●リプレイ本文
周囲がドラゴン騒ぎで賑わっている中、キャプテン・ファーブル(本名はシャルル・ファーブルというらしいが、本人は曰くがあってか、格好いいだけなのか、もっぱら『キャプテン・ファーブル』で通している)は街を離れている枯れた雑木林にたどり着き、馬車から降りた。
「さて、諸君ここから先は歩きだったりする。まあ、残念な事に馬を連れて行くと、帰りは馬車を自分たちで引いていく、という事になりかねなかったりするのでね」
ファットマン・グレート(ea3587)は行き縋りに、休閑期の農民から借りてきた(借りる事の代金はキャプテン・ファーブル持ち)農業用の道具を下ろしながら、問いかける。
「寒いと動きが鈍りそうだから、早朝に採取をしようと考えたが、何が不味かったかな?」
「疑問を持つのは良い事だ。それは人を進歩させちゃったりする。問題点はふたつ」
「そうですか? 朝は一番冷え込みが厳しいときに成虫を探せば、襲ってくる可能性が低いし、飛んでもそれほど長くはないか逃げるだけだと思いますけど」
シフールのダージ・フレール(ea4791)は疑問を呈する。
キャプテン・ファーブル、眉間に軽く皺を寄せ、明言する。
「我々の動きも鈍る事と、ブリットビートルは温度の高いものや、光源目がけて突進する習性がある。周囲が冷え込み、我々と周囲の体温差がはっきりすればするほど、的になりやすいんだな、これが」
「それは判りもうしたが、虫とて睡眠は必要なはず、キャプテン殿は成虫の寝ている時間帯や、何処で寝ているか等はわからぬのか?」
北辰流の腕も確かな、石動 悠一郎(ea8417)が尋ね、惜しみなくキャプテン・ファーブルはレクチュアする。
「昼寝て、夜に行動する。腐葉土の浅いところで眠っているという目処はつく」
「ちなみに伺いたいのですが、ブリットビートルの食べるものは?
成虫を捕獲するために、樹液を染み込ませた毛布で木が生い茂った場所に誘い出し、身動き出来ない状態になったところでロープを巻きつけてはどうか」
長丁場のこの依頼なら十分に可能だろうと、アイネイス・フルーレ(ea2262)は提案しようとしたが、何かいやな予感がしたので、改めて問いただす。
「ん? 肉食だよ」
キャプテン・ファーブルのこの一言に一同の間を戦慄が走り抜ける。
(ひょっとして的?)
「虫‥‥害虫じゃないのは捕獲して展示すべし‥‥?」
空魔 玲璽(ea0187)はようやく慣れ始めたゲルマン語でぽろりと呟く。もっとも、彼は言語に関してはコスモポリタンであったが、
「そういう訳で、これからは歩きだ。さあ、諸君、前進しようではないか? どこかの誰かの未来の為に。ちなみにブリットビートルは肉食とはいえ、人家の近くにすむ狼たちをぶち抜く事もある。害虫、益虫のラインなんて、その場、その時によって幾らでも変わるものだし」
『餌の採取は‥‥いや、面倒くさいから、とりあえず一発殴ろう』
つい、使い慣れている華国語で玲璽は呟いた。
マリウス・ゲイル(ea1553)はそんな事に慣れっことばかりに育ちの良さげな笑みを浮かべ、ラテン語で──
『私にとっては久々の依頼。キャプテン・ファーブルもウィッグルズワースさんもお久しぶりです。
ラテン語もちゃんと覚えてきましたよ。よろしくお願いしますね』
「こちらこそよろしく、頼んだりする、あてにさせてもらうよ」
「よろしく‥‥」
ウィッグルズワースも影が薄げながら、そう応えた。彼は一行の馬車の見張りをする。
ブリットビートルの目標を分散させるには戦力にならない分、有効(?)かもしれないが、それで肝心の癒やし手が行動不能になっては悲劇の大連鎖である。
何はともあれ、ファットマンの提案で成虫が起きた時の振動をキャプテン・ファーブルの魔法で関知し、一同はそれにそなえる事になる。
空を飛びながらダージは捕まえた成虫をアイスコフィンで封印すべく、一同の後ろからついていく。
「そうだな。馬車には一応、鉄の採取箱も用意してあるが、そこまでに動き出されると厄介きわまりなさそうだから、ここはダージ君、おひとつお願いするよ」
「──来た」
大地の匂い立ち込める森の中で、ファーブルが宣言する。
「この移動速度なら、地上に出るまで一分はかかりそうだ。今の内に準備はしたまえ」
玲璽は己のナックルに闘気を付与する。マリウスは己の闘気で重量の全くない盾を作り出し、更に己の身を固めるべく闘気の鎧を付与していく。
(今回はブリットビートルという、カブトムシさんを親子で生け捕りですのね。キャプテンの研究心は留まる所を知らず、未知なるものを追い求める‥‥さすがですわ)
アイネイスはその合間にも筆記用具でこのブリットビートルが多数居住するという森の生態環境を、森に携わるエルフの立場からラテン語で書きつづり、そのインクが乾いた頃には総員、戦闘配備を備えて終わった所であった。
ダージが松明に明かりをつけ、熱源と光源でベストの迎撃ポジションを確保する。
そして蠢く大地。
「捕まえた!」
ファットマンが飛び出してくるタイミングを見計らい、カウンターで仰け反ってスープレックスをかけ、不自然な姿勢から手の中からしきりに出ようとする全長3センチのブリットビートルと力比べをする。
「ご免なさい、今はこれが精一杯」
アイネイスは10秒間の詠唱と結印の後、苦闘するファットマンとブリットビートルと一緒に、アイスコフィンで氷棺に封じる。
続けて水平に飛び出そうとしたところをキャプテン・ファーブルの移動方向の指示により盾を向けていたマリウスがブリットビートルを受け止め、一瞬動きが止まった所へ、全力で悍馬の如く疾走した玲璽のオーラのこもったナックルが突き出され粉砕してしまう。
「ち、やりすぎたか!」
だが、次の1匹が、弾道を見切ったものの、戦闘技術の全てを精霊魔法に回しており、避けきれないキャプテン・ファーブル目がけて直撃する。悠一郎は叫んだ。
「飛打!」
ジャパン人にもかかわらず、武士の誇りである刀を抜かず、盾を携え、棍棒を構えた彼の放った衝撃波はブリットビートルをはじき飛ばす。
「見事な機動性、恐るべし! まるで夢想流だな──」
最後の一匹が羽ばたこうとした時、アイネイスがアイスコフィンで捕獲する。
「ようし、動く気配無し、作戦第一段階コンプリート! やったね」
さっそく、捕まえたブリットビートルは鉄の檻に放り込まれ、ファットマンも解凍された。
「あー、冷えた」
「さて、諸君ここからは力任せの仕事だ。馬車と、皆の馬やアイネイス嬢のろばさんに詰めるだけ、腐葉土ごとブリットビートルを持って行く。地主には了解済みだ」
「ぬ、ここを掘れば良いのか?」
「いかにもって、その通り」
と悠一郎はファーブルに指示を出す。
ファットマン他。一同も大地と戯れるひととき。
「で、この幼虫達はいかほど持っていくのだ?」
疑問を投げかける悠一郎に対しては。
「持って行けるだけ。持って行く先は私の島だからね、羽化しても周囲に迷惑はかからない」
「ところで、この仕事の記念にシェリーキャンリーゼをひと壺どうですか? キャプテン」
うれしそうに話しかけるマリウスにファーブルは苦笑いをして、曰く。
「いや、生憎と自分は古ワイン党でね、古ワイン友の会に入っているのだよ」
「そうですか、それなら、こんどは古ワインをたっぷり持ってきますね。」
マリウスが残念そうに、撃破されたブリットビートルの丸焼きの半かけをファーブルと相伴する。
酸っぱめだったが、有毒では(この種類は)無いようであった。
そして、出航の朝。
袋いっぱいに積み込んだ腐葉土がキャプテン・ファーブルの愛船コメート号にぎっしりとならんでいた。
「お役に立つかわかりませんが、気が付いた事などを書き留めてみました。ご覧になっていただけますか?」
「植物学からの昆虫の生息層に関するレポートだね、是非参考にさせてもらうよ」
港を滑り出るコメート号。
「今回は色んな意味で厄介な依頼であった‥‥帰ったら暫くのんびりするかな?」
大きくのびをする悠一朗を先頭に、一同は次なる依頼を待つのであった。
これが冒険の顛末である。