契約の季節
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ プロモート
担当:成瀬丈二
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 17 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:02月02日〜02月12日
リプレイ公開日:2005年02月08日
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●オープニング
パリの冒険者ギルドの一室に若い冒険者が集っていた。カンという街の領主の領主からの依頼の説明を聞こうとした冒険者である。
カンからの指定で、いずれも幼げな、体格は人並みかそれより細いものばかり。女性が目立つ。
基本的に、筋骨逞しいという者はいないようだ。
「依頼はカンの街の統治者、フィーシル・カン伯爵閣下からのものです」
封蝋のされていた書簡を、受付嬢が見せる。封蝋は今は割れているものの、リンゴを意匠とした 騎士として知識を持つ者には、、カン伯爵家の紋章であると判った。
「毎年2月に伯爵閣下は、街の特産品であるリンゴの森へ、平和と繁栄を求めに精霊『アースソウル』の加護を求めに、森の奥深くまで行くという契約を精霊とされています」
その精霊探索行の護衛の募集が、今回の主題である。
カンの伯爵、フィーシル・カン伯爵自身は若年であると同時にエルフであり、地の精霊と契約したウィザードという事も相まって、肉体的な自衛の力には些か欠ける。
伯爵は人間の感覚で言えば、12歳の少年である。
ゆえに護衛をと依頼が出るのだ。
しかし、カンでは伯爵の父親の腹違いの弟が摂政兼騎士団長を努め、独自の騎士団も存在する。
それを随従させればいいのだろう──普通なら。
問題は祝福してくれる『アースソウル』である。
大人の男を見ると怯えて出てこないのだ。
10代半ばまでのの少年少女や、若い女性の前にしか姿を現さない。
逆に言えば、そういった面々ならフィーシルの護衛として自分の所に来てもいい。そう精霊と契約を結んだのであった。
この契約はノルマン復興戦争の時、荒廃したリンゴの森に隠れ忍んでいて『アースソウル』に偶然出逢ったフィーシルが、当の『アースソウル』と交わした契約であった。
この契約の甲斐あってか、戦乱に追われ、手入れされていなかったリンゴの木々はたった10年で勢力を取り戻したのと言われている。
「しつもーん、護衛っていうからには何か危険があるんですか?」
という女性の声に、受付嬢が返すには。
「契約が始まって以来、ここ10年ほどは何もありませんでした──ええと、狼の遠吠えが聞こえてきた──というのが8年前にあった程度ですね」
参考資料として、ノルマン解放からの護衛行の資料を出される。読んでみると、事件らしい事件はない。
逆に伯爵の成長ぶりが見えてきて微笑ましくもあった。
森は深いが、これまでの行程で大体の目安はついている。子供の体力の無さを考えてもカンの街から3日で往復できるだろう。
「そして、一番最後ですが、アースソウルに『芸』を見せるという必須事項があります。これが毎年の楽しみで、様々な冒険者を呼んだ一番の理由です。
皆さんが一丸となって、アースソウルに『ひとつ』の芸を見せて下さい。
これは街の人々に成り代わり、街は団結しているという、アピールの為ですので、どうしても外せません。
資料を見ると、昨年は聖歌を歌う、一昨年は演劇。一昨昨年は組み体操です。前やったものは飽きられるかもしれませんから、皆さん『全員』で十分に吟味して、演目を決めて下さい」
受付嬢がそれを確認し、行くメンバーがハッキリすると、部屋の扉が大きく開かれ、白髪に青い目のカン伯爵エルフのウィザード、フィーシルが現れた。
「僕がカン伯爵フィーシルです。今年もまた『契約の季節』がやってきました。
中には昨年も守って頂いた方も居られるようですが、今年もカンの民の為、そしてノルマンの為、よろしくお願いします」
フィーシルは良く通るボーイソプラノでそう宣言した。
今日の少年の装束は、サファイヤを思わせる深い青色のローブを胴着を着込み、首からはロザリオをぶら下げている。
この純粋で繊細そうな少年伯爵が、自分たちが守り抜くべき相手だと。面々は改めて認識した。
冒険者は急ぎ馬車で運ばれ、りんごの森にフィーシルと一緒に踏み込む事になるという。
こうして、カンでの冒険が始まる。
●リプレイ本文
カンの街から川を挟んで、東南に位置するリンゴの森。それは数多の人々の糧となっていた。
伯爵家の山荘から出て、いざリンゴの森へと進み出す。9歳程度の子供でも入れた道だ。よもや、冒険者が間違う筈がない。
その旅の中、エルフのサラサ・フローライト(ea3026)はフィーシル・カンに尋ねる。
自分は暦の上では70を超えているけれど大丈夫か? と応えてフィーシル曰く。
「それをいったら、僕は今年で37歳になりますよ」
「そう言えば、そうでしたね」
安堵のため息がサラサから漏れる。
「それにしても、これは良い仕事したものだ」
「マグ姉に無理言ったけど、その甲斐があったってもんでしょ」
ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)の姉が作った、今回の演目用の深い青の羽織物のことである。急ぎの仕事にも関わらず、それぞれのメンバーに合わせてアレンジがされており、芸が細かい。
実はアースソウルの分まで依頼した青いガウンであったが、いかんせん彼女のサイズが判らない為に作れなかった。
「まくる、間に合わなかったわね」
ミィナ・コヅツミ(ea9128)が自分の放った忍者に関して感想を漏らす。
さすがに馬を取り替えながら、馬車で行きに4日かかるのを、馬1頭で猛攻し、森の危険を隅々まで調査しろとは、かなり無理があったのだろう。
実は途中で行き違っているが、その事に彼女は気づいていない。
そして、森に分け入ると、その奥深くに幾年の樹齢を経たか判らないような、雪が降り積もったリンゴの大木があった。幾つか実が残っているようにも見える。
この木の根本で伯爵は、精霊──アースソウル──と出会ったのだ。
ノルマン王国が一度滅んでいた間、デミヒューマンの貴族など、迫害のもっぱらの対象であった。
「いませんかー!」
アースソウルに呼びかける一同。
ミーファ・リリム(ea1860)は舌足らずな声で尋ねる。
「精霊さん どこなのらー」
呼びかけるサラサ。
「伯爵が来ましたよ」
そして、カンの街を収めるフィーシル・カンが大きな声で呼びかける。
「契約に来ましたよ」
その皆の声に応じてか、ヒョコっとした感じで幹の裏側から顔を出すアースソウル。
様々な意匠の植物をふんだんに盛り込んだ衣装を着込んでいる。
大地に薫りがした。
そして、なにより朴訥な雰囲気。一同を見てはにかんだ笑みを浮かべる。
甘い声が響いた。
「契約ね。今年はどんな芸を見せてくれるの? とっても楽しみにしているんだ」
「命の連鎖の踊りを」
と少年伯爵が応じると。
アースソウルは印を組み詠唱し、淡い茶色い光に包まれて降りてくる。
レビテーションの魔法だろう。
サラサは楽人らしく、オカリナを奏で出す。
だが、アースソウルは不安げな顔でアマツ・オオトリ(ea1842)がナックルを握り込んでいるのを見る。少し怯えた様だ。
彼女は自嘲して。
「私は無骨一辺倒の女のようだ」
ナックルをしまった。
などというやり取りの内に、皆の後ろに回るオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)
「では、私は後ろに下がらせて頂いて」
アースソウルは怪訝げな表情を浮かべた。
「あたしの芸の為の下準備よ」
と、オイフェミアは振り返らずに答える。
「あたしが踊るのではないの」
別なリンゴの木の影に隠れると宣言する。
「あたしが皆を踊らせるのよ」
見えなくなった後、淡い茶色い光を続けて発し、2本の木に対してプラントコントロールを発動するオイフェミア。
幾本もの木の枝が踊るように揺れて枝を動かし、雪を落としていく。たとえ、春には芽吹こうとも今はオイフェミアの完全な統制下にあった。
オカリナをしまい、淡い銀色の光に包まれたサラサの歌に合わせて踊り出す一同。
──精霊守りしこの森で、踊り踊れや輪になって
手を繋ぎ、心を繋ぎ、今我らは一つの輪──
アースソウルのリンゴの木を囲むように、一同は踊る。
輪の外周を、拾った木の棒があたかも宝刀であるかのように凛々しく、かつ華麗に剣舞を披露するアマツの闘争の舞い。
子供の如く天真爛漫なシフールならではのミーファの踊り。
ハーフエルフのミィナの帰るべき所、魂の故郷を想起させる家庭の舞い。
ウィザードとしての英知の元、自然を操るオイフェミアの自然のパート。
それらの舞いと微妙に違った、人々のふれあいの難しさを演出するガレット。
以上を中心として演出、歌を歌い、演出するサラサに合わせてそれぞれの踊りを舞う。
この舞いを作る為に彼女らは、夜な夜な、泊まった宿の近くで大降りの木を探して、特訓してきたのだ。
だが、残る問題点はふたつ。
「さあ、アースソウルさんも一緒に踊りましょう♪」
ミィナは手を向けて、アースソウルに踊りを促す
にっこりわらって、促されるまま、アースソウルも踊りの輪に入った。
「ガーンといけえ、カーン伯爵!」
とのオイフェミアのハッパを受けて、フィーシルも踊りに加わる。
ふたりづつ、踊りのパートナーを変えていくと、ミィナも伯爵と手を握る。子供らしく手は温かい。
最後のフレーズでフィーシルとアースソウルが手を繋ぐように、サラサにミィナが目配せし、ミィナの予定通り、フィニッシュを決める。
そして、アースソウル以外踊り疲れて座り込んでいるが、笑顔を皆、絶やさない。
それをにっっこりと笑って懐から、一つの木の蔦、植物に詳しければ、それがヤドリギだと判っただろう代物が渡される。
「今年の契約の証。面白かったよ、また来年来てね」
アースソウルは一同に頬笑みを返す。
「記念に1個リンゴ貰えないかな?」
サラサの問いに、アースソウルは、またレビテーションの呪文を唱え、大木の枝を目指し、リンゴの実をひとつもぎ取ると、再び下降して彼女にリンゴを手渡す。
疲れが取れ、立ち上がると、ミィナは微笑んで、アースソウルとフィーシルに聖夜祭で木々の天辺を飾るラッキースターを手渡した。
「ありがとう、大事にするね」
「また、来年会おうね」
空中に浮いた後、木の枝に捕まり、横に移動し、木の梢に向かうアースソウルに向かい一同が呼びかける。
「何年でも来るから、きっと会おうね」
彼女はひらひらと手を振って、リンゴの木の梢に姿を隠した。
そこで、向き直るフィーシル。
「みなさん、ありがとうございました。おかげで、今年も豊作が期待できそうです」
森を出ると、カンの城に戻らなければならないフィーシルは一同に別れを告げる。摂政として叔父が立っているが、伯爵の仕事はあくまで自分の為すべきことだと、政務を己に課しているのだろう。
「来年も、また来てくれたら嬉しいです」
「じゃあ、また来年。冒険者ギルドで依頼が取れたら」
と、ガレット。
笑顔をフィーシルは返す。
「本当は冒険者ギルドに入って、依頼する方じゃなくて、依頼される方になりたいんです。セージを目指して、天の道、神々の意志、地の道、精霊の理。そして人の道を究めて、それでどこまでノルマンの、そしてジ・アースの役に立てるか、自身を試してみたいんです。でも──カンの作業だけで手一杯になりそうですね。でも、次の世紀には少しでも一歩を踏み出したいのです」
セージとはミィナも話には聞いた事があったが、賢者で凄い魔法を使えるらしい、としか知らない。しかしこの少年伯爵は、魔法といった力ではなく、セージの賢者としての智を求めているのだろうと直感した。
「なれたら──素敵です」
「──ありがとうございます」
一同は別れを惜しみつつ、差し向けられた帰りの馬車に乗った。
そして帰りの車中、アマツは悶々としていた。
あとな‥‥今回の様に、妙齢の女しかおらぬ依頼だからな。
道中、皆に少し相談してみよう。
その混沌も言葉にすれば吹っ切れそうな気がするから。
「その‥‥愛する殿方との進展を早めるには、どうすれば良い?
齢55歳、人間の剣客なのだが‥‥今、遠く離れてしまってなァ。
唇までは奪って頂けたが、抱かれてはおらぬぞ。
私としては‥‥抱かれ、子を設けても良いと思っておるが‥‥なかなか、な」
アマツが皆に帰りの馬車の中で問いかける。
「好きなら結婚すればいいのら」
ミィナが天真爛漫に返す。しかし、オイフェミアは止めろという。
「七刻双武の事だろう。私も月の精霊の悪戯に居合わせたひとりだからな。あなたの歳ならば、彼を労ってあげなさい。その人の孫を産む積もりで、他の愛する人を探すしかないでしょう。もっとも、そんな事が出来るなら、最初からそんな相談はしないでしょうけれどね」
もらったリンゴ酒の最後の一滴を味わいながらの返事。
彼女は敬老精神旺盛なのだ。
ミーファは応えず、干しリンゴをふんだんに盛り込んだ練り焼き菓子の最後の一個を愛おしむように囓り始める。
サラサ曰く、結婚式をするなら楽人として参加するけれど、自分も他人の恋愛沙汰には興味がない、と言いながらリンゴを囓る。
今まで言葉少なだったガレットは結婚すれば? と究極の返答を返す。
「結婚すれば、そんな細かい事気にならなくなるわよ。気にしているのは自分だけ、かもしれないし」
同意するミィナ。
「私も東洋の血を引いていますけれど、そう悪い事ばかりじゃありませんよ。後は相手の気分次第でしょう? 正面切って聞いてみましたか?」
「そんな破廉恥な事ができたら、相談などしない」
だが、全体の雰囲気は結婚しろしろの雰囲気に向かっている。男性がひとりでもいれば、ストッパーが多くなっただろうが、生憎とアマツは、男性がいないから、この質問をしたのであった。
まあ、典型的なディレンマという奴である。
「でも、そう聞く事自体が肯定を求めているみたいなのら」
ミーファがさりげなく応じる。
そして馬車はパリへと向かう。
これがカンの街での冒険の顛末であった‥‥いや、街には一歩も踏み込んでいないが。