛いという欠点はあるが、相手の剣さばきをかなり封じられるという利点もある。
結論として、葵の策は当事者が危険すぎるので却下。ノリア、シャクリーゼ、、リィル、ルイス、カイザード、更に美影ならば互角以上に戦えるので、彼らが引きつけて相手の動きを封じてしまい、魔法はなしで毛布を掛ける事となった。
カウンターが得意な面々はいるにはいたが、相手の防御を封じるカウンターアタックでは相手を破壊してしまい、大量の借金を抱え込むことになるので、見送られた。
結果、シャクりーゼ、リィルといった面々が相手の剣撃を回避し、ノリアが提案した、投げ縄で埴輪を絡め取り、強引に人数に任せて牽き倒すという策になる。
本来ならば月道の手前でロープでトラップを張り、そこを何とかしたいというのが彼女の考えであったが、ジャンが語学には堪能であれ、工作技術には長けていないという、彼女がレンジャーに対して抱いていた幻想をあっさり破壊する形でお流れとなった。
副次的な問題としてはコンコルド城の前をこんな連中が通れば、衛兵との衝突は必至で捕獲命令を受けた身としては肩身が狭くなるという事もあったが。
そして、各個撃破で作戦は発動。騒動の内に冒険者街での埴輪捕獲作戦は終了した。
埴輪の向きが一方向しか向いていないのも勝因ではあったが。冒険者街の同業者の手助けで毛布の貸し出しが在ったことも一因だろう。さすがに捕獲の為とはいえ、2枚も3枚も持ち歩く、風狂な輩はいなかったようだ。
「あ、そういえば‥‥余計なことかも知れないけど〜、これ売っちゃって大丈夫なの〜? また、勝手に動き出したりしたら危なくないのかな〜…って思って〜‥‥」
“荷物”を受け取りに来た商人にシャクリローゼが告げる。
相手はシフール共通語で返答した。
「なーに、いいデモンストレーションでしたよ。今度の騒動で『本当に動く』というのが口コミで伝わりますからね。相手はそれを知った上で買うんでしょう。で、対策を取らないのは私の責任ではない」
敢えて言うぞ、と雷光。
「今回は箱から抜け出すだけで済んだが、人形を祖国に帰さねばいづれ大きな事件が置き、貴殿に大変な災いとなるであろう。
金銭、信用を損なう他にも罪に問われる事になるやもしれんな。
それに本当はお主、ジャパンの言葉は分かるのであろう?」
「『さー、しりませんな』と言っているよ」
「ならば、この男に伝えてくれ『仏の顔も三度』という言葉が、ある事をな」
「まあ、そこまで事を荒立てず‥‥しかるべきところに頼んで、人形の命令を解除するほうがいいのでは?」
ルイスは助言するが、マジックアイテムの機能は易々と変えられないものだ、と一笑に伏された。
「そのしかるべき所を紹介していただきたいものだな」
「‥‥まぁ、私としては埴輪をジャパンに戻す事を薦める。あくまで薦める、だが。
買い手が人形に殺傷されたら責任はあなたに来るかも知れないしな。
それに本物のハニワであるから動いたのだとすれば、あるべき所に返してやるのがいいのではないだろうか?
まぁ、私がその金を払えと言われても払えないから薦めるなのだがね」
アルベールは己を韜晦しつつ口を挟んだ。
「判ってはいても口を動かさずに居られないという事か? そういう事は私の上得意になってから言うものだ」
そう、こういう返事が返ってくるのが判っているのだから。
依頼は達成したが、無常が漂う結末であった。