『祝福しろ』
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:3〜7lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 64 C
参加人数:15人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月28日〜12月03日
リプレイ公開日:2004年12月06日
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●オープニング
パリの冒険者ギルドにその依頼人が現れたのは、夕暮れが押し迫る頃合であった。
30過ぎのエルフの端正な青年。身なりも悪くは無い。
「当冒険者ギルドにどういったご用件でしょうか?」
受付はその青年に声をかけると、心ここに在らずといった風情の彼が顔を向ける。
「失礼した。私はコンドミンという者だ。冒険者を頼みに来た。少し離れた場所にある氷穴に、60年前に結婚を誓い合った女性がいる。ピレチアという、当然エルフの女性だ、彼女を連れに行く。山賊が出るというのでそこまでの護衛、その他に現在の流行を教えてくれる女性がひとり。また、現在のノルマンの概要をレクチュアしてくれる教師役だ。あと、これは少々、先回りし過ぎだが、可能ならその場で結婚式を挙げたいので、白クレリックがひとりと、料理が出来る面々が居てくれるとありがたい」
「騎士ならば嗜みとして、異性相手の流行や、口説きの手口に長けている方が殆どですが、それなら人数を抑えて依頼料を抑える事ができるのではないかと?」
「いや、仮にも私の結婚相手だ。そのような淫らがましい事は控えてもらいたい」
「はあ、判りました。女性をレディとして扱える方ですね‥‥。ところでさっき60年前なんてとんでもない昔に、結婚の約束をしたようですが、その時はお察しすると、まだコンドミンさまは人で言うところの10代半ばですよね。でも、60年前だとピレチアさんは人間の感覚で言えば、20年は年を取っていらっしゃいますよね。失礼ですが、相当なお年では?」
「当時、彼女は家督争いに巻き込まれた、今の私相当の年齢だった。彼女の疲れた心に、私は若さ剥き出しに熱愛をした。初恋だったんだ」
「これまた失礼ですが、コンドミン様は当時、十代の半ば位では? それが30代の女性に愛を囁いた、と」
コンドミンは赤面した。
「事実だ。そして、彼女は家の荒れた事も手伝って、姿を晦ましたいと願うようになった。そんな追い詰められていた所へ私は剥き出しの感情をぶつけていた訳だ──若かった」
そこで彼女は告げたという、あなたが本当に大人になって、それでも私を愛しているというなら、氷穴に赴いて私を解放しなさい、そう言ってアイスコフィンの魔法で自分の時を止めてしまったのだ。
「もう、年齢的にも釣り合うし、私も社会的地位を持っている。ピレチアを不自由させたくない。60年待ったんだ──彼女の為だけに」
受付はその勢いに押されつつも、依頼の羊皮紙を出した。
必要事項が記入され、冒険の日数は5日と確定し、その分の保存食を自分で確保してくれる様に、依頼書にも書き込んだ。
●リプレイ本文
アイリス・ビントゥ(ea7378)が巨体を震わせ香辛料を求めてやってきた市場で叫ぶ。
「え、これ桁が違いますよ‥‥幾らなんでもぼりすぎでしょ!」
彼女の故郷インドゥーラでは容易く手に入る香辛料も、値段が彼女の常識とはかけ離れている上、肝心の品揃えがパリの市場ではまるで駄目であった。
「駄目‥‥これじゃ、とてもインドゥーラ料理なんて出来ない。出来ても、料理代は全部コンドミンさん持ちだからって、常識とか限度とかいう言葉がある」
一方、とれすいくす虎真(ea1322)も自分の考案したお好み焼きが、到底、慶事の場に出せるものではないと、鉄板に柄杓を叩き付けた。
「駄目や、こんなもん目指したものとは違う。こんなもん出したら、60年も待ち続けたあのふたりに笑われてしまうわ」
自分の店もそっちのけで、修行に勤しむが、到底どころか、形にすらならないレベルで止まっている自分の料理の過程で、それを更に屋外で作れとは無理難題である──自分で吹っかけた難題ではあるが。
ふたりはばったり、冒険者ギルドの前で顔を遭わせ互いに無聊を嘆くのであった。
「おーい、どうした墓場に行くような顔して、これから行くのは結婚式場だぜ」
ロヴァニオン・ティリス(ea1563)が自分の店から持ち出したベルモットの樽を抱えて、行きの馬車に積み込もうとする。
だが、その眼前には更に巨大なベルモットの樽の山が──カレン・シュタット(ea4426)のものであった。
「は、発想のスケールで負けた」
「くそ、どこの酒場だ──まあ、いい。飲み倒せば同じ事だ」
そこで痙攣を起こす。
「そうだよな、結婚だよな‥‥タダ酒飲めるいい機会よな。人生の墓場に自分から足を突っ込むのか‥‥うらやましい。俺もそんな気持ちになれたら、こんなに苦しまずに済むのにな」
彼女のことは嫌いじゃない、惚れている、好きなのだ。だからこそ恐ろしい。自由気ままな生活が一転する、その未来に恐怖せずにはいられない。
それは遠い将来の話ではない。来月には俺は29になる、世界をまたにかけた狩の時間が始まるのだ。今そこに在る危機なのだ。
年の差や立場を超えて結ばれる二人なら俺の気持ちをわかってくれるかもしれない。
「どうしました。ロヴァニオンさん?」
コンドミン氏が、後ろから震えているロヴァニオンの肩に手を置いた。
「年の差はやっぱ埋めないとまずいか? 俺も氷漬けになろうかな」
「待っている人がいるんですか?」
「いや、追いかけていくる狩人がいる」
ロヴァニオンはその話題にはそれ以上触れないでくれ、というオーラを出し、コンドミン氏も手出しを止める。
「はわ‥‥ロマンです。まるで、おとぎ話みたいですよー♪」
そこへラテリカ・ラートベル(ea1641)がイキイキとした目でコンドミン氏を見上げた。
「できれば、ふたりの馴れ初めとか、愛に伝わるエピソードなんかを聞かせてもらえると、バードとして、ふたりの祝福をしやすくなるのですが」
そこでふたりが、かなり話し込んでいる間に。クレア・エルスハイマー(ea2884)も話の輪に入る。ピレチア女史に今までの60年分の歴史を話す際、どこを話す要点にするかを(言い方は悪いが)探りに来たのだ。
(「私が生まれる前から続いていた想い‥‥いいですわね」)
と陶然とし──。
(「こんな風に想われてみたいですわ」)
と頬を桃色に染める。
「そうそう、大事な事をお聞きするのを忘れましたわ」
ユリア・ミフィーラル(ea6337)が話が一段落した所で尋ねる。
「ウェディングケーキは作りますの? 甘味とかの準備も必要ですし」
「お願いします。といっても、現地でそんなに大きな竈は作れないでしょうから、6つほどに分けて、皆さんにも行き渡るように」
「かしこまりましたわ」
そして、嫁取り旅行の開始。
「ぐははは、この道を通して欲しければ、通行料を出せ」
シフールの羽根を活かして、先行偵察した少年、アルフレッド・アーツ(ea2100)の報告どおり山賊が出てきた。
「式の時間が惜しい、30秒で終わらすっ」
無天 焔威(ea0073)の掛け声とともに。
「サンレーザー!」
「ムーンアロー!」
「ファンタズム!」
「スリープ」
「ブラックホーリー!」
「ファイヤーボム!」
「バーニングソード、プラス、ソニックブーム!」
「ダブルアタック、プラス、ディザーム!」
「ザックリ!」
山賊は算を乱して逃げていった。
「10秒で終わりか──他愛もない」
焔威は両刀を手にボソリと漏らした。
「良くやったな。アルフレッド」
斥候役を見事に果たしたアルフレッドに焔威は優しく声をかける。
「ほー‥‥これが‥‥僕の今の精一杯だから‥‥」
「だが、お前は給料分の働きをしたんだし、胸を張ってもいいんじゃない」
アルフレッドが腰に回した大きな羊皮紙を見て、焔威は尋ねる。
「何だ、それは?」
「偵察しながら、書いていた地図。多分、こんなにパリに近い所はもう、誰かが書いているだろうと思ったけど、大陸の地図を書くための練習」
「大陸地図か──うん、夢があるのはいい事だなぁ」
そして、教えられた通りの氷穴にたどり着く、相変わらず、アルフレッドが光源のギリギリで先導する。
「今度は何にもないんだね‥‥あったら──うう、寒いや」
「ほら、入るがいいさかい、防寒具もナシで寒いでしょう、って」
と、丸ごとメリーさんに身を包んだ虎真が彼を前をはだけて、招き入れる。
「うー、寒い。こんなに寒いなんて‥‥」
とアイリスがぼやきを漏らす。
「せめてもの情けや」
と虎真はエチゴヤマフラーをアイリスに貸し出す。
着ける様に促しながら、そこですっ転ぶ。幸い後頭部を打っただけでで済むが、前の方に倒れていたら、アルフレッド君のピューレが出来上がった所であった。
そして、氷穴の奥で眠るように、立ち尽くすピレチア女史の姿があった。
「やっと‥‥逢えたね」
そして、氷穴から彼女を搬送し、12月の寒風から一同で準備していたテントの中でピレチア女史の眠りからの目覚めを待つのであった。
「ここはいったい?」
氷の戒めから解放された彼女は少々混乱しているようであった。クレアが補足を加える。
「あなたが眠りに就かれて60年。神聖歴999年ですわよピレチアさん。私はコンドミンさんから頼まれてあなたを氷穴から運び出した冒険者です」
「ピレチアさん──あなたからもらったエンゲージリングまだ持っています」
枕元で跪いていたコンドミンの顔に少年の頃の面影を見出したのか、ピレチアは涙を流す。
「コンドミン君、本当に大人になって──」
上半身を抱きしめあい、滂沱するふたりを見て、後は無用と冒険者たちはそそくさとテントを出る。
やや、曇りげな天候をルーチェ・アルクシエル(ea7159)はその舞いでもって、鎮め、快晴へと変じる。
焔威の手伝いをエヴィン・アグリッド(ea3647)と、サーラ・カトレア(ea4078)でを行う。幸い事前に、ウェディングドレスを見ていたので、その色彩を際立たせるような、セッティングは事前に準備できた。
そして、陽光の中、シャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)が厳かに告げる。
アンデッド研究家の自分とは少々かけ離れた行為だと違和感を感じながらも。
「──では聖書にかけたふたりの誓いは聖なる母が聞き届けました。最後に口付けと指輪の交換を以って、婚礼の儀を終えます。」
白地に灰銀色のレースをあしらったウェディングドレスに包まれたピレチア女史に小鳥が啄ばむ様なささやか口付けを交わすコンドミン氏。
そして交わされるエメラルドの指輪。
そしてアイリスが野の花を摘んで、造った素朴な花束。
「ありがとう、異国の方」
「甘いのはな〜」
と言いながら、ウェディングケーキとその他、捕まえてきた野禽をアイリスや虎真が調理した野趣を味わうロヴァニオン。
無論、酒も忘れない。カレンの持ち込んだベルモットを樽単位で秒殺する。
ラテリカは現在のノルマンの社交界でのオーソドックスな曲を歌い上げ、
「おめでとうございます。一曲躍らせてもらいます」
ルーチェとサーラはそれとは対照的に幾年月経ても変わらない、純朴な民族舞踊を踊り上げる。
見事な舞であり、居並ぶものは皆息を呑むか、負けじと楽器を取り出した。
「何年経っても変わらないものがあるのですね」
ふたりの舞にピレチアは目じりを拭った。
オレノウ・タオキケー(ea4251)から聞かされた事実、神聖ローマとの確執。
おそらくは自分の知己が誰も会いにこないのは、その戦いで命を落としたのだと悟ったのだろう。
そして、ドレスタット方面での新興貴族バルディエ家の台頭。
これに関して、彼女は昔あった、フランクでの傭兵王と名指された人物の事ではないかと、訝しげだったが、オレノウの説得力ある口舌により、ドレスタット方面での動向に注意を払う様になっていた。
また、クリスティアのレクチュアにより、今風の着衣などの情報も手に入れ、もはや、時の差は埋められたと言っても過言ではないだろう。
そして、カノン・レイウイング(ea6284)はこの夢の様な一幕に酔いしれていた。
(「いくらエルフとはいえさすがに60年も経つとコンドミンさんの姿も少しは違って見えるのではないでしょうか。
ピレチアさんはコンドミンさんが年を経ることによって自分のことを忘れて静かに眠れると思っていたのではないでしょうか。
でも、コンドミンさんは少年の時の想いを忘れずに60年間ピレチアさんのことを想い続けていた。
なんて素敵なことでしょうか。
わたくしもただ一人の方を想い続けられればと思いますもの。
今やコンドミンはピレチアさんに釣り合う素敵な紳士です」)
「それでは盛りあげる為の一曲をどうぞ。
──少年はただあなただけを見つめ、あなただけを愛し長き時を過ごし〜♪」
そして、最後に彼女は満面の笑みと共に女性陣に向かってアイリスの作った花束を投げた。
それを誰が受け取ったかは内緒。
これが婚礼の顛末である。