お前の心壊してやる
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月13日〜10月18日
リプレイ公開日:2004年10月19日
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●オープニング
「お祖父様の遺産ですか?」
パリの冒険者ギルドで青年ヴォルザーは当然ながら依頼を持ち込んできた。大抵、冒険者ギルドには依頼を持ち込むか、請け負うかの人間しか出入りしない。
まあ、何も考えていないシフールが紛れ込んだりするが、それはご愛敬である。
「はい、結構な額になるので、親戚一同から妬まれてますが、遺言書で一番可愛がっていた僕に全額渡す、と」
「うらやましいですわね──ひょっとして冒険者一個旅団を引き連れて、ドラゴン退治の依頼でもなさりに来たのですか?」
「違います。遺言書には『遺産を受け取りたくば、知恵と力を示せ』とありまして、その地図に従っていきますと、ガーゴイル象と1から9の数字が示された台座がありまして、こう記されてました。
『ガーゴイルを打ち倒せば力を認め、我が謎かけを解けば知恵を認めよう』
「で、ガーゴイルは何か強いモンスターで、稲妻とかは全然利かないって、たまたま通りかかった昆虫学者の人から聞きまして」
遠目でも判ったが、その台座に近づいただけでガーゴイル象は動いたという。大人しい彫像のふりをしてはいないようだ。おそらく弓矢の間合いに入ると自動的に防衛モードに入るのだろう。
「昆虫学者? キャプテン・ファーブルかしら?」
「で、謎かけはこうです──」
写し取った羊皮紙にはこう書かれていた。
“鍵となるその数字は、2種類のふたつの自然数の三乗の和として表す事の出来る最小の数なり”
「さっぱり判りませんね」
「冒険者の知恵者なら解ける方もいるかと思いまして。あ、依頼は馬車での送り迎え、食事などの諸経費はこちらで出す、ただし試練に受かれば──」
「微妙ですね」
「微妙です」
珍妙な依頼ではあるが、受けたければ自由だろう。
「あと、その学者さんの言う事にはガーゴイルは強いので、相当の実力者クラスでもなければ、戦うのは止めた方がいいだろう、と」
「ともあれ、ちゃっちゃと契約を済ませましょう。さ」
何か肝心な事を忘れているようだが、ヴォルサーは羊皮紙にサインし、冒険者達を死線へと誘うのであった。
●リプレイ本文
「ほーほっほっほっほ、改めて結論を言うと『判らなくなったんだ』な」
アリス・コルレオーネ(ea4792)がよく似合う高笑いと共に皆に返答を返す。
「1の3乗と2の3乗の合計で『9』というのが有力説だったのんだけどね」
「そうなの? マスター}
と蜻蛉羽根のシフールのエリナ・サァヴァンツ(ea5797)がアリスに向かって問いかける。
その言葉を必死にリフレインしつつ紫微 亮(ea2021)が指を折って計算する。
「何だそんなの当たり前じゃないかははは、ノルマンジョークかい?」
「そう、リドルは二通りと限定しているのだよ。そのふたつ目が判明しない、判る?」
「いや『9』だ」
毅然とリスター・ストーム(ea6536)が宣言する。
「アリスちゃんの言うのだから間違いないね!」
また、無節操な発言。この『また』の数は彼の毛細血管の数ほどあるが、深く追求はしないでおこう。
「ところで、さ」
エジプトレンジャーのベガ・カルブアラクラブ(ea5215)は少年ならではのコケティッシュな笑みで凍気を隠しつつ、リスターに尋ねる。
「ボーラはどうなったの?」
「ああ、ありゃ無理だ。狩猟の専門家でもなければ、作れるものじゃない」
男からの問いには(例え声変わり前だろうが、なんだろうが)すげなく返すリスター。
「遺産ねぇ‥‥私には縁のない話だな、すまないが私もお手上げだ」
カオル・ヴァールハイト(ea3548)も謝罪の一手。
「ふーん」
ふたりにさげすんだ表情で上目遣いのベガ。一方──。
「謎解きに戦闘。やっぱ冒険者やってるからには、こういうのがなくっちゃな。
久々に‥‥本気でやるか!」
と亮が燃えるが、彼の腕前ではモンスター百科事典のコトセット・メヌーマ(ea4473)の試算によると、相手が回避もせず、命中する事がオーラエレベイションを組み入れて尚、1割を切っている。残念な事にフレイムエレベイションとは精神系キャンセル同士うち消しあってしまう為、後はセーラ神の祝福でも期待するだけである。
尚、それでも命中率は1割を切っている。基本的な技の土台の小ささであろう。
「ま、私としては書物に出てくるガーゴイルと実際に調べられる良い機会だと思っているし、答えは9だと思っているが」
「いいんだよ細かい事は」
ロヴァニオン・ティリス(ea1563)が手にするラージハンマーの柄の感触を確かめる様に撫ですさっている。
「ぬうっ、重い!」
片手で持ち上げながら──。
「こいつはとんでもないハイパーツールだぜ!」
だから、そういう武器を片手で持ち上げるなというのに。
とかやっている内に迎えの馬車が訪れた。
そして、2日後、くだんのガーゴイルとリドル付の台座近くまで冒険者一同は進入した。
その降り口で、エリナが。
「ところでさァ依頼人。ちょいと質問なんだガ…遺言書には『遺産を受け取りたくば、知恵と力を示せ』って書いてあったんだロ? オレ達が全部やっちゃってイイのカ?」
「足りない力の分は冒険者に力を借りる。これは知恵です。自らの責任で選んだ冒険者の力は──自分の力です。財力ともいいますが」
「詭弁って知ってル?」
「自分の目で見たことはありません」
ベガはさすがに馬車で移動しながらモチの木を捜す芸当は出来ず、エチゴヤから市販品のトリモチを買っていた。
「あれ? うごきましたねぇ。なんかこっちにらんでますよ‥‥うわ〜、きました〜」
一方、ブルー・フォーレス(ea3233)とラックス・キール(ea4944)はその目の良さから、ガーゴイルが侵入者を感知して動き出す間合いを200メートルと計った。 ヘビーボウの間合いである。
間合いを詰めている間にコトセットはラックスに。
「ラックス、あなたの得物では一方的に不利だ。ガーゴイルは異様に硬いので弓矢や槍はあまり有効ではない。しかし、あなたのオーラパワーと私のバーニングソードを合わせて攻撃を仕掛ける手もありますが、互いに一撃必殺の出力でかけなければ、それは互いの魔力の損耗を深めるだけです」
「つまり、一発必中という事か?」
「ウィ」
「俺の一撃が必中すれば、得物はロングボウだから相応の深手を浴びせる自信がある。それで戦えば勝機も見えてくるだろう。ブルーはどうだ?」
「あなた程ではありませんね。武器の間合いといい、破壊力といい。ロングボウを持てる体力が少し妬ましいですね。はあ、やっぱり戦いは苦手なんですか‥‥」
カオルはガーゴイル動くの報を聞き、全身を桃色の光に包み込ませ、己に守りを、剣に破壊の力を付与する。
「オーラパワー発動承認! ラァァァッジッ・ハンマァァァァッ!!」
ロヴァニオンも桃色の光に包まれた。
「レイ殿頼む」
頼まれたレイはレイ・コルレオーネ(ea4442)のニコニコと微笑みを絶やさぬ顔のまま、筋骨たくましい指で印を組み、赤い光に全身を包ませ、カオルの剣を撫でると炎につつませ、破魔の力を宿す。
「感謝する。これがノルマンの冒険というものか」
イギリス渡りのレイリー・ロンド(ea3982)もオーラを自らと武具に纏わせ、レイの指先が誘うまま、己の闘気と炎の精霊力が入り交じっていくのを感じる。
「『相当の実力者クラスでもなければ、戦うのは止めた方がいい』って事は‥‥倒せれば実力を認めてもらえますかね〜?」
「さあ、それはパリの人がどう思うか、では?」
「ともあれ魔法が切れる前に突入」
レイ自身も自らの足にバーニングソードと、フレイムエレベイションを発動。
魔法戦士見習いの見習いを返上すべく荒ぶる。
コトセットもロヴァニオンとアリスにフレイムエレベイションを付与し、更に戦いを苛烈化させる。
さすがにこの一連の行動を敵対行為と見なしたのか、ガーゴイルも低空飛行で突撃してくる。
「一発必中!」
ラックスの離した弓の絃が戦いの幕を切って落とした。
見事命中。少なからぬ、二重に魔法を付与した矢はそれなり傷を与えたようである。
「やっぱり戦いは‥‥」
続いて間合いに入ったのを見て、周囲の援護をも視野に入れてブルーのショートボウから魔力を付与された矢が飛び出す。
「いきなりクライマックスだね。あのガーゴイル」
とベガがショートボウを放つ。
「まったく、魔法をこちらには付与してくれないなんて、コトセットの“オジサン”見る目がないんじゃないの」
その傍らで強大な魔力が収束していく。
アリスの高まった精神力で達人レベルの力を未熟ながら震える様になったのだ。だが、制御の利く範疇でアイスコフィンを発動させる。
「氷の女王よ、契約に従い力を貸せ! 時を凍らせ、彼の者に久遠の安らぎを与えよ! アイスコフィン!」
青い、凍てつきそうな魔力に包まれながらも、それを指を鳴らしながら惜しみなく放出し、ガーゴイルを魔力に捉えた‥‥と思いきや。相手も全力で抵抗し、氷の柩には囚われない。
至近距離に接近したガーゴイルは当然、前衛陣を飛び越して、後衛陣から叩きつぶす。だが、困った。こういう場合の彼の定石は白の神聖魔法の使い手を叩きつぶして、回復の生命線を立つ事から始まるのだが、冒険者にあるまじき(笑)。この一同にはオーラリカバーしか癒し手はいないのだ。
「レクリェーションは1ラウンドだけだよ。さあ、遊んでみる?」
と、ベガが挑発した所へ、レイリーが打って出る。
銀のダガー、とロングソードの華麗なるコンボに攪乱され、魔力を帯びた一撃を受けるが、残念だが破壊力不足。
「下がれ、まとめて吹っ飛ばすぞ!」
にロヴァニオンがラージハンマーを振り舞わす。
「天罰光臨!」
言ってスマッシュではないがとりあえず振りかざし──。
「砂利になれぇぇぇぇっ!!」
魔力、筋力、威力、ガッツの4つが相乗し、ガーゴイルを殴打する。
バランスを崩した所へ、亮のオーラショットが炸裂する。
「‥‥鼠は如何な窮地に於いても耽耽と打開の機を窺う者‥‥しかし諦めれる程お人好しじゃなくてね‥‥止まってもらう!
1割も勝率がなければ、6割に増やせばいい、30発のオーラショットを受けてみるか!」
カオルも一気に間合いを詰め、炎を帯びた剣を浴びせる。
「では、参る!てやああぁー」
もとより戦上手相手にはガーゴイルは回避は不可能であるが、傷を受けているため、確率は1割を切っている。
「相手にとって不足なしだな! ‥‥さァ、行くぜ!!」
と、レイもオーラも付与された炎の足で連打を飛ばすが、深手にはなっていないようである。
「ち! 力不足か!」
だが、戦いのイニチアシブは一同が握っていた。
相手の攻撃はロヴァニオンが盾となって、受けきり、無数の魔力を帯びた矢が次々とガーゴイルを打ち拉ぐ。
1分後、ロヴァニオンなどのオーラリカバーが出来る人材が、傷を気にし始める頃にはガーゴイルはもはや動くことは無かった。
「やれやれ、壊しすぎだ。資料にはならない」
コトセットがぼやいている間にも、台座の方から絶叫が聞こえる。
リスターだ。
アリスちゃん絶愛(注:女性なら誰でも)故に迷わず9のボタンを押し、トラップを発動させたのだ。
一同が駆けつけると、台座が動き出し、中の財宝を『すりつぶしている』ところだった。
魔法、暴力、その他が交錯し、台座は止まった。そして、こわれた台座の下からはひしゃげた宝石箱が、そして台座そのものからは一連の攻撃でひしゃげた鉄の薄板があった。
──そこには、台座を破壊し、これを見ているという事は、知恵を見せる事に失敗したという事だな。返答はこうだ。1の3乗足す12の3乗=1729。10の3乗足す9の3乗=1729。精進せいよ。未来の後継者へ。
そして、宝石箱の中には原型を止めていない宝飾品が多数あった。
一同はパリへ帰る。帰りの保存食は自分たちで調達してくれとの声と共に。
パリの冒険者ギルドでその後継者は破壊されていても尚、1千GPに値する遺産を受け取った事の報せと、一同へ今回の手間賃として各自金貨3枚が依頼人から支給する事が告げられた。
少々一同は懐が暖かくなった。
これが事件の顛末である。