●リプレイ本文
巴渓(ea0167)はパリの街で、値切り倒して購入した大量の青物を愛馬に乗せて、一同を引き連れ、見せ物小屋に向かう。
「そういえばライオンの捕獲もやったな‥‥」
と遠い目をする、レイジ・クロゾルム(ea2924)。
「そういえば‥‥あのライオンは元気ですか?」
それに触発されて、女浪人、薊鬼十郎(ea4004)は見せ物小屋主人に尋ねる。
「まあ、元気と言えば、元気ですが‥‥象でかなりの経費を使ってしまいましてね‥‥前ほどコンディションは良く無いですよ。まあ、象を購入すること自体がバクチでしたからね」
「可哀想に‥‥」
ライオンと追いかけっこをした、熱き日々を思い出す鬼十郎とレイジ。
「私たちも可哀想ですよ。檻の修繕費その他込み込みに咥えて皆さん方の‥‥いや、それ以上は言いますまい」
渓はそんな主人に向かい、ならば自分の分の報酬は要らない、と宣言する。
「象だって、こんな異郷に連れてこられたんだ。娑婆の空気が吸いたかろうさ。
その分、象たちに旨い物を食わせてやるじゃん‥‥まあ、余裕は無いだろうけど、ライオンにもだぜ」
ノリア・カサンドラ(ea1558)は一連のやり取りを聞いて真摯な問いを発した。
「象ってなに?」
シェリル・シンクレア(ea7263)も尋ねる。
「象さんですか〜遠い以前にお見受けしているようなのですが〜どんな動物さんなのでしょうか〜?」
団長曰く、全身砂地の茶色か灰色で、全長5メートル程で、四本脚の生き物。産毛以外は特に全身に毛は生えておらず、つぶらな黒目にかなり大きな耳、鼻は手の様に使えるくらい尻尾の何倍も長く、太く。その両脇に小振りだが牙が生えている。
「そうか──象“牙”って聞いた事はあるけど、それの事なの? それにしても鼻が長いとは面妖だね」
ノリアの脳裏でどんな生物が描かれているかは、記録者には判らない。
「で、象の好物って何?」
「青物全般ですな。植物類なら殆ど何でも食べます。これがまた大食らいでしてね」
「象は本来どんな所にすんでいるの?」
「暑い所だそうです。私も直接買い付けに言った訳では‥‥」
「率爾ながら、わたくしが象と同郷故、ご解説しましょう」
シャクティ・シッダールタ(ea5989)が困った団長に代わって故郷、インドゥーラの解説をする。
更にお国自慢がエスカレートして‥‥。
「インドゥーラには象以外も動物はいますわ。それは、牛とカメですわ!」
「あのノルマンにだって、牛も亀もいます」
とシェリルが困った様に赤面する。
「牛は神聖な動物ですから、インドゥーラでは街中も自由に歩きまわれるのですよ」
「はあ、判りました‥‥」
「だってこの大地は、カメと牛と象が支えているんですもの!」
ようやく言いたい事が終わったようで、シェクティも落ち着く。
「という事で皆様方納得頂けたでしょうか? それでは探索に行きましょう」
そして、ラテリカ・ラートベル(ea1641)は壊された檻を見ると、どーんと衝撃を受けた(本人談)。
「はわ‥‥ほんとに、山くらい大っきいかもです‥‥」
「いやぁ、そんなに大きいのは暗黒大陸の出自の方ですよ」
そして、象の噂を尋ねつつ、パリから旅立つ冒険者一団。
ここで渓の当ては外れた。植物類は保存状態が良くなく、歩いている内に気がつくと、萎れてしおしおになっているのだ。
そして、3日目。
「象‥‥ああ、遠く離れた異郷に我が身ひとつ。その嘆き、我が事の様です」
「そうですか、では私は川沿いからざっと見てきます。何かあれば直に合図を送りますので」
アルアルア・マイセン(ea3073)が不安げ。しかし、一人前の冒険者であるシェクティに待つよう言い置いて姿勢良く馬に乗ろうとする。
と遠方にシェクティが2匹の象の影を発見した。
不安要素は象が何故逃げ出したのか、皆目見当もつかない事である。
「では、皆さんに合図を」
言いながら、アルアルアが早速、集合の合図の青い布を括り付けた矢をヘビーボウで打ち出す。
続けてもう一発。
それを契機に冒険者一同は集合する。
一番、早く着いたのはファイゼル・ヴァッファー(ea2554)とレイジであった。グリーンワードでの植物への聞き込みは、木々の葉っぱを食べていった象の確認をするのに的確であった。
ファイゼルが飼育係に問う。
「よもや、子供が出来たから‥‥という事はないか」
「いや、雌雄ですけれど、話に聞いたところでは、発情すると尿のかけ合いを行うそうですから、そんな事があれば一発で判りますよ」
「そ‥‥そうなのか?」
「だから、話に聞いただけですって」
「愛の逃避行かも‥‥」
「あれが象!? 鼻が蛇みたいだー!」
遅れて遠景から初めて見る偉容にノリアも興奮する。
成る程、見てみれば、団長の言葉と、シェクティの言葉が嘘でない事が判る。
鬼十郎に至っては、あまりの驚愕に貧血を起こし、倒れてしまう。
その間にもエルリック・キスリング(ea2037)は、周囲から人払いをし、象たちを興奮させないよう、細心の気配りを行う。
尋ねた飼育係の弁では人には馴れている──人を見て興奮するようでは、見せ物としては今ひとつであろう──事もあり、子どもたちなどが見に行こうとするのを懸命に止めている。
「ほら、行かないで、落ち着いている象が暴れたら、大変だろう?」
「ええ!? 暴れるの? 見たい見たい!」
(これだから子供は‥‥)
「代わりに一曲弾いてあげよう、それで勘弁してくれ」
仕方なく、リュートベイルを取り出し、適当にベンベンと一曲弾いてみる。
「ええ、一曲だけ?」
「じゃあ、もう一曲」
貴族の嗜みで、歌舞音曲に通じている事もあり、エルリックはにわか吟遊詩人と化していた。そこは本業のバードであるラテリカと優雅な舞いを繰り広げるアルアルアも加わり、完全に子どもたちの注意を惹きつける。
そこへオカリナ片手に、自分も一緒に曲に参加したい心を押し殺すリューヌ・プランタン(ea1849)。
「無事に保護できたとしても、その原因を取り除くことができなければ意味はないと思うのです‥‥」
飼育係に尋ねてみる。
「さあ、とんと見当がつきませんので。騎士様のおっしゃる事は最もですが、魔法使いでもないので、こちらもさっぱり」
「しかし、あれが象‥‥大百足は見たことありますけど、また違った迫力ですね。目はとっても優しい感じです」
「大百足ですか、そちらの方が、見せ物小屋としては客受けはしそうですね。世話の方法はとんと見当がつきませんが」
相づちを討つ飼育係。それにリューヌは不敵に微笑み。
「大百足は毒を持っていたりで、捕まえるだけでも結構、骨でしたよ。でも、今の自分なら判りませんけれど」
と告げる。
象が落ち着いてるのを確認し、レイジは近づき、スクロールをおもむろに広げ、念じる。
魅惑された象の一頭は、そのままレイジの方に向き直る。
そして、次のスクロールを取り出し、精神での会話を試みる。
その頃には状況も安定したと見なして、ラテリカも歌と共に銀色の淡い光に包まれる。
「うわー、キレイ、魔法みたい」
「いえいえ、これ本物の魔法ですよ」
苦笑いするリューヌ。
(何故逃げた? ライオンに入れ知恵でもされたか?)
レイジがテレパシーでリンクした象と会話する。
(ライオン?)
象の思念は整理されておらず、会話らしい会話にならない。
(違うか、チッ。もう一度聞く、何故逃げた)
(耳の中痛かった)
(虫でも入ったか?)
(そう)
(ひょっとして、耳の中を虫に刺されて、それで興奮して暴れたのか)
(‥‥そうかも)
「飼育係の人、虫が耳に入って暴れたらしいぞ」
「いやぁ、それは困りましたね。虫も入れないほど、閉めきったら、お客さんに見せるには、檻から出さないといけませんし」
「おためごかしはいい。対処できるかどうかだ? ウィかノンかはっきりさせてもらおう」
「対処しましょう」
その言葉を受けてラテリカは──。
(ですって、沢山、お食事できるところへ帰りましょう♪)
(うん、帰る)
彼女の方は、レイジの会話を受けてスムーズに話が進んだようである。
こうして無事に交渉は進み、渓の持ってきたシオシオになった果実を食べ、手打ちとなった。
落ち着いた所でノリアは産毛が幽かに生えているだけの、皮膚を撫でてみる。
「案外ひんやりしていますね」
「小屋に戻るまでの間、背中に乗せて欲しいのですが‥‥良いですか?」
鬼十郎の言葉を、レイジが仲介して彼にメロメロになった象に頼み、鬼十郎と、ラテリカは背中に乗せて貰い、パリへと帰還の旅路につく。
「すごい、すごーい! ラテリカ、ジャイアントさんになったみたいですー♪」
遥か彼方まで見渡せる。視野が文字通り変わったと言ってもいいだろう。
「あ、立ちくらみが‥‥」
鬼十郎が落ちかかるのをラテリカは懸命に支える。
「だめです、落ちたらしんじゃいますー」
「案ずるな‥‥死ぬならいくさで、そう決めている」
立ち直る鬼十郎。
じゃあ、一曲行きましょうか、とリューヌ。
「こう見えてもショコラガールズの演奏担当ですから‥‥何がいいでしょうか」
子どもたちをつれてエルリックが苦笑いする。
「それより、この子どもたちをどうにかしないと、宣伝どころか人さらいの集団になってしまいますよ。何しろパリまで3日かかるんですから」
「しかし、こんなに大きくてもやっぱり怖かったんでしょうね。ともあれ無事に捕縛できて何よりです」
アルアルアが象の無事を喜びながらも、一同はパリへと辿り着いたのであった。
象の檻の改造が成されたかは定かではない。
これが冒険の顛末である。