●リプレイ本文
すぱこーん!
事件はパリで始まった。ちなみに今の音はロヴァニオン・ティリス(ea1563)が神聖騎士のリックをハリセンではたこうとした音である。
リックへの一撃は華麗な脚捌きで避けられ、道路をはたくのみ。
「オーラパワー、オーラエリベイション、スマッシュEXハリセンアタック! ‥‥やっぱたいしたことないな〜。
ともかく、ナンパしてる場合か? そんなだから女に逃げられんだよ」
高速詠唱でオーラパワーとオーラエリベイションを続けざまに唱えてからの猛撃であった。しかし──。
「当たらなければどうという事はないのですよ。それにノルドを修めた相手に対して、大技で攻めるとは笑止千万。あなたに足りない物、それは! 情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そして何よりもー! 速さが足りない!!」
(婚約者がありながら、見境なしに女にコナかけまくるとは。まさに女の敵だ。‥‥俺は怖くてそんなマネできねぇ。こいつは女の扱いが上手いように見えるが、本当の女の怖さを知らんのだろう)。
ロヴァニオンは彼の言動に恐怖した。
脳裏で、ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(ea7209)の姿を思い浮かべ、ロヴァニオンは彼女に手を出さない様、つい口を出す。
返答は‥‥。
「私は異種族で、しかも年下の相手に興味はありませんよ」
「圏外か?」
「圏外です」
言ってロヴァニオンとリックは冒険者ギルドに入り、知った顔のリスターが居たので、そこから最近の情報収集をする事にした。
レティシア・ヴェリルレット(ea4739)は地道に調査しようとするが、ギルドの情報漏洩に関するチェック体制の厚さの壁に突き当たった。
「レアが誰をやとっていったかが問題だな。まさかギルドで聞き込みするたぁ思わなかったぜ」
それを聞いて、やはりギルドに来ていたロゼッタは。
「事件に巻き込まれたかもしれないですって?
でも、そのレアさんは旅支度をして最後はギルドで見かけられたのよね」
「そうだな、レアはギルドに来ていた訳だな。
ギルドに来る理由は2つに1つ。冒険者となって依頼を請けに来たか、依頼者として依頼を出したかではないか」
姚天羅(ea7210)は薄化粧を施し、女性に見える面立ちでそう呟いた。
しかし、彼は今日は化粧のノリが悪いのか、リックには手ひとつ握られなかった。
閑話休題、ロゼッタ曰く。
「旅支度をしていたっていうことは、最初から何処かに出かけるつもりだったのではないかしら?」
「体格と服装と装備で、職業なんかと‥‥あとは人数くらいは掴めるか?」
レティシアが筆頭となって、聞き込みを始める。
まず一人目。潰し合いの魔女、セシリア・カーター。
次に無冠なれどパリで一、二を争う名声を持つ、ロックハート・トキワ。
剣術大会優勝者のシルバー・ストーム。
ミトン・オブ・ミトンのカレン・シュタット。
闇の調理人、割波戸黒兵衛。
冷厳なる魔女、アリス・コルレオーネ。
鉄壁、バルバロッサ・シュタインベルク。
三度笠の影 荒巻源内。
どれも一癖二癖ある面々である。
「こんなのと戦うのかよ──燃えるじゃん」
レティシアは高ぶりを感じた。
リックの館で冒険者一行は、部屋を借り切り、リックもシャットアウトして、会議に入っていた。
「とりあえず‥‥レアがギルドにいたってことは‥‥強盗、誘拐の線は薄いよなぁ」
なんとなーく理由はわかったんだが、とレティシア。
「レアさん失踪の原因は、リック卿の軽薄な行動に寄るものでしょう。
最後に冒険者ギルドで最後に目撃されているなら、護衛を雇ったはず。山賊から身を守るためというより、リック卿を撃退するためという気がいたします。
リック卿を囮にすれば、護衛の冒険者の妨害を避けてレアさんに接触できそうです。
依頼は『レアさんの捜索』で、幸い『リック卿の護衛』は含まれておりません。
リック卿に反省を促すためにも、レアさんの心の健康のためにも、リック卿には多少痛い目を見てもらいましょう。
これも“大いなる父”の与え給うた試練の一つです、きっと」
13才とは思えない達観振りで、シクル・ザーン(ea2350)は一同の方針を決定した。
「全くどうしようもない馬鹿ボンだな。
女好きは別にかまわんが、全ての女に文句を言わせない位の器量もない奴が、調子に乗ると、こんなことになるわけだ」
クオン・レイウイング(ea0714)が毒づくが、誰もリックをフォローする者はいない。
それらの糾弾会が終わって、マリウス・ゲイル(ea1553)がリックを招き入れると、集めた情報の真偽などの分析が始まるが、クオンが集めた情報の中には、明らかに矛盾する物があった。
例えば、冒険者ギルドで人を集めていて、自らも駿馬を持っているにも関わらず、レアの名前が遠距離馬車の所で出てくるのはおかしくないか?
「レアさんのフェイントでしょうかね?」
マリウスが半信半疑で誰にともなく問う。
「彼女が馬を持っていなければ、五分五分でしょうけれど、馬を持っている以上、おかしいかと」
シクルも根拠無さ気に応える。
「どうも、それを言ったのは華国人か、ジャパン人っぽい話だったな。冒険者をやっていると、こちらに来ている彼らが如何に少ないかを、つい忘れてしまう」
頭を掻きながらクオンが応える。
ラックス・キール(ea4944)も門番を訪ねて回ったが、少なくともレアは3回は城門を出て、しかも、それを見たのが門番のひとりだけ、詳しく聞くと、門の近くで、スクロールを広げ、何か唱えていた男がいたという、怪しさ大爆発な現象に突き当たった。
詳しく聞くのは朝が明けてからにしても、ここまで露骨に誘導がされているとなると、胡散臭さを感じてくる。
「まぁ、それはともかく婚約者の無事は確認しないとな。最近はアサシンやら、デビルやら物騒だ。
洒落にならない事にならないうちに早く見つけないと」
「では、私は若輩の身ですので、ロヴァニオンさんのハリセンをも避けきったリック卿にレア様への『愛のため』同行して頂くとして‥‥」
「うむ、宗派は違えど、頑張れ少年よ。後方支援に徹してくれるのだな」
「できるだけ頑張ります」
少々心が痛むが、これもリック卿の為、と割り切ろうとシクルは涙を堪えるのであった。
だが、残念な事にレアは既に発った後であり、彼の意図であるレアへの接触は実現しないのであった。
結果はただ、シルバーの作ったマジカルミラージュを追いかけていくのみ。
「マスカレードを着けてフードを目深に被った女性だって、それは怪しい」
天羅は門番から、怪しい人間は通らなかったか? という問いに対して、その様な反応が出てきたのに驚きつつ、その門から通じる道を一同に知らせると、皆、各自の馬や、魔法の道具でひた走った。
リックに、ロヴァニオンが一応、護衛という形で随行する以外はバラバラに進む。
数日後。大きな道で一同は、視界内に、レア達と思しき一団を捉えるのであった。
その一団で、桃色の淡い光に包まれながら、ラックスは叫ぶ!
「リックさんから依頼された者です。助けにきました!」
それに呼応してバルバロッサは絶叫!
「人攫いめ、お嬢さんはわたさんぞ!」
叫びながら、桃色の淡い光に包まれるバルバロッサ。
一方で淡い赤い光に包まれるロゼッタ。握った灰が彼女の命じるままに、レアに向かい突き進む。
アリスは不敵な笑みを浮かべて‥‥その灰人形を蔑視する。
「教えてやろう‥‥冷厳なる魔女の所以をな‥‥! 吹き荒れろ‥‥白夜に舞う、白銀の風! アイスブリザード!」
刹那の間、淡い青い光に包まれたアリスの放った氷雪が吹き荒れ、一瞬の内にロゼッタの分身はかき消される。
「招来、ガマ助!」
印を結び、詠唱と共に、煙に包まれた黒兵衛が叫ぶ! そこへ、次の瞬間同じく煙に包まれた源内が一瞬の内に十数メートルの間合いをリック側へ侵略。狙撃しようとしたレティシアの弓の間合いを盗む。
「‥‥陸奥亜流。 ‥‥駿動瞬歩。」
「邪魔すんなよ! 俺にもやらせろ!」
一方、天羅とマリウス、そしてラックスが黒兵衛のガマ助を見事な一撃で斬って落とすと、次の詠唱をする黒兵衛の邪魔をさせまいとするバルバロッサはマリウスの前に放胆にも身を晒す。
「このくらいで驚いてんなよ。隙だらけだぜ?」
と、あくまで重装備のコナンという鬼子のスタイルを堅持したまま、堂々と戦う。
「‥‥鉄壁──か」
迂闊に攻めれば、一撃必殺の返し技が来るだろう。
(返し技はこちらも同じ‥‥だが、こっちから攻めても防御を高めつつ、カウンターを返す余力はない──どちらかに絞らねば‥‥どっちだ?)
あせるマリウス。だが、攻めねば、戦況は変わらない。
3人の間に緊張が高まっていった。
ロゼッタはリックに囁く。
「ほとんどの女の子はね、たった一人の好きな人にずっと見ていてもらいたいものなのよ。
だから、本当に心から好きなんだったらレアさんの事を抱きしめてあげてね。それでたいていの事は許せちゃうのよ」
「そ、それでいいのか? そんな簡単な事で」
「その簡単な事をやってあげた?」
「‥‥」
リックは馬を前に進み出させた。ロヴァニオンが続く。
「レア!」
「リック! 追ってきたの!?」
婚約者同士がお互いを視認した所へ、レアの傍らにいたカレンへ緑色の淡い光が集中していく。
「戯れ言を! 女の敵ですよ」
そのまま『沼の守護者・風』と称された、彼女の雷が鉄槌と化して、リックを打ち据える。詠唱にかかる10秒のタイムラグで、辛うじて向けたシールドによってダメージを最小限に防いでいたのが幸いだった。
アリスがイリュージョンのスクロールを取り出し、バックパックを投げ捨てた。
黒兵衛が敢えて忍術を取りやめ。
「なるほど。レア殿はなかなか気丈なところがあるな。
結婚を前に婚約者の悪い癖を直したい。そのためにびっくりさせて考えを改めさせようと。気になるのはきちんと言葉で『“悪い癖”を直して欲しい』と伝えたのかの?
世の中鈍い者は大勢いる。話からすると‥‥そのリック殿はレア殿の気持ちに対して少々鈍いような気がする。
すでに定まった婚約者だからと無視するというのではなさそうじゃが」
「そ、それは‥‥」
「ホーホッホッホッ! そんな男性中心の理論が私に通じると思って? やっぱり、あなたも男ね」
アリスの高笑いと同時に、スクロールからブラックボールが生成された。
「そうよ。あなたに追いかけて欲しいから、私は逃げ出したのよ! だから、これ以上ギルドの人達を戦わせるのは止めて!!」
「だ、そうだ。どうする依頼人?」
と、ロックハートがリックにナイフを突きつけようとするが、ロヴァニオンがハリセンを持って立ちふさがった。
ロヴァニオンが馬上からピタピタとロックハートの頭をハリセン叩く。
「悪いな坊主。だが、これも依頼人のご意向で、つーか俺の趣味だ」
同じくセシリアが、クオンがレアの背後に立ったのを自らの闘気と体とで阻んでいた。
「どちらも考えは同じか‥‥」
「聖なる母の名に賭けて、休戦を申し出る!」
ラテン語で、リックの声が響き渡った。
ロゼッタがそれを一同に翻訳する。レアの受諾も一緒に。
そして、リックは馬上でレアを抱きしめる。
「おいおい、俺の出番はなしかよ!? ツマンねーの!」
レティシアがふて腐れたように唸った。
同じくマリウスも乾坤一擲の大博打に撃って出ようとした気を削がれた。
そこまで行って、道を通り過ぎようとしていた旅人がようやくざわめき始める。
「──で、結局皆さん、カンまで行って、レアさんの乳母に会って来たという訳ですね?」
パリで保存食の干しリンゴを受け取りながら、シクルは唸った。
「ともあれ、門番の人にはレアさんとリックさんの家で謝って、有耶無耶にする。ついでにリックさんについていた方は全員、食料の補填をしてもらった訳ですね」
そういう事とロックハートが干しリンゴを囓りながら応える。
「結局の所、痴話ゲンカに付きあわされた訳ですね。お仕置きも無し。大いなる父よ。パリはまだ平和のようです!」
パリで事件は終わった。
これが事件の顛末である。