パリの休日──大丈夫理屈じゃないんだ──
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 95 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月13日〜11月20日
リプレイ公開日:2004年11月19日
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●オープニング
「お嬢様が暗殺者に狙われているらしいのです」
とある中堅どころの貴族の家令がひとつの依頼をギルドに持ち込んできた。
「大変ですね。ですが、良くあるケースですので、細かいお話をお聞かせ下さい」
男性のギルド受付が依頼人の名前と護衛の対象の顔かたち、事件の関係者に関して詳しく、喋らせるよう弁舌を振るった。
「パリで、オードリー嬢(人間:18才)が財産相続のトラブルで伯父の差し向けたらしい虫使いの暗殺者に狙われている。オードリー嬢は冒険者の護衛や、貴族としてのしがらみから一時離れて1週間のバカンスを満喫したいと考えている。備考、彼女に同行する場合は防具を含む、武装などは一切しない事、100メートル以上距離を取るなら、武装しても構わない。
「つまり、武人系の冒険者に危険を冒せと?」
武装は冒険者、特に武人系ではライフラインである。
「報酬は弾みます」
「ならば、集まる冒険者もいるでしょう。期待して下さい」
冒険の斡旋をした以上、危険を報せ、それに備えたメンバーを集めるのもギルドの仕事である。
「それと暗殺者の名前は判っています。バイトという奴です」
「ブリットビートル使いのですか?」
ブリットビートルは長さ3センチメートル程の甲虫であるが、その石弓の矢よりも早いとされる(キャプテン・ファーブル、大昆虫記より抜粋)。この虫はジャパンの居合い並に早く、よほど勘が鋭くないと、受けるのも斬るのも不可能という、厄介なインセクトである。無論、カウンターも不可能だろう。
止めとばかりに、その破壊力はクレイモアをも凌ぐという。
もちろん、バイト自身も暗殺者として、相応の技を持っているだろうが、このブリットビートルだけで、今までの仕事はこなしてきたという。
「厄介ですが、腕利きを集めます」
「あと、オードリー様はパリには不案内なので、観光スケジュールを立ててくれると嬉しいのですが」
「はいはい、追加報酬‥‥金貨1枚と」
「バイト以外の暗殺者はあらかた潰しましたので、この1週間を乗り切り、尚かつ、バイトを生死問わずで無力化できれば、ひとり頭金貨1枚の報酬を出しましょう。また伯父君が犯人である証拠を押さえれば更に3枚」
「では、契約成立という事で、後は、もう一度、オードリー様の外見などを子細に教えて下さい」
意外に流暢なペン捌きで受付は羊皮紙にオードリー嬢の顔を描いていく。結構な黒髪の美人である。
「では、よろしく御願いします」
こうして新たな依頼書がパリの冒険者ギルドの依頼版に張り出された。
●リプレイ本文
1日目・パリ到着
2日目〜4日目・パリ散策
(ショッピング・教会見学・ノルマン復興戦争の名跡巡り等)
5日目・コンコルド城見学
6日目・セーヌ川遊覧船
7日目・パリ出発
以上、観光のスケジュールを完成させたシフールのアストレア・ユラン(ea3338)とジィ・ジ(ea3484)の意見により、後はオードリー嬢をパリに迎えるのみとなった。
月読玲(ea1554)は見晴らしのいい場所はどうか、と振るが具体案の出せないままであった。
「狙撃の心配はあるけど物陰に隠れて接近されるよりは‥‥」
との意見であったが、その辺りは6日目が鍵となるだろう。
1日目のパリ到着は馬車着き場で有志が並ぶこととなる。
全員といかないのは暗殺の手が向けられているとは知らないオードリー嬢が過剰に武装した輩を嫌悪するからであって、武装した残りのメンバーはそれなりの位置につく事になっている。
あくまで至近につくのは観光ガイドという事になっているのだ。
夕方も暮れてから、彼女の家の紋章が掘り込まれている馬車が到着し、優雅な足取りで長い黒髪の女性が降りてくる。
彼女が真っ先に目にしたものは──。
『ロヴァニオン・ティリスの酒屋 イリス通り7番で不定期に営業中』
という大段幕であった。もちろん、準備したのはロヴァニオン・ティリス(ea1563)である。その端を持つ、ヘビープレート姿の彼を見て、オードリーは顔をしかめる。
「オードリー様、ようこそいらっしゃいました。一応、わたくしが最年長という事でご挨拶を勤めさせていただく、ジィ・ジであります」
ジィが腰を低くして挨拶に入る。
「丁寧な出迎えありがとうございます。私がオードリーです。そのお年で仕事なんて大変ですわね」
「暖かい言葉、感謝のきわみでございます」
「観光ガイドのアストレア云います。宜しゅう頼みますわ〜‥‥方向音痴やけど」
「まあ、それは困りましたわね。ところで、あの人物、どうにかならないかしら、私ああいうのを見ると虫唾が走りますの」
「そうは申されても。観光ガイドの仲間という訳には行きませんので──あの様な輩は無視して、こちらが予約を入れてあるホテルに速く移動するがよろしいかと」
一緒に移動しようとするフォン・クレイドル(ea0504)を見てオードーリー嬢は更に顔を顰める。
「こちらもガイドの方ですの? だとしたら不快だわ。代わりの者を呼んでください」
ナックルにレザーアーマーという出で立ちは彼女を不快にさせるのに十分だったようだ。
すごすごとフォンは彼女の前から下がっていく。
フォンがいかに間近でオードリー嬢を守ろうと決意しようと、装備がその決意を裏切っていた。
玲も出来るだけ彼女と似た格好をと考えるが、事前に彼女の衣装が知らされるわけではなく、礼装すらもっておらず、忍法の術の具体的な残り時間を知る手段は無く──正確に知る手段は月の精霊魔法に頼るしかない──要するに八方塞がりであった。
(こりゃまた困ったお嬢様だな。ま、目の前で死なれるのも困るからな。やらせてもらうさ)
彼女の傍らで紫微亮(ea2021)は決意を固めるが、その肉体は正に全身が武器。オードリー嬢は気づいてないが、まさしく至近距離での護衛にうってつけであった。
その光景を彼方から見やるブルー・フォーレス(ea3233)は警戒の合間に──。
「ブリッツビートルを放す前に片をつけたいところですけど、うまくみつけられるといいですね」
と人事の様に突き放して考える。何しろ相手が黒髪としか判っていないのだ。
スティル・カーン(ea4747)もブルーの横で怪しいそぶりを示す黒髪の者がいないかどうかを目で追っている。しかし、たそがれ時にそれは難しい。仕方なしに場を外したフォンが彼らに合流してくる。
こうして緊張した時は流れ、何事も起きないうちに、6日目となった。
セーヌの河下りである。
アストレアはそれまでのホテルで冒険者街にまつわるクイズを出そうと目論んでいたが、オードリーが冒険者の住む場所になどまるで興味はない、と言い切りアストレアを困惑させていた。
もっともコンコルド城の宮廷絵師達の絵画には熱心に見入っていたが。
「それにしても、あの甲冑男は何なのですの? コンコルド城でも大聖堂でも現れて通りすがりの衛兵だの、通りすがりの参拝客だのって」
「いんや、当人『方』の言いますにはパリのアラモードやと。。何しろ一着といいますか、一揃いが金貨60枚もしますさかい、流行の最先端を突き抜けている、常に先行する者だと言うとりますわ」
アストレアが、ロヴァニオンの堂々とした先回りに、半ばヒステリックになっているオードリーを宥める(?)様に言葉を選ぶ。
それでも、遊覧船の船尾でバックッパックを脇に置いて釣竿を垂らしている甲冑姿を見ると、オードリーはとうとうパニックに陥った。
「通りすがりの──」
「いやーっ!」
一方ブルーたちも船客の多数に黒髪の影を見てパニックに陥った。
「片端から撃っていったら、矢の数以前に殺人犯だよな──」
ブルーが岸でスティールの愛馬メテオローにタンデムして船と平行する様に弓を携えている。と、帰りの夕方時にひとりの黒髪の男の周囲に黄昏に紛れてわかり辛いが、淡い黄金の光を帯びていくのに気がついた。
「まずい、あれか!」
愛用の得物にブルーが弦を張り(始終、弦を張りっぱなしでは弓の方が参ってしまう)、矢を番えようとすると、時すでに遅し、男の手から光の塊がオードリー嬢の手元へと放られた。
たいまつを遥かにしのぐ光源にその黒髪の男──あえて断言しようバイトであると──の袖口から何かが放たれた。
「お前のせいで虫の居所が悪くてね。早くあの虫どっかやってくれ!」
とっさに亮は懐から横笛を取り出すと、出鱈目な旋律を奏で出した。
だが、何も起きなかった。
ブルーの精密な点射がバイトの放った光を撃つが目だった効果は無い。。
一方、アストレアの詠唱は黒髪で虫を使うバイトさんという指定を入れている分、間に合わないが、一方、ジィは全身を淡い赤い光に包ませ、手に灼熱の精霊力を帯びさせる。その熱気にセーヌの飛沫が当たっては蒸発していった。だが、間に合わない。
「何やってんだろう、俺‥‥」
川岸で何もできないでいるスティールがぼやく。
そこへ一呼吸で闘気を高めたロヴァニオンが桃色の淡い光に包まれ、闘気の塊を射出する。
迎撃されるブリットビートル。だが、傷を負って尚、直行する。
ジィの右腕に。
これ以上の熱源は無かった。
勢いで腕が持っていかれる痛みに、ジィは確かな感触を覚えた。
「これでオードリー殿は無事ですぞ!」
それから先はブリットビートルが、船上に輝く灯火目掛けての暴走に入る。
あっという間に出来上がる阿鼻叫喚図。半分以上は、突然怪我人が出て、それにパニックした船客同士の起こした騒動だ。
仕方なく、一同は持参していたヒーリングポーションやリカバーポーションで傷を治して回る。
さすがにこれで、教会に行って治してくれ、という神経は一同には無かった。
運悪く回復魔法を使える者は一同にはいなかった。
その隙にバイトはブリットビートルを回収すると、セーヌに飛び込んだ。
スティールが予てから提案していたように、バイトの身柄を当局に引き渡すことは出来なかったが、人相という今までに無い情報を与える事は出来そうであった。
結局、伯父の手の者であるという立証は出来なかったが、7日目の昼にオードリーが馬車で旅立つのを一同は無事に見送る事が出来た。
「今度、パリで観光以来をする時は護衛に魔法使いを依頼する事にしますわ。一週間ありがとうございました」
彼女は知らなかった。冒険者の大半が魔法を使える事に。
「さて、と」
とロヴァニオンは垂れ幕を仕舞う。そこには、こうあった。
『とある修道院のベルモットを直輸入(?)』
『店長に飲みくらべで勝ったらタダ! お一人様一回のみ。負けたら店長の飲み分も支払っていただきます』
「まあ、お酒を飲むかどうかは別として、厨房を貸してください。それなりの料理は準備しますよ」
と笑顔のブルー。
「いい野兎が入ったんで。仕事の終わった記念に皆で突付きましょう」
そして一同はイリス通りへと消えていき、報告書の書面作りに頭を悩ませるのであった。
これが冒険の顛末である。