●リプレイ本文
『善意は献金の多少で決まるものではない、とこの地を治める大司教様も言いたいのでしょう。黄金はあっても助命の嘆願に関わる人数が足りなければ意味はありません』
女ジャイアントにして“力士”のシャクティ・シッダールタ(ea5989)は冒険者酒場に開かれたエムロード基金の卓と責任者を前に、自分の善意として二十枚近い金貨を収めてくれと頼み込むメフィストをそう言って諭す。
尚、この会話は周囲のシフール通訳達が善意で翻訳してくれるから成立するもので、二人だけならメフィストにはシャクティが何を言っているのか、今ひとつ判らなかっただろう。
ともあれ、金貨5枚を捧げると、ヘンゼル少年達を捜しにパリからガルガリーデ邸へと向かうシャクティと、馬で急ぎ聞き込みにあたるメフィスト。
ふたりの進路は離れていくばかりであった。
一方、ガルガルリーデの荘園へと先行したのはリュオン・リグナート(ea2203)とアルアルア・マイセン(ea3073)、そして七神斗織(ea3225)であった。しかし、完全な異邦人の斗織は最初に名乗ったのだが、非常にいぶかしげな顔をされた。。同行した冒険者としてパリにその名を響かせるリュオンと、隣国イギリスとはいえ、れっきとしたナイトであるアルアルアの威光が有って、執事から荘園の領主であるガルガリーデへと取次ぎがされて、ようやく通された応接室でガルガリーデの姿を見ることになる。
ガルガリーデは筋肉をその内に隠した恰幅の良い体格に、傷だらけの四肢。如何にも歴戦の勇士然としている。おそらくノルマン独立戦争でもそれなりに戦果を立てたのであろう。
それはともかく、開口一番、禿頭を叩きながら、ガルガリーデが口にした台詞は。
「これは襤褸屋にようこそ。ワシがここの主のガルガリーデである。高名な御仁方がそろっており、ワシも非常に光栄じゃ。んまぁー用向きを伺おう」
案外と気安いものであった。おかげで三人は、手短な自己紹介と挨拶の後、
子供たちがドラゴン退治と称して、こちらへ向かっていること。
自分たちは彼等の姉を介して、ギルドで依頼を受けてきたこと。
パリからここまでの道中は、他の者が探索活動を行っていること。
子供の確保さえすれば、引き上げること。
等を簡潔かつ明瞭に話した上で、騒がせてしまったことを詫びた。
「子供たちの身の安全と、貴重なフィールドドラゴンの安全、どちらも考慮した上の事です。
差し支えなければ、ドラゴンの居場所を含めた邸内を調査させてもらえないでしょうか?」
それに触発されたリュオンも、つい口を開く。
「氏が勇敢にもドラゴンを捕獲した、という噂を聞きつけ不躾ながら同伴させて頂いた次第です。今後の研究のため、可能でしたらぜひドラゴンを拝見させて頂きたいのですが‥‥」
「んまぁー、代わりにワシの自慢話に付きあっていただけるならな。同じ話をひとりずつに3回も話すと、こちらも飽きてくるだろうがの」
「‥‥喜んで。で、肝心のドラゴンはどこにいるのでしょう? よもや荘園で放し飼いということはありませんよね?」
「ワシの牧場で1頭だけで放し飼いにしておるわい。いくら何でも、領民に被害が出るかも知れぬような放し飼いなど、常識から考えてもする訳がなかろう? ま、小さなちっちゃな荘園じゃが」
ガルガリーデは快活に笑いながら答えた。ユーモアセンスには不自由していない御仁らしい。
「ワシが案内しよう。まだ調教が住んでおらぬ故な。見知らぬ者を見ると、噛みつくかもしれぬ」
ガルガリーデはロッドを片手に先に立つと、彼らを案内して牧場に入る。牧場というには高い柵の扉の閂を外し、その中のこれまた堅固に作り直された柵の向こうに6本角、黄緑色の鱗に包まれ、6本足の“ドラゴン”がいた。
筆記具で両手が塞がっているリュオンは緊張の色を隠せないが、じっとドラゴンの目を見る分析が始まる。
(えーと、大きさと体色からするとフィールドドラゴン。何歳ぐらいだろう、年齢をどこで判別するのかは聞いたことがなかったな。
飼育環境はどうなのだろうな? 野生のフィールドドラゴンがどんな暮らしをしているかなんて判らないし‥‥。
体調、不明。
精神状態の良し悪し、不明。しかし、この落ち着き方からすると、ガルガリーデ氏との間にはそれなりの信頼関係があると見た。
これくらいなら、よく見れば誰でも分かりそうなものだ。ドラゴンを真に知るには専門家としての知識が必要とされるというけど、実物がいるんだから)
ドラゴンの研究家としては知れ渡る名前に見合う知識のないリュオンだが、観察には余念がない。
このドラゴンの捕獲方法に関してはガルガリーデ曰く、オーラホールドで動きを鈍らせた所に何重にも縄をかけ、それでも暴れるドラゴンと最後は肉弾戦にもつれ込んで組み伏せたという。
言われてみれば、まだ新しい傷跡もガルガリーデの四肢には見えている。
多少話に誇張があったとしても、かなり激しい戦いだったのだろう。それを伺わせた。
「野外で獲物を探すのはなれているのですが、子供たちを捜すんですか? まあなんとかやってみましょう」
ブルー・フォーレス(ea3233)がぼやく様に言う。名うてのレンジャーといえども、行動パターンの読めない子供を見つけるのは熊を狩るより難しそうに思えた。
「そうね、でも。まさか本当にドラゴンの元へ向うなんて‥‥私達で保護するから待っててね」
アルル・ベルティーノ(ea4470)はガルガリーデへの荘園の道を、愛犬シーグルに子供達の愛用の品の匂いを嗅がせて捜索させようとしている。
「シーグル、この匂いよ。子供達が心配なの。力を貸してね」
彼女はかつて一緒に旅をした、純朴な天使ノエルとの思い出を振り返りつつも、シーグルのリードを離さない。一方期待を掛けられたシーグルはエチゴヤでその様な訓練は受けておらず、主人の期待に応えられない事を、尻尾を後ろ足の間に挟むことで表現するばかりであった。
その点は後ろから追いついてきたティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)と彼女の愛犬であるシュテルンも同じらしく、捜査は混迷を極めている。
「ところで、ティファル、どこ行っていたの?」
「フランク人の情けや、聞かんといて‥‥」
アルルの問いに、方向音痴のティファルとしては苦笑いを浮かべるしかなかった。
そんなふたりにカレンは──。
「子供ってすぐ脇道にそれるから‥‥」
などと言いつつ、道の脇に折れた枝など入って行った痕跡を捜し、それらしい草むらもこまめに探していた。
カレンが泥だらけの足跡を発見すると、アルルとティファルに合図する。ふたりの詠唱が唱和し、緑色の淡い光に包まれる。
サビーネ・メッテルニヒ(ea2792)も合唱し、黒い淡い光に包まれた。
アルルとティファルとザビーネの3人共が感知したのは、大きめの草むらに自分達以外の小さい反応がみっつ。多分捜している子供達に間違いない。
ティファルとアルルが矢継ぎ早にまくし立てる。
「出てきてんか〜?」
「エドワードくん、ヘンゼルくん、マルガリーテちゃん見つけた!」
「あれ、みつかっちゃた?」
と、多分マルガリーテらしい声。
「だめだ。そーさらーかもしれない」
エドワードと思しき声が慎重論を唱える。
「うん、みどりいろとくろいひかりがみえたし、きっとそーさらーと黒くれりっくだよ」
自称ウィザードだけあって、雑学はそれなりに持っているらしいヘンゼルがその意見を補強する。
そのため捜索手伝いを買って出た瑠兎が馬に跨り、ジャパン語で高らかに吠える。
『やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って、目にも見よ──』
言葉が通じなくても、子供なら興味を引かれようという作戦だが、これは当たったようだ。
「あれ、あれって“おぶけさま”だよな?」
「おぶけさまだったら、のるまんのみかただよね?」
「でも、あくとうの“せんせー”かもしれないよ。だったら‥‥」
子供達が悩んでいる間に、レイ・ファラン(ea5225)とサーラ・カトレア(ea4078)は気をつけながら、後背からそっと回り込む。
片や、フェリーナ・フェタ(ea5066)は堂々と藪の方に進み出て、子供達がすぐそこまで来たレイとサーラを振り返った瞬間に藪の中に入り込む。
「うわっ、なんだこのおねえさんは」
「あっ、えるふだ」
エドワード達3人は小さな輪になって藪の内に入り込んだ形となっていた。
そこへフェリーナは有無を言わさず、まとめて子供達を抱擁する。
「本当に無事で良かった──」
「え、ええ?」
目を白黒させる子供達。
フェリーナの目に光る涙。
サビーネはマルガリーテと視線を合わせて、フェリーナの涙の意味を解説する。
「悲しいから泣いているんじゃないのよ。あなた方が無事で嬉しいから泣いているの。でもね、こんな風に人を心配させちゃ駄目よ」
そして、フェリーナも。
「ノインさんもあなた達を心配して、私たちを寄越したのよ。私も未来に繋がるものを見失いたくないから」
言ってフェリーナは子供達を抱擁から解放する。
「子供は放っておけない性質でね。だが、ただ助けが来たと思うなよ」
そこへ割り込むように姿を現したエルド・ヴァンシュタイン(ea1583)が、突然藪に腕を突っ込みマルガリーテを抱き寄せる。
「はっはっは、この悪のマギステル、エルドがお姫様は頂いたぞ。お姫様を返して欲しければ、勇気を見せてみろ」
サビーネは舌打ちして胸の中で、このロリコンが──と、毒づく。
「冒険者さん、私も仲間に入れて貰えないかしら」
エルドの趣味丸出しのチョイスと裏腹に、アルルもエドワードとヘンゼルに問いかける。
「えーと」
「そーさらーのちからをかりるのは‥‥」
エドワードが困惑し、ヘンゼルがなぜかアルル=ソーサラーという固定観念に凝り固まっていると、アルルは笑って、使えないのを承知で、スクロールを手渡して。
「その巻物の力で私をサポートしてね。一緒に行くわよ」
杖(に見立てた木の枝)と、渡されたスクロールを両手で同時に展開しようとして、ヘンゼルがパニックに陥るのを、アルルが諭す。悪役のエルドは律儀に子供達の手番待ちだ。
「落ち着いて。冒険者でしょう? 冒険は最高の先生、精霊さん行きますよ♪」
「はっはっは、来ないなら行くぞ、炎よ生ぜよ──」
機を見たエルドの高笑いに、アルルは応えて。
「行くわよ、ヘンゼルくん! ライトニングサンダーボルトよ」
「りゃっ、らいとにんぐさんだーぼるちょ!」
スクロールを広げ終えたヘンゼルが、滑舌が怪しいものの取り敢えず絶叫する。
アルルもそれに合わせて詠唱を終え、緑色の淡い光に包まれると、赤い淡い光を収束させつつあったエルドの足下に雷を撃ち放つ。
「むうっ! ふたりの精霊力には適わん、ここは逃げさせて貰おう」
「させないよっ!」
エドワードが剣(に見立てた木の枝)を振るうべく突っ込むと、マルガリーテはエルドの腕に噛みつく。計算されたタイミングでエルドはマルガリーテを放し、そのまま街道を逃げていく。
しかし、振り返り際にエルドは顔の傷跡を指でなぞって強調し──。
「余り危険な事はしては駄目だぞ。
でないと俺みたいになってしまうよ」
──と言い残して、聖骸布をはためかせながら走り去っていった。
ウィル・ウィム(ea1924)はマルガリーテの服の泥を払いながら、囁く振りをして、一同に聞こえるような声で、言葉を発する。
「冒険も良いですが、自分の力を計る事も大切です。アルルさんがいなければ、あなた方はみんな、悪のソーサラーに捕まっていたのですから」
エドワードが驚いたように声を発する。
「アルル、アルルってあの?」
続けてヘンゼル。
「ぱりいちばんのうぃざーど!」
「おうごんりつプリン!!」
最後にエドワード、ヘンゼル、マルガリーテは声を合わせて叫んだ。ノインが、子供達に色々吹き込んでいるようだ。
「あのね、それは単なる噂だから‥‥」
照れたようにアルルは横を向く。
「だそうですよ? ところで、マルガリーテさん、あなたの十字架では、聖なる母の加護が薄いようですから、これをお渡ししましょう」
言って、ウィルはバックッパックを探って十字架のネックレスを取り出すと、膝を折って目線を合わせてから、マルガリーテの首にネックレスをかける。
「あなたが将来、本当の冒険者になって、クレリックの道を歩むかどうかは判りませんが、聖なる母の加護があなたと共にありますように」
子供達には緊迫した場面が終わりを告げた時。
「あれ、ブルーは?」
サビーネが周囲を見渡しながら尋ねる。
ブルーを最後に見たのは、子供達の存在を確認したより後のこと。その直後に見なくなったのでは? という意見が大勢を占める。
そこへゆっくりと現れるブルー。
「お腹へってませんか? とりあえずみんなでご飯にしましょう。優秀な冒険者になるならしっかり食べて体力つけておかないといけませんよ」
言って、ブルーは慣れた手つきで捕まえてきた兎を捌き始める。捕まえた内の1匹を渡し、宣言する。
「君たちも手伝うんですよ。おいしいご飯が作れる事も冒険者としては大事なんですから、腹が減っては戦さはできんといいますからね。道中おいしいご飯が食べたいでしょう? 保存食ばかりじゃ味気ないですから」
兎の内蔵をボーダーコリー達に分け与えながら、ブルーは調理道具を取り出すと、火を点け始める。刃物が無くて困っているマルガリーテへナイフを渡しながら、手本を示す。
エドワードとヘンゼルがおよび腰なのに対し、マルガリーテは刃物さえあればと、結構器用に兎の皮を剥ぎ始める。この年頃にしては、手馴れた様子だ。
皆で美味しく、焼いた肉をつつきつつ、時間が流れる。こうしてブルーの時間稼ぎ作戦は成功した。
『どらごん‥‥はて? 皆様、のるまんの事には疎いのですが大妖なのですか?』
そんなのんびりしたところにようやく追いついたシャクティが、仲間に加わった後に一同に問いかける。
翻訳するユキ。
宗教は違えども一脈通じる、聖なる母と弥勒の教えで意気投合したのか、何とか会話に不自由はない。
「小は大鬼と大差ないものから、上は立ち向かっただけで伝説になるものまで──倒したじゃありませんよ、それこそ向き合っただけでもです――色々あるらしいです」
ウィルは一般論を述べる。ジーザス教に於いてドラゴンは不倶戴天の敵であるデビルと違って、好敵手的な立場にあると説明したのであった。
「デビル? ともあれ、ノルマンのクシャトリア──戦士階級──にご迷惑をかける訳には参りませんね」
豪快に兎の肉を齧りながら、シャクティは現状把握に努める。何しろ、ユキが帰ろうとしている今、周囲に翻訳してくれる人間はいないのだ。
自分の修行不足を悲しく思いながら、今後もこの国で冒険者として生きていくのなら、げるまん語を覚えなければならない、とシャクティは堅く決意するのであった。
一方。アルアルアと斗織は荘園を案内される名目で、ガルガリーデの自慢話を延々と聞かされていた。しかし、セブンリーグブーツの力でガルガリーデの館へ走ってきたアルルからエドワード、ヘンゼル、マルガリーテ達確保の報を受けて、捜索活動を中断した。リュオンにしても、自分の知識不足を嘆きつつ、ドラゴンを遠目に悶々としている時間に区切りをつけられ、一息つく。
「で、ガルガリーデ氏の英雄譚を10回は聞いたご褒美に、子供達を確保したら、柵の外からなら、フィールドドラゴンのゼクス──あ、こういう名前にしたんだそうだ。角が6本あるからだって──を見せても良いって。実物を見たら、危険な真似もしないだろうと、そう言っているけど?」
「私が“ファンタズム”の幻影でフィールドドラゴンを見せるより、そちらの方があの子達に現実を見せるにはいいかもね。じゃあ、すぐの所にいるから、みんなを呼んでくるわ。ところで、斗織はいつもの紫のキモノじゃないのは、心境でも変わったのかな?」
「いや、ドレスタットのドラゴンがらみの事件で、紫のローブの人物が何やら関係あるらしいから、ドラゴンを余計に刺激しない様にって」
「随分と気が回るのね‥‥じゃあ、みんなにも紫の服は止める様に、って言っておこうか。誰かいたかな?」
ともあれ、一同は合流し、子供達にドラゴン見物をさせることになった。
これを受けて、ガルガリーデ氏の自慢話にパリで1,2を争う冒険者の有名人が『多数』自分の館を訪れたというのがレパートリーとして加わるのは後の話。
「でっかいけど意外と気は小さいんだよ。だから、びっくりさせないようにね♪」
リュオンがエドワード、ヘンゼル、マルガリーテを連れて、柵越しにフィールドドラゴンを見せる。
子供達は意外とがっかりしたようであった。
「ぶらんしゅきしだんのぐんばのほうがかっこいいよな」
と、エドワード。
「おおきいけど、とかげみたい。ひょっとしたら、ぼくたちでもたおせるかも?」
ヘンゼルが意外と物騒な事を呟く。
「やめようよ。ひをはいたりしたら、おおけがするよ」
穏健な意見を語るのはマルガリーテ。
本物のフィールドドラゴンが火を吐く事はないが、リュオンもそれは教えない。
「子供達。ドラゴンを観た感想はどうですか?」
斗織がフェリーナ、そしてレイと共に現れる。
手に携えているのは小太刀。
抜き身ではなく、鞘にその鋭刃を収めたままであったが、使い込まれた、一種の威圧感を漂わせている。
「この刀を持てますか?」
「すごい、ぶらんしゅきしだんのとおんなじだ」
とヘンゼル。
「‥‥こわい──ないふとぜんぜんちがう」
とマルガリーテ。
「だいじょうぶ、それくらいもてるよ」
とのエドワードの言葉に斗織は──。
「そう思うなら、持って見なさい、支えてあげるから」
と言って、小太刀を差し出す。
エドワードが柄を握りしめても、レイと斗織の手は軽く添えられている。だが、小太刀は微動だにしない。
「ほら、もてるよ」
「ジャパンの侍はこれを一呼吸に三度振るえなければ一人前とは言えない」
「ええー、さんども」
「ならば、重いでしょう、まだまだあなた達が扱うのは無理でしょうね。敵を打ち倒す武器を持つと言うことは、武器自体の重さに加えて『責任』という、もっと重いモノも背負うのですよ。フェリーナ、これでいいですか?」
フェリーナは頷き、エドワードに語りかける。
「ええ、その重みを受け止めて、自在に振るえるようにならなければ、モンスターと対峙するなんてできないということが、しっかりと判ったでしょう?
勇気だけでは強大な力に立ち向かうことはできないのだから」
拙いながらもエドワードも反論する。
「でも“ゆうき”がなければ、もんすたーにたちむかうこともできないよ?」
エドワードの言葉を、フェリーナは再び頷く事で肯定する。
「そうですね。勇気と力の両方が無ければ強大な力には立ち向かえません。だから言うのです。勇者よ常に強くあれ──と」
「それはナイフに毛が生えた様なものだ。だが、俺の剣は持ち上げる事も出来ないだろう?」
言って、レイは彼の愛用しているライトソードをエドワードに差し出す。
力みながらもライトソードを持ち上げるエドワード。やはり刀身はしっかりと天頂に向けられる。
それを見てレイ曰く。
「あちゃー、持ち上げるだけなら、子供でも出来るか? しかし、一振りしておしまいだな。前に立って仲間を護るにはそれに楯を持つか、さもなければ剣技だけでなく、体術にも秀でるしかない。仲間を護るなら、な?」
護るのは己が身ひとつの傭兵ならではの達観であった。
「じゃあ、返して貰うぜ。本物の剣を間近で見る良い機会だったろう。勇者ゴッコを続けるか、本物の勇者を目指すかは自分で決めるこったな」
こうして“本物達”と出会った小さな冒険者達は、パリへと14人の仲間を引き連れて戻る事になる。
そして、馬で先行したアルアルアが呼び出したノインが、皆を迎えにパリの門へと現れた。
「ヘンゼル! みんなが心配しているわよ、本当にどこにいったかと思ったんだから──」
そう言ってノインはヘンゼルをぎゅっと抱きしめた後、膝上に抱え上げて、お尻に痛烈なスパンクを浴びせる。
「いたい、いたい! もう、どらごんたいじになんていきません」
「ドラゴンだけじゃないわ、エレメンタルもデビルもアンデッドも駄目よ」
一方、エドワードの方はと言うと──。
鍛冶屋の親方然とした、筋骨逞しい父親が息子が立ちすくんだ所をひっぱたたき、一言──。
「心配させるな」
──で済ませ。
エドワードは涙を流しながら、それに頷いていた。
クレリックのマルガリーテの父母は娘を抱きしめておいおい涙を流し、つられてマルガリーテも涙を流していた。
そして、十字架のネックレスを見つけると、どこで手に入れたかの話になり、ウィルがその弁護に回るという一幕もあった。
こうして、小さな冒険者と、その介添人の物語は終わりを告げる。
エルドは先にパリに帰っており、冒険者ギルドで自分が保護(?)した子供達がどうなったかの顛末を今か、今かと聞きたがっていた。
これはひとつの冒険の顛末と、未来の冒険者の物語の始まりである。