精霊の唄が聞こえる
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 30 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月28日〜07月13日
リプレイ公開日:2004年07月02日
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●オープニング
樵(きこり)らしい一団、が冒険者ギルドのカウンターに詰め寄っていた。
「地の精霊魔法に対抗できる冒険者を沢山だ! 何人だって? 多ければ多いほど良いんだよ」
「少々お待ちください」
と、受付のお姉さんが下がり、奥で話を交わした後、営業スマイルで出てきた。
「失礼いたしました。要件をこちらで整理いたしますね。お客様方が伐採を依頼された森に向かわれると、10歳ほどの少年が現れて、“ボクたちのこの森を斬らないで欲しい”と懇願された、と。
無視して森に入ると、周囲から女性の“クスクス声”が聞こえた後、あちこちで茶色の淡い光が見えた。それから伐採に移ると、一団で固まっていた筈なのに、皆てんでバラバラの方向に歩いていて、気がつくとそれぞれ別の場所から森を出ていた、という事ですね。それでよろしいでしょうか?」
「ああ。で、村の長老に聞いたら精霊の悪戯だろう、と言われてな。だが、それが毎日続くと木を斬っている時間はない。
後、ひと月でノルマを達成できないとこちらも木の発注主に、それなりの詫び金を包まないといけない。それなら冒険者を雇った方がマシだ」
往復で10日、精霊退治に5日。15日の間。体の空く面子を揃えたい。
との発注に受付嬢も頭をひねった。報酬が安めなのだ。
だが、続く言葉にその心配は吹き飛んだ。
「往復の食費は俺達が持つ。ついてからも俺達の家でメシを食えばいい。それで、どうだ」
「はい承りました」
●リプレイ本文
森は深かった。
暗さも夜のそれではなく、ジ・アースとは違う異界の如き雰囲気を醸し出していた。
「精霊、出ておいで」
ランタンを持ったエルド・ヴァンシュタイン(ea1583)は木に傷を刻み、帰りへの標としようとしたが、全身を一瞬、桃色の闘気で染めた飛刀 狼(ea4278)が木々に赤い紐を結び結び事で代用としようとオーラテレパスでエルドへ意見を述べる。
「木に傷をつけたら、森を守る精霊だって心を開いてくれないだろう?」
「ふぅ‥‥普通精霊に悪戯されるような行為をする方が間違ってると思うのだが‥‥まぁ致し方ないか。
少年‥‥恐らくアースソウルだろうが子供が必死に護ろうとしていたものを蹂躙させるわけには行かないからな、何とか穏便に解決させよう‥‥その為には狼の言っている意見が正しいようだ」
「言って貰える嬉しいな。この紐全部で10Cもしたんだからな」
最後に少年は呟いた。
「精霊退治で心が痛まないって言えば嘘になるけど‥‥自分で選んだ生活の道だしな。手は抜けないか」
「セレネス、そちらはどうだ?」
変化のない様子のセレネス・アリシア(ea1551)にエルドは呼びかけるが歯切れのいい返事は返ってこなかった。
「すみません、私の魔法って10秒しか保たないので、相手が出てこないと‥‥それにフォレストラビリンスって射程だけなら100メートルはありますから、射程圏外というのも‥‥」
「判った。俺が悪かった」
それ以上、女性に恥をかかせまいとエルドは言葉を遮った。
「今まで書物で読み齧っていただけの知識が実際に何かの役に立てる、って事は嬉しいですね」
と、楽観的なのはティエ・セルナシオ(ea1591)。森の黄金則とでも言うべきものを知っているので、この森の中でも恐怖はしない。
もっとも魔法の波動といったものを感じる事は無かったが、魔力を感じ取る魔法を使えるのはジプシーくらいなので、致し方ないことである。
彼女に寄り添う様にしているのは弓を背負ったマナ・クレメンテ(ea4290)であるが、これはゲルマン語を日常会話すら覚えようとしない、彼女のツケであった。ティエが状況を説明してくれなければ、彼女は現状を把握できない。
咲き誇る大輪の花を思わせる、華やかさを感じさせる顔立ちの神聖騎士、キラ・ジェネシコフ(ea4100)は後方を守る。
「えぇと、今回は精霊の仕業なのですね。精霊‥‥なんだか気が進まないのはなぜかしら。できることならことを荒立てないように収集したいですけど、依頼主の仕事ですしね‥‥とりあえず、樵に驚かれないようにしないと‥‥エレメンタルフェアリーもシフールみたいな格好ですし‥‥お友達になれればいいですけど」
言いながらも、青い髪に青い目、そしてエジプトの太陽に晒されていた褐色の肌を持つ、シャクリローゼ・ライラ(ea2762)はやや開けた場所に出ると、樵達がかつて斬っていったであろう切り株の上にちょこんと乗ってステージ代わりにする。
「我らの大地、天を突き。我らの海が星映し、山河に満ちる命のかて、ノルマンの木々、星に至る♪」
エルフのバード、レイム・アルヴェイン(ea3066)のバックコーラスに合わせながら、歌いつつも、民族舞踊の舞を踊る。
歌声は闇に響いた。
木々の間から、小柄な影が見える。
(──アースソウルか?)
一同に緊張が走った。
狼は即座に闘気を充溢させ、自らの士気を高め、精神干渉に備える。
その頃、説得に失敗して怒り狂った精霊があんた達に危害を加えるのを防ぐ為と、称して、ベイン・ヴァル(ea1987)が樵が森に伐採に行くのを防いでいた。
「まあ、とりあえず呑めや」
と、ロヴァニオン・ティリス(ea1563)が樵達にワインを勧める。
「想像してみな。他所からきた野盗に火をかけられて、金目の物を盗まれて、家を追い出されるんだ。あんたらのやってることはそういうことだ。焦るのはわかるが、話するぐらいはかまわねえだろ」
酒を回し飲みしてオルステッド・ブライオン(ea2449)も言葉を選ぶ。
「‥‥フン、このご時世だ。精霊たちの住処が消えてゆく事など、よくある事‥‥さ。我ら、人の村がオークやゴブリンに襲われるように‥‥。だが、我々は奴らとは違うから、穏便な解決方法を考えるにやぶさかではない。貴方たちだって力ずくで精霊を追い払って、森自身が生命力を失ってゆくのは歓迎できる事じゃないだろう? 精霊たちが生きてゆく為、豊かな森のために植林をしたりするのも、いいのではないかな? 今回は私たちも手伝おう。その代わり、精霊たちには、我々に危害を加えないよう仲間が話をつけているところだ。」
「俺達は精霊をどうこうするのが目的で雇ったんだ。説教に雇ったんじゃねえ」
「ま、そこはそれ、これでお許しくだされ」
と、腰も低くジィ・ジ(ea3484)がワインを更に勧める。
その上で荒巻 美影(ea1747)が口の滑りの良くなった彼等から伐採の話を聞いてみるが、彼女の覚えている全国共通の言葉では語彙が如何にも貧困であった。
「お話を聞いていると“儲かるから”と無闇に木を切っていった為に、精霊の加護を失って災難にあった村の話を思い出しましたわ」
と言いたいのだが、どれ程伝わっているか? おまけに相手は酔っているのだ。更には精霊云々というのは彼等にとってどれ程の意味があるか?
「なんでも雨が降る毎に土砂崩れが起きたり川が濁ったりしたせいで、森は荒野の様になってその村周囲一帯寂れてしまったそうです。私が生まれる前で、しかも辺境の話らしいんですけど‥‥」
一応、事前に打ち合わせをしておいた、エレア・ファレノア(ea2229)が幻影を作り出し、荒廃した大地を見せるが、全く効果はないようであった。
「だからだな──そういえば、木を切る余り雨で土砂が流れ、ついには露出した岩肌に草さえ生えなくなった山があったな。
だから、切った分だけ植林していく。そうすば、30年程1サイクル程で最初に植えた木々をまた切り出す事ができる。あんたらの子供の世代にも残せるんだ。得だろう?」
「まぁ、それなら話は判るな?」
オルステッドの脅迫じみた言とは違う判りやすい言葉で、植林を樵が納得した所で更にリューヌ・プランタン(ea1849)が唄を止め話を切り出す。
「森は精霊たちにとって家なのです。何か木の伐採を拒む特別な理由があるかもしれません。また、伐採を続ければ木々が減り、やがては樵たちにとっても困ったことになることでしょう。皆様方の言うように、植林という方法もあります。冒険者らしくありませんけれど、その指導も出来ます」
「森を斬らないでください」
アースソウルはそう語りだした。
だが──この交渉の場でいきなり魔法を唱えだしたセレネスの行動を見ると、アースソウルは一目散に森の中に逃げ出した。
それを見て狼も落ち込む。
(「駄目なのか‥‥俺は冒険者になるって決めた時に、冒険者の仕事は受けた依頼をちゃんと遂行する事だけだ。気に入らない依頼なら受けるなって故郷の兄達から散々教えられたけど‥‥、ここでは違うのかな。まあ、郷に入っては郷に従えって言葉もあるけど」)
ここまで士気が上がっているのに、落ち込むという事は、もしも、この魔法をかけていなければ、心の傷になるくらい、もっと深く落ち込んだに違いない。
と、くじけそうになっていると、樵達の大体の賛同を取ったジィが歳などという些細な差違を凌駕した疾走で現れ、レジストプラントをかけ直した所で、一同の手を引く。
「さあ、エレア様からお話を聞いた時には、まさかとは思いましたが、交渉の場で魔法を使うとは少々短慮が過ぎましたな。わたくしとしても、今日も今日とて愛する妻のために依頼に赴いている以上、失敗する訳にはいきませんので、些か手荒に行きますぞ」
一同の手を取って、全力でかけだし始めた。
違和感を感じるが、ジィに手を引かれ、方向感覚を失わない。
「これが精一杯でござりまする」
と、背を伸ばしたままジィは転倒、昏倒。
しかし、視界にはアースソウルを捉えていた。
「何かを滅ぼし、その犠牲の上に人という生物がいる。ただそこで愚かな知性のみで怠惰に犠牲を生まなければ良いのですわ。滅びの中に再生がある。ここで切った木々達も切り株や枯草となって、また新たな命を生み出す。それを理解して頂きたいですわ。何も全て切る訳では無くってよ?」
とキラが切り出す。
「難しいこと判かんない」
セレネスも口添えする。
「人と精霊は違います。人は愛する者を生かす為に働かねばならないのです。その仕事が彼等は木を斬る事なのです。それはあなた達が森を愛するように、やらなければならない事なのです。斬った分の償いはします。新たな木々をその分、植えます、だから樵の邪魔をするのは止めてくださいませんか?」
「‥‥若木と中央の4人のトレントに手を出さなければいい」
暫く言葉を吟味するようにしてソウルアースは頷いた。
そして──。
「土にまみれて辺境で苗木植え。これぞ騎士の本懐ってもんだな。わははは」
と、ロヴァニオンが鍬を片手に哄笑する。
セレネスの指導の元、往路で皆で10Cずつ出して、買いあった苗木を植えていく。
只一人、苗木を買わなかったキラは樵達に注意を喚起する。
「貴方がたは木を切り過ぎないよう注意を払うべきですわ。切り過ぎは森を壊し、その周囲の者達の生活をも破壊する。それは嫌ですわよね? あまり愚かな事をしないよう、努々注意なさって下さいな。そうすれば我等が神も救いの手を差し伸べて下さいますわ」
「おいおい、信じていない神様に助けてもらっても困るよ」
そんな彼女と樵の頭上をエレメンタラーフェアリー達とシャクリローゼは飛んでいった。