十字を切るぜ──信じる事が私達の誓いさ

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 8 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月27日〜07月12日

リプレイ公開日:2005年07月04日

●オープニング

 パリの冒険者ギルドで、銀のロザリオに質素な旅装束。しかし、如何にも、銀のスプーンを咥えて生まれてきたかに見える振る舞いの女性が受付の老爺に向かい、少々大声で依頼をする。
「すみません、ちょっと婚約者が無節操ぶりに、私がいかに怒っているか思い知らせてあげようと思いまして、パリの郊外、馬で3日程行った所にある私の乳母の家までの護衛を少数精鋭で雇いたいのですが」
「はあ、それは大変な事で、で、ご予算はどれほどで? おっと、その前に名をお伺いしませんで」
「失礼──レアと申します。できれば、編成はファイターやナイト、それに神聖騎士、ウィザードやクレリック等幅広く。あくまで道中の護衛を旨としたものとしたいのです」
 言い終わると、受付は黒板とチョークを出す。
「はい、子細は契約書を作りますので、こちらに行き先などもう少し詳しくお話ください」
「そうですね、落ち着いて整理しませんと。あの不埒の行いを思い出すとつい平静を失ってしまって」
 それと、と言い置いてレアは受付に問いかける。
「ひょっとしたらフィアンセが追ってくるかもしれませんので、その妨害というより、きついお仕置きもお願いしたいのですが?」
「それは、また冒険者達への給与に響きますな」
「委細承知。とにかく神聖騎士でありながら、彼の素行は目に余ります。特に女性関係が」
「ご了解いただければ結構です」
 こうして、レアのパリからの脱出作戦(?)が展開されるのであった。
 新たな冒険の扉が開かれる。

●今回の参加者

 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea4778 割波戸 黒兵衛(65歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4792 アリス・コルレオーネ(34歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4857 バルバロッサ・シュタインベルグ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 ea7363 荒巻 源内(43歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

リスター・ストーム(ea6536

●リプレイ本文

 全てはパリの街から始まった。
 貴族の娘、レアが、婚約者のリックにお灸を据えたいが為に目論んだ旅、西のカンにいる乳母の所まで、送り届けるのが冒険者たちに課せられた任務であった。
 レアが滞在する宿の部屋を借り切り会議が行われる。
(‥‥此度の依頼人は女性‥‥か)。
 人知れず、三度笠の奥で荒巻源内(ea7363)の目が光る。
(‥‥‥‥いや、いかん。動機無く、心無く、己なし。あるのはただ成すべき事のみ。‥‥それが『忍者』だ)。
 落ち着いた彼は意見を述べる。
「俺の意見としては、開けた道を使うべきではないか? 下手に待ち伏せされるより、敵が来ると判った方が何かとやりやすい」
 源内の言葉に、左眼を深紅に煌めかせながら、ロックハート・トキワ(ea2389)もそれに同意する。
「俺も賛成だ。で、ちょっとしたジレンマとして、俺の鷹を飛ばして、偵察にしようとしたが、俺たちがギルドで突き止めた情報を直接、鷹へ教え込む事が出来ない以上、開けた道を使ったら、のべつくまもなしに、こちらへ降りてきて、以下略でいいな」
 源内の首筋を冷たいものが流れ落ちる。
(しまった、開けた道だとそういうオチが待っているか?)
 セシリア・カータ(ea1643)はたおやかな物言いで──。
「夜は順番で見張りを用意しておくことを提案しておきます。女性の敵ですか‥‥神聖騎士ともあろうものが情けない。少し痛い目にあってもらったほうがいいですね。
 敵についているのも言い方次第でどうとでも取れるでしょうから、都合のいい依頼をしてこちらに対抗するでしょうね。
 時間をうまく稼がないといけませんが自分にとっての得意分野とはいえないでしょうし‥‥」
 そんな彼女のうなじに息を吹きかけ、驚かせる割波戸黒兵衛(ea4778)。
「どうだ、おどろいたじゃろ? とりあえず、策として、遠方に行く馬車乗り場で、レア殿の名前をそれとなく出しておいたのじゃ。相手が小利口なら引っかかるじゃろう」
 カレン・シュタット(ea4426)もそんな黒兵衛を横目で見ながら──。
 アリス・コルレオーネ(ea4792)もカレンのリックは女性の敵という意見に同意する。
「女性の敵という感じの相手ですね。
 向こうについている人間がどれだけ嫌がらせが得意なやつらが出てくるかわかりませんが、手加減なしの魔法で戦闘不能にしてあげます」
「ワ、ワシもか?」
 黒兵衛の言葉に、冷たく視線を逸らすカレンとアリス。
「さて今回は‥‥依頼人を連れ戻して来た者達に容赦なく「アイスブリザード」をブチかまそうかな。
 一応仲間を巻き込まんように声は掛けるが‥‥まぁ、ロックハートとかならいいや」
 ロックハートは、この時点で、逃げを打つ戦法に決めておいて良かったと胸をなで下ろした。
 一方、シルバー・ストーム(ea3651)も策として、マジカルミラージュを出立時に遠方にかけておき、相手が蜃気楼が見えなくなる1キロ圏内に入るか、さもなくば夜になるまで少しでも時間を稼ぐ事にした。
 シルバーの悪友であるリスターも、ギルドで聞き込みをし『偶然』会った悪友から、相手の全貌を聞き出していた。

“黒衣の狙撃手”クオン・レイウイング
“酒と友に生きる酒豪”ロヴァニオン・ティリス
“ゼロダイバー”シクル・ザーン
“セイラムの友”ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ

 他にもマリウス・ゲイル、姚天羅、レティシア・ヴェリルレット、ラックス・キールといった無冠の実力派が揃っている。
 ちらりとリスターの方を見るロックハート。
「女癖が悪い男‥‥‥‥‥‥しっかりやろう。
 ところで、俺は巷で噂のヘタレンジャーとかじゃないからな」
 言いながら、ロックハートはマスカレードを出して、レアに門を潜るとき、付けるようにと促す。
「あの‥‥こんなものを付ければ、怪しいと絶叫しているようなものだと思いますけど‥‥」
「要は気の持ち様だ」
 ロックハートは言って彼女に押しつけた。
 バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)は一同の苛烈なばかりで前に進まぬ態度に業を煮やした。
「ええい、一番近い門から、ぱぱっと出れば良いだろうが。時間との勝負なんだぞ、100%誤魔化せないし、どうせ2、3日したら真実をつかんで追いかけてくるとは思うけどな」
 一同は裏工作をするリスターを残して即刻、整えてあった旅の荷物を身につけた。

 パリを出て数日。
 一同は適当に散開して、野営の時のみに3交代制の班を組んでいる。この隊列の中で、ロックハートが常に女性陣より先行しているのは置いておくとしよう。
 後ろからハリセンを持ってリックに追従するロヴァニオンと、周囲を囲むように、数人の冒険者が迫ってくるのが見て取れる。

 その一団で、桃色の淡い光に包まれながら、ラックスは叫ぶ!
「リックさんから依頼された者です。助けにきました!」
 それに呼応してバルバロッサは絶叫!
「人攫いめ、お嬢さんはわたさんぞ!」
 叫びながら、桃色の淡い光に包まれるバルバロッサ。
 一方で淡い赤い光に包まれるロゼッタ。握った灰が彼女の命じるままに、レアに向かい突き進む。
 アリスは不敵な笑みを浮かべて‥‥その灰人形を蔑視する。
「教えてやろう‥‥冷厳なる魔女の所以をな‥‥! 吹き荒れろ‥‥白夜に舞う、白銀の風! アイスブリザード!」
 刹那の間、淡い青い光に包まれたアリスの放った氷雪が吹き荒れ、一瞬の内にロゼッタの分身はかき消される。

「招来、ガマ助!」
 印を結び、詠唱と共に、煙に包まれた黒兵衛が叫ぶ! そこへ、次の瞬間同じく煙に包まれた源内が一瞬の内に十数メートルの間合いをリック側へ侵略。狙撃しようとしたレティシアの弓の間合いを盗む。
「‥‥陸奥亜流。 ‥‥駿動瞬歩。」
「邪魔すんなよ! 俺にもやらせろ!」

 一方、天羅とマリウス、そしてラックスが黒兵衛のガマ助を見事な一撃で斬って落とすと、次の詠唱をする黒兵衛の邪魔をさせまいとするバルバロッサはマリウスの前に放胆にも身を晒す。
「このくらいで驚いてんなよ。隙だらけだぜ?」
 と、あくまで重装備のコナンという鬼子のスタイルを堅持したまま、堂々と戦う。
「‥‥鉄壁──か」
 迂闊に攻めれば、一撃必殺の返し技が来るだろう。
 だが、攻めねば、戦況は変わらない。
 3人の間に緊張が高まっていった。

「レア!」
「リック! 追ってきたの!?」
 婚約者同士がお互いを視認した所へ、レアの傍らにいたカレンへ緑色の淡い光が集中していく。
「戯れ言を! 女の敵ですよ」
 そのまま『沼の守護者・風』と称された、彼女の雷が鉄槌と化して、リックを打ち据える。詠唱にかかる10秒のタイムラグを使い、辛うじて向けたシールドによってダメージを最小限に防いでいたのが幸いだった。
 アリスがイリュージョンのスクロールを取り出し、バックパックを投げ捨てた。
 黒兵衛が敢えて忍術を取りやめ──。
「なるほど。レア殿はなかなか気丈なところがあるな。
 結婚を前に婚約者の悪い癖を直したい。そのためにびっくりさせて考えを改めさせようと。気になるのはきちんと言葉で『“悪い癖”を直して欲しい』と伝えたのかの?
 世の中鈍い者は大勢いる。
 話からすると‥‥そのリック殿はレア殿の気持ちに対して少々鈍いような気がする。
 すでに定まった婚約者だからと無視するというのではなさそうじゃが」
「そ、それは‥‥」
 リックは動揺する。
「ホーホッホッホッ! そんな男性中心の理論が私に通じると思って? やっぱり、あなたも男ね」
 アリスの高笑いと同時に、淡い茶色の光が収束し、スクロールによりシルバーの頭上に黒い球が生成された。
(さて、残るは得物を交えての勝負だけですね)
 それでもレアは叫ぶ。
「そうよ。あなたに追いかけて欲しいから、私は逃げ出したのよ! だから、これ以上ギルドの人達を戦わせるのは止めて!!」
「だ、そうだ。どうする依頼人?」
 と、忍び寄ったロックハートが、リックにナイフを突きつけようとするが、ロヴァニオンがハリセンを持って立ちふさがった。
 だが、どちらにしてもロックハートの体格では馬上のリックには届かなかったろう。
 ロヴァニオンが馬上からピタピタとロックハートの頭をハリセン叩く。
「悪いな坊主。だが、これも依頼人のご意向で、つーか俺の趣味だ」
 同じくセシリアが、クオンがレアの背後に立ったのを自らの闘気と体とで阻んでいた。
「どちらも考えは同じか‥‥」
「聖なる母の名に賭けて、休戦を申し出る!」
 ラテン語で、リックの声が響き渡った。
 ロゼッタがそれを一同に翻訳する。レアの受諾も一緒に。
 そして、リックは馬上でレアを抱きしめる。抱きしめ返すレア。
「皆さん、戦いはおわりだそうです。見ての通り、レアさんも納得しました」
「おいおい、俺の出番はなしかよ!? ツマンねーの!」
 1本の矢を射る間もなかったレティシアがふて腐れたように唸った。
 そこまで行って、道を通り過ぎようとしていた旅人がようやくざわめき始めた。

「──で、結局皆さん、カンまで行って、レアさんの乳母に会って来たという訳ですね?」
 パリで保存食の干しリンゴを受け取りながら、パリ中を飛び回っていた──不在の証明は難しい──シクルは唸った。
「ともあれ、門番の人にはレアさんとリックさんの家で謝って、有耶無耶にする。ついでにリックさんについていた方は全員、食料の補填をしてもらった訳ですね」
 そういう事と、ロックハートが干しリンゴを囓りながら応える。
「結局の所、痴話ゲンカに付きあわされた訳ですね。お仕置きも無し。大いなる父よ。パリはまだ平和のようです!」
 ロックハートにとって、リンゴを囓ることで、事件は終わった。願わくば新鮮なリンゴを食べたかった所だが、季節柄仕方がない。
 これが事件の顛末である。