●リプレイ本文
『依頼人の婚約者マルガリータの貞操を守る事』が達成目標である。
となれば、誘拐したのがヒトであれミノタウルスであれなるべく早く救出する事だ。
ミノタウルスの習性からすれば正に時間との競争になる。
「ミノタウロスの特徴かね? 今言った事とギルドでレクチュアされた事以外に特に示す事ないものだ。だから早馬車を仕立ててもらったのだ」
コトセット・メヌーマ(ea4473)は依頼人が特別に仕立ててくれた早馬車の中で一同に自分の知識を披露する。
「強いて言うならば猪突猛進といった所か、牛なのに異な事だが」
クオン・レイウイング(ea0714)は焦れた様に尋ねる。
「いや、そういう事ではなくて、弱点とか」
彼の問いにコトセットは鷹揚に言葉を返す。
「何、あなたの腕なら目玉を射抜く位造作は無い事だろう、弱点は人間と一緒だ」
「簡単に言うな」
「お互い死線を潜った中だ、それくらいは判るよ」
その他、細々とした生活習慣を聞き、カノンの焦燥は収まった。
「備えあれば憂い無しってやつだな‥‥しかしパワー系にも程があるぞ、このミノ助」
とはレイリー・ロンド(ea3982)の弁。
「とにかく化物に貞操を奪われるなんて自分がその立場だったらとてもじゃないけど生きていられないよ。
こうなったら何としてでもお姉さんを助け出さないとね」
セルフィー・リュシフール(ea1333)の義憤とは対照的に、エルド・ヴァンシュタイン(ea1583)は毀れそうになるインク壷を抑えつつ──コトセットの言葉を書き連ねようとするが馬車が最高のスピードで移動して揺れている故、字も乱れ気味である。、
剣も魔法も発展途中の神聖騎士アトス・ラフェール(ea2179)が撥ねてくるインクを避けるのに精一杯となる。
「すまんな」
「いえ、でも後で読ませてくださいね」
「まぁ、掻っ攫うのは兎も角合意無しってのはナァ‥‥」
周囲の気配を紛らわせるつもりで言ったつもりらしい、ウィレム・サルサエル(ea2771)の言葉に一同の、特に女性陣から殺気の篭った視線が投げかけられる。
「女の敵です、生かしては置けません! 近寄らないでください」
カレン・シュタット(ea4426)は断言し、視線も合わせようとはしない。
「その言葉、もう一度言ってもらえる?」
一語一語とゆっくりと李 斎(ea3415)はウィレムに問い直す。真剣な表情で、反駁を許さぬ迫力で。
サーシャ・クライン(ea5021)は軽率な発言をした彼に言葉よりも雄弁な軽蔑の視線を投げかける。
「まあまあ、中にはこういう反語的ってやつ? でしか自己主張できないのもいるんだから、ちょっとは多目にみてやりなよ」
今までは鼻歌を歌っていたものの、シャレにならない事態に、レティシア・ヴェリルレット(ea4739)が喋るのにいい機会が出来たとばかりに適当な弁護をする。
「まあ、コトセットには散々脅されたけど、所詮は力押ししかできないオーガでしょ? 頑丈そうだからそれなりに手は打つけど、あたしの敵じゃないわ」
斎はそう断言するが、ドワーフである彼女の背負った太刀が如何にもアンバランスであった。
「‥‥ふっ。結局、こういうトコにいるんだよな、俺。
今回の戦いは血みどろって‥‥血腥いのはいつもだろうが。
それが楽しくてここにいるんだしなぁ。俺は」
とレティシアは馬車から降りると不敵な笑みを浮かべる。
「さぁって、今回もお仕事に頑張りますか」
(‥‥命は惜しいけどな!! 次がねぇだろ、死んだら!)
と物思いに耽っていると、村人の怒声が上がった!
エルドが村に到着したら最初に依頼人に使用はなるべく最小限にとどめる事、後始末は自費で行う事を前置きに、ミノタウロスとの戦闘になった場合、火の魔法を使う事を伝えたのだ。
「何だって? 森の中で火を放つって! 正気か?」
「あんた、何処かの貴族様か? 森が焼けたら元に戻るのに何年かかるか判らないんだぞ、それまでこちらの生活にも関ってくるんだ。やめてくれ!」
財布を振っても軽い音しかしないエルドでは到底、説得力は無かった。
ジョセフ・ギールケ(ea2165)が追い討ちをかける。
「山を焼くときは犬文字焼きにしとけよ」
彼のジャパン知識は中途半端な又聞きの又聞きであり、余程良い仲間に恵まれていたというのが良く判る発言であった。
「あ〜あ。エルドはどうせ私のことなんてどうでもいいんだよな。すぐ忘れるもんな」
おまけに班分けの際に自分の事が忘れられていた私怨も混じっていたようだ。
単なる天然という説もあると、付記しておく。
「大丈夫です。火を扱うものは、その御し方も知っているものですから──」
と、ユリア・ミフィーラル(ea6337)が炎を華麗に扱うウィザードの話を自らの知識の中から引っ張り出し、ひとさし朗じると、村人の心情も緩み、炎の扱いには注意して下さいレベルにまで話は落ち着く。
尚、ファイヤーボムは余程、燃焼しやすいもので無い限り、火は燃え移らない。『爆風』を生み出す呪文である。
「俺には必要ネェからな。ま、頑張れよ魔法使い‥‥」
とウィレムがエルドにソルフの実を渡す。せめてものエールだろう。
一同が二手に分かれて探索を始めると、山のあちこちに蹄の後が残され、それほど深刻に探索するものでないと、山に関して少し齧っただけのバルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)にも判った。
「ならば、話は早い。一丸となって攻め込むべし」
と、コトセットが戦力分散の危機を恐れて、一同に檄を飛ばす。
そして、見つけた終着地点。如何にもな洞窟である。
だが、重装甲の面々は隠密性を損ない、中から突撃してきたいい一撃が斎を直撃してしまう。角の凶暴さを明かす様に血が滴っていく。
「ふ、やるわね」
突撃により威力は倍増。
だが、斎はその突撃の隙をついて、太刀で斬りかかり、血を流す。
それ以降は大乱戦であった。バルバロッサの攻撃は軽くあしらわれ、欲情に燃えた目で斎を襲おうとするが、楯で受け止められ、太刀での切り返しが激しい出血をもたらす。
高価なポーションが飲み下され、傷が塞がる一方で、また新しい傷が重ねられていく。激しい消耗戦。
そこへ、レティシアがどけと叫ぶ。
前衛が下がった隙をついて──。
「新しい毒を試させてもらうよ!」
濃縮したニコチンを塗りこんだ矢を射込むが、即死する様な効果は無いようだ。やや神経がやられたのかふらつき始める。矢尻に塗りこめる量では限度があった様だ。
だが、間隙を突いてアルルの稲妻が打ち込まれ、リュウガが洞窟の入り口をホーリーフィールドで閉鎖する。
エルドもファイヤーボムを打ち込んだが、その破壊力の余波でホーリーフィールドは破壊されてしまう。
更に右目にクオンの精密な矢が突き立つ。
雄叫びを上げミノタウロスが逃げようとすると、後ろからジョセフが想像する所の重装部隊が突撃してくるような音を出す。そちらにミノタウロスが注意を逸らされた所で、
「今の内だ! 連れ出せ!」
双剣を手に奮戦するレイリーの声にコトセット達が、マルガリータ嬢を救出に向かう。
服装の乱れなど無いが、やや放心した体のマルガリータ嬢を発見した。
「助けに来ました。今の内に。もっとも、ミノタウロスはじきに討ち取られるでしょうが」
いい加減体力のつきかかったミノタウロスの背後で横笛の旋律が流れ、銀色の淡い光が収束する。
ユリアのスリープであった。
抵抗力の落ちたミノタウロスは呆気なく眠りに落ちる。
一同は足音を殺して、ミノタウロスを包囲すると、起きる暇を与えず、滅殺したのであった。
こうして婚約者たちは絆を取り戻し、冒険者たちに感謝するのであった。
「結婚式の時は皆さんをお呼びしますね。それにこれでミノタウロスの危機もなくなりましたし、山の作業も安心になります」
「やっぱり、犬文字焼きを‥‥」
この期に及んで、まだ言っているジョセフであった。
全ての任務が果たされ、ボーナスも出た。
これが冒険の顛末である。