ファーブル大昆虫記2〜大似我蜂の段〜
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 16 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月03日〜10月18日
リプレイ公開日:2004年10月07日
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●オープニング
「マドモアゼル。兎から生まれるのは何か知っていたりするかね?」
ウィザードにして昆虫学者、キャプテン・ファーブルは冒険者ギルドの受付嬢に唐突に問い質した。
「それは勿論、兎ですわね」
「そのとおり。しかし、世の中には、兎から蜂が、しかも全長50センチもの大きな蜂が生まれると勘違いしている者が少なからずいる。その莫迦者たちに真実を暴き立てたりしたいんだ」
「はあ、でその大フクロは?」
と、赤毛の昆虫学者の手にした、大きな袋に目をやる受付嬢。
「これかね? これはその非常に珍しい蜂、ラージディガーワスプ‥‥大似我蜂(オオジガバチ)が、幼虫の餌とする兎だよ。良く肥えていてね、囮にはもってこいなんだ──そこで」
と、キャプテン・ファーブルが切り出した依頼は‥‥
大似我蜂は丘陵地帯で兎を幼虫の餌として、強力な麻痺毒で体を痺れさせてから捕まえていく。
そして丘陵地帯に穴を掘って巣にしているので、成虫、即ち蜂が、卵を産み付けたらすぐさま冒険者達に巣の中身を全て持ち出し、サンプルとして確保してほしいとのこと。
「大事な事は、間違っても、卵を産んだ後でも蜂とは戦わない事。万が一出会ってしまったら観念して動かないように。そうすると3回に1回位は、相手が無視して蜂は去っていく。動いたらどうしようもない。何しろ戦闘力が違う。もし、向こうが去らなければ、あきらめて大声を出して仲間を呼ぶことだ。ひょっとしたら全員でかかれば倒せるかもしれない。
ともあれ、募集するのは五感、特に視力や、陽魔法などの使い手のチェイサーだ。次に蜂が入れる様なところに入れる、パラやシフールと言った小柄な面々だ。ま、子供でもいいか」
そう話した後で、万が一戦闘になった場合は、金貨3枚の危険手当を出そう。それ以外は少々安めの依頼になるがね、とキャプテン・ファーブルは言い置いた。
「同行はなされないんですか?」
「いやぁ、仕事で今度はジャイアントマンティスを調べようとしているんだが、オスメス2匹ともきちんいると生息地帯を見つけていないんだ。ま、調べがつき次第、改めて捕獲の依頼はさせて貰うがね。
そうそう、この依頼が終わったらと、キャプテン・ファーブルはこの囮に使う兎たちを使って、ささやかなパーティーを開きたい。料理上手な冒険者も期待していると伝えてくれ給え」
契約書にサインをすませると、キャプテン・ファーブルは旋風のように去っていった。
●リプレイ本文
「ほうら、高い、高い!」
割波戸 黒兵衛(ea4778)がパラの少年忍者、蔵王 美影(ea1000)を肩車する。
「わー高いや、故郷のじいちゃんだって、こんなに高く無かったよ」
美影の声とその光景に、ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)はうっとりする。
(ああ、無邪気な少年の戯れる姿、四半袴ならなおも良かったモノを、少女もいいけど、少年もね〜)
仕立て屋でのパリの実力者としての名声をほしいままにしている彼女はその光景にまだうっとりしていた。
「じいちゃんはないだろう、せめておじさんで留めてくれ。お前の爺ちゃんより高いのは人間だからだ。まあ、偶には趣が変わってよいだろう」
燃えて、萌えて、どうしようもないミリランジェルをよそにジャパンの忍者ふたり組のコミュニケーションは続く。
料理番としての腕前も黒兵衛に楽勝しても尚、美影とのコミュニケーションを取る機会をつい伺ってしまうのは彼女の本能だろうか?
一方、溜息を漏らすのはエレア・ファレノア(ea2229)であった。テレスコープで蜂を監視というキャプテン・ファーブルからの依頼通りの能力の持ち主であったが、いかんせん、視力に比べ魔法の方は初心者の域を出ておらず、効果が10秒しか持たないのだ。
いざとなればサンワードに頼ればいいのだが、これも、そう決定打に欠けていた。
最後の武器は彼女自身の視力である。専門的とはいかないが、素人ではない。
その視線は丘陵地帯に放たれた子兎たちに集中している。
丸々と太って、如何にも食べたら美味しそうな子兎達。
「大丈夫ラテン語のレポートでは誰にも負けはしない。ビザンチンのエルフは早々、負けは認めないのです。でも、魔法はもう少し‥‥強くならなくちゃ‥‥それに筆記用具持ってない。ピンチかも──」
「どうなさいました、エレア様? 自分もファーブル先生からのご依頼‥‥前回、残念ながら私はお力になれませんでしたし、歌もご披露出来ませんでしたの‥‥今回は是非とも頑張りますわ」
アイネイス・フルーレ(ea2262)がガッツに燃えている、エレアに言葉をかける。
「歌ですか‥‥歌はいいですね。一曲弾いてくれませんか‥‥あ、バードの方にとって歌は日々の糧ですね。アイネイス様、埒もない事を申しました」
「いえ、仲間の為なら声が枯れない程度に謳って差し上げますよ。でもファーブル先生の歌はパーティーのお楽しみに取っておいて下さい。みんながどんな反応をするか楽しみなので。では、私の曲を一曲‥‥と思いましたが、楽器がない。お粗末ですが歌で我慢下さい」
彼女の済んだ歌声が響き、エレアが舞う。アイネイスは彼女の自分と同等のレベルにある舞に刺激され、まるで彼女自身が操られているかの様に声が引き出されていく。
騎士階級として舞踏の嗜みのあるカイザード・フォーリア(ea3693)に、ユージィン・ヴァルクロイツ(ea4939)。そして、ロイド・クリストフ(ea5362)も宮廷式のしっかりしたステップを見せる。
「やれやれ、つい踊っちまったぜ──良い歌だったな」
ロイドが頭をぼりぼり掻きながら寸評を加える。
もっとも激しいステップを繰り広げた当人である。彼も騎士階級の嗜みとして強引に体に覚えさせられたが、体を動かすことそのものは嫌いでは無かったらしい。
カイザードやユージィンも舞踏に関しては騎士階級の嗜みとはいえ、多少の研鑽を積んでおり、アイネイスの歌では力不足だったようだ。
「いや、兎に卵を産むハチっていうのが見てみたくて、ふらりと来てみたんだけど。こんな所でステップを舞うとは僕は思っていなかったな。それにしてもファーブル先生が、依頼の後、即座にコメート号で行ってしまわれたのは残念。色々と聞きたい事もあったのに」
言ってユージィンはレイジ・クロゾルム(ea2924)に視線をやる。
「頼む! 絵日記もとい、絵で注釈を入れたいから筆記用具、少しで良いから貸してくれ」
「さて、どうしたものか? 自分の分担の道具を自分で揃える事もできない輩に、大事な道具を貸す訳にはいかないしな」
と言って、と殺所に連れて行かれる豚を見るような視線を投げ返す。
「まあ、良かろう──貸しは物質的に返して貰うぞ、精神的にではなくな」
「そう尖らずに、ユージィンさん貸してあげますよ。空いている時間にですけど」
と助け船を出したのはエグム・マキナ(ea3131)。
左の目が無色としか言い様の無い、にこやかな笑みを常に浮かべている不思議な人物である。
「大似我蜂などと言う凶暴な生き物がいる場所にすむ生物はいないとは思いますが‥‥まあ、あまり騒ぐのは控えましょう」
「でも、生物が居なければ、狩りは出来ない」
レイジは指摘する。
「そうですね、でも、通常の蜂の様に蜜を啜っているのだと思いますよ。肉食では普通の似我蜂はないはずですから。
しかし、全長50cmほどの大きな蜂ですか‥‥興味がありますね。
本当にそれほどまで大きいのか、兎を巣へ持ち帰るという習性‥‥面白そうです」
ジェレミー・エルツベルガー(ea7181)は問う。
「その蜂って、けっきょく、どのくらいの大きさなんだ?? そんな噂があるていどだし、いくらかはでかいんだとおもうが‥‥」
「噂じゃないでしょう? 一応、モンスター知識全般に秀でたキャプテン・ファーブルが調査するくらいだし」
七神斗織(ea3225)が判り易い助け船を出す。
「50cmにもなる蜂ですか、シフール並の体格ですわね」
「そうか、じゃあ何かあった時、力になれる。まあ、任せてくれ。でも、蜂は動きが早そうだ」
「蜂が卵を産み付けた後、巣穴から持ち出す物は今回囮にした兎だけなのでしょうか? それとも巣穴の中にある囮以外の兎など目に付く物全てなのですか?」
「全てって言って言って無かったけか?」
とカイザード。
「標本にする物の確認・標本の手順など」
「その為の学問全般の知識があるしね。大丈夫、斗織は本当に心配性ね。でも、ほんと変わった依頼ね。まあモンスター知識には詳しいから大似我蜂の詳しいデーターや習性は事前におしえておくとするわね。針はソードなみの貫通力を誇り、そのそそぎ込まれる動物毒は一週間相手を麻痺させるわ。攻撃も回避も初心者印の武術の腕前では歯が立たないは、最低でも専門家でないと」
シフールのパナン・ユキシアル(ea6131)が誇らしげに蘊蓄を披露する。
「相手の動きに反応して、襲ってくるから、出会ったらまず動かないこと。これはキャプテン・ファーブルも言っていたわね。ま、いざとなったらアイスコフィンで封印してやり過ごさせてあげるなり、作ったアイスチャクラムを貸して上げるから、体力と射撃に自信のある人は、それで戦うなり」
「そうか‥‥それにしてもキャプテン・ファーブル‥‥ジャイアントマンティスはこれから交配期で雌が雄を喰ってしまうのではないだろうな?」
と、話題に少し取り残された感のあるカイザードは疑惑の目を天空に向けてみた。
「いや、それも実験結果のひとつと割り切るんだろうな、きっと。片方に感情移入しては実験にならないだろうし」
「俺なんかが持ってるより、筆記用具も喜ぶさ」
自嘲げにラシュディア・バルトン(ea4107)がエレアに筆記用具を渡す。まるで、汚い手で、芸術品を触ったかのように急ぎ手を引っ込める。
「何かあったんですか?」
「いや、こんな存在あまりにも嫌らしくて」
「そこまで自分を卑下しなくても‥‥」
「なあ、お取り込み中、悪いけどさ、標本についちゃ、兎ごと渡しちまった方が確実だろうな。残った囮用の兎を食えば良いんじゃねぇか?」
美影がぴくりと反応する。
シャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)は少年の反応を見逃さず、育ちの良さそうな顔を向ける。
「何かあったのですか?」
「うん、ううん、何でもない」
「力になれる事なら何でもします。あなたは一番、危険そうな所にいくのですから、何かあれば、聖なる母の御力で、傷を癒し、毒を清めてあげましょう。だから、心配しないで下さい」
そして、エレアは見た。
シフールほどもある、しかし明らかにプロポーションの違う影を、黄金の光に包まれながら合掌して、視覚を拡張する。黄色と黒の縞模様に、今にも千切れそうな影。 間違いない、大似我蜂だ。
その影が急降下し、無防備な子兎を捉えると、機械的に針を突き刺す。悲鳴をあげる間もなく、動かなくなる子兎を連れて大空に駆け上がっていく。
一同に合図をし、時折見失いながらも丘陵地帯を走り抜ける。蜂が潜っていった先には土で作った蓋状のものがあり、その脇にぽっかりと穴が奈落のように空いていた。
ラシュディアはブレスセンサーの呪文を確実に唱え、兎と蜂の確実な位置を知る。
だが、誤算は彼の魔力が底を突いてしまった事だ。10分では収まらないらしい。
「しまった」
「大丈夫、まだ手はあるから」
パナンがフォローを入れる。
30分ほどで、蜂が飛び立つと、一同には目もくれずに飛び去っていく。
だが、その前に蓋をして、糸で全周を固定していったのだ。
「しまった。俺も筆記用具ない」
嘆くジェレミーだが、さすがに筆記用具はこの忙しい事態には貸す借りるをやっている暇は無いようであった。
「ギリギリだな」
と全身を煙に包ませて湖心の術を完成させた美影は全身を泥に包ませ、臭いを消して蓋を外す。
「あれも標本ですね。多分、泥を唾液で練ったのね」
冷静そうなパナンは美影の白い髪が穴の中に入っていくのを心配げに見ている。
エレアが持たせてくれたライトの光球が隘路を抜ける唯一の手助けとなる。
1メートル四方ほどの終点の空間には兎が1羽横たわっていた。10センチ程の楕円形の長細い卵が脇腹に産みつけられている。
他には何もなかった。
引き返す美影は太陽の明るさに目がつぶれる思いであった。
早速、卵兎は慎重に標本として扱われ、残った兎は袋に詰められた。
パリに戻ると、腕を三角巾で吊ったキャプテン・ファーブルが戻ってきていた。
早速一同は標本を渡す。礼を言うキャプテン・ファーブル。
何でも、接近しすぎてカマキリに腕を切り落とされ、クローニングの魔法で接合中なのだという。
「ま、これにはちょいとまいった。いやぁ、体術か浮遊の術でも身につけておくべきだったね」
と、そこへ黒兵衛が発案し、ミリランシェルが指揮してエレア、シャルロッテの助力で作った兎をジビエ(野禽)としてクリームシチューにしたものを運んできた。
「どうだ、おどろいたじゃろ?」
美影がそっと抜け出そうとするのをさりげなく留める黒兵衛。
「卵料理もあるのだ。みんなと一緒に食卓を囲みたいだろう」
「ありがとうおじちゃん。友達と約束したんだ『兎の肉は食わない』って」
美影はほろほろと涙をこぼした。
では、食前に一曲と、
アイネイスが新曲を吟じる。
「青き大海原を愛船で 緑の密林をその足で
風のように駈抜け 己が標的を追い求む
気高き学者にして 誇り高き探求者
彼の心を象徴するは 燃える焔色の髪
偉大なる冒険者 その名は
キャプテン・ファーブル」
「いただきます」