●リプレイ本文
カンの街はリンゴを基幹産業とし、水回りと鉄鉱山の産業を副業としているノルマン西の伯爵領である。
人間ならまだ10代前半相当のエルフの少年伯爵が、後見の元、治めているが、パリから数日という辺境よりな所から、幾つものモンスターが確認されている。
そして、トロルの被害にあった村人は冒険者を雇い、それに対抗するのであった。
「あたい、顔が悪いのって好きじゃないんだよね」
開口一番。シフールの真 慧琉(ea6597)が村につくやいなや、集まった村人に切り出した。
他の者が口を開くより早い、電光石火な発言である。
「頭が悪い‥‥ではなく──ですか?」
頭上を飛ぶ彼女に、長老がおそるおそる尋ねる。
「男は顔。あんたも圏外。あと、60年若ければね‥‥で、マチルダ、あんたが本当に役に立つかテストしたげるから、斬りかかってご覧なさいよ。あたいに当てられる様ならきっと戦力になるよ」
「むっ」
マチルダは剣を抜き放つや否や、慧流に斬りかかる。スタンアタックではないが、峰打ちである。
ダーツ2本が入っただけのバックパックを外しもせず、即ち、彼女の最大の奥義である十二形意拳、卯の奥義を使うまでもなく、軽々と避ける。
「はい、役立たず決定。あ、そうそう。あたいの嫌いな『顔が悪い奴』ってのはトロルの事だから。それとカッコイイお兄さん大募集。オジサマでもいいかも」
「僕達が必ずトロールを退治してきます! 安心して、お待ちください」
少年騎士デニム・シュタインバーグ(eb0346)が高らかに宣言する。腰に日本刀と横笛を落とし差しにしている。
風体外見だけみれば、武張った面のある吟遊詩人にしか見えない。
実際、それが生業なのだ。
しかし、金髪茶眼の一種優しげな印象を与える面立ちとは裏腹に旅装束に隠された肉体は鍛え上げられたものである。
ましてやコナンの使い手であるとは想像だにしなかっただろう。
気づくものは誰も居なかった為、子供の放言と取られてしまうのは、年の事ゆえ致し方ない。
誰も一足飛びに大人になる事は出来ないのだ。
等とやっている側でナオミ・ファラーノ(ea7372)が、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)と、対トロル用の最強の包丁を作るため、鍛冶場を借りられないか、交渉を始める。
相槌というか、バーニングハンドによる相掌をいれるのが、ナオミで、メインはロックフェラーである。
3日の間にその様な事を行うことの可否はともかくとして、ロックフェラーは燃えていた。
一方、ナオミは『包丁』って言うから安請け合いすれば、このメタルロッド三本って材料はいったい何。
とりあえず手伝うけど、ドレスタットの工房で作ってから皆に合流した方がよかったんじゃないかしら。
と、ベストは尽くすが、ロックフェラーの勇み足に不満の体を隠せなかった。
そもそも、そんな大仰な包丁が作れるかどうか、という問題は爽やかに横に置くとしてもである。
そして、ナオミの危惧はあたり、武具を作るのに満足な鍛冶場とは言えなかった。
ともあれ、時間が惜しいと荷物を解き、炉に火を入れ、トンテンテンカンと、作業を急ぎ始める。
その中でもロックフェラーがナオミ相手に愚痴をこぼす。
「本当は俺が力試ししたかったが、あの慧流の体術に追従できるものはいないだろう。俺も含めてな──だがな」
「ひとつの事に集中していないと、鍛えられるものも鍛えられなくなるよ」
「大丈夫だ。この子供ほどの重量がある大包丁は、頑丈さを中心に作る。銘も決まっている。E・アルマンダイン。今決めた。しかし、クリスも1日で何もかもやろうとしなくても、良かろうに」
「口を動かさず、手を動かす。これが炉の前での鉄則ね」
「で、マチルダさん。重要な情報をおぬしに伺いたいのだがな」
ローブをフードまできっちり被り、オカリナ奏者という以上には正体不明の(もちろん、ギルドには身分引き受けの為の各種情報は残っているが)アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)が話しかける。
「トロルは何匹、確認されているのだ?」
「今の所は4匹。5匹は居ないはずよ」
「命を張るんだ、その数に根拠はあるのか?」
「女としての勘。少なくとも一度に現れたのはそれ以上は居ないはずよ」
「そうか」
「まあ、いいじゃないかアルジャ。地形とかは大体判っているのだし」
とシフールの飛 天龍(eb0010)が今までの旅路で聞き出した情報を元に、周囲の地勢を確認している、トロルの来る方向はランダムで判らないが、地勢が判っているだけでも大助かりである。
「まあ、クンフーを積むことだ。あれでも、慧流は本気を出していない」
「でも天龍さんは、人当たりのクンフーは積んでいないようね。冒険者ギルドでの挨拶の『し、しふしふ〜』って何?」
「聞かないでやってくれ」
アルジャスラードがフォローするが、天龍は周囲を見渡して訝しげな表情をする。
「てっきり、テントをはっていると思ったが、この辺は湿めっているからな」
「さすがに毛布だけでは無理があるか‥‥」
ため息をつくアルジャスラード。
シフールのユノーナ・ジョケル(eb1107)が飛んでくる。
「みんなそこにいたのですか? アルジャさんとは酒場で飲み交わしても、一緒に冒険するのは初めてで、中々、行動パターンが掴めなくて‥‥あ、マチルダさんも一緒にいたのですね、これは都合が良い」
「負け犬でクンフーが足りない私に何の様です」
「僕はユノーナ! いつか伝説のシフールナイトって呼ばれる様になりたくて修行中なんだ。マチルダさん。そこまで卑下しないでください。マチルダさんにしか出来ない事があります」
彼の胸中では『足手纏いみたいに言われたら可哀相だな‥‥僕もそんな事言われたら悲しいもの。
そうだ! 剣を交える戦いは出来なくても彼女にしか出来ない事があるよ。
それは、地の利を活かして、有利に戦える場所を一緒に考える事!』
と天龍の考えを、一歩進めたアイディアに行き着き、相談に立ち寄ったのだ。
「これは戦いを左右する程大切な役目だよ‥‥できる?」
「できる!」
「そうだよね! 村周辺の地形を知ってるマチルダさんなら出来るはず! 頑張ろうね!」
「トロルみたいな大柄な者が相手なら、動きを封じられるこの場所などがいいのでは?」
ユノーナが天龍から聞き出した地形を元に切り出すと、地元民のマチルダだけあって、様々なポイントが出てくる。単純に動きにくい場所だけではなく、少しいじれば、動きを封じられる場所なども幾つか出てきた。
「トロルは頭が良さそうな感じはしませんけれど、いじれる場所の方が有効かな? 相手も想定しないだろうし」
「私でも役に立てた?」
「もちろん!」
満面の笑みをユノーナは浮かべた。
璃 白鳳(eb1743)がその場に訪れる。
「失礼します。私は非力な僧侶故、マチルダさんに恥ずかしながら、楯役になっていただこうと思いましたが、マチルダさんには、マチルダさんの居場所を見つけたようですね」
彼女はそう言って紅玉の如き赤き目を細める。
「これも弥勒の指し示す流れのままでしょう。前衛が充実していますけれど、トロル4匹相手では少々不安が残っていました。しかし、策で埋められるなら、それに如くことはありません」
「トロルか、また相性が悪い・‥‥」
ヴァイナ・レヴミール(eb0826)が愚痴を漏らす。
彼もマチルダを楯に、というハラであった。
「まあ、いい。最後に貰う物さえ貰えればな」
そこで伸びをしつつぼやく。
「神聖魔法の使い手はどこも、皆同じ考えとはな、面白いものだ。相手のトロルが4匹でもな」
「4匹だ、そいつは厄介だ」
ジャイアントソードを肩に担いだセリオス・ムーンライト(eb1993)がその言葉に一瞬怯む。
「臆したんですか?」
ユノーナが尋ねる。
「いや、やる気が出てきた。俺のキャッチフレーズは『目指せっ、不可能を可能にする男っ』だからな」
そういってジャイアントソードを地面に突き立てる。
「トロルか‥‥相手にとって不足無しだな」
言って、愛剣を引き抜き天に翳す。
「こいつを振るうに足る相手だぜ」
「おやおや、皆考える事は同じじゃな」
マチルダと皺を別にすれば同年代に見える、パラのメリル・マーナ(ea1822)もマチルダを見つけ出した。
「作戦の大まかな内容は‥‥村で待ち伏せ、各自その技能をもって制圧に当たる‥‥じゃったかの。
マチルダ殿、トロルの数と村の周囲の地形を教えてくれんかの」
以下リピート。
「丁度良い塩梅に一対多数の状況を作り出せるような場所があれば良し、無ければ先手を打てるよう立ち回らねばならぬ。
具体的には見張りと、死角になる場所に場所に鳴子を設置することじゃの」
まあ、そこまでの道具は準備していないがな、と彼女は笑う。
とりあえず、火矢の準備で忙しいという。
実施する面子は他のメンバーとなるだろう。
「おっと、お嬢ちゃん、しょげているんじゃないかって心配したけど、そんな事はなさそうだな」
ギィ・タイラー(ea2185)もマチルダに接近してくる。
「今回は俺のまあ、オマケみたいなものだからな、色々顔を出す事が仕事みたいなもんだ」
と、ギィは言いつつも、覇気は隠せない。
「とりあえず、村の周囲の偵察に出てくる。まあ、トロルを引き寄せてしまったら、それまでと思ってくれ」
言って、一同から受け取った情報を咀嚼しながらも、カンの霧の中に消えていくギィであった。
そこへレイジ・クロゾルム(ea2924)が追従する。
「ウィザード無しでトロールと接触するかもしれぬだと? それは無謀だろう」
そして、マチルダに振り返りざまに一言。
「今回は何人怪我人が出るかわからん。冒険者を気取るつもりなら、お前は村で怪我人の受け入れ態勢を整えておけ。いいな? 冒険者として『完璧』にだ」
クギを刺しておくのも忘れない。
「おっと、先にやっておかなければな」
レイジが印を組み、茶色の淡い光に包まれると、レイジの周囲の大地の振動が手に取るように判る。
「視覚に頼るだけでは危険だ。フォローは頼むぞ」
ギィの後ろから、レイジは改めてついて行った。
流水 無紋(ea3918)も軽装に改めて、殿を勤める。
「まったく、決まった行動パターンがないとは厄介な相手だ。どうせ、腹が減ったら降りてくるとか、そういう行動原理なのだろうが‥‥」
まったく、本能と行き当たりばったりは、綿密な作戦の大敵である。
レイジが振動を感知したのは、夕方近く。もう、帰ろうという時であった。
「3メートル級かける2。トロルか? しまった、トラップの準備も、動きの制限も出来そうにない」
「俺が村に走ってくる。とにかく、この場で釘付けにしてくれ」
無紋が走り出す。
ギィもスクロールを取り出し精霊力を解放し、空中に飛び上がり、相手の機先を制しようとする──。
「我はギィ・タイラー‥‥レジェンドが一翼、金塊の賢人にして不死となる伝説‥‥貴様の類稀なる生命力‥‥見極めさせてもらうぞ」
しかし、彼のチョイスしたスクロールの『リトルフライ』の魔法は不安定きわまりなく、空中に浮かび上がったのはいいものの、仰角を付けての射撃を試みるが、矢を無駄遣いしただけという事になった。
「──目標は足止めだ」
だが、戦術ミスは拭えない。
もう1体にグラビティーキャノンの威力を弱めて、負傷ではなく、転倒を狙うレイジ。
一撃必殺を狙えない以上、相手をグラビティーキャノンで転倒させ、動きを封じる。
それでもジャイアントを超える巨体を、転倒させるのは難しく、魔力が尽きるまでに2、3度転倒させるのが精々であった。
だが、最後の魔力を振り絞り、2巻目のスクロールを用いて、魔法の連打で若干は弱ってきたトロルに対し、己が業火に包まれるイメージを脳裏に送り込む。
しかし、イリュージョンは簡単な幻影を送り込むだけのものである。
トロルが絶叫して、業火のあったと思しきポイントから飛び出すと、相手にしては不思議な事に炎は包まれていなかった。
「ち、間合いさえ取れれば、ストーンでトロルの石像を作ってやったものを」
「さすがトロルだ何とも無いぜ」
ギィが地上に降り立つというシンプルな戦術に思考を切り替えるのに、しばし時間を要した。しかし、矢は一発も当たっていない。リトルフライという、風の精霊力の悪戯だろう。
レイジの傷は浅傷止まり、掠り傷が精一杯であった。
しかし、一旦大地に降りると、ギィの弓はギリギリまで引き絞られ、狙い澄ました一矢をプレゼントする。
その隙にレイジはソルフの実を貪り食らい、魔力をチャージする。
その魔力を解放し、射抜かれた方のトロルの体が足下から、石化していく。例え絶対の再生力を誇っていても、全身の2/3が石となっていては、料理するにも短時間ですむだろう。
だが、その光景を見て、残りのトロルが逃げ出そうとする。
しかし、回り込んでいた天龍が大地からすくい上げる様な拳の一撃を浴びせる。ナオミのバーニングソードを付与した上での龍飛翔だ。十二形意拳の辰の奥義であるこの技はシフールが普通にやるには腕力的に多少の無理があった。
しかし、相手の筋肉という装甲を一気に貫通し、痛打を浴びせる。
だが、トロルの骨のへし折った音を聞いたにも関わらず、それを上回る異音がする。しかし、焦げた殴打跡は消滅しなかった。
続けて連打を放とうとするが、伸びきった体では身動きもならない。
振り上げたロッドと、次の龍飛翔のどちらかが早いか、という事態に陥って、ユノーナがトロルの顔面に躍り込む。
両手には、それぞれオーラソードの光が!
「不本意だけど仕方がないよね」
叫びながらも一同におびき寄せのポイントを教え、そこで再結集する様、促す。
しかし、オーラソードは腕力は関係ないものの、基本的な威力が低すぎ、更に抵抗されて、掠り傷も与えられない。
挙げ句にロッドで乱打され、息も絶え絶えの風情のユノーナ。
「伝説のシフールナイトは──退かない!」
ユノーナの頭上に最後の一打が振り下ろされようかとした瞬間。デニムの小柄な影がスモールシールドによって、ギリギリでロッドを受け止めていた。
体重差で地面に膝を屈しそうになりながらも踏ん張り続ける。
「こちらはお任せください。騎士の誇りにかけてこいつは通しません。
お前の相手は僕だ! 来いっ!」
レイジが叫んだ。
ナオミが施した炎に包まれた日本刀が折れよとばかりにトロールにたたきつけら。
上がる絶叫。
「坊主! そいつはお前の獲物だ。おれの魔法に2匹引っかかった」
それを聞き、戻ってきた軽装の無紋が今度は堂々と相手の鼻面を掴んで引き摺り回す事になる。
「一撃必殺‥‥それがコナン流だ!」
日本刀に小柄ながら全体重を乗せ、壮絶な覚悟の突きを見せるデニム。
その刃に纏われた炎は、今や残照の中に消えようとしていた。
「勝負!」
筋肉対筋肉の真っ向勝負。
そして、少年は勝った。
「‥‥こいつらも生きるのに必死だったのかな‥‥だが、僕が人間の立場でいる以上、彼らの行為を肯定する訳には行かない──行かない!」
「マチルダさんの言うとおりならここだから──」
追いすがるトロルの後方から黒く淡い光が収束し、トロールに痛撃を与える。
「右眼と左眼、どちらか貰うよ?」
ヴァイナの魔法であった。戦いの興奮ですでに狂化しており、もはや感情などという、余計な物に振り回されない。
目は爛々と赤く光り、髪の毛は逆立ち出し、フードを弾き飛ばす。
「やってくれる‥‥少し、ダメージを与えるか?」
続けて十字架を握りしめ、詠唱を続行する。
淡い黒い光が次々と彼を包み込む。
そこへトロルの間合いにアルジャスラードが滑り込み、両手攻撃のタイミング完璧な白打を連打するが、相手の筋肉を貫けない。脂肪の異様な手触りの残るのみである。
補助武器を付けていても基本的な腕力が足りなさすぎるのだ。これで天龍の様にバーニングソードが付与されていれば、相応の破壊力。1分と持たずに相手をのせただろうが──。
だが、戦いの熱に当てられ狂化。髪を逆立て、赤光に目を光らせる。
もはや、殴り続けるだけの戦闘兵器である。
ただし、破壊力のない。
そこに余裕たっぷりでロッドの一撃を振り下ろすトロル。
金属と木の噛みあう音。
常寸より長い柄を付けた太刀、長巻を持ったロックフェラーがトロルの一打を受け止める音であった。
「ナオミには悪いが、E・アルマンダインはどうやっても完成させられそうにないからな──こいつでお相手する。E・アルマンダインの礎となったメタルロッド3本を鍛えし者の想いに恥じぬようにな」
ロッドを逆手の楯で受け止め、返す刃でトロルに斬りかかる。
そこでメリルが叫ぶ。
「ナオミ、今じゃ!」
しかし、高速詠唱のような技術を持っていないナオミでは乱戦になっている所では見計らって定点攻撃な魔法を使えない。
鍛造、仲間への魔法の付与、トラップの創造。魔法が未熟な彼女にとっては、この3つを同時にこなす事は不可能ごとに近かった。
「ええい、ならば仕方あるまい」
言って矢を放つメリル。
しかし、トロルはロッドに任せて2体で暴れまくる。
まさしく荒れ狂う巨人。
かなりの深傷を負う一同。回復のため、ポーションを飲み出すもの達もいる。
早めに決着をつけるなら、つけなければ──バーニングソードの時間とて限りがあるのだ。
そこへ慧流がトロルの頭上から油をかけ『鬼さんこちら』とばかりに囃し立てる。
挑発に乗ったトロルの所へ、メリルの火矢が浴びせかけられる1発ではすぐ消えるが、2発、3発と、次々に浴びせられれば、その炎は大きくなっていく。
「おっしゃー!」
ロックフェラーが長巻で最後の一押しをする。その先は──そして、トロルはマチルダの語って貰った危険地帯──底なし沼へと深く、深く沈んでいった。
ヴァイナもそこへ止めを刺す様にブラックホーリーを乱打する。
トロルは尚一層暴れまくり、周囲の木々に火が付きそうになったため、メリルは毛布で叩き消す。
「目玉のコレクションがひとつ減った‥‥」
トロルの頭が沼まで最後に沈みきると、狂化が収まったヴァイナが残念げに呟いた。だが、次の瞬間、やるせなさの感情が迸り、狂化する。
沼に飛び込み、目玉をほじくり出そうとするのを止める術者一同。
「目玉を! 目玉を!」
「えーい、まだ戦いは終わっていない」
ヴァイナの妄執に、メリルは自分も引きずり込みされそうになりながら、喝を入れ、正気を取り戻させた。
一方、セリオスは愛剣を構えて、何とか、残っていたトロル1匹のロッドを弾き返す。
一進一退。いやセリオスが明らかに分が悪い。そこで、自分の魔力を治療の為、唯一残していた白鳳が弥勒の名に於いて呪文を宣言し、満身創痍のトロルを金縛りにする
──メルシー!
そう叫びながらもセリオスは心臓に深々とジャイアントソードを突き上げた。
如何に再生能力があっても、命を失ったものの再生は不可能なのだ。
こうして、4匹のトロルは無力化が確認された。
そこでようやくアルジャスラードもハーフエルフの呪縛、狂化から解放される。
それから、1日時間をかけて、トロルのいた痕跡から、商人から奪ったであろう、小金の山が見つかり、村の補填と、ギィ達の目指す、若干のメンバーが希望する暗殺者の助命のための寄付金に転用され──そして、宴会に使われたのであった。
痛飲するもの、黙祷するもの、胸をアピールするものなど、宴での姿は多数あれど、勝利の余韻に皆酔いしれたのであった。
デニムもマチルダに勧められ、ゴブレットを口に運ぶが、この村特産の濃い口のリンゴ酒に思わず咳き込んでしまった。
駆け抜ける熱い滴。
暖かな笑みが一同に零れる。
自分より年下なのに、騎士をやっている少年へのせめてものやっかみなのだったかもしれない。
こうして、カン伯爵領にひとつの平和が創造された。これはその顛末である。