Memento Mori〜蘇った死者〜

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月23日〜06月28日

リプレイ公開日:2004年06月29日

●オープニング

「ねえ、死んだ筈だよね」
 不安そうな少女の声。
「ああ、あの死人塚に埋めてきたんだ。生きている筈がない」
 少年の声は虚勢とは裏腹に震えてきた。
 ここはパリから2日ほど行った所にある山勝ちの荒凉とした寒村。牧畜だけが村を支えている。
 少年と少女は、ある若者を殺めた。3人で崖淵で戲れるちょっとしたスリル。
 だが、一週間前のある日、スリルはリアルな恐怖となってふたりとなって襲いかかってきた。
 若者がバランスを失い、転落死したのだ。
 頭が僅かに損傷しただけ。それだけで呆気なく若者の命は費えた。
 ふたりは自分逹の過失を怖れ、若者を引きずり、死人塚と呼ばれる村の禁足地に埋めたのだ。
 無念の死を遂げた怨靈たちが集うとされ、誰も近づこうとはしない地である。
 若者を捜す村人の声にふたりは沈黙を决め込み、もう生きてはいないと周圍が諦めた時、夕方、塞ぎ込むふたりの前に、不吉な翼を広げれば1メートルにはなろうかという大鴉2匹の泣き声と共に若者は現れたのだ。
「やあ、迎えに来たよ」
 いつもと代わらぬ声。
 ふたりの後背を再び戦慄が走った。
「明日。ぼくのところにおいで」
 それだけ、告げると黄昏に消えていった。
「どうしよう」
「こういう時は冐險者ギルドに頼むと良いって、聞いたけど」
「そんなお金ないし、第一彼を殺したのは私逹だって判っちゃう」
「どうしようか・・・・?」
 とにかく少年少女達は偶々ギルドの仕亊の帰りで逗留している者たちがいる宿にこっそりと足を運んだ。
 自分逹の様な子供でも、冐險者ならこの理不尽な恐怖に勝てるだろうと信じて。

●今回の参加者

 ea2035 リルウィウス・アルクス(17歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea2138 フェーニル・フィリケス(18歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea3666 エクリュ・シャルトリューズ(30歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4027 キセラ・ヴァーンズ(21歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea4126 チャム・チャム(18歳・♀・バード・シフール・イスパニア王国)
 ea4144 龍 張飛(46歳・♂・ファイター・ジャイアント・華仙教大国)

●リプレイ本文

 モンスター全般に若干知識を持つシフールのフェーニル・フィリケス(ea2138)と、白クレリックのキセラ・ヴァーンズ(ea4027)は宿の一階の一室で、おびえた様子の少年少女の話を総合し、その若者の埋めたはず死体が動いているのは、アンデッドの“レイス”が取り憑いているのではないかと判断した。
 レイスは炎の様に見えるアンデッドだが、死体や生き物に取り憑く事もある。
 今回の若者が現れた事件はそのケースではないかと断言できた。
 だが、レイスの恐ろしい事は銀の武器や、魔法でなければ傷つかないという一点にある。
 フェニールは話にあった大鴉──ジャイアントクロウがアンデッドと共に理由は不明だが、一緒に行動する事が多いと思い出した。
 話がそこまで進んで、シフールのバード、チャム・チャム(ea4126)はそこで、ムーンアローがそういった取り憑いた相手に対して撃った場合、取り憑いた死体の方にダメージが入りこそすれ(要は死体を壊すだけである)レイス本体にダメージが入らないという事を思い出した。
(じゃあ“レイス”に当たれってやればいいんだよね)
「そこで──」
 と、シフール・ジプシーのリルウィウス・アルクス(ea2035)が切り出した所で、何かが倒れた音が聞こえた。
 細身のエルフのウィザード、エクリュ・シャルトリューズ(ea3666)が単なる廊下で転んだのを、全身を鍛え上げたジャイアントの龍 張飛(ea4144)が抱き上げる。
 その音を聞き、大人達に立ち聞きさせていたのかと、勘違いしたふたりは脱兎の如く、窓から飛び出し、キセラの止める間もなく、散り散りに逃げ出した。
 リルウィウスがテレスコープを使おうとするが、その十秒間にふたりは遮蔽物に隠れたのか、魔法を使っても見えなくなってしまったようだ。
 4人が恨めしそうな目で見るのを、張飛とエクリュは理解できなかった。

「とりあえずは死人塚について、宿の人から聞こうね♪」
 と、フェーニルが食堂のテーブルに座り込み、食事の注文をしながら、死人塚についての話を聞き集める。
 それによるとノルマンという国が出来る前、自分が伝道しようとした『黒』の教えが伝わらない事を憤ったクレリックが村を呪って自刃した土地だという。
 が、結局は薄気味悪い土地なので近寄らない様にしよう、という事が骨子だった。
「ふーん、成る程ね。で、おかわり、まだ?」

 翌朝、シフール3人は少年少女を捜して村中を飛び回った。キセラは情報の仲介役として宿に残る。
 大人ふたりは奇妙な噂を聞いた。
 冒険者のシフールが死人塚に関して聞き回ったのだが、死人塚とはそんなに有名なのか? で、有名だとしたら何で、死人塚の基本的な知識を知らないのか、不思議なり、不思議なり、と。
「それは不思議だな。おたく、そこへはどういけばいい?」
 張飛が宿の者に訪ねた。
「面白そうですね、本当は何があるか見ておきたいですね」
 横で話を聞いていたエクリュはスープの一滴までパンで拭き取ると、小銭を一枚一枚数えながら、朝食代を支払った。

 午前中に何とか、少年少女を見つけたシフール達は説得し、向こうは今日来いとだけで、言っているのであって、何も夜に行くことはない。
 巧みな話術で、リルウィウスはふたりを勇気づけ。
「大丈夫。太陽が在る限り、負けるものかって。あたし強いから」
 と知る人ぞ知るもの、ならではの余裕を見せつけた。
「あたしもいっぺん、幽霊ってもの見たかったし。え、レイスだったけ? 大丈夫、あたしがどっかーんとやっつけてあげるから。それに、困ったときはお互い様だよねっ♪」
 とフェーニルが勇気づける。
 このふたりを支えにようやくふたりは死人塚に向かう事を決意した。

「ここが死人塚ですか? 確かに薄気味悪い感じはしますね。でも、その程度です。別に魔法がどうという事はないでしょう」
「甘い!」
 エクリュの背後に飛びかかったジャイアントクロウの影をメタルロッドの重量をかけた烈しい一打が打ち据える、返す一撃で肉塊が出来上がった。
 自分を掠めて振るわれる中、身じろぎしないエクリュ。
「危ないですよ。そんなに重量をかける攻撃、普通なら当たりませんよ。外したらどうします」
「礼を言われると思っていたがな。守りの事は考えていなかった。打ち損じたら、その時の事」
 という光景をテレスコープの視界内で見つめていたリルウィウスは頭を抱えていた。
「まずい、大人達の所にレイス行っちゃうよ。いそごう!」
「やあ、招かれざる客よ」
 若者が現れた。
「あんな鴉けしかけておいて、おたく何様のつもりだ?」
「あれはそこのエルフの銀髪の髪を毟ろうとしたんでしょう? 鴉は光り物が好きですから‥‥あなた達に用はありません、ほらもう一匹、行きますよ──それにお客さんですか?」
 チャムのオカリナの音色が響き、エクリュに向かおうとしていた、ジャイアントクロウが眠気に負けて落ちた。
「アンデッドだよ。まちがいない。セーラ様の御力が教えてくれる」
 キセラが魔法で感知した範囲には彼一体だけだった。
「出て行け、その体から出て行けバケモノ!」
「お願い、私たちがあんな所で遊ぼうといったのが悪かったの‥‥安らかに眠らせてあげて」
 少年少女の必至の声に返る哄笑。
 だが、それからワンテンポおいて、エクリュの唱えていた術が解き放たれ、魔力は風を刃と変じて襲いかかる。リルウィウスの言葉の元、陽の光が収束し、光線と変じるた。更に爆心地をずらしたフェーニルの火球が轟然たる大爆発を起こす。
「お、おのれ」
 続けて攻撃は繰り返された。ひとりひとりが術をしくじる事があっても、全体として戦果を挙げているが、レイスは逆襲し、フェーニルに攻撃を集中した。ただ、さわるだけである。それなのに歯の根が合わぬほど震え、体力が確実に消耗していく。張飛は飛び込んで守ろうとし、レイスを打ち据えるが、まるで効果がない。キセラから、通常の武器は効かない効かされ、歯がみをする。
 高範囲魔法のファイヤーボムとウインドスラッシュを封じられ、苦しい展開となったが、リルウィウスとチャムチャムの一点集中攻撃でレイスは消失し、若者は倒れ伏した。

 村の者に若者の失踪の原因と、死体の在処が知らされ、一同は客人として迎えられた。 少年少女の処遇は村の内部で決められる事であり、冒険者達は口出し出来なかった。
 一方、チャムとエクリュはジャイアントクロウの巣を探し当て、結構な量の光り物を手に入れていた。
 チャムは村長と話し合って、この宝物の所有権を確認。自分たちが引き取れるものを引き取り、換金した。
 手助けしてくれた『大人』には100Cを、自分たち『子供』には50Cそれぞれ分け前とする。張飛は遠慮しようとするが、子供達の納得の為、敢えて引き取った。
 そして、別れ。少年少女にチャムは最後の声をかけた。
「常に胸を張って生きなきゃ駄目だよ、かっこ悪い大人になりたくないでしょ☆」
「死は安易には忘れられません‥‥でも‥‥」
 キセラも思いは同じだった。
「Memento Mori──この言葉をおふたりに送りましょう。『死を思え』が直訳ですが、意訳の『死を思い出せ』。これこそがあなた方に相応しいかもしれません」
 そして、冒険者達は村を去った──少年少女に過去と未来を与えて。