●リプレイ本文
「ファーブル先生お久しぶりです。大百足捕獲の時に協力させて頂いたリューヌ・プランタンです。今回もよろしくお願いします」
とリューヌ・プランタン(ea1849)はパリで乗船するとキャプテン・ファーブルに握手を求める、握り返される感触。
「いやいや、世話になっているのはこちらだよ。まったくもって、今回も君のがんばりに期待しているから」
「で、シーウォームってどれくらい頑丈なんです?」
「うん、普通の剣で十回くらい直撃しても死なないかなって」
悪寒。
「あの──本当に捕まえるんですよね?」
「ま、最悪アルコール漬けの標本でもオッケーだけど、生きたままの生態が知りたいからね」
「船で冒険するのは初めてだけど、海はいいな。酒を飲む間を惜しんで泳ぎの練習をした甲斐があったぜ」
と、さっきまで軽口を叩いていた酒場の店主。ロヴァニオン・ティリス(ea1563)はその言葉を聞いて、血相を変えた。
尚、ハーピー退治で冒険で海に出たのはすっかり忘れているようだ。夏だったからだろうか?
「何というスケールだ。シーウォーム漬けの酒を造るつもりか──発想のスケールで負けた」
「あの、何に負けたのかね?」
「いや、俺酒場経営しているんですけど、ありったけのベルモットを持ってきたので、そうなったら是非買い取って下さい(営業スマイル)。あ、いざとなったら水中戦も任せて下さい。この海に備えて寒中水泳の特訓してきたんだよな──出番無かったら怒るぞ、って誰に怒ればいいんだ」
とにかく、とロヴァニオンは宣言する。
「シーウォームは必ず捕まえます! ‥‥生死を問わず」
カイザード・フォーリア(ea3693)は一連の会話を聞き、少々不安に駆られた。
(「ドレスタット行くのやめようかな──いや、敵のボスを倒せば、きっとお宝が手に入るに違いない──海は広大なんだから──」)
「お久しぶりですわ、キャプテンファーブル‥‥まあ、今回は海賊退治ですの!? それは素敵ですわ‥‥大海原で腕の負傷をものともせず戦う我らがキャプテン‥‥新しい歌の題材に是非ともご同行させていただけますか?」
にっこりと微笑むアイネイス・フルーレ(ea2262)
「うん詩歌も大事な未来への遺産だからね。存分に歌ってくれ給え。君の前の歌も心が洗われたし、記録とは別の意味で魂が揺さぶられたよ」
「光栄です」
「今宵、泡沫の夢に酔いしれてみませんか?」
と、別に他意はなくロヴァニオンに囁きかけてみるが、返答はひとつ。
「酒で酔う方が楽しい」
一方、ジョン・ストライカー(ea6153)はイスに片足をかけ、腕を組んでいるキャプテン・ファーブルを見ると、何か通じ合うものがあったらしい。
キャプテン・ファーブルに向かってびしっと親指立てる。
なお3秒後受付嬢のクロスボウで射殺──それから3秒後、復活。
「これくらいの策略家でなければ、ドレスタットでは生きていけん」
と、血糊の入った袋を捨てるのであった。
閑話休題。
ドレスタッド近くの夜更、ラフィス・クローシス(ea0219)のワシの如く鋭い目に、夜のように全船体を黒く染め上げた一艘の海賊船が目に映った。
彼女の視力が素晴らしい為、まだ相手はこちらには気づいていないようだ。
「みんな、行くわよ」
まあ、待った、とシフールのジョンが引き留める。
「俺はジョン・ストライカー。通称『新・ヨークの死神』だ。奇襲戦法と射撃の名人。俺のような天才策略家でなければ百戦錬磨のつわものどもの末尾ナンバーは務まらん。
そう俺達は、道理の通らぬ世の中にあえて挑戦する。頼りになる神出鬼没の特攻冒険者 Sチーム!
熱き魂の叫びを聞きたいときは、いつでも呼んでくれ」
「って、何を言っているのよ。みんなを起こすわよ」
総員戦闘準備完了。一部の希望者にはファイラルドの作ったクリスタルソードが配布される。
「ミッチェル、魔法頼むぜ」
とバーニングソードの術を矢に付与してもらった矢を射ようとするが、致命的な欠点があった。
「しまった、ショートボウの間合いが短い──届かないな。困ったものだ」
尚、バーニングソードではものは燃え上がらない。
そこへ、エリー・エル(ea5970)が突っ込む。
「何落ち着き払っているねん。でも、夜の海は気持ちいいねぇん」
と、そこへ三角帯で腕を吊したファーブルが現れ、
「ねぇ、海長虫の弱点とかないのぉん」
とエリーが興味深く聞く。
「あるにはあるが、それを指示しながら戦うのは無理な気分、あと1ミリ下とか後ろで騒がれても即応できないだろう。多分気絶を狙っているのだろうけれどね」
「ほえぇ、そういうものやんけ。じゃあ、火矢行くねん」
「その前に手順がある」
今まで──
「順風満帆♪ ヨーホー♪」
──と彼には珍しく、海風を受けてご機嫌に片腕のファーブルの代理で舵を取っていたセイリオス・アイスバーグ(ea5776)がシフール達に油袋を渡し──。
「火矢を射る前の布石だ。油を撒いて、ダージ君が魔法で相手をパニックに陥れるから、それに呼応して──畳みかけるぞ」
「了解やねん」
「今回は浪費を惜しまんぞい。なんとしても依頼を成功させるのじゃ」
「タイミングは任せた」
とダージ・フレール(ea4791)にペレグリンは声をかける。
「海長虫など手懐けられるものなのか?」
セイリオスがファーブルに尋ねる。
「暗い場所で、定期的に餌を撒いて、特定の場所に釘付け、襲わせる時は光源目がけて襲わせる。手なずけるではなく、反射的な行動を利用しただけだろうが、まあ、効率は悪いだろうね。相手の船を事実上潰すのだから」
「檻の準備は万端かね?」
コメート号は10メートル×5メートル×5メートルの檻を曳航しており、多少大きくても大海長虫が入るように準備していた。快速船の筈のコメート号が早期にドレスタットにたどり着けなかった原因でもある。
(海賊退治をしつつシーウォームの捕獲をしようとは‥‥ファーブルとは大した男じゃ)
老ウィザードが追憶に耽る中、火矢の応酬が始まる。
ラフィスがコメート号に突き立った矢を片端から魔法で消し、ディアルト・ヘレス(ea2181)は懸命に砂をかけて火矢を消す。
(これで、あの策が成功すれば──)
流れ矢に当たり、火傷した船員の傷を治しつつ。皆に聖なる母の加護がある様に祈る。
一方、一同は敵の舷側に筋肉莫迦を絵に書いたようなクレイモア使いが存在するのを確認する。
こちらからも火矢とファイヤーボムの炸裂が始まった。
そこへ、敵船は海面に空いた3メートルの穴というまっただ中に落ち込んでいく。
ダージのマジカルエブタイドが決まった瞬間である。同時にシーウォームの姿が露わになった。
「ををっ! 海風に怒りが満ちておる‥‥誰かが蟲を怒らせておる‥‥」
割波戸 黒兵衛(ea4778)が今更の様に言う。
「まあ、いい。行け、ガマ助! 海中モードじゃ」
と全身を煙に包ませて、一匹の大ガマを召喚し、シーウォームにけしかけさせる。 敵船のあたりで大暴れである。しかし、ガマ助分が悪し。
「がんばれ、ガマ助!」
更にカレリアなども空中から油を撒き終わり、敵の海賊船に火矢が命中。燃え始めた。さすがに敵は自分が襲撃される事まで想定に入れておらず、カレリアのライトなどで、光が煌々と照らされる中、
「み●ず…またもみみ●‥‥」
ウインディア・ジグヴァント(ea4621)がその青灰色の威容を目にして、つい、自己否定に奔ってしまう。
パニックになって、海水にアイスコフィンをかけようとするが、水は明瞭な対象で無いため、魔力を無駄にしたのみ。
「そうか。こんなに気持ちが悪いのも気分がすぐれないのも空が青いのも水平線がかすむのも──あれもこれもどれもそれも全て長虫と海賊のせいかッ」
魂が燃え、水使い達が口々にアイスコフィンを唱え始める。
その頃、戦場では、下半身が石と化した敵の舵取りが荒れ狂っていた。
「こんなポーズはいやだーっ、やり直しを要求する」
エストの仕業である。
そこへ、飛び降りるオラース・カノーヴァ(ea3486)の影。
海賊船の帆で直接落下ダメージを押さえ、そのまま甲板に滑り落ちる。
その動きを見て、海賊船の船長はうなる。
「やるな貴様、ニワロールが団長クレメンツ・ルージュがお相手しよう。コナン流受けてみるがいい」
「同門勝負か──血が滾るな」
そこへ炎を背景としつつアイネイスが呪文を唱える。
「この矢はクレメンツ・ルージュに当たる」
ロヴァニオンもオーラショットを放つ。
「あ、雑魚だけ任せてくれ、俺は遠くから見守ってやるからな」
止めとばかりにラフィスのファイヤーボムがオラースを巻き込まない範囲で炸裂させられる。ジョンの矢の雨、爆風に巻き込まれても立っているクレメンツ。負傷をしながらも戦闘姿勢を崩さないのに敬意を表しつつ、相手の攻撃に合わせたロングソードの一振り。しかし、相手には見切られている様子。だが、そこへカイザードが帆をクッションにして飛び込み、ボディープレス。
「助太刀する!」
オラースのロングソードが挙を突かれた相手のクレイモアを断ち切った。
「何!?」
自分の絶対の獲物であるクレイモアが両断されたショックに加えて、シーウォームが氷付けになっている所を見て、衝撃に駆られるクレメンツ。
「く、勝負あった」
だが、衝撃が船を揺らす。
火に向かって一直線という性質を利用した一同の策が功を奏し、先程、シーウォームがその鋭い牙で突撃をしかけていたのであった。
更に船のマジカルエブタイドによる落下の衝撃が加わり、船は沈没までのカウントを刻むのみであった。
ロープをフックでかけ、懸命にコメート号に乗り込んでくる一同に対して、
「俺は『レジェンド』が一人ロックフェラー。神に挑み、打ち勝つ事を望む者。海賊ども‥‥俺の訓練に付き合ってもらうぞ。命がけで、な‥‥」
ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)が、ロングスピアの間合いで相手を蹂躙し、それでも残った猛者にはドワーフのローシュ・フラーム(ea3446)が計算された角度で──もっとも力任せのコナン流が計算という言葉を知っているかどうかは怪しいが──船体を傷つけぬように剣の全重量を乗せて衝撃波を放ち、海へと海賊達を叩き込むのであった。
「オラースめ、美味しい所を一人取りしおって──よいか、わしが若かった頃はだな‥‥」
一通り掃除を終えると、先達としてぼやきを入れる。
だが、戦いを見れば同じコナン流として、相手の技量が自分のそれと紙一枚──しかし、十分な厚さの──差がある事は良く判っていた。
「しかし、柄に細工をするのも痛し痒しといった所か、今の一幕でもう、鍵がいかれている」
改造剣を捨てて運良く落ちていた海賊のロングソードを改めて腰に差すのであった。
「ベースエッジは夢のまた夢という所かのう──もっと高度な材質、例えばブランででも作らなければ、接合部分から壊れてしまう。もっとも、ブラン貨はコイン1枚分で金貨100に値する、夢のまた夢じゃのう」
そして、朝が来る。照らし出される街並。
「あれがドレスタットですか…初めてみる景色です。船を降りるのが待ち遠しいです」
リューヌは呟く。
「あれがドレスタットねぇん」
と、エリーも興奮した様にはしゃぎ出した。
結局沈みかけた海賊船から運び出せたのはヘビーシールド15枚。
だが、商業ギルドからは海賊退治の報奨金として金貨4枚が手に入った。
これがドレスタットに向かった者達の事の始まりである。