●リプレイ本文
「うーみーがー、好き−−−−−−−っ!!」
という、漣 渚(ea5187)の叫びに‥‥。
「おーれーもーだー! こういう依頼待ってたんだよな、思わずドレスタットから船に飛び乗ってやってきちまったぜ。まぁ、おかげで財布は空っぽだけど‥‥」
おなじく、レオン・バーナード(ea8029)は高揚していた。
年の瀬、吐く息も白いドーバー海峡で、違いの分かる侍ジャイアントと、海の男見習いがシャウトしまくっていた。とやっている後ろからゴツンとぶつかる陰ひとつ。
ロヴァニオン・ティリス(ea1563)であった。
「どうしたんだ、船酔いか?」
慌てて、肩を貸すバルディッシュ・ドゴール(ea5243)。
「いや、違う。装備を変えてバランスが取れないんだ。おまけに店の酒は全部、前の依頼で無くなったから、それを考えると──」
「バランスって、普段はどんな装備してるんだ?」
「ヘビーアーマー、ヘビーヘルム、ジャイアントシールドにラージハンマー」
「まあ、その格好で海中戦行ったら、防具は錆だらけになるわな。ファイターか何か知らないが、今の得物はなんだ?」
「スピア一本」
「現実的な装備だな」
その返答にこの男やるな、という人物判断が見えてくる。
「じゃあ、口直しにこの当たりのソードフィッシュのスポット、酒場へ漁師連中から聞き出しに行かないか?」
「リルも行く〜」
リュオン・リグナート(ea2203)もその言葉に同調し。
「リル、イー君のことが、何かわかったらいいね」
と、クリス・ハザード(ea3188)も漁場探しで同行する。
「リルもか? 何、 酒の予算はカナルコードの爺さんが持ってくれる。俺はそう信じた。じゃあ、行くか」
唐突に態度を変えるロヴァニオンにバルディッシュは驚きつつも、酒の匂いに惹かれて動き出す相手を止める事はできなかった。
やがて、しこたま酔ったバルディッシュを素面同然のロヴァニオンが酒場から引きずり出す。
「酒場で情報収集するのに、酒の十杯や二十杯呑めなくてどうするんだ。俺が行かなかったら、おまえ等、何にも覚えていなかったろ」
「むう、攻防逆転とはまさにこれ。海の上では見ていろよ」
「やっぱり、ウィザードは酒には向いていないようですね」
クリスの嘆きはリルの嘆きでもあった。
「イーくんの事何にも判らなかった、西の方に行ったんじゃないかって、それくらいしか判らなかった」
クリスが倒れた後、リュオンも途中までは覚えていたものの、後はブラックアウトしていたようだ。
などと、やっている内、何人からもリクエストのあった船が入港してきた。50人は軽く乗れる船である。小舟も少数随伴する。
「サシミにそそられて、後先考えずに、この依頼に参加したなんて、言えませんな‥‥」
そう思っていたカルヴァン・マーベリック(ea8600)は船の偉容に胸を打たれた。
「さすがに2メートルの大魚をピストン輸送する訳にはいかないのじゃからな」
後ろで、依頼人のカナルコード氏が口を開くのに、カルヴァンは気配を感じていたので慌てはしないが、ソードフィッシュが2メートルというのは初耳であった。
帰ってきた5人の内、リル・リル(ea1585)もはためきながら、ついてくる。
「力任せになりそうですな」
「そう、その為に海戦をするものにボーナスを与えているのですから」
「おう、これはカナルコードの爺さん。バルディッシュが1匹多めに採って漁場を教えてくれた漁師にお礼として送りたいとさ」
「余裕があったら、それも結構じゃ」
「良い漁場は漁師の宝なんだ。だから口外無用で頼むよ」
口添えするレオンの言葉に殊勝げに頷くカナルコード氏。
「うむ、心がけるとするのじゃ」
その言葉にリュオンは言葉を呑む。こちらの漁の仕掛け釣りではターゲット以外の魚も荒らしてしまい、漁師の来年の糧をも奪う事になってしまう。
「心頭滅却すると、なおさら寒い!」
小雪の降る中、皆が余計な装備を外すのを見て、ロヴァニオンは震える。
「‥‥流石にこの時期の海は寒いです‥‥」
頬を赤くしつつも、顔だけなら少女と見まごうばかりのエルフのヒール・アンドン(ea1603)が体に油を塗っていくのを見て、ロヴァニオンはすまん、貸してくれ、と切り出し、後は潜ろうとする一同で奪い合いとなった。
その準備の間、裸身で震えている訳にもいかず、ヒールはマントにくるまる。ミリア・リネス(ea2148)も一緒にくるまる。
「寒いでしょう。私も寒くて」
先ほどまで船の中にいた彼女が冷える事はない。彼女の他愛ない嘘であった。
「こら、嘘はいけませんよ。セーラ神は寛容ですから、何でも許してくれる‥‥あれ、許してくれるなら、何でもいいのかな?」
と、ヒールが神学的ノリツッコミをやっているとミリアはクスリと笑う。
その光景をしばし、眺めようとしていたが、ラックス・キール(ea4944)は寒さに耐えかねて、ミリアに魔法を促す。
淡い青い光に包まれては失敗しを繰り返し、カナルコード氏の手助けもあって、水中戦要員一同にウォーターダイブの準備は終わった。
リュオンは戦いたい意志を押さえて、船体の維持と、小舟を高みから見て、指示を飛ばす事に専念する。エグナもカナルコード氏と一緒に、船上でソードフィッシュの到着を待って、氷結させるつもりである。
同じく、裏方に回ったエルリック・キスリング(ea2037)は船上で石を火で炙り、戻ってきた者の無事を願う。いざとなれば、セーラ神の加護に縋るつもりであったが、漁師の話を聞き込んできた者の話を総合すると、危険度は少なそうであった。
かたや、ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)は一同のいないところに小舟を出して、釣り道具一式を借りて、トローリングとしゃれ込む。無作為に魚を捕る投げ網や、仕掛け釣りと違って、こちらはさすがに何頭釣り上げるかは自分で調節できる。船同士で合図をやり取りすれば、そう採り過ぎる事はないだろう。
一方、エルザ・ヴァレンシア(ea4310)は体力不足から、家事や調理など、船員の手助けに回っていた。
(リュオン、どうか無事で‥‥)
祈りを捧げつつも、思いは船の切り盛りにある。
「刺身ってどんな風に作る料理なの? それさえ分かればちゃんとしたのが出来ると思うけど」
厨房のユリア・ミフィーラル(ea6337)は前衛がファイゼルが早速釣り上げてきた全長2メートルあるソードフィッシュを前に、伝聞でしか聞いた事のない『SASIMI』にチャレンジする。
(臓物を出すだけでも大変ね)
彼女の戦いは始まったばかりであった。
クリスが潮の流れを見ており、急な流れの変化にも小舟も含めて余裕を持ってチャレンジできた。
それでもソードフィッシュを引き揚げるのを健気ではなく、無謀にもチャレンジしていたミリアがバランスを崩して冷水に落ち込む。
「ミリア!」
ヒールが急行するが、彼女の体は波に掠われるばかり、初心者印で体力もない、ヒールでは逆に自分も巻き込まれる。
「ヒール、離して」
「ミリアを置いていけない」
云いながら、休息に体温を奪われ、ふたりは水底へと沈んでいく。そこへファイゼルがミリアがふたりを漁師セットの投網で絡め取り、引き上げる。
大型船に引き上げさせ、意識を失ったミリアと共に、ふたりは船上の火で暖められる。
「ああ、人工呼吸している間、見るほど皆、野暮ではないのじゃ」
言うカナルコード氏に白い雪が吹き付け始めた。
皆が背を向ける中、ミリアに唇を重ねて息を吹き込むヒール。
ミリアが頬に赤みが刺すと、ヒールはリカバーで息を吹き返させる。
「ほら、急いで着替えないと、体が冷えますよ」
と、ヒールが雪の中、マントで彼女をくるみ込む。
しかし、それからの帰路が、問題があった。
一部の者にフリーズフィールドが有るから、アイスコフィンは永続的に続くだろうという楽観があった。
しかし、フリーズフィールドでは、ひとつひとつの氷棺に魔法を施しても全時間カバーする事は出来ない。
エグナの魔力と、老いたカナルコードの魔力を合計しても、24時間、アイスコフィンを維持する事は出来ない。
その為、帰路の一週間で、ソードフィッシュは食べられるものの、生食には無理があるレベルにまで身が傷んでしまった。
「残念だが、これでは希望していた、コンコルド城を見ながら、皆で刺身を食べるという目標は達成できん。経費を返せとは云わぬが、残念だが報酬は出せぬのじゃ。こちらも相応の金を出したのじゃ。済まぬが、そういう事じゃで。せめて、アイスコフィンの使い手があとひとりいれば、話は変わっておっただろうが、本当に残念じゃ」
「面白い漁の話があったらまた声かけてくれよ」
「うむ、今度はソルフの実を準備しよう、あれもレアじゃし、手に入れば良いのだが‥‥」
レオンが声をかけ、残った食材で、ユリアが漁師風の鍋を作り始める。
「援助できるのはここまでじゃ。だが、ユリアさんの料理は温かい、まるで母親の味を食べているようだったぞ」
言い置いてカナルコード氏はとぼとぼと自宅の方面へと馬車を走らせていった。
「さーよならーぱぁりー わたしはかぁえれぇない〜 きたのうみをただひとりおぼれていました あぁあぁぁーどぉばーかいきょーふぅゆげぇしきぃぃ〜」
ロヴァニオンの大音声が馬車を追いかける様に、響いていった。
これが悲しい冒険の顛末である。