【収穫祭】から遠く離れて一週間。

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:14人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月03日〜11月10日

リプレイ公開日:2004年11月10日

●オープニング

 畏怖堂々にして華麗なる空の王、グリフォン。
 大鷲の上半身と、獅子の下肢を持つ。
 このイメージが示すものは全て貴族の紋章となるほど、きらびやかなものであった。
 今、地元の祭りを無視し、パリの収穫祭に来た小貴族がその捕獲という結構無理難題を受付嬢に吹っ掛けていた。
 何でも来るとき、パリ到着の3日前に見かけたのだという。噂に聞いたグリフォンよりも尚、精悍であり、爪と蹄の畏怖堂々たるや──(以下、600文字省略)。
「という事でそのグリフォンを捕まえて、檻に入れる。ここまでが冒険者に依頼する仕事」
「よく、そんな珍妙な、いえ大胆な発想が出来るものですね」
「正確な評価、ありがとう。これで街の者の畏怖の視線と、麗しの乙女達の眼差しを独占できる」
 やれやれ。美人ならここにもいるのに、と受付嬢。
 では、少々張り込んだ依頼になりそうですので、と彼女は羊皮紙を出し、依頼の細目を確認する。
 聞いちゃいない貴族に羽根ペンを差し出し、契約を求める。
「では、ご検分を」
「あ、そーいうのいいから」
 後悔しませんね、と受付嬢は口を出そうとしたが、書類を見ないのは向こうの勝手なのだ。
 サインを書き終えた事を確認すると、一礼し、受付嬢は新たな冒険の舞台を開くのであった。

●今回の参加者

 ea1137 麗 蒼月(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1585 リル・リル(17歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea1605 フェネック・ローキドール(28歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2366 時雨 桜華(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2938 ブルー・アンバー(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3412 デルテ・フェザーク(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3579 イルダーナフ・ビューコック(46歳・♂・僧侶・エルフ・イギリス王国)
 ea4473 コトセット・メヌーマ(34歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4747 スティル・カーン(27歳・♂・ナイト・人間・イスパニア王国)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

 血の滴る生肉の一同の前に投げ出された。
「依頼人さん、頼む。グリフォンを捕まえる為の必要経費だ」
 スティル・カーン(ea4747)の一言で山羊が依頼人の選任の調理師によって捌かれ、あれよあれよという前に生者から肉塊へと瞬時にその有り様を変えたのだ。
「これでいいのかね?」
「まあ、ちょっと問題がありそうな気がするまでもないが、結果は間違っていない」
 無益な殺生を好まないスティルとしては、この犠牲を価値のある犠牲にしなければならない、山羊の断末魔の声がより一層に、彼の決意を固めるのであった。
(「正直――グリフォンが見られれば、それで良かったけどな、余計な命を背負ってしまった」)
 などと少年騎士が心を身構えるのに対し、バルディッシュ・ドゴール(ea5243)はイルダーナフ・ビューコック(ea3579)や、コトセット・メヌーマ(ea4473)といった先達から話を聞いて事を有利に進めようとする――知識があれば、より確実に、より安全に戦えるという心理を実践しようとしたが、
 『噂に聞いたグリフォンよりも尚、精悍であり、爪と蹄の畏怖堂々たるや──。』‥‥爪はともかく蹄とは‥‥とんだ勘違いの可能性がある。
 何故ならグリフォンは『大鷲の上半身と、獅子の下肢』を持っており、獅子は蹄を持たない。
「あなたの証言が正しいならば、彼が目撃したモンスターは恐らく‥‥『ヒポグリフ』と判断される。で、その辺を確認したいのですが、いいですか?」
 と、高尚な蘊蓄を聞きに来ていた依頼人に対し、本当はどちらでも、そしらぬ顔で生け捕りに出ようというコトセットが問いかけるのをイルダーナフは仕方なく問いかけた。
 ヒポグリフとの誤認だった場合、依頼人には彼が恥を欠くことないようさり気に説明しておくのだ。
 ウォルター・ヘイワード(ea3260)も同じ疑問を抱いており、一抹の不安を隠せぬので、その言葉に同調する。
「いや、言われてみれば、酒も入っていたし、蹄と前、見せ物小屋で見たライオンの下半身を混同したのかもしれない」
「酒が入っていたのに襲われなかったなんて運がいいんですね? それともよほど視力にご自身が」
「いやぁ、それほどでも」
「獅子の下半身ならグリフォン。しかし、馬の下半身となるとヒポグリフという、馬とグリフォンの混血の生き物ということになるが、それでもよろしいか?」
「それに関しては‥‥では、大事な質問がある」
「少々準備させて下さい。、星の探求派として出来るだけの事はしたいので」
 とコトセット。
 と、淡い赤い光に包まれて、イルダーナフと自分の精神、肉体能力を。残った知識の残滓までもをかき集める。
「自愛しろよ。そうすれば慈愛の女神もついてくる」
 合掌し、白い淡い光に包まれたイルダーナフもお返しにコトセットと自分にセーラ神の加護がある様に祈る。
 両者合同で出来るだけ、コンディションを高めた上で、返答を返す。
「ヒポグリフは格好良いのか?」
「下半身がライオンではなく馬な事と、混血故レアな事が大きな違いですな」
「で、格好良いのか?」
「グリフォン同様、貴族の紋章になる程度の優美さと力強さを兼ね備えていると聞きます。このノルマンでも百匹いるかどうか怪しいですが」
「グリフォンでなくても、それを檻に入れることがボクたちの仕事だよね?」
 エル・サーディミスト(ea1743)が駄目を押す。
「それでも構わん」
 予想外な事から、コトセットの心配がひとつ減った。
「では、白馬と羊を用意してもらいましょう」
「良かろう」
 あっという間に準備できるのは金持ちのうらやましさである。資財はあっても、人材はないのだろう。
 羊にかけるベルモットも貴族の方で用意してくれた。
 独特の香りが立ちこめる。
(その内、全員に金貨百枚とかいって、経費を要求しようか)
「グリフォン捕獲依頼ですか。空の王者と言われるグリフォンは一見の価値ありですね。是非、この依頼斡旋して下さい」
 って頼み込んだ甲斐がありました、とデルテ・フェザーク(ea3412)が頭を掻きながら準備に備える。
「しかし、無傷でグリフォンの捕獲ですか? 天駆ける相手にそんな事可能なんですか? てっ、実行するの私達なんですね。冒険者は何でも屋に類似していても万能ではないんですけど‥‥」
「ま、ギルドの斡旋にミスはないと信じている。というか、捕まえられなければ次の手を打つさ。ヒポグリフでもグリフォンでも、格好よければいい」
「凄い大きな野心ですね」
 と一応、感嘆するフリをするデルテ。
 一同は目撃場所に杭を打って繋いで獲物の出現を待つ。
 大量のオトリが置かれ‥‥
「何時くるんでしょうかね グリフォン? ‥‥その姿は雄々しく気高く美しい‥‥という噂は僕もよく耳にします。
 是非、自分の目で確かめたいと思いまして」
 ブルー・アンバー(ea2938)が何処とも知れぬ蒼穹を見上げて呟く。同じくウォルターも未知の魔獣を拝見する興奮が止まらない。 
「ええ、知識と出会えるのは幸せだと思いますよ」
「グリフォン‥‥前世から、因縁がある気がして‥‥
 ‥‥戦闘しないで、何とかできると良いんだけどな〜」
 エルも戦いたくない、寧ろ分かり合いたいという思いがひしひしと伝わってくる言葉であった。
 薬は生肉に仕込んだが、どれ程の量で相手が行動に支障を来すかが、皆目分からないため、手探りの作業とならざるを得なかった。
 そんな夢想よりも辛い、コトセットによるシビアな現実が後ろで繰り広げられていた。
「相手はチャージングを仕掛けてくるぞ。
 バードによる懐柔策が失敗した場合、ベルモットに酔ったところに網やホイップによる絡ませによる束縛を試みる、それまで粘れ」
「グリフォンほどの強敵を相手に油断はできませんからね。ちょっとした隙が命取りになるかもしれません」
 北辰流の使い手、とれすいくす 虎真(ea1322)も、異郷での荘厳で華麗なモンスターを見てみたいという欲求の持ち主であった。
 今は全身、昨日殺した山羊の血を頭から被って血塗れとなったバルディッシュを馬にくくりつけ、いざという時の闘争手段とする。
 エルフのバード、フェネック・ローキドール(ea1605)も
(「グリフォンの野生の本能に畏怖の念を抱きつつ、捕らえて力で服従させるべきなのか。それとも、その知性と気品に最大の敬意を払いつつ、心で接し友となるべきか。結局選べないまま――僕は与えられた役割を遂行します。‥‥願わくば誰も傷つきませんように」)
 穏やかな、しかし、内心は乱れたままの心情で、喉を潤していると地獄の底から這いずってきた様な女性の声が聞こえてきた。
「‥‥グリフォン‥‥‥‥‥‥見たこと、ない‥‥わ、ね‥‥。
 でも‥‥噂に、聞くほど、大きいのなら‥‥‥‥ひと口、齧っても‥‥バレないかも、しれない‥‥。
 イル‥‥ナフが‥‥ヒポグリフ、かも、しれないと‥‥ヒポグリフ、だったら‥‥依頼の、条件を‥‥確認したし‥‥良かっ‥‥たのに。
 何が、どこから‥‥出てくるか、わからないから‥‥敵を、止める、ために‥‥『魔法少女の枝』を、リルに、あげる‥‥
 持っていても、使えないし‥‥リルなら、使え‥‥そうな‥‥気が、するもの」
 麗 蒼月(ea1137)はそう言ってピンクのバトンをシフールのリル・リル(ea1585)に手渡す。
「グリフォンさん‥‥。なぜかグッちゃんと呼びたくなる‥‥グッちゃんって空飛べるんだよね〜。‥‥って事は海の上を飛んだこともあったりして、イルカさんの群れを見ていたりも‥‥!?
 こ、これはイーくん情報が聞けるチャンスかも!」
 そこへ絶叫が走ってきた。

「‥‥なぁにが嬉しいのかねぇ、化け物なんぞ手懐けてよぉ」
 ノルマン浪人の時雨桜華(ea2366)が酒池肉林と半ば化しつつある、オトリ会場を後に、ひとりで誰聞くともない、軽口を叩いて散策する。これも立派なオトリである。しかし、周囲からの安全の保障はない。
 ゼルス・ウィンディ(ea1661)もぶらついている。
 目標はグリフォンが住みそうな、と自分で勝手な判断の下、ちょっとした崖や洞窟といった地点を重点的に調べている。
(「巣を見つけられれば、雛や卵も発見できるかもしれません。可能性は低いかもしれませんが、やれるだけの事はしてみようと思います。親を捕まえて、子供だけ残していく事になっても可哀想ですしね」)
 だが、漠然とうろつき回るのではなく、目星をつけたのが良かったのか、グリフォンが頭上を飛び越していく羽音を感じた。咄嗟に身を伏せて、手近な岩陰に隠れるゼルス。
「見つけるのに呪文唱える手間が省けたかな? いや、グリフォンが2匹いる可能性もありますから━━」
 と自問自答して、呼吸音を発見すべく、呪文を唱える。反応あり、でも幽か。
「何か有りそうですね」
 一方、発見された桜華はわき目もふらず逃げる。
「こいつはやばい、やばすぎるって」
 ゼルスはグリフォンが通り過ぎたのを確認した後、ゼルスは崖に全身に擦り傷を造りながらもロープでのぼり、木々の小枝で作られた中に、ひとつの卵を発見した。
「正解。しかし、卵を持ったまま降りるのは、荷が勝ちすぎますね」

 薬の入った生肉には目もくれず、鮮血に染まったバルディッシュと追ってきた桜華のどちらがより、美味しそうな獣か、グリフォンが迷っている間にリルが可愛い呪文を唱えてバトンを振り回した。
 空中で動きが止まったグリフォンはそのまま墜落する。
「わ☆ ごめんね」
 リルは続けて魔法の発動に入るべく歌い出す。
 虎真の絶叫が聞こえた時点で、呪歌を歌うフェネックだが、周囲の人間もぼんやりしてきて、闘志が失せていくのを感じる。
「これで条件は五分五分以上」
 そう、コトセットの魔力により士気を向上させられた面々にはそんなもの関係なし。早速、呪文の準備にはいる。
 それでも、一足早く呪文を唱えだしたリルが淡い銀色の光に包まれて、グリフォンを魅了する。
 周囲に嘴を開いて威嚇しこそすれ、攻撃意欲の失せたらしいグリフォンが、フェネックの歌の影響か、周囲には牙をむかない。
 再び淡い銀色の光に包まれてリルのテレパシー成就。
(ねえ、最近海行った?)
(前に行った。卵を産む前に)
「えっ卵? ‥‥じゃあ」
(イーくん見なかった? こういうイルカなの)
 と吟遊詩人ならではの豊富な語彙で、すこし前に会ったイルカの事を詳しく聞き出そうとするが、グリフォン、リル調に言えば、グっちゃんはイルカを捕るほど、無謀ではなく、興味も知識も無かったようだ。グリフォンの知性が低いのではなく、イルカの方が動物としてイレギュラーに知性が高いのだ。
 じゃあ、こっちに来て、とリルがグリフォンを檻に誘導し、檻の蓋が閉まった瞬間、 檻に入ったままの姿勢で凍り付くグリフォン。
 そこから、小さく蓋を開けて、リルも無事に出てきて、一同は合流し、ゼルスがどこか、という話題になる。
 幸い、鉄の檻はグリフォンでも如何ともできず、罪悪感を感じたリルが側に残っている中、一同はゼルスを発見し、卵諸共無事に回収した。

「あう〜、もう少し観察したかったんですけど‥‥速攻で連れてくんですね」
 嘆くデルテ。
(「でも、これで判った事。グリフォンは早いけれど、素人でもない限り、グラビティーキャノンの目標には出来る」)
「鳥肉と‥‥獣肉‥‥‥‥どちらの、味、が‥‥するのかしら‥‥‥‥」
 檻の中で蹲り、卵も保温を優先にした現状としては蒼月の興味は卵を割ったら、ライオン味かワシ味かが気になるところであった。
 もっとも、内部から、こつこつと殻を叩く音がしているので、生まれるのはもうじきだろうが。
「グリフォンだろうがヒポグリフだろうが食べちゃいけませんヨ」
「うふふ‥‥そう‥‥いう、依頼‥‥でし‥‥たものね」
 虎真の注意をエルが翻訳する。続けて彼は、
「グリフォンと言う生物は気高く精悍で畏怖堂々としてる姿から誇り高き生物だとか。それ故に他の冒険者から襲われる事もしばしば、その為傷を持っているグリフォンは歴戦の戦士として(以下3時間程説得)」
 と通訳しているエルをげんなりさせるのに十分な熱弁を振るうのであった。
 そもそも虎真がどの程度グリフォンについて知っているかは謎である。ジャパンにはいないのだから。
 ウォルターは捕まえると早速羽ペンを取り、毛並み、やや荒れている。産卵後の為か?、色、頭から上が白、それ以外は茶色系。大きさ、約3メートル60センチ。瞳の色の黒。知性の高さ、リル曰く、イルカより低い等と自分が思ったように書き記していきます。
 人に見せるものではないので自分に判れば良いのだ。
 その間にも、コトセットは別れを惜しむ。
「本物のグリフォンの雄姿を自分の目で見ておきたかった。いつか騎乗してみたいものだ」
 一方、バルディッシュが檻の隙間からグリフォンの羽毛を抜こうとして、思いっきり噛みつかれた(イルダーナフが治したが)。
「私の相棒に何をする?」
 貴族からも怒られ、すごすごと血潮を拭いに池に向かう彼であった。
「これくらいの役得があってもいいだろうに?」
「来年の収穫祭、楽しみにしてるから、頑張ってねっ」
 と、エルが貴族に励ましの声をかけるが、その一方で――
「グリフォンは非常に扱いの難しい生物です。本気で調教するつもりなら、その筋の達人クラスの調教師が必要になるでしょう。そうでなければ、来年の収穫祭の時、あなたがいるのは彼の背ではなく、彼のお腹の中かもしれませんよ」
ゼルスは慎重に言葉を選んだ。

「彼の善き友たれ 雄々しき者よ
 彼の威を借るには堕ちず
 己が威は 己が心と言葉で示せ
 頭を上げて胸を張り
 己が姿を再び見つめよ
 彼の良き朋たる貴方の背で
 彼に等しき栄光の翼が
 目覚めの時を待ち詫びる」
 と、即興で歌い上げるフェネック。
「それどういう意味?」
 とエルが問うと、フェネックは。
「わざわざグリフォンの威を借りずとも、貴方様には十分な魅力が備わっておいでです。どうかその事に気付き、生まれながらに貴方様ご自身が持っている魅力を探し出してみて下さい。それでも尚グリフォンをと願うなら、どうぞ彼の良き友として接してあげて下さい」
「成る程心がけよう」
 と貴族も納得して一同と別れを惜しんだ。
 これが冒険の顛末である。