●リプレイ本文
オーク襲撃の不幸な事件から逃げのびたシフールの名はリッセルという。
一同の行動の焦点は、このリッケルからの情報の引き出しと、地図上での襲撃予測地点の割り出しから始まった。
「そういや昔、100人の山賊を撃退したんだよな、ノルマン冒険者」
華国人の巴渓(ea0167)がギルドで聞きかじった去年の話を振ってみる。
「今度はその半分だ。おまけに腕利き揃いだから、いくらでも調理しようはあるぜ」
「そうかな? ともあれ、数が多いらしいからな。即座に対応出来る様にしておかねば」
ヴィグ・カノス(ea0294)は慎重論を唱える。
「俺はとにかく敵陣を混乱させる事を優先しよう。即座に体制を整えられないほどに混乱させる事を、な」
彼は渓に含む所が有る訳ではないが、ふたりの気性の違いというやつであろう。
その横でヴィグの友人であるレイジがリッセルとクライアントに会い、過去どんな地形で襲撃されたかを聞いていた。
クライアント曰く、リッセルから聞いた話では、丘陵地帯の最も険しい地点で襲われたらしいとの事。これでは馬車も即応できないらしい。
又、リッセルには襲撃の際の詳細、特にオークの目的の推測(物品か殺人か)、襲撃後の状況(バックルの行方等)も聞いて報告しようとするが、オークの目的は主に馬車の馬や──人間を食事にする事にあったらしい。
嗜虐趣味はあれども、自分がその恐ろしい経験までも追体験する趣味はレイジには無かったので、そこいら辺はスキップし、バックルの行方に話を絞って調査しようとするが、そこまでは見ておらず、こっそり忍んで逃げたという。
風烈(ea1587)とアルル・ベルティーノ(ea4470)は、オークの心理を推し量り、兵法の見地から、オークにとって襲撃しやすい場所を考えていたのだが、オークの心理は如何せん、単純すぎ、単なる力押しになるだろうと予測。
この分だと先に発見しなければ、逃げのびるのは難しそうであった。
逃げても、地形に乗じ、オークは嵩にかかって追い打ちをかけるだろう。
その場合は馬車で逃げのびられる可能性は五分五分であったが、危うい賭けには変わりない。
馬車にとって険しい丘陵地帯というのがネックであった。
一方で、マリウス・ドゥースウィント(ea1681)は“何をするか”ではなく、“何故”という問いをかけていた。
(単に『狩りの季節』だったから…と考える事もできるが、オークロードが『以前の騒動に関係した輩』で、何者かに命令されている場合は問題。
『バックルを狙って襲ってくる』とすると、バックルに何かがある。‥‥『何かがあるバックル』がある‥‥とも考えられる)
ランディ・マクファーレン(ea1702)も同じ疑問を持ち‥‥。
「‥‥バックル? あまり見掛けない物だが‥‥オークの手に渡った所で役に立つ物じゃあるまいね」
それとなく、クライアントに尋ねてみたが、彼はしばらく考え込んだ後‥‥。
「いやぁ、そんな事はないでしょう。職人たちの魂が籠もっているとはいえ、別にブラン製とか、魔法が籠もっている様なバックルではありませんから、そこまで行けば、逆に最初から皆さんの様な腕利きを護衛として雇っていますよ」
と困ったように返された。
「魂が籠もっているのは比喩として、失礼だが、そう貴重品という事がないのであれば、マリウスの言うように、悪魔がどうのこうのというのではなく、単に狩りの季節で自分達はそこにのこのこ足を踏み入れただけ、というオチが待っていそうだな。どう思うイルダーナフ?」
尋ねるランディに、
イルダーナフ・ビューコック(ea3579)はモンスターの達人としての知性をフルに発揮させる。
「おそらく、デビル等が絡んでいないと想定すれば、そうなるだろう。デビルは百年単位でも陰謀を巡らせるので、何とも言えないのだがな‥‥。リッケルの証言から察するに‥‥放浪していた、オークの群れがたまたま餌場に成りうる場所を見つけたという所だろう。
このまま日干しにしておくのも依頼の主旨とは違うが、その一帯での事件を止める手段にはなるな。じきにもっと食事の豊富な人里の方に降りてくるだろうがな。結局、人々にこれ以上の被害を出してから、冒険者ギルドに依頼が来るか。今の内に被害を止めておくかの差だが──」
モンスター全般に関して熟知し、当然オーガもよく知るイルダーナフの言葉を一同は拝聴する。
単なる聖職の者ではないと、一同の胸に印象づけられる言葉の数々であった。
「いやいや、それでは困りますな‥‥一刻も早く、発注主の所へバックルを届けないと」
と、クライアントが返せば、イルダーナフは判っているという感じで頷く。
「安心しろ、どんな邪魔が入ろうと絶対やめねえ。必ず守る」
力強くオラース・カノーヴァ(ea3486)が宣言する。
その言葉に頷きながらも──。
(しかし、血潮が滾ります。
今回の任務は荷馬車の護衛だけなので、戦闘や殲滅が目的では無い事を自分に言い聞かせないと。
‥‥荷馬車と積荷と御者を安全に目的地に送り届ける様、全力を尽くす。それだけです)
エルリック・キスリング(ea2037)が拳を強く握りしめていると、その背後で──。
「ほとほと、オークと縁があるみたいです‥‥ここは譲りませんよ」
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)が控え目に。しかし──断固として譲らない体勢を見せる。
「そういきり立つなよ。久々だな、『黒死鳥』さん」
オルステッド・ブライオン(ea2449)がニルナの肩を軽く叩きながら、いなすように声をかける。
「その様な名を人前で‥‥私は単なる皆さんの露払いをするだけに過ぎないのですから」
「まあ、いいじゃないか。それにしても‥‥久々のパリの仕事、か。マントの事件といっても、全然関わってないから感慨は無いがね」
オルステッドが喋る一方で、ルイス・マリスカル(ea3063)もクライアントに移動ルートを聞き、御者を用意してもらえるかを確認。
「とにかく、一番早いルートでお願いします。ベテランの御者は今までの襲撃で天に召されていますから、新米の御者なので、今ひとつ頼りないですが」
と、確認を取るとリッセルからも更に情報を聞き出す。
「どの時間帯、どんな状況で襲われたか」
「野営をしている時に襲われました。時間は日が昇る直前だったと記憶しています。オークは最初に馬を襲って、逃げられなくなった所を次々と‥‥」
「成る程、それは参考になった。馬の防衛を最優先にしないと」
ルイスは3通りのシチュエーションを想定。先行偵察の名人からなるA班、前衛右翼のB班、前衛左翼のC班、後衛専任のD班という形に班分けした。
具体的な面子はというと、ルイスが今発表する所である。
「じゃあ、班分けを──。
A班はランディさん、九紋竜さん、氷雨さん、本多さん。
B班は巴渓さん、ニルナさん、風烈さん、オラースさん。
C班はエルリックさん、オルステッドさん、マリウスさんと自分が。
D班はヴィグさん、イルダーナフさん、アルルさん」
以上の様に決められた。
だが、その頃、ジャパンの面々は──。
「決まったか‥‥豚より斬りがいのあるものが斬りたいものだな」
氷雨絃也(ea4481)がポツリと漏らす。
それを聞いてイルダーナフ曰く。
「オークロードより強いオーガなどオーグラの他にはノルマンの地にはいないようだ。聞いた所ではジャパンではもっと強いオーガの類が僅かながら居るとの事。もっとも、それでも氷雨とタイマンをすれば、苦戦はすれども、勝利は見えているが」
「弱い相手はもう飽きた、強い相手はどこにいる?」
更にため息を漏らす弦也に対してクスリと、笑みをこぼれさせる九紋竜桃化(ea8553)。
「贅沢な悩み‥‥私にとってこのオークの強盗団、このまま捨て置く訳には行きませんわ、必ず討ち取りますわ」
「桃化、俺より腕の立つおまえが無欲な事だ」
弦也が返せば。
「私だって、どこまでも強くなりたいと思っていますわ。今以上に、例え、どんな手段をとってでも。オーク程度でも斬れば、その研鑽にはなるかと思っただけですわ。人助けになって、路銀になれば誰も恨みませんもの。強くなるとはそういう事では?」
そのまま桃化が微笑を崩さず応える。
「女とは恐ろしいものだ‥‥」
「あら? ご存知なくって」
「一本取られたようだな。だが、理想の果てに絶望しろ、未来など無い‥‥」
弦也はうつろな笑みを浮かべる。
「しかし、久しぶり肉が切れるか、楽しまんと損だ」
その弦也の瞳を覗き込むよう、牡丹の花の様な笑みを浮かべる桃化。
「ですわ。オークロード、一度戦いたいと思っていましたわ。丁度良く、彼らの所業許せませんしね」
ちょっと血飛沫の予感を感じさせる台詞に‥‥。
「まあ、そうおっしゃらず、ゆっくりお茶でも飲みましょう──と、言いたい所ですが、ノルマンでは茶葉にも不自由しますね。茶道をするにもお金がかかりますね」
本多風露(ea8650)が危ない方向に収拾のつかなくなりそうな感じの桃化と弦也の会話に割って入る。
「そうだな。堅苦しい国の茶の道は苦手だが、ここなら、多少羽目を外しても構わないだろう。そうか路銀か、やはりここはオークロードを抹殺‥‥」
と弦也が返せば、風露は困ったように──。
「──いえ、そういう方向ではなくて。お二人と違って場数を踏んでいない、私にとっては、イルダーナフさんのお話を聞く限り、オークロードなかなか手強そうな相手ですから。
ここは仲間同士の連携をしっかり取らねば危険でしょうね‥‥と」
「大丈夫。勝ち易きに勝つのも兵法の内ですわ。それを崩すような、結束を乱すような事はしませんから風露さん、あなたもご安心を」
一応、桃化もフォローを入れる。続けて弦也が。
「ならば、何の問題もなかろう。後は勝つのみ」
成り行きはどうあれ、弦也と桃化の危険な強さを求める方向性への会話のエスカレートは止まったと風露は胸を撫で下ろした。
「でも、オークロードが許せないというのは同感です」
誰にともなく、風露は漏らした。
そして、A班の先行偵察の下、行程を短縮するべく、丘陵地帯を抜ける道程を一同は進んでいた。
オルステッドの危惧した、出立前の襲撃というものはなく、平穏無事に馬車は進んでいく。
A班の交代の際、アルルも積極的に食事などを共にし、互いの呼吸を掴むようにしている。
そんな平穏無事そうな日々は長続きせず、進路の行く手に隠れているつもりらしい不審な影を見つける弦也と桃化。
「多分、オークですわね、あの豚面は」
桃化の言葉に、弦也も頷き。
「生意気にも見張りがいるとはな‥‥オークロードの知性もそれなりにあるという事か?」
「後ろに戻って、アルルの魔法で探りを入れては?」
作戦通りに進んだ一行は、馬の歩みを止め、アルルが先行するのをA班が総出でフォローに入る。
淡い緑色の光に包まれて、アルルが周囲の呼吸音を探る。
「3体います。どうします? D班の面々で先制攻撃をかけますか‥‥」
アルルは途中まで言って、舌をペロっと出し。
「というより、今の光でばれたみたいですね。見張りのオークは多分本隊と合流するのでしょう」
ヴィグは黙って、弓を引く。解き放たれた矢はオークの1匹の耳を右から左へと貫通し、耳垢を奇麗に取った。
その光景を見た、オークは大声を出して騒ぎ立てる。
弦也が颯爽と全速力で間合いを詰め、後ろから残った2匹を斬り伏せる。
「ばれたからには、オークの包囲網が完成する前にやるのみだ。ルイスに伝えてくれ、陣形を組み直す!」
「自愛しろよ、若いな。そうすりゃ勝利の女神がついてくる」
イルダーナフは言いながら、即座に各集団へ、聖なる母の加護を念じる。
四肢に活力がみなぎる一同。
更にホーリーフィールドで防御陣を敷く。もちろん、馬を中心としてだ。
一方で、想定済みの対包囲の陣形をしくルイス。敵が右翼から攻めてくる以上、B班の負担が大きくなりそうだが、左翼のC班も護りを疎かにする訳にも行かない。
「オークの知性から推し量るに、オークの包囲は秩序だって敷かれる訳ではない。数に任せてのものだろう。伏兵の類はないと見て構わない。もっともオークだけならばな」
イルダーナフの英知が情報を分析、状況を的確に判断する。
しかし、オークの動きは予想以上に早く、脂ぎった臭いが漂ってきた。
アルルはソルフの身を食べ、先程の魔力の消耗を回復させ、先制の一打をライトニングサンダーボルトという形で浴びせる。
それでも彼女は魔力の消耗を恐れ、出力を控え目にして撃ち込んだ為、オークの方にも驚愕以上の感情は引き出せなかった。
半包囲される形になって烈はフランベルジュを構え直す。
「一対多数に備えて体術を鍛えてきたが、どこまでできるかな」
残忍な刃を振るい、踊るように飛び込んでいくが、フランベルジュの鋭利な刃を活かす技は、烈の学ぶ十二形意拳でも、奥義以上に覚えるのが難しい。
「やはり、剣を腕の延長とするなど、言うほど易くはない」
闘気の籠もった刃で、炎の如く波打つ残忍な傷口を量産しつつ、尚かつ、相手の攻撃と返り血を、余裕でかわす。その光景に恐怖したオークだが、後方のオークロードと思しき巨漢の叱咤により、恐怖に支配され半ばパニックになりながらも、迫り来る。
「オークの皆さん、またお会いしましたね‥‥私も嬉しいです。有象象無象は引き受けます」
ニルナは言いながら、軍馬で戦列に割り込むが、如何せん、烈の様に体術に長けていない為、あっという間に満身創痍となる。
(さばき切れない!? これが数の暴力?)
愛用の軍馬もあっという間に傷だらけになり、ニルナはオークにより馬から引きずり下ろされる。
(ジーザス!)
そこへ飛び込んでくるオルステッドの放つ衝撃波と、渓の放つ闘気の塊。
オークどもは打ちのめされる。
「私はAnaretaが従僕『蝙蝠』‥‥豚のような悲鳴を上げろ‥‥『銅鑼衛門の秘滅道愚』の威力を見たか」
とオルステッドは両手に小太刀を構え、見事な体術で、オークの剣撃をかわしていく。
「イルダーナフに頼めば、まだ何とかなるだろう。『黒死鳥』」
オルステッドが助けに出ようと飛び出す。
「こいよ、返り討ちだ!」
一方で渓は馬車の上、相手が中々に間合いに入ってこないのを焦れながら待っていた。
時折、間合いに入ってくる相手もイルダーナフの張ったホーリーフィールドに阻まれる。
「陣形を崩すな!」
ルイスの声がオルステッドに届く。
代わって穴を埋める、どころか獅子奮迅の活躍を見せるオラース。敵の攻撃は悉く避けまくり、彼のジャイアントソードが全体重を乗せて振るわれる度に確実にオークの命は散っていく。
「適度な運動にもなりはしないな。全く戦場は地獄だぜ!」
一方でオークロードに苦戦する烈。
相手の攻撃を体術の限りを尽くし、ギリギリで見切っているものの、中々守勢から転じられない。
代わりに体術に戦力差を感じたのかオークロードもイルダーナフが言っていたようなスマッシュを放っても来ない。
どちらにしても手詰まりであった。
そこへ割って入るオラース。
「俺も混ぜろ──これも雑魚と一緒だな」
「ここは任せて貰う」
烈が血まみれのフランベルジュを構えながらも、オークロードから視線を外さない。
その手元に視線を見やり、オラースは──。
「もう、刃もボロボロだろう。だが、そんな繊細なフランベルジュと違って、俺のジャイアントソードは殴ってりゃいいんだよ。タフさが違う」
ふたりの会話の隙をついて、オラース目がけてオークロードが斬り込んでくる。
しかし、オラースはその一撃を軽く盾で受け止めると、無造作な返しの刃でオークロードを叩き伏せる。
烈がその激しい太刀筋に舌を巻いた。
「だから言ったろうが──雑魚と一緒だと」
「『秘技』昇竜!」
一撃必殺! 桃化の見事な示現流の返し技がオークに決まる。しかし、体術に負けている彼女は、オークの数の暴力で、紫色の旅装束を緋色に染めていた。それでも尚、返し技を行うのである。
まさしく女傑というべきであった。
血路を切り開き、オークロードを目の前にしても、その闘志は屈しはしない。
しかし──。
「桃化さん。これ以上の返し技は危険です。ここは私にお任せ下さい」
風露が魔剣を鞘に収めたまま、桃化の後ろから進み出る。
「今宵、この剣より聞こえる絶叫にあなた達の声が加わるでしょう。なぜならあなた達はこの場で死ぬのですから」
オークロードに死の宣言をする風露。
「風露の体術では危険だな」
弦也が止めようとするが、彼女は被りを振って一言。
「相手の体力を少しでも削ぎます。後は弦也さんにお任せします‥‥南無三」
無造作にオークロードの間合いに踏み込む風露。
吸い込まれるように、オークロードの剣が風露に振り下ろされる。
その一撃を放つオークロードの腕は、右足を前に踏み出した彼女の体を捉えた。脇腹に半ばまで斬り込まれ、出血が激しい。
そして、不自然な体勢のまま、狙い澄ました一打を浴びせる。
夢想流の見えない抜刀術が、オークロードの鎧の隙間を縫って、生身の肉体に貫通したのだ。
「後はお任せしました──」
言って血を吐き倒れ伏す風露。
弦也はオークロードと視線を合わせると──。
「退くか? 退けば見逃す。退かねば殺す。いや、どちらにしても殺す」
言って刀を向ける。陸奥流の変幻自在の剣捌きだ。
その覇気に、体力が衰えたオークロードは、慌てて転進する。
「命冥加な奴」
吐き捨てる弦也。
オークロードが逃げたのを受けて雑多なオーク達も逃げ出していった。
追撃に入ろうとするC班だが、ルイスが迫り来るオークから逆説的に後衛のD班を防衛するポジションに回る事になり、エルリックとマリウスの役目は全体の指導者を守るという、護衛の役目に立つ事になった。
「エルリック・キスリング参るっ!!」
エルリックはマリウスの闘気が込められた日本刀で、快調に襲い来るオークを叩き斬る。
しかし、オークの数に押されがちである。
一方で、マリウスは隙の無い、闘気と剣技のバランスの取れた戦いを見せる。
オークロードまでまっしぐらと行きたい所であったが、数の暴力──最早何度目であろうか? この形容を使うのは──に負け、中々前へと進めない。やむを得ず、指揮を取っていたルイスも体術にものを言わせて、オークの攻撃を避けながら、中心のオークロード目指して邁進する。
ルイスの振るうルーンソードが唸りをあげる度に、オークの叫ぶ豚の様な悲鳴が轟き渡る。オークは守勢に立つと、かなり脆い。逆境に対するねばり強さが無いのだ。
更にオークロード程度ではルイスの鋭い太刀筋を持ってすれば、小細工するまでもなく、盾でも受けきれない。
ルイスが戦闘に関して、オークロードやオークの能力に関して、イルダーナフのアドヴァイスに従った甲斐があった。
我流ながらも粘り強い剣捌きでオークロードの体力を確実に削っていくルイス。周囲からオークが殺到しようとも、前後左右全てにも目が在るかの様な体捌きで確実に剣風をかわしていく。
これでオーク側の陣形が崩れたのをもっけの幸いと、マリウスとエルリックがオークロードに乱戦を仕掛ける。
邪魔をするオークにはアルルが高速詠唱で割り込んだ雷撃で牽制。
マリウスの幸運な一打がオークロードの体勢を崩し、そこへ3人の得物が続けざまに叩き込まれる。
そして、ルイスが最後にオークロードの首を叩き落とすと、大勢は決した。
頼りとなっていたオークロードをふたりまで失い、通常のオークも3分の1以下に減った今、オークの潰走を止める要素はない。
その光景を見届けると、エルリックとマリウスも全身に負った深傷を思い出したかのように倒れるのであった。
オルステッドが続く道中も用心に超した事はない、と。自ら見張りを買って出る。その間に急ぎイルダーナフは瀕死の者の回復を試みるが、魔力がグッドラックの乱発の為足りない。そこで、アルルからソルフの実を受け取り、魔力を回復させ神聖魔法により、タナトスの誘惑に負けそうになっていた負傷者を、次々と彼岸へと引き戻していった。
街道に戻り、到着予定地の村について、バックルの引き渡しを行い、荷物が無事な事を確認した時点でようやく一同は一息をつけるのであった。
そして、帰りの道中も襲撃が予想されたが、オルステッドの心配も杞憂に終わった。
オークの動向に関しては、イルダーナフの見立てでは、数も減り、逆説的に食料の必要性も薄れた今、無理に襲ってくる事はないだろう。しかも、逆に人里から離れていくのではないか、という所であった。
こうして、再び丘陵地帯を越え、マントの街まで一同は逆行するのである。
かくして冒険者達は危険なミッションに成功したのであった。
報酬を受け取り、次の人生の新たなステップへと踏み出していく。
「それでは長寿と繁栄を。敢えて言うなら『グッドラック!』」
イルダーナフはそんな言葉一同に投げかけた。
これが冒険の顛末である。