●リプレイ本文
「護衛士の方にはレディも居るのでしょうか? ‥‥いないんですか、そうなれば是非にでも助け出さねば、という意欲も少々失せますが」
ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)が残念そうに言葉の後半を呟くと、
「おいおい、その動機はないだろう、街の治安を守ってくれている衛士さんに失礼じゃないか」
と、エグゼ・クエーサー(ea7191)は突っ込みを入れるが、ムーンリーズのさりげないカウンターパンチに叩きのめされる。
──では、あなたは何の為に冒険に参加したのですか? と。
(「‥‥『食費タダ』に釣られたわけじゃないぞ!? 『存分に料理研究ができる』なんて考えちゃいないからなぁぁぁぁぁ!?」)
でも、動揺を押し隠すエグゼの決意。
(「でも柳雅は絶対に守ってみせる」)
不言実行を貫き通すべく、聯柳雅(ea6707)を守る事を誓ったエグゼであった。
「この酒に誓って、命を懸けてあなた方を護ろう! いただきます!」
一方でアトス・ラフェール(ea2179)は衛士隊から振る舞われた新鮮なワインを誓いの呟きと共に飲み干す。
そうこうしている間に、先行したリスター・ストーム(ea6536)が件の敵の根城に潜入する。
相手の警戒の脆さと壁自体の穴からして潜入は彼に容易かった。
「ちょろいもんよっと‥‥」
と、潜入した所までは順調だったが、ひとつ問題点があった。マッピングをしようにもそんな光源をつければ、夜なら居場所がばれるという事であった。
昼間はもっとやばいだろう。
「じゃあ、あたしは潜んで内部から呼応するんでな、よろしく」
グレタ・ギャブレイ(ea5644)がシフールならではの隠密性を生かして、リスターのバックパックから這い出ると、どこへともなく『歩いていく』。シフールは飛ぶと羽音がするので、飛行は隠密行動に向いていないのだ。
ともあれ、リスターは寝息の聞こえてくる部屋には片端から出入り口にトリモチを仕掛けた。残念ながら、トリモチ以上に粘着力のある代物はこのノルマンにはない。
そんな行動を見透かしていたのか、ジャイアントオウルは鋭く鳴き声を上げる。
「げげっ、ヤバイ! ずらかるか、グレタ、生きてろよ」
逃走経路を把握しようとしていたサーガイン・サウンドブレード(ea3811)と合流し、偵察は終わりを告げたのだった。
「ふぃ〜疲れた‥‥。ご褒美にキラちゃんかフェリシアちゃんか柳雅ちゃんの労いの熱い抱擁を〜」
こうしてリスターの手に入れた情報と伏兵を手に、一同は作戦を練り直すのであった。
そして昼間、行動開始。ムーンリーズは、派手に立ち回るべく、魔法を使用。
「我は雷神の系譜につならる者、恐れを知らないものは前に出よっ!!」
一瞬のうちに淡い緑色の光が収束し、稲妻と化すかと思われたが、今の彼の技量では荷が勝ちすぎたようだ。
彼の期待した砦の死角を形成する森などと都合の良いものはない。ここは荒れ果てた山なのだ。
「小細工は不要、正面から叩き潰すのみ! 」
トール・ウッド(ea1919)も恫喝に出てきた山賊達を相手に両手に装備したシールドソードで当たるを幸いなぎ払う。コナン流ならではのエネルギッシュな戦い振りを披露する。
(「こんな中途半端な武器ではなく、魔剣が一振り、一振りあればっ!」)
「人質を取った上での横暴な要求‥‥とても従えるものではありませんし、許せるものでもありません」
ブルー・アンバー(ea2938)が怒りで、上品そうな上、童顔という顔立ちをアンバランスに歪ませて、両手で持ったランスを文字通り、戦いの腕の格の違う、山賊相手に振るう。
「じゃあ、あんた、聞くがよ。人質を取らずに横暴な要求をしたら、その横暴な事とやらを叶えてくれるのかい、だとしたら、俺はそっちの方が楽でいいがよ」
「戯れ言を──砕け散れっ!!」
ランスを器用に持ち変えると柄の部分で、その山賊の頭を殴打し、相手が失神したところで、思い切り腰を退いて、止めの一撃を浴びせさせる。
「突き、突き、突きぃー!!」
(「そろそろ時間か」)
感覚的なものでしか、時間が計れない彼は自分に施したオーラの術を改めてかけようと、気を溜めて、全身をピンクの淡い光に包ませるが、その時間は格好の標的ともなる間隙であった。
「オーラ、全開!!」
叫ぶ間にも山賊がふたり飛びかかろうとする。
そこへシルバー・ストーム(ea3651)の弓が唸りを上げ、二本の矢を振らせる。
「傷は?」
「すまない」
「──」
シルバーは戦う前に一計略打とうとしていたのだが、自分の白兵戦の力量と、腕力からして相手を一撃で切り伏せられないと、冷静に自分を判断し、仲間の危機のフォローに回ったのだ。
「しかし、案外敵も出足が鈍い」
ブルーが落ち着いたところで感想を述べる。
「リスターの策が功を奏したのだな」
その時、轟っという音と共に扉が火を噴いた。
「どうやら、リスターの悪戯で開かない扉に、業を煮やして、マグナブローを使ったようね。グレタのものではないわ」
城を見ていたキラ・ジェネシコフ(ea4100)が、その派手な顔立ちを隠した、ボロボロのローブの下で囁く。
皆に隠していたが、彼女の当てにしていた、デスハンドにより作られた死人の集団が来ないのだ。
キラの神聖魔法の力量では死人はから少し離れた所から、到着するまでの所用時間すら満たせなかった。
呪文の失敗も含めて、もう彼女自身も魔力を使い果たして再起は出来ないという状況に終わった。
剣技の上でも前列にでる事も後列で術の支援も出来ず、戦況の報告に駆け回るだけであった。
一方、ブレスセンサーで周囲の気配を探っていた、ラシュディア・バルトン(ea4107)がジャイアントオウルらしき大型の生物の接近と、やや小柄な人間の接近を関知する。
城にいち早く潜入した柳雅は上を音もなく、飛んでくる巨大なジャイアントオウルの姿を発見した。
「盗賊行為の上に通行税と身代金の要求ね‥‥悪党も極まれりって所かしら──とりあえず、親玉はぶちのめすわ」
と、暗黒な笑顔を浮かべるフェリシア・ティール(ea4284)のどす黒い雰囲気に押され、手にした棘付きの鞭を見て、山賊一同は更に退く。
「私の靴をおなめなさい──フェリシアの鞭は痛いわよ」
別に激昂している訳ではない。作らない表情のまま、淡々と語っているだけである。
そこへファイヤーボムが炸裂する。
「さあ、内側にもこちらの伏兵はいるわ。帰る場所など在りはしないのよ」
魔法を打ったのは相手がシフールだと知ったら、逆襲に転じるだろうが、そんな手札をさらす様な真似はしない。
そこへ疾るライトニングサンダーボルト。ムーンリーズは魔法を低いレベルで押さえて数を打つ事に腹を括ったようだ。
剣で殴ったほどのダメージは期待できないが、絵的な効果としては十分である。
その直後、城壁に出た敵のウィザードにグレタはファイヤーボムをたたき込むが、相手の高速詠唱がそれを封じ、更には押し返す。
「やらせないよ!」
グレタの宣言に不敵に笑うウィザード。
ジャイアントオウルに対してラシュディアがウインドスラッシュを放つ間にも少しの隙と、反撃のチャンスを狙いイワノフ・クリームリン(ea5753)がジグザグに走り回る。
ムーンリーズが高速詠唱でフォローしようとしたものの、高速詠唱の難易度故再び失敗。
「まだまだ未熟か!?」
イワノフの肩口に鋭い爪が抉り込まれると思われたが、それでもオーラと重装甲、避けや受けを捨てて動脈などの急所をぎりぎりで避ける戦闘技術が、その鋭い爪を無傷にまでダメージを落とし込み、逆撃を浴びせる。
「覚悟は自分の方が上の様だったな!」
メタルロッドの突き上げる一打が、ジャイアントオウルの腹部を突き上げる。
更にウィンドスラッシュ、ライトニングサンダーボルトが炸裂し、ジャイアントオウルは地に落ちた。
「ようやく成就しました──」
ムーンリーズが肩を上下する。
しかし、まだ動こうとするジャイアントオウルをブルーとトールが完全に地面に縫いつけ、とどめを刺す。
一方、柳雅は虎の奥義を繰り出すのに、邪魔なナックルを外し、城壁へと駆け上っていく。それに続く、エグゼとラーゼル・クレイツ(ea6164)だが、城壁に上がった所をまとめて吹き出すマグマの炎により、深手を負う。
城壁もそれに伴い、損傷を被るが、ふたりはそれでも登り切り、ウィザードとの間合いを詰める。
「双虎、甲の称号にかけて、受けて見ろ。双虎の一牙‥‥爆虎掌!!」
だが、避けられてしまう。相手の回避もそれなりに護身程度とはいえ、身につけていたのだろう。しかし、離れた間合いで闘気が炸裂し、ようやく軽傷を負わせる。そこへ、さすがに相手の見切れないフェイントアタックを乱れうちするが、威力の半減するこの技はオーラ魔法やナックル無しでは十分に破壊力を維持できない。
ウィザードの掠り傷が増えただけであった。
フェイントアタックを織り交ぜるのは柳雅と同じだが、ロングソードと小太刀のコンビネーションがその道を究めた者と比べると見劣りする。
しかし、柳雅の奥義と、ラーゼルの剣の攻撃が炸裂する前に、グレタの放った火球に対して相殺すべく、ウィザードが呪文を紡ぎ上げる。淡い赤い光に包まれながら火球が飛び出す。
ふたりの攻撃を避けきれず、ウィザードの動きが一瞬止まる。
瞬間──!
「穿ち‥‥貫く!!」
エグゼが皆の間隙を縫うようにして、ロングソードを大振りしながらの突撃という荒技に出た。
それまでの一撃で殆ど放心状態のウィザード。
その一方グレタの予想通り、ファイヤーボム合戦は相手のウィザードの威力の方が威力を上回り、自分の魔力は押し返されるが、柳雅がの虎の牙が唸り、エグゼのロングソードの剣の平での当て身を受けた時にはウィザードは失神していた。体力、精神力とも劣っていた者の末路だろう。
怪我の治療など、戦いの締めは衛士団によって行われ、動けなかった弓兵部隊と残党の処分は彼らに委ねられた。
幸い、アトスが戦闘が始まった段階で人質の確保に入ったため、人質作戦などされずに、皆無事であった。誰一人欠ける事なく、事件は一件落着を迎えた。
親玉の逃走、人質の死亡等の失敗が無く依頼を終えることができた事で、祝宴が開かれ、一同は大いに飲み明かす。
「酒の誓いの成就に乾杯!」
皆が舌鼓を打つエグゼの手料理を食べながら、ひとりアトスは杯を掲げる。
これが冒険の顛末である。