●リプレイ本文
「『フォーノリッジ』だからこそ逆に怪しい気がするのだが」
岬芳紀(ea2022)は依頼人のロッド君の居ない所で呟きつつも、先行しようという仲間達にセブンリーグブーツ、韋駄天の草履、戦闘馬を借し出していきながら、情報収集を行う。
あまり、芳しいものではなかった。十年間の神聖ローマ支配による断絶が情報を曖昧模糊というより意味不明なものにしていったのであった。ラグナスも急ぎ下調べをしたものの『これだ!』と思える様な情報には行き当たらない。
一方、エルリック・キスリング(ea2037)は頑健なウォーホースの耐久度と、忠誠を信じて砦へと走っていく。
「もし外に出ているグールが居たら、周辺住人に危害を加えかねません。出来れば殲滅しておかないと」
「そうだな──まぁ、他人の趣味嗜好はどうこう言わんが、グール退治にクレリックとウィザードなしなど考えられん」
と、呆れて溜息をつく、レイジ・クロゾルム(ea2924)。
「せめて、レンジャーがスクロールを持っていくなり、何なりの手法はあるだろうに、結局は他人の趣味嗜好に口を出す事になるから言いたくはないが。あ、それとエルリック、ソルフの実はいいぞ。15メートルなんて近距離でしか通じないスクロールからの魔法だと、3回使う程度にしか役に立たない。使う時はこちらから頼む」
「その方が得策かもしれませんね。ですけれど、危険な状態にある方々を見過ごすわけには行きませんね。
無事だといいのですが‥‥。あ、岬さんブーツお借りしますね」
シャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)は一同に、聖なる母の教えから外れた『悲しい』存在であるアンデッド、特にグールに関する知識を授ける。
「グールですか、一見すると、単なる動く死人──ズゥンビのように見えますが、口の中にはぞろりと牙が並んでいて、はるかに俊敏です。
でも、攻撃を回避しようという行動が取れるだけで、殴り合いだけなら私でも当たります。
でも、半端な剣より噛みつきの痛手は大きいのでご注意を。
後、厄介な事は、どんなダメージを受けてもそのために動きが鈍ることがありません。
しかし、安心して下さい、大事なことは通常の武器でもダメージを与えることができる事です。
毒があるというのもデマのようです」
しかし、ウェルナー・シドラドム(eb0342)は相手の全容を知って尚──。
「状況次第ではグールだけではなくそれ以上の存在が現れる可能性もあります。
ここは慎重に動くようにしましょう
何はともあれ、先行した方達が全員無事だったら良いんですけど」
「全くその通りです。急がないと」
「こんな仕事を請け負うなんてオレも‥‥相当馬鹿、だねぇ」
アルビカンス・アーエール(ea5415)が論争に眠りを破られて呟く。
「愚者で結構。行動しない賢者に比べれば。アルビカンスさんもセブンリーグブーツを持っているのでしょう?」
「ああ、面倒だがな」
「ならば行きましょう」
と、シャルロッテも頷き、エルリックとウェルナーのウォーホース、そしてレイジのノーマルホースと並んで走りながら、彼女とアルビカンスは猛スピードでパリを飛び出していく。
これが捜索班の出陣であった。
一方でララからの情報で、マリー・アマリリス(ea4526)はシャルロッテの話から、先行した遭難者の冒険者の一団が、グールと戦っては、勝ち目は余りないだろうという計算を弾き出す。
「私も急ぎます」
凛々しい、マリーの言葉に──。
「そうよね、愛しい人の危機を感じとり、自らもその危機の中へ飛びこんで助けようとする‥‥浪漫よねー♪
‥‥ちょうど新しい歌のネタにも困ってたし。
やぁね、ちゃーんと当たり障りのないように仕立て直しするわよ」
リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)はどこまで本気で、どこからか捏造か自分でも判らなくなる発言をすると、むんずとばかりにノーマルホースにロッド君を搭載して、手綱を引き絞る。
「ええ? ちょっと?」
「大丈夫まーかせて。でも、何にしても生きててほしいわ。敵討ちの依頼になんてしたくなんてないもの」
「そうですね。でも、リュシエンヌさん?」
「何? ロッド君♪」
「シャルロッテさんの話を総合すると、グール相手にムーンアローの様な弱い魔法を連発しても、相手の動きや抵抗力にまったく鈍りは無いと判断して、高速詠唱は諦めた方が良いかなと思いますけどテレパシー要員として非常に大事な魔力ですし」
「確かにムーンアローはダメージの低さが痛いのよね♪」
救出班の層の弱さを感じたサーラ・カトレア(ea4078)はフォローに入る事を申し出る。
「頑張ってみます」
やはり、サーラとリュシエンヌの馬に、マリーがセブンリーグブーツ、九紋竜桃化(ea8553)は韋駄天の草履は一緒に追従という形になる。ロッド君は荷物扱いだ。
「‥‥救出中は『太陽がずっと沈まないように』歌っておくべきかしら
無事救出できたら、ノロケ聞かせてもらいたいわね。
もちろん、ネタ元として」
「え、どこから話せばいいのかな? じゃあ、馴れ初めから‥‥」
「それはふたりで聞かせて。今は無事を祈って──」
疾走しながら桃化はシリアスにふたりに告げる。
「惚気は結構ですが、刻は一刻を争いますわ。今は急がないと、ロッド殿。冒険者同士、有事の際には、助け合うのが必定ですわね、私も微力ながらお力になりますわ」
救出班出撃。
「アンデッドを退治しに行ったまま戻らない一団、ですか‥‥手遅れになる前に、何としても救出しませんと」
襲撃班のウィル・ウィム(ea1924)は岬からウォーホースを借り、先行グループに追いつこうと試みる。
「ロッドさんの‥‥誰かを愛する、その感情自体はとても素晴らしいものだとは思いますが。愛は愛でも、ああいった形の愛は色々とその‥‥問題があるかと、思います。
なので彼には、出来ればヴィクターさんも交えて、依頼の件がひととおり落ち着いた後にでも『正しき愛のかたち』について、ジーザスの教えを元に説得を試みてみるつもりです」
「──その、不躾で申し訳ありませんが‥‥ヴィクターさんはロッドさんのどんなところに惹かれたのでしょうかね?」
アルアルア・マイセン(ea3073)は本人がいないので無意味である事を知りつつ問うてしまう。
彼女は、ヴィクターとロッドの、ある意味全てを超越した恋愛には、興味津々だったりする。
レイ・ファラン(ea5225)はその言葉に対し、いっそ冷淡に。
「‥‥まあ、なんだ‥‥趣味嗜好は人それぞれだしな。
ただ遅れているだけなのか、怪我で動けないのか、それとも退治に失敗して既に死んでるのか‥‥依頼人が騒ぎすぎただけでも‥‥依頼で金が出るなら問題ないか。
近くには村があるらしいし、グールが残っていれば其方に被害も出るだろうからな」
その言葉に対しアルアルアは。
「ともあれ、戦闘になりそうでしたら、オーラパワーを付与して、対アンデッド戦の破壊力を叩き上げますから、期待して結構です」
と実践的な戦術を打ち出してみせる。
彼女はノーマルホースの馬上でロングボウを射るという、かなり無茶のある射法だが、騎乗戦に強いウーゼル流だからノープロブレム。
その言葉にレイはぼそりと漏らす。
「話には聞いていたが‥‥愉快な奴等だな‥‥依頼人もだが。先に行ったのが惜しまれる」
真面目に本多風露(ea8650)は語り出す。
「話ではグールだけという話ですがあまりアテにならない気もします。
それに先に行った方々もアンデットになっていないとは言えないことですしね。
予め近くの村で砦の内部見取り図が手に入ると内部探索に余裕が出てくると思うのですが。
内部の状況に合わせて救出班や探索班の方たちと合流して対応していかなければなりませんね」
普通、村に砦の内部見取り図は置いていないだろう。
ウィルは笑ってそれを訂正する。
「いやぁ、それでしたら、無いような気がします」
風露は問い返す。
「根拠は?」
「いえ、ヴィクターさんとロッド君の、間違った方向の絆の強さなら、もうヴィクターさんがゴーストにでもなって枕元に立っていそうではありませんか?」
「嫌な想像ですけど、そうかもしれませんね」
と襲撃班がおっとり刀で駆けつけた時には状況は大体分析できていた。
リシュエンヌがテレパシーで砦の外からコンタクトを試みると、皆、グールと遭遇後、砦内の井戸に逃げだして、皆負傷で動けない状態。一方、グールは2匹倒して残りは3匹となっていた。
「あったのがヒーリングポーション1本だそうだ。連中、絶対金の使い道を間違っている」
レイジが毒づいた。
そこから先は桃化が砦の門に立ちはだかり、出てこようとするグールを牽制するという状態であった。
ウィルが早速、ホーリーライトで無目的なグールを牽制し、崩壊している部分から騎乗したまま矢を打ち込むアルアルアがオーラ魔法で3体のグールに一撃づつ打撃を与えた後、突入して攻撃を切り返す大技『昇竜』で確実にダメージを与える桃化。芳紀はシルバーダガーをそれぞれ両手に持ち、懐に飛び込む中条流の醍醐味を見せ、確実に間接などの弱い場所を狙っていく。
ウィルが退いて、飛び出した所をエルリックの愛馬、トゥルー・グローリー号が蹂躙し、更に木剣が突き立てられる。
馬に噛みつこうとした所で、十分余裕をとってスクロールを広げていたレイジの魔力が発動。
空中に放り出される。淡い褐色の光に包まれたレイジの放った魔法はローリンググラビティーだ。
「これを使ってみたかったんだ‥‥」
と、レイジは満足気な不敵な笑み。
アルアルアの読み通り、ここのグールは強敵だが、知性がないことと、無痛の能力を有することが攻め所らしかった。
即ち一定のパターンにはめれば、力尽きるまで同じ行動を取るのではないだろうか。
これはマリーとシャルロッテ達が後方から、予めレジストデビルを前衛陣に付与しており、打撃は当たっても半減という、状況を作り出す事で、見事なパターンを形成していた。
更にウィルも加わったマリーとのピュリファイで、確実に打撃を入れ、存在そのものを無に帰していく。
シャルロッテは魔力温存の為、休息。
しかし、冒険者達の勢いを止めるには、この程度のグールでは力不足であった。
レイのライトソードにもオーラが付与される段階に至っては、グール達は完全に動きを封じられ、後は消滅を待つのみ。
だが、この攻勢に乗じて自力でライトニングアーマーと、スクロールからのバーニングソードで破壊力を何乗にもした、アルビカンスが炎と稲妻という最早、破壊の権化と化した肉弾戦をしかけ、密着零距離から延々と放電し続け、ついに首を灼き斬った。
この熱い様が眠ってばかりの教師とはとても生徒には思えなかっただろう。
転がる首がマリーのピュリファイで消滅する。
「再び地に帰りなさい──唐竹割り」
桃化の一撃が振り下ろされるが、そこへ更に止めとばかりに、風露の抜刀術が決まる。最も彼女の実力では居合いなどせずとも圧倒できたのだが。そこは夢想流の様式美という奴であろう。
「今宵の絶叫に新たなる声が加わるでしょう。何時の日かこの剣が浄化されるその日まで‥‥」
レイは白昼の中、ひとり自分の世界に浸る風露の戦果よりも依頼達成を中心に動いた。
テレパシー通り4人の冒険者は井戸の中で僅かな水と食料を分かち合って生存していた。
「ヴィク!」
飛翔して飛び込むロッドくん。
「マイスイート!」
身長2メートル近い、フリルたっぷりの召使い装束を着込んだ厳つい、化粧の崩れた大男が割れた顎からの大音声でロッドを呼び込む。
井戸を覗き込んだレイはその光景に戦慄した。
ロープを垂らし、4人を救出する。
エルリックはにっこり笑って、恋人の時間を邪魔しない様に、顔を背けた。残り3人の治療に専念する。
一方、マリーは心に決めていた行動を取る。おもむろに寝袋を取り出す。
「救出した暁には、依頼人にそんな嗜好に至ったかの背景を伺いたく思ってました」
安楽椅子に寝そべらせる替わりに、寝袋に毛布を詰めたクッションで‥‥迎撃する。
「まさかの時の‥‥」
彼女は非常に準備周到だった。普通はそんなものは準備しないぞ。
「えーとね、馴れ初めはシャンゼリゼでワインを被って、羽根をぐしょぐしょにした僕をヴィクが助け出してくれたのが‥‥」
「いやいやロッド、それより初めてキスした時の事の方が‥‥」
ロッド少年の言葉をヴィクターが混ぜっ返す。
バカップル、ふたりの(世界の)話は長くかかりそうであった。
全然終わっていないが、これが冒険の顛末である。
「ねー、これ詩にしてくれるんだよね?」