ドクトル・ウィッグルズワースの妙な冒険

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:6〜10lv

難易度:易しい

成功報酬:2 G 48 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月22日〜07月27日

リプレイ公開日:2005年07月28日

●オープニング

 ドレスタットで、聖なる母に仕えるクレリック、ウィッグルズワースは先日届いたシフール便の内容で悩んでいた。
 パリの彼方、ファーブル島に居を構える友人、キャプテン・ファーブルから、依頼が来たのだ。
 内容はマンドラゴラを1本採取し、先日ドレスタットで捕まえたキャタピラーという全長6メートルの青い巨大な芋虫の持つ毒性を消せるかどうかの実験に供したい、というものであった。
 マンドラゴラはノルマン広しといえども、そうそうあるものではない。だがウィッグルには不幸な事に当てがあった。
 ドレスタットから2日行った場所に、巷で流行のドラゴンではなくグリフォンが巣を構えている林。そこにあるはずなのだ。
 武力も隠密の技能も持たない、ウィッグルにとっては無謀に過ぎたので、冒険者ギルドの門を叩く事となった。
 そこで、今回の依頼に関して話を切り出し、以下のような契約へと話はまとまった。
 食料はウィッグル持ち(最近クリエイトハンドを覚えたので)。
 怪我、毒の治療にかかる神聖魔法はウィッグルが施す。死亡していなければ、各種ポーションとリカバーで何とかする。
 冒険者に優しい依頼である。
 その代わり依頼料は渋め。
 こうして動乱のドレスタットに際どく涼しい風が吹くのであった。

●今回の参加者

 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea6855 エスト・エストリア(21歳・♀・志士・エルフ・ノルマン王国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0933 スターリナ・ジューコフ(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

「多分、この辺りでしょうな」
 鬱蒼と茂る森を丘の上から見下ろしながら、ウィッグルズワースは4人に告げた。
 マンドラゴラを捜しにドレスタットの街から2日程歩いた日の事である。
 スターリナ・ジューコフ(eb0933)はウィッグルズワースが野営に関して何らかのノウハウを持っているだろう、と期待したが、学者に期待したのはイージーミスだと思い知らされた。
 さすがに、この人数でローテーションを組んで物事に対処するには無理があるので、農家の納戸などを借りて、夜露を凌いだのであった。
 そこでウィッグルズワースが代価を払った上で、ニワトリを潰して貰ったりしている。
「マンドラゴラとかある場所には、面白い錬金術の材料が有るかもしれませんね〜♪」
 エスト・エストリア(ea6855)が若干間延びして聞こえる口調で下を見下ろす。
 しかし、下生えに覆われて見えないし、錬金術の材料と言っても、植物とは限らず鉱物かも知れない。
「と言っても、森の中の土地勘がまるでありませんし〜♪ 皆から離れたら一巻の終わりですね〜♪ 吟遊詩人なら絶対歌わないような三流な死に方です〜♪」
 一方、カイザード・フォーリア(ea3693)はここまでの道中、ウィッグルズワースへオーガ、デビルといった超自然の存在に関して、様々な問いかけをしようとしたが、一体どこから切り出せばいいのか互いに判らず、気まずい沈黙が漂うのみであった。しかし、そこで目先を変えて──。
「我の目標はグリフォンを手なずける事だな」
 エイジス・レーヴァティン(ea9907)も
「ねえねえ、ウィッグルズワース先生。グリフォンってどうやったらペットにできるのかな〜」
 等とノーテンキにのたまう。
 カイザードにしてみれば、下手なドラゴンより強いであろうグリフォンを戦馬の代わりにすれば、力をつけられるのではないかと、そこから会話の糸口をつけようとしたのだが、それは漫然と話をするより、正鵠を得ていた。
 しかし、逆に失望を味わう事になった。
「確かに強いでしょうな、それは間違い有りません。
 ですが、それを他人、事にその地を治める支配者に完全にあなたのグリフォンに対する影響力を認めさせなければ、単なる秩序の攪乱者と見なされるでしょうな。
 認めさせたところでグリフォンを持って出入りできるか、どうかはまた別の問題となります」
「すごいなー、ドラゴンより強いんだってねー。
 かっこいいだろーなー。友達になりたいなー。
 でも無理だろーなー。しょうがないからやっつけちゃおう」
 早速、グリフォンへの囮にしようと、潰したニワトリを取り出す、エイジスの言葉に慌てて──。
「では、グリフォンは何を好む、そこから斬り込もうと思うが?」
 ──カイザードが食い下がるが──。
 エストも興味があったのでグリフォンの生態に関して、問い質していく。
 ウィッグルズワースはエイジアの手にあるニワトリに目をやりつつ答える。
「グリフォンは生食を好む、肉食の『怪物』です。
 希にまあ、エスト嬢の前で言いづらいのですが、雌馬を孕ませて、ヒポグリフと呼ばれる雑種を作る事もありますが、大半の馬は食料です。
 完全に調教しなければ、馬と接触の機会のある冒険そのものが成立しません。
 確かに以前、パリの方でグリフォンを乗騎にしたいという御仁がおったと聞きます。
 その方にしても自分の責任で、自分の領地内でだけ乗り回すだけならともかく。パリなどの大都市、またその行程まで通過する事を認可されるかは、また次元の異なる話という事でしょう。
 何しろノルマンでは調教方法が確立されている訳ではありませんから。
 フランクなどでは例がある故、不可能ではないでしょうが、個人で何の後ろ盾もなく行うには、あなた以外には危険かつ、費用の嵩む行為となるでしょう。
 卵を見つけたからと言って、その孵化技術も知られている訳ではないでしょうし──少なくとも私は知りませんよ──桁外れに運良く、孵化直前の卵を見つけない限り、まあ調教は事実上無理でしょうね。第一にドレスタットに連れ込む許可が下りるかどうかさえ怪しいでしょうし」
 ウィッグルズワースのフェイントでサクサク切り刻まれるような舌峰に会うのであった。
 そして、森の中に踏み込む一団。
 クライアントのナビゲートもあって、無事にグリフォンと接触した(?)5名。
 エイジスから見た風下から悠然と飛んでくるグリフォン。
 スターリナは早速バックパックを降ろすと、淡い緑色の光に包まれつつ、攻撃ポイントを予測し、ウィッグルズワースとエストの近辺に雷の罠を巡らしていく。
 それでも、自分の周囲に罠を巡らせる間に、グリフォンが接触する。
 一方で、その戦いの緊迫感に狂化するエイジス。
 童顔からあどけなさが消え、かといって逆上する訳ではなく、全ての情動が消えたかのような人形のような風体。
 リュートベイルを片手で構え、順手でメイスを構える。
 血の臭いに突撃するグリフォンにスマッシュの3連撃を叩き込むエイジス。一打ごとに確実に体力をそぎ落とす。
 そこへエストがギリギリの間合いで呪文を唱える。淡い褐色の光に包まれた彼女の魔力に囚われるグリフォン。
 四肢の先端から石化していく。それに流石に異常を感じたのか、逃げ出そうとするグリフォン。
 エイジスは無感動のまま、戦いが終わったと感じ、感情を取り戻す。
「あれ〜? 戦い終わっちゃった? グリフォン死んでないと良いけどな?」
 カイザードは自分の出る間もなくあっと言う間に終わった戦いに憤慨しつつも、皆が無事だった事に安堵する。
 しかし、グリフォンの逃げ去った方角から大音響がするのに一同は緊張を隠せない。
 エストとウィッグルズワースは周囲のライトニングトラップの位置を確認できず。スターリナは知っていても解除出来ないので、ふたりに動かない様に頼むしかなかった。
 カイザードが単独でグリフォンを確認しようと音の発生地点を目指すが、そこで彼が見た物は体の半分が石化し、そして落下の衝撃で砕け散ったグリフォンであった。
 これでは解除しても、修復できない。
 心臓から血が届かない頭には死の刻が迫りつつあった。
「よし、グリフォンは退治した」
 そして、最終目標、マンドラゴラに挑む一同。
 遠目に見ると深緑色の土饅頭の様に見え、蘭に似た茶褐色の花をつけていた。地上に頭を出した瘤状の茎に、とがった細い葉を何本も生やした姿をしている。
「で、大根の様に肥大した赤黄色の根は二又に別れてねじくれており、その姿は歪んだシフールの姿に似ているというんだ。茎の中ほどに、くぼみの様な穴が開いているはず、根っこを確認できればだがね──もっとも、万病に効く薬の材料として有名な薬草である一方、地面から引き抜いた時に死と麻痺の咆哮をあげるというのだが」
 エイジスは周囲の安全を確認した上で、布切れで耳栓をしてロープを使って離れたとこから引っこ抜こうとする。
 それを見たスターリナは‥‥いったいどうしろと? と、途方に暮れた表情の後、無駄に清々しい笑顔で──。
「良案がないのであれば、仕方がありません。‥‥エストさん、ストーンでマンドラゴラを石化しちゃってください。ウィッグルさん、マンドラゴラの石像を運んでしまいましょう。使う直前にニュートラルマジック使いを雇えば万事解決です」
「そ、それはグッドアイディアというべきなのでしょうか? 少なくとも金曜の夜明け前まで待つほど迂遠な仕事ではありませんしね。後、犬を1頭使い潰す様な事でもありませんから」
「え〜♪ 想定していなかったアイディアなので、依頼主にお任せしますね〜♪」
 エストも困ったように話を振る。その時、歴史は動いた。
「エストさん、お願いします」
 ウィッグルズワースの断の下、エストは呪文を唱え、褐色の淡い光に包まれる。
 かくして、マンドラゴラは石化され、歪んだシフールの如き姿を地上に晒した。
「マンドラゴラを煎じた薬は止血、安息、与活、湿布、解毒の全ての薬草の効果を同時に得ることができ、標準的な物は1本金貨10枚ぐらいで取引されています。もっともノルマンを探しても百本あるかどうか怪しいと言われるシロモノですから、このレートは眉唾物ですが」
 帰り道、慎重にマンドラゴラを持ち帰るウィッグルズワースは一同にそう語った。
 そして、ウィッグルズワースがドレスタットの教会に寄付して、4人の立ち会いの下、ストーンを解除して貰ったが、絶叫は上がらなかった。
「素晴らしい! これは新しい、マンドラゴラ採取の潮流となるかもしれない!」
 こうして、ウィッグルズワースはパリ行きの便に乗り込み、一同に礼と別れを告げた。
 新たなトレンドを作り出したスターリナは後々、これを見る者に新しいマンドラゴラ採取の発見した人物として名を残す事になるかも知れない。
 これが4人の妙な冒険の顛末である。