Promese──約束だよ

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月12日〜12月17日

リプレイ公開日:2004年12月19日

●オープニング

「僕の名前はロック。叔父さんやお父さんを探してるんだ。皆、誰も帰ってこないんだよ」
 パリの冒険者ギルドへと凱旋する最中の冒険者は、寄る辺なく歩いている子供を見かけると、意外としっかりした口調で言葉を返す。
「他にも村の皆だよ。お父さんとか叔父さんとか村の男の人半分位が、うちの領地は今年は凶作だからって領主様の代官が命令を受けて。それでお爺ちゃんのお爺ちゃんの頃から、封鎖されている鉄鉱山で1ヶ月働けって。でも、10月の頭から行っているのに、まだ帰ってこないんだ」
「じゃあ、冒険者はその鉱山に行って、お父さんたちを探せばいいのね? ロック君」
「ううん、もう、自分で行ったんだ。それに鉱山は西にあるのに、北の街道の方に向かって行ったし」
 話を詳しく聞きだすと、鉱道の付近を誰もいじった形跡はなかったようだ。
「そうなると、何かややこしい事態になりそうね。でも、ロック君はお金も持っていないから‥‥気になるからってことで、私たちが善意でやってあげるしかないわね」
「善意の冒険者?」
「勇者って事よ。勇者は約束を違えない、だから」
「きっと、君のお父さんと叔父さんも含めて皆、連れ帰してあげる」

●今回の参加者

 ea0186 ヴァレス・デュノフガリオ(20歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1603 ヒール・アンドン(26歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea1646 ミレーヌ・ルミナール(28歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea2938 ブルー・アンバー(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea4100 キラ・ジェネシコフ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea4169 響 清十郎(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 ea5840 本多 桂(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6536 リスター・ストーム(40歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 パリから離れた街道沿い、ジャイアントにして忍者である井伊貴政(ea8384)が周囲から珍しげな目で見られている中、彼の考える条件に当てはまる──村人の居そうな場所の3つの条件──を探す
・逃げ出そうにも逃げ出せない場所
・大人数を長期間目立たずに拘束できる場所
・北の街道方面にある場所
 以上を合わせると。
「うーん、やっぱり代官の館かな〜?」
 という事になる。
 戻ってこない人たちを連れ戻して見せます、との意志の下、貴政と道すがらに酒場で舞を踊り、情報収集していサーラ・カトレア(ea4078)の情報もあって、隠密行動に出る面々は代官の館と風体を確認する。
 閑話休題。
 リスター・ストーム(ea6536)は己が煩悩の為、宵時から代官の館にこっそり天井裏に忍び込んでいた。。
(「依頼料は無しか‥‥しか〜し! ココで格好良く事件を解決した日にゃ、村の若い娘が『お父様が帰って来ました‥‥ありがとう、素敵な方』な〜んて言って、ウハウハな展開が待ってるかも知れん‥‥ぐふふっ」)
 と彼の妄想は更に加速し。
(「それに‥‥ミレーヌちゃん、サーラちゃん、キラちゃん、桂ちゃん等可愛い娘達も一緒だし‥‥俺様の集めた情報を盾にして、一夜の夢でも要求するか‥‥げふふっ」)
 リスターの妄想は続くよどこまでも。
 小穴を開け、天井の下の部屋をのぞき込むと男が居た。村の人から聞いた通りの、エルフの代官に声の調子、顔付きともに一致する。つまりはこれが代官である。
「ハッハッハ、こうやって『ストーン』の魔法で村人を固まらせておけば、反乱もなく、食費も必要なく──」
(「む、これで読めた。貴様の悪事はこの俺様がしかと拝聴した! ‥‥ついでに給仕娘の生着替えも拝見しさせて貰ったが‥‥ぽわわ〜ん」)
 なお、この世界、一般人には下着などはない。代官の独り言は続く。
「──奴隷の買い手が現れるまで放置しておけば良いのだ──何者!」
 フォローに入ろうと、館の裏庭に潜入していた響清十郎(ea4169)から反射的に出る声は──。
「‥‥にゃー、にゃー」
「何だ、只の猫か──などと言うと思っておるか。ノルマンの猫の鳴き声は『Miaou』と相場が決まっている。くせ者だ! 出会え、出会え!!」
 と、そこで忍び込むには些か未熟と思っていたヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)も混乱を深める為、後方から、ナイフを衛兵に投擲する。
「リスターめ、しくじったか、まあいいや、ナイフは後で回収すればいい」
 とヴァレスは館から退くとき、固く誓った。
 残りのふたりも別方向に散らばり追っ手を分散させる。

「おい、お前!この男を知っているか! ‥‥じゃなかった、10月頃にこの街道を北に向かった連中のことを知らねえか?」
 などと、北の街道で、聞き込みをした後、酒の飲み比べを全開で行っていたロヴァニオン・ティリス(ea1563)が酒臭い息を吐いている。大酒のみとは、正にこのような男のことを言うのだろう。
「ほう、リスターの奴、上手くいったようだなな。俺の方はとりあえず、鉱山を調べてみたけれど、調べる特技もないし、手ぶらだな」
 一方、大酒のみの片割れ、本多桂(ea5840)は飲み勝負で打ち負かされた。酒の飲み比べで勝負している内に、今後は酒を造ったらうちに納入しろなどという話の流れになったらしいが、ふたりとも大量のベルモットやら、ワインを飲み干した為、そこいらの記憶は曖昧である。
「よし、決まったな」
「もう行くのかロヴァニオン?」
「何を言っている決まっているだろう、迎え酒だ」
「あ、朝ね。朝酒飲まなきゃ」
 桂も起き出す。
「桂ちゃん相手にナンパか? 嬢ちゃんに言いつけてやろーか?」
 とリスター。
「くかー、くかー」
 ロヴァニオンはねむっている。
「おーい」
 ロヴァニオンはねむっている。

 所は移り、村の教会。ロック少年達を囲む一同。
「叔父さんやお父さんが帰って来ないんだ…それは困ったね‥‥。
 よし、僕で良ければ力になるよ」
 と、ブルー・アンバー(ea2938)が若者ならではの義憤に燃える。
 一方で、これだけの冒険者達が集まっているのを見て、本当にタダでいいのだろうか、と悩むロック少年。
「大丈夫、村の人たちは私達が必ず連れて帰るから‥‥。お金のことはいいの。これは、お金の問題で出来る仕事じゃないから。それに村の人たちからも貴重な食料を分けてもらっているし」
 ミレーヌ・ルミナール(ea1646)が彼を励まし続ける。
(人を治める者として、この様な暴挙を許す訳にいかないし)
 さすがに絵もなく、言葉だけで村人の四半数もの人物の顔を記憶できる事も出来ず、ただ、話に頷くだけだ。けれども。
「私はただの冒険者です、ちょっと、悪事を見過ごせない性分なだけで」
「それは尊い事です。悪事を見過ごさず、しかるべき報いを与えるのも人としての行いでしょう」
「敵に立ち向かう勇気を持ちなさい。人の結束は力。必ず大きな敵とて崩す事が出来ますわ。貴方の様な子供ですら、心配でひとりで探しに行く程の勇気を見せたのですから」
 キラ・ジェネシコフ(ea4100)が白のジーザスの教えである教会で居心地の悪さを感じながらもロックを励ます。
 と言っても、教会にいるのは初歩的なニュートラルマジックの呪文しか使えない、白クレリックひとりだけだ。それでも宗派の違いは大きい。
「村の男性達は連れて行かれた場所は判りましたからね── 後は行動に移すのみでしょう。待っていて下さい、ロック君」
 ブルーは宣言する。
 オルステッド・ブライオン(ea2449)は相棒が腹を壊したのを、村の施療院に見舞いながら、その話を聞く。
「そろそろ出番のようだな──フッ‥‥我はAnaretaが従僕『蝙蝠』─…性に合わんが悪党退治、させてもらうぞ」
 それに頷く、ヒール・アンドン(ea1603)。すでに、ニードルホイップの柄に手をかけている。
「‥‥ま、いきなり乗り込んでも問題そうですしね‥‥‥‥とりあえず領主がどんな人物なのか一応、聞いて見ましょうかね…」
 教会の神父によると、領主自体はごく一般的な貴族である。しかし、今年、赴任した代官はかなり、自分の欲望に忠実な人間であり、到底、人を導く者には見えないという。
 ラシュディア・バルトン(ea4107)が偵察に回った一同の話をまとめて、少なくとも、石化して奴隷に売る、という段階でもはや、税金問題云々ではないと、判断する。
 自身も魔法で、呼吸音を探っていたが、石化されていたという事では発見できなかったのも無理はない。
(そうなると、今度は、奴隷の密売人が来る前に、ケリをつけなければ)
 清十郎は逆に少し安堵していた。
「いやぁ、てっきりヤバイ儀式か何かかと思って」
 その可能性も捨てきれない。と、キラ。
「石化を解いた後は、タダの人間。奴隷以外にも使い道はあるというね。悪魔崇拝者の──いや、これ以上は」
 村は凶作なのに代官の羽振りの良さ、挙句に村人を石化する悪知恵と清十郎は集めた情報を公開する。
 結論、強襲。
 サーラの魔法を最大限活かせるように、との配慮である。併せて、村人が領主の館に事の次第を告げに走った。
「夜の方がみんな有利でしょうに」
「なーに、同士討ちの危険が少ないだけマシってものです」
 と、ヒールは照れ隠しでもないが、笑って答える。
 で、口上はどっちがいいと訪ねるロヴァニオンが真剣な顔をして皆に問うた。
「のさばる悪を何とする。天の裁きは待ってはおれぬ、この世の正義もあてにはならぬ。闇に裁いて仕置きする。NAMUAMIDABUTU
 と東洋風に攻めるのと──。
 天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。悪を倒せと俺を呼ぶ。聞け! 悪人ども!俺は正義の戦士、かめ‥‥げふっごほごほ‥‥」
 普段の行いから、無理があったようである。
 ともあれ、ロヴァニオンの様にヘビープレートにヘビーシールドにヘビーヘルム、おまけにレザーローブといった完全装備に身を固め、止めとばかりにラージハンマーを片手に持っていると、子供が指をさして、母親が、見ちゃいけません、とやるのもいつもの光景であった。
 そして、代官の館の前。
「代官にもの申す!」
 とブルーが進み出て、大音声を張り上げる。
「村人を拐かし、石化して奴隷商人に売り払おうとしているのは明白、領主と王の下に出頭し、公正な裁判を受けるがいい」
「ええいッ! 何を、痴れ者がッ、者ども出会え、出会えィ!」
 代官が声をかけると次々と兵士達が湧いてくる。
「成敗!!」
 清十郎とキラ、そしてブルーと貴政が異口同音に発する。
 兵士達はこれらの腕利きの冒険者の敵ではなく、次々と倒されていく。
 オルステッドはその場で罠を作ろうとするが、さすがに間に合わない。技量自体が未熟なせいもあるだろう。
「邪魔をするな」
 と右腕をひとふり、兵士を蹴散らす。
「完全も向上も知らぬ者、せめて服従の痛みを知れ!」
 とキラが棘突きの鞭を振り回す。次々に繰り出されるその一撃は兵士程度を寄せ付けなかった。
 彼女の後ろを守るミレーヌ。
 淡い緑色の光に包まれたラシュディアが淡い緑色の光に包まれ、手から真空の鎌を振り飛ばすと、手を一振り。淡い茶色い光が放たれると、代官の手からは黒い光が伸びる。四大精霊の理に従い、風の精霊力は、地のそれに負ける。
 真空刃を蹴散らした、重力線の重さに鉄球をぶつけられたよう感触にミレーヌはたまらず転倒する。
 オルステッドがその穴を埋めるべく、戦列に入った。
 淡い黄金の光が舞と共に散っていき、代官目がけて太陽の光が収束。一条の熱線と化す。サーラのサンレーザーであった。
「良かった、役に立てた」
 自分に出来る事はないと思っていた彼女の心からの言葉であった。
 桂、オルステッド、ブルー、清十郎が館の奥へと代官を追いつめようとする。
 だが、逃げ切れないと判ると、逆に攻め寄り、間合いを詰める桂に懐から取り出したナイフで斬りかかろう等する。
「悪人共に人権無し。あたしの刀の錆にしてあげるわ。」
 未熟な一撃を瞬時の一呼吸で避け、出来た隙に鞘から刃が走り出る。代官はウィザードならではの勘の良さで弾道を見きったものの、技量の差は歴然。避けきれず、桂は見事、首の皮一枚残して、頭を斬り落とした。
「お目汚しを」
 言って残りの3人に一礼をする。
「さて、勝利の杯を、と。後は任せたわね♪」
 領主の首がさらされた春暖、兵士達は戦闘を放棄する。
 彼らの監視を残して、冒険者達は代官の私室、執務室に潜入して、奴隷密売の証拠を暴こうとしたが、どうやら、初犯で、相手との約束も取り付けていないようで、確たる証拠はなかった。村人達とクレリックを連れてきて、石化を解くのが精一杯であった。
 彼ら自身が悪事の証人となる。
 父と叔父に再会したロック少年は一同に深々と頭を下げる。
「ありがとう、勇者のお兄ちゃん、お姉ちゃん達」
「いいえ、これもセーラ神の御心」
 ヒールは宣言した。
「冒険者って本当に約束を守るんだね! 僕も大きくなったら冒険者になって、みんなみたいに約束を守るんだ!」
「いいえ、大丈夫です。──この世に悪の栄えたためしなし…ですかね‥‥‥‥」
 一方、ヴァレスの武具の回収も出来、通報を受けた領主が村に見舞金を出したので、そこからひとり頭金貨5枚の収入を得る事も出来た。
 村を立ち去る時、清十郎は付け加えた。
「ロックが大人になった時は冒険者なんか要らない様な世界にしてやるから」
 これが村の小さな勇者の物語が顛末である。