●リプレイ本文
カンへと向かう整備されていない街道に7人の旅人がいた。
「アースソウルかぁ〜 僕とかは会ってもらえるんやろか〜?
もし会えたら、感動を基に新曲作ってみたいんやけどなー♪
タイトルはもう決まってんねん。【新緑育みし契(つむぎ)の妖精】ってなー♪」
自己流にターバンを頭に巻いた少年、アリオーシュ・アルセイデス(ea9009)はお気軽な西国訛りで、少々の先走り気味の言葉でハートマン夫人に語りかける。
心配げな顔をしていたハートマン夫人は顔を綻ばせる。
アースソウルを捜しに行き、行方不明になった少女イリアが、自分と同じ『風のウィザード』という事だが、ロート・クロニクル(ea9519)は──。
「俺もアースソウルには会ってみたいんだけどな。‥‥研究しがいがありそうじゃね?」
──と、興味津々な態度を隠さない。
、色っぽい女性が苦手なクリス・ラインハルト(ea2004)と、豊満な肉体を持つものの、人見知り勝ちのハルヒ・トコシエ(ea1803)は、互いの醸し出す雰囲気に物理的、精神的に距離を置きつつも、ハートマン夫人に断言した。
「冒険のお約束。
来た時よりも美しく〜!
冒険者たる者、冒険を経たならば、何かしら学び、成長しなければなりません。
内面を磨く事で、外見もより美しくなれるのです〜。
ということで、イリアちゃんには、より綺麗になって帰宅してもらわなければ〜!
は〜い、ちょっとだけお手伝いしましょうね〜」
“ヘアケアーの鬼”とまで謳われたハルヒの言葉には強い確信が籠もっていた。
クリスもその勢いに同調する。
「ボクと同じ赤いリボン好きは放っておけません!
ハートマンさん、本当に何か判りませんか?
それに『林檎の森』に入るには領主様の許可が必要と思うので、紹介状か口利きをしてもらいたかったのですけれど‥‥。
それが出来ないので、領主様の所まで同行願えてラッキー☆ かなと思いますけれどね」
ハートマン夫人は応えて曰く。
「いやぁ、領主様の所に伝手があるわけじゃなし。
ただ、座して待っているのも耐えきれないので、皆さんの旅にくっつかせてもらっているだけですよ。
まったく向う見ずな姪っ子を持つと、苦労するものです」
深く頷きながらヴィクトル・アルビレオ(ea6738)は呟く。
「‥‥私の娘も似たような年頃だからな。夫人の気持ちは痛いほどよくわかる‥‥」
「お互い大変ですね」
と、ハートマン夫人。
ジェラルディン・ブラウン(eb2321)はイリアの似顔絵描きを泊まる旅籠毎に依頼していた。
しかし、ハートマン夫人はその手の才能は無い様で、言葉で説明された以上の大きな特徴は掴めなかった。
「もう、カンですのね‥‥さて、如何なる謎が待っているかしら?」
落ちていく太陽を背景に、雄大なカン城が見えてくる。ノルマンでも有数の巨大建築物である。
クリスは思わず呆ける。
「あれ、館じゃなかったのかな? ま、大きな館と思えば──いいか」
とりあえず、自分を誤魔化しながら、クリスは表門へと向かう。
「森の迷子を捜さないのは、伯爵の約束された『街は団結していることを示す』になりませんよね♪」
クリスが喋っても彼女の背後に何の後ろ盾もなく。
ハートマン夫人の訴えがあっても、逆に悪魔崇拝者の関連者が口実をつけて、伯爵に接近しようとしているのではないかと、疑われてアウト。
衛士からは行くなら好きにしろ──というラインで落ち着いた。
そこで一同は旅館を取ると、バード陣が道々、ジェラルディンの依頼で書いて貰った似顔絵を片手に弾き語りを始めるのであった。そこのお捻りを元に酒を飲兵衛達に奢り、情報収集。
アリオーシュはそこで、カン領の魔王崇拝の噂が思ったより広く、深く浸透しているらしい事を知る。
話を真に受ければ、村々の半分は魔王を崇拝しており、魔王に夜な夜な乙女の生き血が捧げられ、何も知らない旅人達は片端から生け贄にされるのだという。
「まったく物騒な世の中になったモノだよ、ウン」
「そりゃ、物騒やねん。枕を高くして寝れんわ」
一方、クリスは決定的な情報をある鍛冶職人から聞いた。
「あー、その顔の女の子ね。
魔王崇拝で、物騒だから、旅を止めな』と言ったら『じゃあ、護身用の剣を鍛えてね、お願い』と来たもんだ。
まあ、こちとら、それがメシの種だし、断る筋も無かったわ」
たしか、武器を持っただけでもアースソウルには会えない、というのも、冒険の報告書には会った様な気がする。
クリスはそれを思い返した。
ふたりは情報を交換すると、心配するハートマン夫人を力づけていた残りの面々を宿から引っ張り出した。
「いい加減、ひと月は経っておるんや、もうメシが尽きていてもおかしくない。急がんと、魔王崇拝者の生け贄にされていてもおかしくないで」
アリオーシュが急かす。
「武器を持っているという事は、アースソウルに会えていないという事よね? 帰ってこないという事は何かあったという事ですよ」
クリスが緊急事態を宣言する。
「アースソウルに付近の洞窟の位置だけでも確認して、そこを重点的に捜索しましょうよ」
一同は急ぎ『林檎の森』へと向かう。
森の中へと向かう小道──むしろ、獣道に近い──の脇に幾らかの林檎の樹が植えられており、それが普段の通り名となっているようであった。
林檎の実がない冬は、伯爵家の子弟がカンの豊作をアースソウルに祈願する『契約の森』と呼ばれる。
鬱蒼とした深い森。
そこへ一同は踏み込もうとしていた。
さすがに不確定要素の大きなアリオーシュを筆頭とした男性陣は森の外に控えて、悪魔崇拝者の襲撃に備える。
クリス、ジェラルディン、ハルヒ、そしてハートマン夫人が夜の森へと踏み込んでいった。
ちなみに光源はハルヒのライトの魔法である。
明かりに照らされて、僅かな煌めきを一本の巨大な樹の上に認めるジェラルディン。
それはクリスマスで飾られるラッキスターが古びた物であった。
そして緑の中に埋もれる様に、大地の色を思わせる褐色の肌で、髪を三つ編みにしている少女が枝に横座りしている。
ハルヒがこれが報告書にあった、アースソウルだと直感した。
クリスが魂を込めて、アリオーシュから教わった竪琴を奏でる。
(音楽は魂やからな! クリスはんの想いを、精一杯込めたらええねんよ〜)
ジェラルディンがそのメロディーに乗せ即興で言葉を紡ぐ。
「おお、偉大なるかな大地よ〜♪」
しばし、言霊と旋律が響き終わると、その一連の流れに合わせ、民族舞踊を舞っていたハルヒの踵が続けて二度打ち鳴らされ、終焉を告げた。
「何か御用?」
樹から降り立ったアースソウルの可愛らしい声が囀る様に一同の耳に届いた。
「あのこういう子を探しているのですけれど」
金色の淡い光に包まれたジェラルディンが作った、ライトの光源の元、似顔絵をアースソウルに向けて示す。
アースソウルは黙って指を森の奥の方に指し示す。そこには何も無い様に見えた。
そこへハルヒがライトの光球を向けると、小さな泉があり、“ぴょこん”と赤いリボンを着けた少女の影が見えた。どうやら熟睡している様だ。良く良く見ると勇ましくもノーマルソードを抱いている。
ハルヒは思い当たる節があった。
「フォレストラビリンス? 地の精霊が人を迷わすのに使うっていう」
それにジェラルディンが疑問を投げかける。
「でも、イリアが精霊魔法の使い手なら、相応の精霊力への抵抗はあるのじゃ?」
「あの子、昔から鈍くて、勘も冴えなかったから‥‥」
翻訳。精霊魔法の才能がかなりない、という事である。
「イリア、下宿に帰りましょうー」
ハートマン夫人がイリアに呼びかける。
そこでどうやらイリアは目を覚ましたらしい。
「助けに来たよ! 一緒に帰ろう?」
クリスが呼びかける。
「伯母さんと誰だか知らないけど、ありがとう! 今、いくね! でも、行けるかな?」
赤いリボンを上下させながら、イリアが頭を下げて、一歩踏み出すが、明後日の方向に踏み出している様だ。
「そこで動かないでいて、今、行くから」
ハルヒが消えたライトをかけ直して、そこへ移動しようとするが、イリアの方から、返答がきた。
「大丈夫。一旦、上に出るから」
イリアは言うと、何度か印を結んで、緑色の淡い光に包まれると、ようやく空中に舞い上がり、森の上へと抜けていく。
ヴィクトルはその影を暁の光の中に見つける。
「おーい、大丈夫ですかー!」
「大丈夫、まだ帰るだけの食料持ってるし」
「いえ‥‥そういう問題ではなく」
ヴィクトルが頭を抱えた所で、ロートが声をかける。
「勇ましいのはいいが、リトルフライだとローブの中が下から見えるぜ、気をつけろ」
「きゃー! 見ないで☆」
「暖かい‥‥」
ジェラルディンはアースソウルに抱きしめて良いかを尋ねた上で、精霊という者の触り心地を堪能している。
これも彼女にとっての浪漫であった。
クリスがハートマンと一緒になってイリアから話を聞く。
彼女は『林檎の森』までは順調に来たものの、アースソウルが武器は御法度という話をすっかり忘れてしまっていたのだ。
そこで魔法を突破してムキになって接触しようとした。
しかし、結局、フォレストラビリンスの力で迷わされて、アースソウルの周囲をうろうろしていたのだという。
「多分、泉の側で迷わせていたのは殺す、とかそういう気が無かったからだと思うんだ。保存食はたっぷり持ってきたけれど、水はそんなに持ってこれないし、結局、ムキになって剣を捨てなかったのがいけなかったんだと思うし」
こうして小さな魔女の冒険談は笑い話となって終わった。
男性であり、年齢的にアウトであった、アリオーシュやロートが、アースソウルのこの行為を聞いたのはしばらく後の事であった。
もっともアリオーシュは直接会っていないが、微妙な感じを受けた。ひょっとしたら、会えたのかもしれない。
「どちらかいうと、【契(つむぎ)の妖精】というより、【迷いの妖精】という方が今回の冒険では合っているかもしれへんな」
アリオーシュはそう言って、帰り道、歌を吟じ始めた。
これが冒険の顛末である。