ゾル、ゲル、ゾル、ゲル‥‥
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 61 C
参加人数:12人
サポート参加人数:4人
冒険期間:05月14日〜05月26日
リプレイ公開日:2005年05月22日
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●オープニング
「奥さん仕事なんですよ」
「何故、私が人妻と!?」
パリの冒険者ギルドの受付のお姉さんに向かい、唐突なフレーズと共に飛び込んできた。恰幅の良い商人風の男。
「だって、マリッジリングしているじゃありませんか」
「見事な観察眼ですね──でも、そこまで観察眼の鋭いお客さんが困る事件というとどんなものでしょう?」
話をまとめる。
この商人、アブリスは最近、カン伯爵領の荘園で、小さいながらも古城を買い取り、一国一城の主気分を味わっていたが、長らく放置されていた、入り組んだ構造の地下室の掃除に出向いたメイドが帰ってこない、という事件があったのだ。
恐る恐る、男性の侍従を差し向けたが、地下道の闇の中で、謎の骸骨が浮かんでいるのを見て、逃げ出したのだ。
「幽霊の類かと思い、教会に依頼しようと思いましたが、いやぁ、不信心を楯に断られまして‥‥」
「金持ちなら寄付金くらい惜しまないでいればいいのに」
と受付。
「いやぁ、困ったときの為の冒険者ギルドじゃありませんか、教会の寄付金より安く済みそうなので、このメイド失踪事件と、骸骨事件の因果を解明して、ついでに元凶も取り除いてください」
「えらく、ムシのいい依頼ですね‥‥アブリスさん。依頼料は高く付きますよ」
「まあ、城を買った残りで何とかしましょう。カンの街までの馬車と食事も準備しますので、大船に乗ったつもりで‥‥まあ、とにかく依頼をどうにかしてください」
「では、契約書にサインを‥‥」
こうして、新たな冒険の依頼が冒険者ギルドに張り出される事になった。
●リプレイ本文
アカベラス・シャルト(ea6572)はこの探索で、必要ならば火を使う許可を得た。
ちなみにメイドが掃除に向かったのは地下室で、地下道ではない。
「即ち、地下室に接する、地下道もあるという事だ‥‥」
看破した荒巻 源内(ea7363)は分けて貰った松明と、魔法で照らされた地下室を一同と共に詳細に調べる。すると、シフールのリル・リル(ea1585)が可愛らしい悲鳴を上げる!
「きゃっ!」
そこには頭蓋骨、それも表面が相当腐食したらしいものが転がっていた。おそらく最近のものだろう。
エルフの少女、ラテリカ・ラートベル(ea1641)もこれが誰かが仕掛けた悪戯でないのを悟る。
悪戯だとしたら尚、タチが悪い。
パニックに陥るリル。
「こわいよーメイドさん食べられちゃったのかな? かわいそう‥‥」
「きゃー!」
「‥‥この骸骨‥‥メイドさんのものじゃない‥‥ですよね‥‥? 誰かそう言ってくださいよ!」
骸骨を見て叫んだミリア・リネス(ea2148)はヒール・アンドン(ea1603)の首にしがみつきつつ、赤面したヒールが明確に否定してくれる事を期待する。
しかし──。
「何と惨い‥‥でも、聖なる母の元にお帰りなさい」
「あなたの魂にやすらぎあれ」
フィア・フラット(ea1708)は頭蓋骨を持ち上げ、骸骨に祈りを捧げ、アンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)も十字架を掲げ、それに同調する。だが、それ以上に時間を費やしている暇は無い。
「何かに吊されていたとかならともかく、骸骨が宙に浮かぶなんて聞いた事がありませんね。それに、幽霊の類なら他に何らかの兆候や噂くらいはあってもいいはずなのですけど‥‥」
と、フィアはラテリカと話を詰める。
「──風を感じる」
僅かに風を感じたアルル・ベルティーノ(ea4470)が地下道と接するらしい、出入り口を発見。いわゆる隠し扉だ。見つけるまでは大変だが、開けるのは簡単な仕掛けだった。
しかし、僅かな隙間があり、殺害者はスライム説に一同は意見を傾かせた。
見付かった隙間は、人の頭蓋骨は通らない幅である。他の部分は──おそらく消化されたのだろう‥‥スライムだとすれば。
そして、開かれた地下道。暗いものの一同の予想に反して、埃などは積もっていなかった。
アカベラスに付き従うティルフェリス・フォールティン(ea0121)はランタンに火を点し、闇の中へと一歩を踏み出していく。すると彼女の雰囲気がガラリと変わる。手弱女から戦乙女へと変貌するのであった。
「ここからは二手に分かれよう。油が一瓶燃え尽きたらここへ集合という事で。無理はなしで」
提唱するアンジェリーヌ。一同は賛同する。
「もっとも石壁なので、削ってマーキングはできませんが、依頼人にチョークを借りに行きましょう」
そこでチョークを貰う一同。
しかし、フィアは疑問視する。
「過去に人が住むために使っていたのでしょうから、いくら何でも迷宮並みに複雑な地下だとは思いたくないですね‥‥。でも、それなりの備えは必要でしょうか」
地下道に踏入り、改めて壁も天井も警戒していれば、微妙にねとねとするのを一同は感じる。神経を鋭敏にしていなければ、感じ取れなかっただろう。
「‥‥ミリアさんと一緒の依頼は久しぶりですね〜‥‥。‥‥できれば、ほのぼのとした依頼で一緒になりたかったですが…ともかくよろしくお願いしますね〜‥‥」
ヒールはそんな事をぼやきながら頭を撫でつつ、右手に魔法の斧を持つ。更に左手にはハリセンを持つ、一見するとコントにしか見えないような格好だ。
更に釣り竿を持とうとするから、収拾が付かない。ハリセンを諦め、釣り竿と斧という、やはりお笑いを狙っているのか? というスタイルに落ち着いたようだ。
止めは頭の獣耳バンド。やはり天然ものの様だ。
ミリアはその格好を見て思わず吹き出す。当人が真摯なだけに余計滑稽に見える。
赤面するヒール。
「ラテリカ、黴の臭い、苦手です‥‥でも、そんな匂いありません。奇麗な地下道ですね、却って苦手かも」
ラテリカは奇妙な表情を浮かべる。
溶けているのかな? とアカベラス。スライム系の怪物であるというアカベラスの推理は、確信へと変わっていった。
一方、地図を作っておきませんか?
と、アルル。
「地下で迷子になってもいけませんし、全体の造りを知っておくと何かと便利ですわ。両班で手分けして地図を作りましょう」
筆記用具と多数の羊皮紙は、また、城主と交渉して用意して貰った。向こうとしても都合が良いのだろう。こんな怪物が住むらしい場所が足下にあると知ると、それを探索してくれるのは。
一方でアルルは、あの骸骨は以前の城主の物でメイドはまだ生きて何処かで動けないで居ると信じている。しかし、前の城主は落馬の事故で死んだと聞いて、あれは前の前の城主に違いないと、自分に言い聞かせていた。
「お気をつけて。お互いに無理をせず、全員が無事な状態でまた会いましょう」
A班の代表として、B班の一同にアルアルア・マイセン(ea3073)が別れを告げる。なおも可能性のあるアンデッド対策にオーラパワーの発動に余念がない。いざとなれば、闘気を込めた日本刀で斬りかかる所存。別に相手がスライムでも斬れれば、ダメージは大きいに超した事はない。
分かれたティルコット・ジーベンランセ(ea3173)は馬で何日も距離があるカンの荘園での情報など、パリにいても手に入らなかった、とパリ出立前に涙を流しながらやってきた仲間達の表情を思い出しつつも、念を凝らし、スクロールから多量の魔力を支払ってインフラビジョンを発動させる。しかし、熱源は仲間以外見当たらない。
一方で、アルルは自分の分身である灰の人形に、命じて地下道を先行させ、何かあったら叫ぶようにと命令するが、問題はその人形も、光源が無ければ真っ直ぐ進むだけというオチであった。それに1回目で気づき、必要以上の魔力の浪費を押さえる。
幾度か合流を繰り返した後にB班に、A班のラテリカのテレパシーによる緊急通信が入る。
『ヒールさんが食べられちゃった!! 相手はスライムみたい!?』
最初は遠近感の歪みに見えた。しかし、ヒールの釣り竿が軟質な感触を感じると、眼前の空間が波打つようにヒールを襲った。
ここで気がつく。相手は天井、壁、床の全てに密着するタイプのスライムだったのだ。
受けきれず、鍛錬不足で、一気に重傷までのダメージを帯び、為す術もなく飲み込まれるヒール。
もがこうにもエルフの非力さ故、為す術もない。
銀色の淡い光に包まれ、チクチクとラテリカがムーンアローを打ち込むが、抜本的なダメージを与えるには出力不足だ。
片や、アルアルアが日本刀に闘気を込めて斬りかかり、痛撃を浴びせる。
「なんて厄介な‥‥!! ですが、退く訳には参りません。我が刀に賭けて、突貫!」
ウーゼルお得意の突撃をかけて、一撃の破壊力を増やすが、巨大な軟質の壁に当たったようになり、駆け抜ける事は出来ない。
しかも、彼女の剣では裁ききれない勢いで、ゼラチン質の“波”が襲いかかり、ダメージと共に飲み込まれてしまう。
前衛壊滅。
そこでようやく、B班が合流する。
源内が状況を見て取るや、バックパックを投げ捨て、大槌を持って、忍び寄る。
「塵と化せ──」
大槌が打ち込まれる。軟体故、中に飲み込まれていたヒールやアルアルアまで打撃が届かないという咄嗟の目算は的中していた。
その間隙を縫って、印と詠唱と共に、淡い青い光に包まれたアカベラスから、アイスチャクラムを受け取るティルコット。
「フェリス行くぞ!」
ティルフェリスに声をかけるティルコット。
「ツインテイルフォーメーション、いくぜ! アイン、ツヴァイ! ドライッ!!」
とのかけ声と同時に、それまで持っていたアイスチャクラムを地面に置く。
同時に、ティルフェリスは一瞬のうちにダーツを次々と取り出して投げつけていく。並の射手と獲物なら当たらぬ無茶な攻撃も、卓越した手腕と文字通り、壁のように立ちふさがる相手を前にしては面白いように命中する。
軟体に深々と突き刺さるダーツ達。
当然、源内は攻撃の合図を聞くと俊敏に後ろに下がっていた。
そこへ、ティルフェリスが、ティルコットが床に置いたチャクラムを拾い放り投げる。
続けて突貫してナイフで一撃するが、これは軽傷。オマケに相手は仰け反るほど、高等な感性は持っておらず、一撃浴びせた後、動きが止まった隙を突かれ飲み込まれてしまう。
しかし、何が効を奏するか判ったものではなく、使用者の下に忠実に戻ってきたアイスチャクラムがゼラチナスキューブに止めを刺し、粘液と共に瀕死状態のヒールとアルアルア、ティルコットをはき出す。
そこでヒールは自分が掴んでいた指輪を一同の下に開陳した。
酸でも溶けることのない、金無垢の指輪であった‥‥。
そこで捕まったヒールとアルアルアと、ティルコットは張りつめた気が途切れ、失神する。
3人は酸と窒息により瀕死の状態であった。
「ヒール!」
ミリアがヒールの胸に顔を埋める。
ともあれ、迷わずに教会に行けたのは地図があったおかげである。
後に城主により、その指輪がメイドのものであった事が確認され、高額であった傷の治療費も城主が出してくれた。
アルルから話を聞いた、城主は早速技師を呼んで、メイドの様な悲劇が起こらぬよう、地下道に繋がりそうな道は全て塗り込める事とするという。
そして、教会でフィアとアンジェリーヌによってメイドの為の厳かなミサが執り行われたのであった。
その後、一同はカンからパリへの帰路につく。
メイドは救えなかったという苦い味を残しながらも、敵は討った。
これが冒険の顛末である。