●リプレイ本文
それはオーガのものだ。
ヴィグ・カノス(ea0294)はセブンリーグブーツを履いて先行した森の中、川沿いにジャイアントほどの足跡を発見、分析の後、そう断定した。
知り合いのフェイデルからの伝聞でもオーガの類であることは判るが、どのオーガ種のものかは同定できない。
「しかし‥‥思えば、ガチの依頼は久々だ。この匂い。
懐かしさすら、感じるね。ぞくぞくする。
‥‥きっちり斃して、きっちり生きて、きっちり金貰って帰る!
‥‥それでも、凄い匂いだねぇ、ヴィグ?」
同じくセブンリーグブーツで先行したパトリアンナ・ケイジ(ea0353)はヴィグの携行している“特殊な”携行食の匂いに少々辟易しながら囁く。
「それは俺もだろうパティ姐さん」
やはりというか、なんというかセブンリーグブーツで来ている風烈(ea1587)はパリで買った最早、腐りかけの肉をバックパックから取り出し、その粘つく感触を味わっている。
「この匂いだけで、そのオーガがやってきてもびっくりしないよ。あたしは」
パトリアンナのぼやきに、ヴィグは真面目に返す。
「吟遊詩人のサガでは、そういう事を言うと本当に襲われるのが定石‥‥」
「──まあ、そんな事を言っていないで、足跡があるなら、ここいらが怪物のねぐらに近いんだろう。なら、罠をしかけて手早く、観察に回ろう」
烈はそう言って捨てるように肉を放り出す。
「しかし、こういう地形の分析はデルテさんの方が得意なんだけどな。俺じゃ力不足だけど、この辺なら罠を仕掛けるのにもってこいだと思うな」
「そうですね。私もそう思います」
烈の言葉に同意するクレア・エルスハイマー(ea2884)。こちらは韋駄天の草履だ。
「ですから、ポチさん‥‥でしたっけ? をもう少し退かせた方がいいと思いますよ」
「そうじゃん。下がれよ、ポチ」
セブンリーグブーツ着用のオラース・カノーヴァ(ea3486)は、クレアの言葉を受けて、愛犬のポチに下がるよう指示を出す。
「‥‥草茂る初夏。毒草茂る初夏。やっぱ植物はいいなぁ。ちなみに、今回はヒヨス草+ベラドンナで──」
砒素混ぜてみてぇなあ。殺鼠薬って砒素だっけか‥‥? でも、あれは鉱物であって、草じゃねえからなぁ、パリで実験してひどい目にあった、おかげで解毒剤を一服使っちまったぜ──などとモノローグを混ぜながら、嬉しそうに毒を罠に仕込んでいくのはレティシア・ヴェリルレット(ea4739)。毒草知識は毒草を扱う知識であり、毒物全般を扱う知識ではないのだが、ともかく罠に毒を使いたいがために、パトリアンナにセブンリーグブーツを借りたのは間違いない。
「なんか、撒餌しなくても来る気がすんだよなぁ。
喰う為じゃなくて、殺るために殺してるぜ‥‥めんどくせぇ。
あ、俺は趣味で殺してんだから別」
等と、ジーザスの倫理からの彼岸にいる者らしい、発言をぶちかまし、喜々として戦いを待ち望んでいる。
そこへ──。
「わっはっはっは!! 皆の衆! 驚いたじゃろ!」
半分悲鳴となった叫びと共に、囮となって別行動していた割波戸黒兵衛(ea4778)が山を駆け下りてくる。セブンリーグブーツでなければ包囲されて惨い眼にあっていただろう。
「ま、これだけ、旨そうな獲物の匂いがすりゃ、オーグラだって、下りてくるか‥‥しかし“3匹”か‥‥」
バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)が舌なめずり。
「‥‥予定通りとはいえ、楽しませてくれそうだぜ」
レティシアが毒矢を番えると同時に、クレアも呪文の詠唱に入る。
後ろから迫ってくる3匹のオーグラの影。
「我は導く魔神の息吹!!」
呪文と共にクレアの放った火球が爆風が黒兵衛の後方で炸裂した。巻き込まれるオーグラ達。
「ほら言わんこっちゃない。殿はあたしがやるよ。村まで仕掛けた罠に引っかからないよう、さがりな」
パトリアンナが指を鳴らしてオーグラ達に立ちはだかった。
「おいおい、お楽しみを取って貰っちゃこまるぜ。やろうぜ──殺し合いをよ」
得物の重みを両腕に感じながら、バルバロッサも後陣に立つ。
「まだまだ、毒は残っているじゃん。こっちは趣味だからいいの、いいの」
レティシアが弦を引きながら、毒の様な笑みを浮かべる。
「ここで退く訳にはいかないだろう」
爽やかな笑みを浮かべる烈。
「全く、オトコってやつは莫迦ばっかりだよ」
パトリアンナはぼやいた。
同時刻。村の教会の鐘楼で、シルバー・ストーム(ea3651)は金貨を握りしめ、スクロールのサンワードによって、一番近い、ジャイアント位の大きさで、2本の角とロッドを持った存在に関して、太陽に問い続けていた。
「‥‥感あり。結構近いですね。おーい、鐘を鳴らしてください」
神父が力一杯鳴らす鐘の音は響き、魔法の道具を持っていないため、村へ向かう途中の冒険者達の耳にも急を告げる。
驢馬で急ぐデルテ・フェザーク(ea3412)はその音に焦りの色を隠せない。
「人を襲うようなモンスターを野放しにはできません。早々に退治しましょう」
「安心しろギヨムぼーや。敵は私達が取ってやる‥‥!」
と、アリス・コルレオーネ(ea4792)は言いつつ、愛馬の手綱を引き締める。
一方、人が集まりつつある教会の中でアハメス・パミ(ea3641)はギヨム少年と目線を合わせ。
「『正体不明の怪物』というのは極めて恐ろしい存在です。
しかし、その正体が判明することで、未知なるものへの恐怖は対処可能なものへと変わります。
今、その怪物を見たことがあるのは、ギヨム君だけです。
我々を助けることが出来るのは、貴殿だけでなのです。
彼の目の前で起きた惨劇がどれほどのものか、想像に難くないが、私も愛する人を戦いで失った事があります。だから、それでも恐怖に打ち勝ち、敵のことを話して欲しいのです」
と、訥々に語る。
その愛する人を殺したのは誰であるかを、伏せた上で。
「‥‥駄目だな男は。こういう時、どう声をかければいいか分からないから。
オレがやれることは黙って結果を出すだけだ」
自嘲気味にトール・ウッド(ea1919)が呟く。
しかし──。
「‥‥辛い事、聞いてしまってごめんなさい‥‥。‥‥あなたの家族の仇は私たちが必ず取りますからね‥‥」
ヒール・アンドン(ea1603)は唇を震わせて言葉を紡ぎ出そうとするギヨム少年の言葉の端々から、バルバロッサが言っていたオーグラ説が真実である事を確認する。
「ありがとう。これで私たちも思う存分戦えます」
ギヨム少年を力強く抱きしめると、マリウス・ドゥースウィント(ea1681)は日本刀を抜き放ち闘気を集中させる。彼の決意を表明するかの様に、全身を淡い桃色の光が覆い、士気を高ぶらせる。続けて激しく闘気が迸ると、彼の身を闘気の壁が包んだ。そして、右手の日本刀に闘気が込められ、そして不可視の盾が左手に形成される。
村の周辺にアハメス達が仕掛けた鳴子が盛大に鳴る。
なりふり構わず、守勢に転じた冒険者と、援護に打って出た冒険者達が鳴らした音だ。
村人達も教会へと押し寄せ、混乱の体を見せる。
デルテとアリスもようやく合流した。
「みんなは?」
とデルテがヒールに問えば、アリスも同時に──。
「ギヨムくんは?」
と、尋ねる。
「教会に籠城する人の整理と、オーグラの迎撃に討って出ました。ギヨムくんは立ち直る兆しはあると見ました。いやぁ、ああいう感情の表現法もあるのですね」
ヒールは返す。
「自分は治療役として、教会に詰めますから、皆の加勢に回ってください」
「‥‥よし。気を取り直していこう!」
アリスがガッツを入れると、デルテも休ませる暇もなく、駿馬を駆り立てる。
「畜生、立てアンナ! あと何発耐えられる‥‥‥‥!?」
パトリアンナが自分を奮い立たせる。
腕の筋は引きつれる寸前。自分より巨大なオーグラを投げ続けようとすればそうなる。
「無理すんなよ。俺だったら、全員の攻撃を受けても、かすり傷止まりに出来るぜ。だから、下がりなご老体」
バルバロッサが砕けた歯を血と共に吐き捨てる。
「あ、じゃあ、俺も下がろうかな俺は御年7‥‥」
木の上でレティシアが空っとぼけると、準備した毒矢5本で動きの鈍ったオーグラ達を更に攻め立てようとする。さすがにオーグラは、ミサイルパーリングの様な、都合のよい武術を覚えては居なかった様だ。
酉の奥義で着実にオーグラの体力を削る烈であったが、向こうの反撃も痛烈なものであった。
「いや、仲間を信じよう。俺たちが勇気を無くしてどうする!」
烈が下がらない。
しかし、体力に比例して毒の効力も薄まる。向こうも毒で狂ったカンを取り戻しつつある様だ。
大ガマの術を発動させ、煙に包まれた黒兵衛もガマ助6代目に命令しながら、戦線がバルバロッサとレティシアだけで持っている様な現状に不安を感じる。
しかし、そこへシルバーがスクロールから放った竜巻がオーグラを1体巻き上げる。
地面に叩き伏せられる巨体。
「待たせたな」
そこへ、クレアが付与した炎を纏った武器を持ったトールが、同じく炎に包まれた武器を持った一団を引きつれて、5人に合流する。
その時点からはトールが積極的に攻めに出る。マリウスも続いて炎と闘気のこもった日本刀を振るった。
だが、パトリアンナを積極的に攻撃にする事で、乱戦にもつれ込ませようとするオーグラ達。
パトリアンナもそれをよしとし、自分を的にする事で、相手の背中を仲間達にさらけ出させる。
「そっちは忙しいとさ。こっちを向きな、ご指名だよぉ!」
戦力差が圧倒的に出る。怯んだ所へ、盾を投げ捨てたアハメスがマントで隠した太刀筋でオーガを一刀両断する。
炎の一線が一同の瞼に焼き付く。それほどの鋭い太刀筋であった。
「やれやれ、ここで殺さないのは大人の都合だと思ってください」
アリスが残ったオーグラに高速詠唱の2連射で、アイスコフィンの魔法をかけ、封印する。生殺与奪は思いのまま。
こうして、アリスは見事オーグラを捕獲。
1時間後。準備万端で冒険者達の準備した──毒、闘気、炎の精霊力の籠もった攻撃で2匹のオーグラを撃破したのであった。
こうしてヒールはギヨム少年との約束を果たしたのであった。
パリの都へ帰ると、バルバロッサの友人アルフレッドの紹介で教会で治療を受けられた。
これが冒険の顛末である。