怪盗3世──最期に誰が笑ったか

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月19日〜09月03日

リプレイ公開日:2005年08月25日

●オープニング

 エルフを領主にいただく田舎町、カン伯爵領。
 そこの領主フィーシル・カン伯爵の従姉、ミュレット・カンの持つレイピア『ダルタニアン』には古に殉教した聖者の血が浸された、布──聖遺物──が収められている。
 具体的な加護の程は明らかではないが、ノルマン解放戦争で36才のエルフの彼女が、武勲はなくとも無事に初陣を飾ったのはこの布の力だとカンでは信じられている。
 真っ直ぐな金髪、紅い目の彼女は45才、人間ならば15才である。
 無論、当時の騎士団長であったメルトラン・カンが、彼女を危険な前線から遠ざけたのは父親として当然の事であったろう。

 そして、ミュレットは騎士団の団長を目指しているが、武闘派の吹きだまりで、体力を要求される騎士団では、女性は敬愛し、護る者という風潮が強い。彼女の望む陣頭指揮を執っての騎士団長という立場を得るのは難しい。
 そんな彼女に怪盗3世からの挑戦状が舞い込んだ。
 枕元に置かれた墨痕淋漓と記されたジャパン語のカードには『ミュレット嬢の佩く『ダルタニアン』を月の欠けるまでに頂きに参上する──怪盗3世』とあった。
 ミュレットは騎士団の知恵袋、黒衣に身を包んだ『シュー』との相談によって、この挑戦を武勲に換えるべく、パリの冒険者ギルドで人を雇う事にしたのだ。カン伯爵領騎士団の一員として、パリの王宮にご機嫌伺いに行く伯爵フィーシルの大型船に搭乗して。
「神は全てを見渡しておいでですから──」
 シューはそう言って、ミュレットを送り出す。
 冒険者ギルドで、ミュレットは冒険者に怪盗3世を捕縛したものには、総計で金貨50枚の報酬を出すと、現金を見せる。
 とりあえず、行きの4日間、カンまでは約200キロの陸路となる。
 実際に様子を見るのは一週間と定められた。
 帰りの旅程も4日程度となった。
 ミュレットが交渉している最中に、騎士団相談役のシューは籠城の準備を整える。
 この期間の間、ミュレットを城の外れの塔に籠城する予定だ。
 立て籠もる塔は籠城用のもので、居住性は悪い。だが頑丈な石造り4階建て、2階から出入りする形式のそうそうは地上からでは突破できない構造が今回の目的に即しているだろう。
 こうして、また厄介事がカンに舞い込んだのだ。食料、水は無論、支給である。
「さて──聖遺物ハンターとして名を馳せていた、初代と比べてお手並み拝見という所ですか?」
 騎士団の重鎮となっているシューが楽しげなゲームが始まったとばかりに笑みを漏らす。しかし、そのローブの下を知る者はいないのであった。
 依頼内容は『ダルタニアン』を最期の日までミュレットの手に保持し続けること。
 今、冒険の扉が開く。

●今回の参加者

 ea1703 フィル・フラット(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea3233 ブルー・フォーレス(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea3770 ララ・ガルボ(31歳・♀・ナイト・シフール・ノルマン王国)
 ea3993 鉄 劉生(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb0102 アリア・プラート(25歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ガッポ・リカセーグ(ea1252)/ ジャック・ルイス(eb2391

●リプレイ本文

「無理だな、こりゃ。イチ抜けた」
 フィル・フラット(ea1703)は塔の周辺にお手製のトラップを仕掛けようとしたが、カン城の広大さを──ノルマンでも有数のものである──見て、一刹那で諦めた。
(しかし、今回の仕事は籠城戦か‥‥敵を追っ払うだけでいいのならやりようはあるかもしれないな)
「ちょっと、真面目にやりなさいよ」
 依頼人のナイト少女、ミュレット・カンがツッコミを入れるが、フィルは軽く受け止めて──。
「まあ、カリカリしないで、ハーブティーでも飲ませてくれ。長旅の後だ。まあ、それくらいはいいだろう?」
 話のベクトルを別の方にすり替えるフィル。
(ま、入り口には挨拶の為のトラップでも仕掛けておくさ)
「入り口から入ってくるのが食料だけとは限らないからね、食事は自前のですませてもらうよ。別にいいよね?」
 言いながら、クライフ・デニーロ(ea2606)は早速、自分の荷物を塔に運び込み、フィルの愛犬(入塔許可済み)のジェスと一緒に籠城の準備をする。
「籠城ほど退屈且つ難しい事も無い‥‥って事で娯楽用品に抜かりはない。まあ、ジェスもいるしな」
 フィルも後ろからせっつかれながら塔に入り、先に塔に入って3階に、ミュレットを含む女性陣の為にテントを設営し始めたクライフに声をかける。
「おい、クライフ、テントは張り終わったか?」
「てっ? まだ始まったばっかりじゃない」
 ブルー・フォーレス(ea3233)が手作りのボーラの具合を確かめながら、塔へと入っていく。
「合い言葉、どうしましょうか? とりあえず、怪盗は4世と呼ぶ事にでもしておきましょう。怪盗4世とか間違った呼び方をすれば、相手のプライドも刺激出来るかもしれませんから‥‥戦いは苦手なので──心理戦で片がつけば、それに超した事はないですしね」
「賊である怪盗3世についての情報を確認しておきたいです。只の金儲けとか、名前売りという訳ではないでしょうし。
 もし、二心あっての行動ならば、それに合わせるぐらいの心の余裕は持ちたいものです」
 シフールのララ・ガルボ(ea3770)は、以前に怪盗3世と接触のあったブルーに尋ねる。
「断言はできませんが、神聖ローマ占領当時から、神聖ローマ相手に怪盗をやっていた祖父の影響を大きく受けているみたいですね。聖遺物などの神聖な品を狙うというのは、失策続きで、祖父のアシスタントに回っていた頃から、スタンスは変わっていないみたいですし。
 多分にスリルシーカーなんでしょうね。だって『ダルタニアン』だって、最初の段階で盗もうと思えば、十二分に盗めた訳ですし。障害があって、初めて燃えるタイプかと。
 初代の怪盗にしろ、自分達に任務は託したとはいえ、天使の解放の様な一般的に言って、良い行為に力を貸していた訳ですし。
 ‥‥善悪の二元論で語るのは厄介でしょうね」
「何を。番長とは万物を超越するもの‥‥どんな相手だろうとかかってこい!!」
 鉄劉生(ea3993)が胸を張り、ブルーの言葉に断罪の一言を付け加える。
「だ、そうだよ。すげーな、番長って、感動しちゃうよ。全く以て、正義万々歳だぜ、うん」
 見かねて割って入るのは、バードのアリア・プラート(eb0102)。
「──という事で番長がいるから、心配無用」
 劉生は屈託無げに話を続けていた。

 そして、数日が過ぎ、クライフを除いた一同は、焦燥感を覚え始めていた。
 つい、ペットに当たってしまったり、フィルが準備してきたチェスの試合の筋も乱れ勝ちになる。
 クライフが事実に気づいた時には遅かった。
「しまったね、一服盛られたかな?」
 その言葉を受けて、鎧戸を開けて下の方を監視していたアリアが、昼頃に食事を持ってくる女性の挙動がおかしいのでは? と感じとる。
「おい、そこの!」
 言いながら三味線を掻き鳴らし、銀色の淡い光に包まれ、ファンタズムの呪文を発動させる。
「ミュレット、物陰に隠れろ」
「私も戦います。何を怪盗4世如きに」
 テントの中にダルタニアンを複製した幻像を作り出し、物陰に隠れるように指示を出す。
 だが、そのやり取りの間にも、女性は荷物を投げ捨てると、片手で印を結び、全身を煙に包ませる。
 忍術──怪盗3世であろう。
 次の瞬間、怪盗3世は爆炎を周囲に振りまきながら、鎧戸目がけて瞬間移動する。“微塵隠れの術”だ。
「怪盗4世じゃん!」
 アリアが叫ぶ。
 窓の縁ギリギリでぶら下がりながらも、怪盗3世は見事な体術で、体を塔の4階に振り入れる。
「ひとぉっつ! ひたむきに働く人々の」
 劉生の声が響く。クライフが呪文の詠唱と共に淡い青い光に包まれる。
「ふたぁっつ! 普遍の日常守るため」
 フィルが屋上から、4階へと降りてくる。
「前の別れ際に言いましたよね? 必ず捕まえて見せますって、手は抜きませんから覚悟してもらいましょう」
「べーっだ。一々、そんなのまで覚えてられるか?」
 女性の声から漏れた言葉は紛れもなく、怪盗3世であった。
 人遁の術は、意識して声音を使わなければ、声までは変わらない。
「では、思い出させてあげますよ!」
 ブルーがアイスチャクラをクライフから受け取り、放つモーションに入る。
 彼としても、口ではどうあれ、正直なところ対決を楽しみにしていたので念願かなったうれしさがあった。
 氷の戦輪が弧を描いて、怪盗3世を切り裂く──かに見えたが、一瞬の内にブルーの視界が切り替わる。そこにいたのは自分がいるべき場所に、煙をまだたなびかせながら位置を交換した怪盗3世であった。
“空蝉の術”である。
 ブルーがエルフ故、闘気を使う魔術に耐性がなく。また、差し入れ続けた食事に持った毒により、集中力を殺された事を一瞬の内に計算しての忍法の発動であったろうが、それにしては大博奕であった。至近距離にはクライフがいる。
 撃ち放つつもりでいたライトニングサンダーボルトの対象を咄嗟に切り替えて撃ち放つ──しかし。
「みっつ! 皆まとめて鉄拳制裁!!」
 クライフの術が成就する瞬間に、劉生が飛び出してくる。同時に、銀色の淡い光に包まれて、アリアのシャドウボムがようやく成就する。
 いきなり成功させるには、彼女の精霊魔法の腕前では敷居が高すぎた‥‥。
「“鋼鉄番長”鉄劉生、呼ばれなくてもここに推参!! 真打は最後に登場するってね」
 アリアの魔法により、駆け下りてきたフィルのそれも含めた、皆の影が沸き立ち、爆裂する。
 そこへ“微塵隠れの術”を高速詠唱を併用して、3階へと飛び込む怪盗3世。
 微塵隠れにシャドゥボム。魔法が二重に発動する阿鼻叫喚の中、怪盗3世は揚々と3階へ降り立ち、怪訝気な顔をしてテントを眺めた。
 普通、こんなものがあるとは予想していないだろう。
 そこへ、ララが『怪盗4世』のアリアの声があってから、綿密に準備していたオーラ魔法の数々を身にまとい、天井から突撃してくる。
 上の声で違和感があったが、こんな女性が仲間にいない事はララも頭に叩き込んでいた。
 足止めの為に士気が向上したまま、オーラソードで、シフールならぬ蜂の一刺し!
 後ろからの一撃は、騎士道にあるまじき事なれど、相手が一方的に背中を見せているのだから、声をかけるまで待っては居られない。更には『ダルタニアン』を持って、ミュレットが立ちはだかっているのだ。
 怪盗3世は一刺しが刺さる前に“微塵隠れ”の術を再び発動させて、ミュレットの下に。
 ミュレットはそこへ『ダルタニアン』を低く突き出す。
 レイピアを素手で受け止め、浅傷を受けながら、カウンター+ディザームで蹴りを入れる怪盗3世。軽い傷を受けながらも、武器をそのまま取り落とす。
 ララも飛行コースを変えて怪盗3世に後ろから斬りかかる。
 残念ながら仮にも闘気使い同士、完全に手傷を負わせるには至らなかった。
 怪盗3世も、いい加減手傷を負った所に、残りの面々も秩序だって降りてこようとする。
 レイピアをミュレットが拾うより早く、つかみ取るのが精一杯。これにより、行動力が低下し、連発しての魔法の行使は不可能となる。
 しかし、レイピアの向けられた切っ先が、ミュレットののど元に刺されると話は別である。
「見損ないましたね。あなたのお爺さん、怪盗ならばそんな真似しなかったでしょうに」
 最後尾のブルーが吐き捨てる様に言う。
「おじいちゃんはおじいちゃん、怪盗3世は怪盗3世。時代も変わればスタイルも変わるさ。さあ、そこの鎧戸を開けて貰うよ」
 そこへ一気にブルーがボーラを放り投げる。
 ミュレットも巻き込んでである。怪盗3世は咄嗟に印を結び、再びブルーと位置を交換する形になった。
 骨の軋む音。ブルーひとりがボーラに巻き込まれる形になる。
 最後尾につけた怪盗3世に対して、フィルはレイピアでの刺突を待つ形を取るが、向こうは攻勢に転じるだけの余裕が無いようで、フィルのひとり相撲となってしまう。
 怪盗3世は余力を絞って4階に移動すると、一同もそれに合わせて展開する。しかし、開け放たれた鎧戸目がけて“むささびの術”から、地面に飛び出す。
 淡い銀色の光に包まれ、アリアがスリープの術を放つが、怪盗3世はギリギリの所で眠気を振り払う。
 そのまま城壁を飛び越え、怪盗3世は姿をくらました。
「逃げられましたか──悔しいですね」
 言葉通り、ブルーは悔しげに呟いた。
「それにしてもアリアさん。あなたは範囲魔法を皆がいる所に打ち込みましたね。それに関して──話を伺いたいのですが」
「おうともよ。それがなければ、俺の龍飛翔が決められたものを──」
 劉生も詰め寄る。
「ふう、やはり娑婆は良いぜ────まあ怪盗連中を纏めて吹き飛ばす為の算段だぜ。まぁ、怪盗ひとりしかこなかったし、結果としては失敗したと‥‥」
 結局、一同は自分の手持ちのポーションで傷を癒やし、アリアはこの責任を取って、報酬なしとし、一同は奮闘したという事で、ミュレットから報酬を受け取った。
「しかしよお、ミュレットの嬢ちゃんが、隠れていれば、済んだ事じゃないのかぁ?」
 アリアは不平たらたら、帰り道で愚痴を垂れるが。ララ曰く。
「彼女が自信過剰だというのは判っていた事です。怪盗4世──ああ、もう3世と言っていいんでした。ともあれ、出てくれば、誰かが彼女を制する必要があったのでしょうね。怪盗3世を相手にするのに手一杯で、警告を発する事が出来なかった自分達の見通しの甘さを省みるべきだったかもしれないですけれど」
 彼女は雄弁に語った。
 街道を行く、一同の視線の先には9月のパリの灯が映っていた。
 風の噂によると、聖遺物は無かったものの『ダルタニアン』そのものは、返却されたそうである。
 苦い教訓と共に一同は冒険者ギルドに失敗の報告書を見る事になる。
 これが冒険の顛末である。