悪魔はその日“生きろ!”と言った

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:5〜9lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 64 C

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月04日

リプレイ公開日:2005年03月07日

●オープニング

「太刀を取り戻してもらいたい」
 冒険者ギルドに現れた、武者甲冑の男は、受付嬢に向かい切り出した。
「で、どなたから取り戻せばいいのでしょうか? それとも他の付帯条件でも?」
「ふむ、話を整理した方が良さそうだな──」
 と、30代のジャイアントの侍、滝田 信樹(たきた・のぶき)が切り出した話は奇異なものであった。

 彼も冒険者であり、冒険には4人程度で出かけるのをよしとしていた。
 しかし、パリから2日行った、冒険の最中で、オークの群れと戦い、今にも勝利しようとしていた、その時、彼の愛刀──銘は『闇薙』──太刀がまるで魔法の様に、スリ取られ、戦いの形勢は激変した
 オークの刃が喉に達すると思われた寸前、3人のパラの少年(だろう)が唐突に現れ、滝田の太刀は彼らの手に。そして少年は、太刀の一振りでオークを討ち取った。
 信樹が主君より賜りし一刀は、見事オークを打ち倒す。当然滝田は、そのパラに太刀を返す様に要求するが、小人はせせら嗤い。
「汝の魂と、僕たち3人それぞれへの生け贄と引き替えにこの太刀を返そう。相当愛されている刀の様だ。魂と引き替えても構わないだろう、ああ?」
 と不敵な笑みを浮かべる。鉄拳の一撃で制裁を浴びせようとしたが、拳を受けても苦痛を覚えた様子もない。
「貴様、物の怪の類か、悪魔か?」
「さて、どうだろうね。来月の初めまでにこの丘に来て“魂と血を捧げる”と宣言して、羊皮紙に血でもってサインしなければ、この刀折っちゃうよ」
 3人のパラの少年はそういってせせら笑うと、一瞬にして姿を消し、
「それまで“生きろ”! じゃあ待っているからね♪」

「デビルですね。ジャパンではあまり出ないと聞いた事が無い様な、有る様な、駄目ですよ魂だけは売っては! 自分のも他人のも」
「だから、ここに来た。拙者はオーラは修めていないので、悪魔に対抗できる魔法を持った冒険者を求めている。相手が姿を見せただけの3体ならば、魔法で十分に武装すれば、押し切れると思う」
「素直に刀を諦めて、冒険者を迎えるお金で、太刀を買っちゃうっていうのはどうですか?」
「刀は武士の魂であり、ましてや主君よりの拝領品となれば、その様な扱いは出来ぬ」
「やっぱりジャパンの刀とは、こちらの剣とは全く意味合いが違うのですね。では、冒険者を采配しましょう」
 受付嬢は黒板とチョークを出すと、てきぱきと打ち合わせを進めていった。
「うむ、これなら問題ない」
 互いに納得の行く契約書ができあがると、依頼書が早速張り出された。
 依頼内容、太刀を取り戻す事。傷をつけても駄目。相手はおそらくデビル──と。

●今回の参加者

 ea1603 ヒール・アンドン(26歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea2022 岬 芳紀(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2924 レイジ・クロゾルム(37歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3026 サラサ・フローライト(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3073 アルアルア・マイセン(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3484 ジィ・ジ(71歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4284 フェリシア・ティール(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea4470 アルル・ベルティーノ(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4473 コトセット・メヌーマ(34歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4739 レティシア・ヴェリルレット(29歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea5180 シャルロッテ・ブルームハルト(33歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea5512 シルヴァリア・シュトラウス(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「『刀は武士の魂』と言うが、其れを盗んでおいて”生きろ”とは、些か皮肉が利きすぎと言うものだ」
 岬 芳紀(ea2022)は依頼人の滝田にいざというときの予備の刀を渡しながら、真剣な表情でそう切り出した。
「忝ない。しかし、ここはご厚意に頼らせていただく」
 真剣な顔をして腰に落とし差しする滝田を見て、目を細めるレイジ・クロゾルム(ea2924)。
「ほーぉ、大切な刀を奪っておいてから取引か。かなり悪知恵の働く連中らしいな」
「それは当然だろう。悪魔は悪魔でもグレムリン。下の下の中といった所だ。途方もない欲望を叶えて、魂を譲り受ける程の芸当はできない」
 コトセット・メヌーマ(ea4473)が語り出す。あの“存在”はデビルであり、その中でも下級に位置するグレムリンだと豊富な知識を元に講釈を垂れる。そして、単なる知識の羅列に留まらない切り札の開示。
「だが、この発泡酒があれば、話は別だ。やつらは発泡酒にはてんで目がない。これで、魔法攻撃できない者への魔法付与の時間を稼ぐ。バーニングソードなどをかけたままで向かえば、敵がここにありと示す様なものだからな。策は錬ってある」
 彼の荷物からの発泡酒の匂いはそういう事だったのか、カレン・シュタット(ea4426)は納得する。
「私も頑張りませんと──コトセット殿やけに悪魔に詳しいが」
「デビルが関わる案件と聞いて依頼を引き受けた。
 デビルもその言動は個性的なものだが、ジャパン人の侍に目を付けるというのも変わり者だな。
 しかし、侍にとって刀が持つ意味を素早く察知した様子は侮れない。
 容貌がパラだというが、それは変身した姿の可能性が高い」
「しかし何故悪魔は魂など求めるんだ‥‥喰って美味いものなのだろうか?」
 サラサ・フローライト(ea3026)は疑問をぶつけるが、コトセット曰く、力の源兼ステータスの様なものだろう──どれだけの人間を堕落させたかの。故に聖なる魂を持つ者が堕落した魂は重用されるらしい。
 アルアルア・マイセン(ea3073)はそこに至って、自分が生け贄の振りをして、相手の隙を突いて、オーラソードを展開、相手の時間稼ぎの隙を伺うという策の甘さを思い知らされる。なぜなら、呪文を集中すれば、淡い桃色の光で自分が輝くのだ。高速詠唱の様な技術も持ち合わせておらず、尚かつ成功するかどうかすら怪しい博奕同然の事であった。
 シルヴァリア・シュトラウス(ea5512)もアルアルアと同じような生け贄、と見せて呪文という策を考えていた。アイスコフィンで太刀を封じる策だが、成功率は100%どころか相手が3メートル以内に都合良く持ってくるとは限らない。所有したグレムリンに抵抗されれば、まるで効力を発揮しないのだ。
 春の初めに一筋の冷や汗が流れる。
 シルバー・ストーム(ea3651)の隠し持ったダーツにバーニングソードをかけるという策にしても、命中率に問題はなく、不意打ちからの狙い打ちも十分な成果を一発だけ与えられるだろうが、体力不足でダーツを隠し持てるのが1本というネックがある。さらにエルフ故の腕力の低さも不安材料となってしまう。
「ほっほっほっほ。わたくしはジィ・ジ。自称『炎の老格闘魔法使い』、実態はしがない老錬金術師でございます。
 天使とは以前面識がございましたが、悪魔の類と相対しますのは今回が初めてでございますゆえ、少々緊張いたしますな」
 笑みを浮かべながらも、ストレッチを欠かさない老人、ジィ・ジ(ea3484)の声に一同の視線が集中した。
「お三方をつれての、滝田様のご苦労、お察し致します。ですが、悪魔の誘惑にそそのかされぬよう、老婆心ながらご忠告を申し上げさせていただきます」
 シャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)は心配げな顔をして、滝田とジィを見比べる。
「えっと、パラに見えるけどデビルですか‥‥魂を捧げさせるとは穏やかではありませんね」
 そんな心配を余所にレティシア・ヴェリルレット(ea4739)が毒の含んだ笑みと共に滝田へ問いかける。
「つうか、あんたの『太刀』て一般サイズかよ。
 つまり、エチゴヤで見るようなサイズか、ジャイアントの身長に合わせて、太刀もでかいのか」
(俺は見るだけで買う気ねえけど)
「いや、同輩のものがエチゴヤの“福袋”で買った物を見せて貰ったが、大差なかったな、それが?」
「ま、ジャイアントサイズの太刀っていうのは、シフールサイズの保存食位売れそうにない、難儀なものだろうな──って思ってな? しかし、その日まで生きろ、か。それも契約だとしたら、“その日”になる前に殺しにきたりしてな」
 洒落にならない洒落を飛ばすレティシアの言葉に、コトセットが口を挟む間もなく、凜とした声が。
「剣一筋の道を歩んで居られるのですね、私もそうですわ」
 女武者、九紋竜 桃化(ea8553)は、滝田の異国の同輩とまでも、互いの得物を吟味し合う姿勢に共感を覚える。
「異国の神敵に鉄槌を下すというこの鎚矛『Gパニッシャー』一寸の虫ならぬ、女人にも五分の魂がございます。その魂を支える愛刀を振るえないのは、恥辱の極みと思いましたが、太刀班の方々とコトセット殿の策があれば、示現流と、我が愛刀でその『ぐれむりん』の喉笛とやらを掻き斬ってごらんにいれましょう‥‥少々大言壮語が過ぎたようですが、それだけの心意気でかかっていきます」
 桃化は所信を表明すると、しばらく息を切らす。
「‥‥悪魔が『生きろ』‥‥ですか‥‥。‥‥何か妙な感じですね〜‥‥。‥‥悪魔が魂を得る為とはいえ『生きろ』と言うっていうのは‥‥」
 ヒール・アンドン(ea1603)はシリアス気な口調から一転して。
「‥‥まあ、とりあえず今回は太刀を悪魔達(太刀)から取り返さないと‥‥。‥‥‥‥ふう、面白く無かったですね‥‥今度のギャグも」
 そんなノリツッコミをヒールがやっている傍らでは──。
「人が大切にしている物をスリとり、なおかつそれを脅迫まがいの手段にするような悪い子にはお仕置きが必要よね? たとえデビルであろうとも‥‥」
 気怠げかつ重厚な黒いローブに身を包んだ、フェリシア・ティール(ea4284)が、滝田と、その向こうにいるグレムリンへと微笑を向けながら呟く。
「主君への忠誠とかはよく分からないけれど‥‥自分の誇りや命をかけてでも守りたいものがある気持ちはなんとなく分かるわ。その証の大切さもね。あと‥‥夢は自力で叶えるのが一番よね」
「手痛いことを申すな。悪魔に対抗すべく所持するべき、闘気の技が無いのは不徳の身の致すところ。軽い銀の武具で戦える兵法の選択は未熟さの至る所」
「あら、判ってらっしゃるのね?」
「滝田さん。友情、団結、努力って尊いものですよね」
 アルル・ベルティーノ(ea4470)がこれ以上、フェリシアに滝田が追いつめられては逆に、魂を本当に売った挙げ句、ついでに太刀班の3人を生け贄に捧げかねないと思って、話のベクトルを切り替える。
「うむ、確かにその通りだと思うが、特に努力が──」
「いえ、努力では乗り越えられない壁もありますし。その壁を乗り越える為には団結も結構ありかと、ね? フェリシアさん」
「──ふ」
「そうです。許されざる堕天使との戦いには、愛と友情と正義を以て戦うのですね。決して己を卑下したり、今回の事件で歩みを止める事は忌むべき事じゃないかな‥‥と」
 ヒールが神聖騎士らしく、たまには決めようとする。しかし、やはり最後に『‥‥』がついてしまうのがヒールのヒールたる所以だろう。

 あの丘を目指し、一同は進み出した。騎馬の者もいるが、歩きの者もいるので、結局、それに合わせざるをえない。
「忝ない」
 と言いながらも、滝田はシルヴァリアから生け贄組が近くの農村で生け贄用に買われた、という話の骨子をリアルにする事と、契約書にサインをする前に、太刀の確認が先だという事を徹底する。
 コトセットは、デビルは厳密に掟を守らないと契約そのものが無効になるため、ごまかしやレトリックはするだろうが、騙しはしないだろうと助言。
「例えば、だ。先に太刀を見せろと言って、闇薙ではない、別の太刀を見えるギリギリの距離に設置して『さあ、見せたぞ』というのはデビル的にはアリだ。しかし『私が賜った闇薙と確認させろ』と言えば、グレムリンは見せるか、それとも契約が先だと言うだろう。ある意味では、聖職者並みに厳格な契約を己に課している訳だ」
 ヒールやシャルロッテはそれに反論しようとするが、堕落した、あるいはちょっと道を踏み外した聖職者は全くいない、と断言出来ない為、厳格なデビル界の論理には頭を垂れるしかない。
 堕落しても未だ厳格な天使という事か、些か、いや──かなり反語的な表現ではあるが。
「えっと、パラに見えるけどデビル‥‥ためらっては、相手の思うつぼですね」
「畜生、なんで相手がデビルなんだよ。本当に畜生め」
 ぼやきながら、レティシアが殿をつとめる。
 彼の悩みの対象はもっぱら、自作新作の毒を銀の矢に二重の意味で塗れない事だった。
 銀は俗説として、毒物全般に反応して、黒く曇るとされている。
 希少な銀の矢をこんな所で駄目にする訳にはいかなかった。
 もうひとつの悩みはデビルそのものが、銀や戦闘用の魔法が施された存在でないと傷つかない。つまり通常に調合した植物毒では、効きそうにないな、という空気を彼自身が読み取っていた事であった。
(つーか、毒物極めようって時点で半分くらい魂売ってるけどな、俺。あ〜早く戦闘にな〜れ)。
「しかし、受付の嬢ちゃんも変な納得するな。騎士が主君から下賜された剣を無くしたらやばいだろ?」
(ま、俺なら即売だけどな。騎士じゃねえし)
 などとレティシアがやっている先頭の方ではコトセットが滝田に薫陶を垂れているのが見える。
「いいか、契約を勧められたら、ジャパン式の契約の儀式として、酒で口を濯ぐ、と言って発泡酒を出すのを忘れないように、これが相手がグレムリンならば確実に引っかかる。相手の判断力が鈍っている内に、皆が攻撃魔法を付与しますので、非常に大事‥‥」
 とコトセットが発泡酒を出そうとすると、あに図らんや、その袋は既に開けられていた。
「いやー、いいもんもらった」
 空中から身長1.3メートル程の毛むくじゃらなガーゴイルが姿を見せている。
 コトセットは確信した、グレムリンだと。
「一発必中!」
 とレティシアが矢を射るが、ショートボウという武器の射程の脆さが露呈し、逃げを討つグレムリンに追いつけない。
 滝田の側にいた、シルバーが電光石火放ったダーツは命中したようだが、深傷を負わせるには至っていない。
 彼がスクロールを出し、コトセットがバーニングソードを矢に掛け終える前にはグレムリンの姿は消え失せていた。
「これは厄介な事になりました」
 とのシルバーの言葉にコトセット曰く。
「ふーむ。今のが発泡酒で判断力を無くす好例だ。なーに、パリから大きく離れた訳でもないし、街道で発泡酒を仕込み直せば済む。
 デビルが複数居るのだから、見張りを付けているというのも計算に入れるべきだった、不覚」
 それを聞いてシャルロッテが涙を流す。
 彼女自身が過去に刺さった棘に囚われずに、デティクトアンデットを使っていれば、事前に作戦が漏れる事はなかったかもしれない。
 しかし、結果として自分の消極性が相手にこちらの手の内をさらけ出す結果となってしまった。悔やんでも悔やみきれない。
 カウンセラーでもあるフェリシアは、シャルロッテに対して、そんな魔法を使っていたら、相手は逃げるだけだし、結果は大差ない、そして──ショックがシャルロッテ以上に大きいのはアルルであった。要所要所でブレスセンサーの魔法で確認していた筈なのに、悪魔は呼吸しないというのだろうか?
 やはり、専門家クラスにならなければ、容易に呪文の範囲外に出られてしまうのだろう。
 それはシャルロッテも同じかも知れなかった。
 ともあれ、フェリシアはふたりを元気づける様に語る。
「相手がこちらから、発泡酒を全て奪ったと思っているのが、逆に効を奏するかも知れないわ」
 彼女自身が新しい具体的な策は言わないし、思いつかないが。これで偽生け贄作戦はおじゃんになった事は言わないでいた。
 生け贄のふりを志願していたアルアルアとしても、異国人の為というのはともかく、子供の頃から参陣し、愛するこのノルマンをデビルが跳梁跋扈するのは許せなかった。
 だが、彼女が名誉に賭けて自分に誓ったのは滝田の愛刀“闇薙”を取り戻す事。その為にも新たな策を立てる必要があった。
 背筋を伸ばした居住まいの中、彼女の胸中に去来するものは“相手も完璧ではない”という事だった。
 本当に完璧ならば、濯ぎの儀式など、涜神の行為をする者が行うとは笑止と言って拒否すればいいのだし、魂を買い取ってから、ゆっくりと発泡酒を飲めば良いのだ。
「そう、グレムリンは既にミスを犯している。こちらがそれ以上のミスをしなければ良いことだ。コトセットは言ったではないか、相手は下のランクのデビルだと」

「‥‥さて‥‥とりあえずここで合図待ちですね‥‥。‥‥あの3匹以外に敵がいないといいですが‥‥」
 丘からしばらく離れた地点で、ヒールが居を構え、銀色の淡い光に包まれながら、サラサがアルアルアに生け贄代表として、テレパシーで情報のリンクを行い、コトセットは自らの士気を高揚させるべく、淡い赤い光に包まれながら、炎の精霊力を己が内に呼び込む。
 シャルロッテも新しい作戦が立っていない事を露見されぬように神聖魔法を使用し、相手が周囲に居ないことを確認した上で、一同と合議を進める。
 結局の所、滝田が暴走して、本当に悪魔に魂を売りに、丘に向かった、生け贄志望の奴は本当に弱かったので、奪った刀で脅して、それぞれに生け贄として捧げる。
 怒った冒険者が襲ってくるかもしれないが、それは自分たちで対処してくれ。
 アバウトである。
 最も滝田自身もジャイアントなので策がアバウトなのは仕方ない。
 無論、メイクに励むジィが多忙になったのは言うまでもない。
 傷跡や泥のメイクを速攻で行い、相手が気づく前に、負け犬ムードを醸造しなければならないのだ。
「失礼至極でございますが、どうかお動きになられぬ様に」
 憮然としている(しかし、他人にはそうは見えず、超然としている様に感じられる)シルバーのメイクを最後にし終えると、ジィも自ら淡く赤い光に数度包まれて、いくつもの武具に炎の精霊力を纏わせるのをコトセットと一緒に分担する。
 ただし、この淡い光達はテントに隠されて、その姿を見せなかった。

 そして、丘の上では‥‥3匹のパラの少年が溶け崩れる様に姿を変え、先日のグレムリンと同じ姿に変えていた。
 沸々と沸き立つ素焼きのツボが、何かの液体の湯気が滴り落ちかねない角度で一本の細い糸で吊されている。予想外であった。
 ツンと刺激臭が立ちこめている。
「お、何だ腰の物はあるじゃないか? それとも打ち合わせ通りに聞くか? まず“闇薙”を確認させろとな」
 とグレムリン達。
「いや、拙者、あの者達との縁は切った。何が何でも悪魔を打ち倒すと息巻くのでな。殿より賜られた“闇薙”そんな事の為にかすり傷でも付けようものなら、拙者、腹をかっさばいて死ぬしかない。なので、本当に生け贄位しか使い道の無い連中を連れてきた。
 さあ、その前に人間として末期の酒を飲ませてくれ」
 言って、滝田はツボを取り出す。ふたを外すと溢れる発泡酒の匂い。
「駄目だ! その酒は俺のだ」
「一番酒は俺と決まっている」
「うるさい、とにかく寄越せ」
 サラサの脳裏にアルアルアの実況中継が流れ、サラサはオカリナを音量最大で吹き鳴らす。
(個人的に悪魔には少々恨みがあるからな。悪いが、お前たちも滅させてもらうぞ‥‥‥‥)
 呪文の詠唱を始めるサラサ。銀色の淡い光に包まれていく。紡ぎ上げるは一条の光の矢。
「私から一番、離れた敵に当たれ」
 それを聞いたジィも鬨の声を上げ、丘をまっしぐらに駆け上がる。
 遅れじと、一同も炎と闘気で強化された武装を手に突撃してきた。
 淡い緑色の光から伸びる幾条もの稲妻と、淡い銀色の光から放たれた仄かな光の矢が後ろから一同を追い越し、グレムリン達を直撃する。
 淡い桃色の光に包まれたアルアルアが闘気の剣を造りだし、シルバーがその時間を稼ぐ為、焔と闘気を纏ったダーツを放り投げる。
 シルヴァリアは上のツボを危険視して、アイスコフィンで封じる。
 しかし、アルアルアの予想とは裏腹に3匹は空中に逃れる。
「降りてこい、正々堂々と戦え!」
「やっだよ〜ん」
 尻尾と尻を振って、挑発するグレムリン達。
 その動きに滝田も呼応して“闇薙”を取り戻そうとするが、吊されていたのは竹光であった。
「おのれ!」
「はん、契約するまで大切なブツを渡す訳ないだろう」
 グレムリンの声に、レイジは、バイブレーションセンサーでは捕らえきれない範疇に相手がいる事を確認すると、サラサを通じて、前線に後衛から、一斉砲火での魔法攻撃で殲滅してはどうかと確認する。
「人の魂を奪おうとするなんて‥‥そんなに魂が欲しいならあなたの邪な魂を捧げなさい!」
 プンスカ怒りながら、アルルはスクロールを広げ、魔力の消耗の激しいが、ムーンアローを発動させる。
「対象、最後に闇薙をもっていた奴」
 左端のグレムリンに直撃する。
 フェリシアが頭上で棘突きの鞭を振り回しながら、宣言する。
「あなた以外は速やかに滅殺、あなたは死んだ方が楽になれると思うまで、いたぶってから滅ぼす。これでどう?」
「闇薙はその太刀が置いてあった所に、埋めてあるよ」
「良い子ね。全員魔法攻撃! 遠距離射撃準備はよろしくて?」
 彼女が言う前に各人の準備は整っていた。
 閃光がグレムリンをたたき落とす。
 桃化はその一体にのしかかり、力任せに押し倒すと、滅多刺しにする。レイジの操る蔓草に阻まれ、逃げる事も適わない。更に魔法でレイジが加重をかけ、動きを封じる。桃化の一撃で、一瞬だけ血しぶきの様なものが迸ったが、返り血となる間もなく、空中に消えていく。グレムリン自身も消失した事で、一瞬、バランスを崩す桃化。レイジの蔦が彼女を支える。
「すまない」

「‥‥聖なる力よ、邪を滅ぼす一筋の閃光となれ‥‥!」
 ヒールとシャルロッテが異口同音に唱え。次の一体に聖なる母の懲罰の光を与える。
 そこへジィが小太刀を突き立て、止めとする。
 再び空中に飛び逃れようとした個体にはレティシアが立て続けに後ろから2本の銀の矢を打ち込む。
「なぁ、どうよ。太刀も命も取られて逃げるか、それとも俺と契約してみるか?」
「よし、それでよしとしよう。じゃあ、後は任せた」
「な〜んてウソだょーん」
 再び2本の矢が貫通する。
 そこへフェリシアの鞭がからみつき、再び大地に叩き落とす。
 もはや、白目を剥いて悶絶しているグレムリンに向かって高笑い。
「滝田さんがブシノナサケとやらで楽にしてくれるそうよ」
 岬から借りた日本刀を以て、首を皮一枚残し切り落とす滝田。
 一瞬にして、命を失ったその存在は消滅する。
「‥‥これで終わり‥‥でしょうか‥‥。‥‥太刀は無事ですか‥‥?」
 ヒールの言葉に中子を確認した滝田は、安堵したように語る。
「間違いない。この銘、この拵え、それになによりこの重みが“闇薙”だ」
「じゃあ、作戦は成功という事で」
「皆さん、ご助力忝ない」
 すると、滝田から日本刀を返して貰った芳紀が慎重論を打ち出す。
「隠れている魔物がいるやもしれん。3体とも倒し,太刀を取り戻したとしても,完全に安全と言える状況になるまで警戒は怠らぬ──何時でも動けるようにする心積りだ‥‥相手は人外の者なのだから」
「とりあえず、この場を離れるのはどうでしょう?」
 とカレン。
「侍にとって刀は魂と聞きました。でも滝田さんが悪魔の囁きに捕らわれなくて本当に良かったです。これからも“闇薙”の名に恥じぬ侍でいて下さいね」
 とアルルは微笑む。
「結局、皆さん、無事で良かったです」
 シャルロッテも笑みを浮かべた。この世の悪を3つばかり消し去ったのだ。相手がアンデッドではないので、何の知性的な助力が出来なかったのは残念ではあるが。
 ともあれ、結果良ければ全て良し。
 シルヴァリアは興味があるので問題の太刀“闇薙”を見せてもらう。
「私には素養がないので、良く判りませんが、滝田さんの人柄が出ているようで、素晴らしく感じます」
 それと今回の事件で反省して落ちこんでいるかもしれないので元気付けるように
「今後の為にオーラを修得なさった方がよろしいですわね」
 と笑みを浮かべて忠告を述べた。
「それは私も同じ」
 桃化が恥じ入る様に、意見する。
「示現流は一撃必殺の流派ですが、やはり今回のような相手では‥‥魔法がかかっているとはいえ、軽い武器では、己の持ち味を活かせませんわ」
 と締める。
 それぞれが、新たなるステージへのステップを踏み出しつつ、一同は夜の中をパリへと向かって行った。
 これが3日間の冒険の顛末である。