●リプレイ本文
休暇中、アクシデントに巻き込まれた一同が思い思いの手段で、インプとそれを解放した悪魔崇拝者に追いすがる。
インプの姿は見えないが、このノルマンにしては暑い中、黒衣の悪魔崇拝者達は聞き込みをすれば、すぐに目立つ。
「悪魔崇拝者か。騎士団登用試験の受験者達が相手取るものと何か関係が‥‥?」
岬芳紀(ea2022)が腕を組みながら考えつつも、間合いを詰めていくと、“小太刀”を持った影がまだ遠い距離にも関わらず、剣風を放つ!
「“真空斬り”かッ!」
咄嗟にシルバーダガーで受け止めようとするが、力量の差で押し切られる。
「絶えず切っ先を揺らしながらの一撃は──北辰流か!」
肩から吹き出す血を抑えずに逆に間合いを詰める芳紀。
「人間も相手にしなくてはいけないとは──結界だけでは足りそうにないようです」
愛馬『トゥルー・グローリー号』に跨ったエルリック・キスリング(ea2037)が、荷物と一緒に乗っているミィナ・コヅツミ(ea9128)に声をかける。
同じくエルリックに同乗していたレニー・アーヤル(ea2955)も『トゥルーグローリー号』にしがみついていた我が身を離すと、地面に降り立ち服装とティアラの乱れを直そうとする。
「女の子はぁ、いつでもオシャレに気をつけるもんなんですぅ☆」
だが、そんな彼女を襲う地面からの強襲!
「何て破廉恥な!」
地面の底から突き上げるような小太刀がレニーの形の良い脚を襲う。
「くっ! 急いで芳紀にだけでもバーニングソードを‥‥」
全身をすっぽりと覆ったローブ姿。ただ、右手の小太刀だけがレニーの血を吸って紅く染まっていた。左手で印を組み、口からは詠唱が漏れる。淡い茶色い光が彼(?)目がけて収束していく。
「何、精霊魔法? このまま行けば、トゥルー・グローリー号も巻き込まれる?」
エルリックは焦った。
短い詠唱の後に、黒い光条がふたりと一匹を巻き込むように伸びていこうとする。
「ままよ!」
蹂躙して無理矢理にでも詠唱を止めさせるしかないと、エルリックが『トゥルー・グローリー号』を前進させる。
しかし、愛馬は血の匂いに竦んでか、動こうとはしない。
「危ない!」
そこへ、姚天羅(ea7210)が無防備な詠唱時間の隙を縫って斬り伏せに入る。
風をも断つような鋭い一撃、ギリギリで受け止めた所へ、天羅が全体重をかけて押し倒しに入る。
一瞬の内に均衡は崩れ、相手は倒れ伏した。
「今だ、縛り倒せ」
レニーがロープ片手に術を使えないように、ロープで、もがく相手の手を懸命に封じる。
だが、相手は術を一瞬で成就させ、彼女のどてっ腹に一撃の重力弾を零距離で打ち込んだ。
血を吐きながらも懸命に相手の手を封じたレニー。
しかし、前線では無数とも呼べる数の悪魔崇拝者と、芳紀が北辰流の使い手と交戦中。
相手の小太刀はカウンターを許さない確実な虚々実々入り乱れた乱剣。単なる道場剣法とは思えなかった。
更に乱戦となり、僅かな確率でしか当たらないはずの乱戦による打撃が、数の暴力に任せて、僅かずつ打撃を蓄積させていく。
北辰流の男目がけてふた振りのシルバーダガーを走らせるが、傷で乱れた刃を相手は余裕でかわしていく。
一方、回り込んだキサラ・ブレンファード(ea5796)は禿頭の女と交戦していた。彼女はあまり目にしないが、首から黒い数珠をかけた女僧兵である。
強者と見て、必殺の間合いで踏み込んだ日本刀を体の影に隠して、見えない一撃を図る。
相手は太刀筋こそ見切ったものの、避けきれずほぼ一刀両断状態。日本刀の刃に肋骨が食い込んでいるのが良く判る。
「インプは!」
言った相手が上空に目をやる。
そのものは遥か東の上空、生半可な魔法では届かない様な高空を飛び回っていた。
遠近感が狂った所へ、キサラの両腕を掴まれ、脚は大地を離れ、そのまま投げ飛ばされる。
『奥義──崩山』
華国語で語った彼女の言葉はキサラには届かなかった。
一瞬の意識のブラックアウトの後、殺到する悪魔崇拝者の剣を次々と転がりながら避けていくキサラ。
刃こぼれこそしたものの、それでも愛刀は両手に確かに握っている。
跳ね起きて、反撃に転ずるキサラ。女僧兵は骨まで断たれて、身動きが取れないようだ。
しかし、深手を負い、動きの一歩一歩が呼吸を狂わせる。悪魔崇拝者の放つ殺到する刃の中で、彼女は無意識裏に軍神の如く、刃を振っていた。
それでもキサラは前進していく。
一方で芳紀は剣の峰の中を彷徨っていた。反射的にダガーで受け止め、動物的勘で弾き返す。北辰流の使い手目がけてただ邪魔する者は斬り捨てるのみ。しかし、満身創痍。
そこへエルリックが『トゥルー・グローリー号』の戦意を奮い立たせて、突入する。
彼は軍馬の重量溢れる体当たりで、戦闘の素人達を当たるを幸い薙ぎ倒していく。
「──助太刀!」
軍馬に真空斬りが叩き込まれていくが、戦意の奮い立った『トゥルー・グローリー号』はエルリックの指示の下、突き進んでいく。
囲みの剣陣も真空斬りを撃ち放す隙間は空いている。そこへ、むりやり愛馬をこじ入れさせていく、エルリックはノルドの太刀筋で、強引に馬上から斬り込んでいく。相手も馬を中心に攻め立てるが、愛剣の造りが上である事から強引に攻めに入る。
だが、そこへ芳紀もようやく割って入り、レニーがウォーターボムを打ち込む。
魔法を打ち消す術はないらしく、一方的に打撃を浴びる北辰流使い。
「インプ並みにぶっさいくですうぅ、嫌いっぽいですからぁ、やっちゃいますぅ☆」
相手の人権を軽々と蹂躙しつつ魔力の続く限りウォータボムを撃ち放つレニー。
エルリックとレニー、そして芳紀の3人がかりでの攻勢に人波をかき分けて逃げ出す北辰流使い。
だが──。
「悪魔崇拝者とはどういう関係は知りませんが──逃げるとは美しくないで。一刀で斬り伏せるが、慈悲と思え」
天羅が斬り伏せてから宣言する。
こうして、3人の傭兵、かつてはパリを騒がした『怪盗』をも凌駕した一団であるが、より上手の冒険者達に会って、壊滅せざるを得なくなった。ごく少数の徹底抗戦する悪魔崇拝者を残して、みっつの御盾を失った悪魔崇拝者はちりぢりとなった。
しかし、キサラも戦闘の興奮から冷め、ヒーリングポーションとリカバーポーションで己の傷を癒やす。
敵はちりぢりになれど、ミィナも無事で居られるとは思えなかったからだ。
岬は皆にポーションを配っていた──エルリックの応急手当にしても、応急手当に過ぎないのだ──ミィナも自分の傷を自分で癒やす力量はなく、ふたつのポーションを飲んで傷を癒やす。
レニーも強行突破したツケを、ふたつのポーションで支払う。天羅にしても周囲を巡廻するときに少なくない怪我を負い、ポーションを二本飲み干すのであった。
そしてレニーが中心となって尋問を始める。
「知ってることをぉ喋らないとぉ、水遊びしちゃいますよぉ☆」
と意味不明の言葉で自白を勧める。
魔力は尽きたため、魔法の補助に依る尋問は行えない。少なくとも一晩寝てから情報収集などという悠長な事はやっていられないのは事実であった。
どんな過酷な質問をしても笑みを絶やさない彼女を中心に、捕まえた悪魔崇拝者と、東方の傭兵──主に悪魔崇拝者専門の、かつては“夜鳴き鳥”と呼ばれた彼ら──の情報を聞き出すのであった。
「『全ての準備は揃った』という事はこれ以外の何かもしているという事なのか?」
天羅が問い詰める。
「当然ではないか、我らが主は万能なれば」
続けて、エルリックは尋ねた──何が目的なのか『世に地獄をもたらす事』。黒幕は居るのか『我らが崇める魔王』。それは槍を持った奴か?『そうだ』。行動はここだけか『我々はシュヴァルツ城にいる一団と合流しろと指示された』。他の場所でも何かやっているのか『カンで悪魔崇拝』と言った情報を聞き出すと、愛馬に跨り関係する各関係者へと報せに出て行った。
キサラは呟いた。
「ところでまだ特に具体的な悪事はしてなかったのだな。まあ‥‥細かいことか。それに悪魔崇拝者だし、いいか」
と、言いつつ、ジャパンの志士崩れだという濡瑠(ぬる)と、浪人の理介(りすけ)、華国の粋蘭(すいらん)、以前に冒険者ギルドで噂になった怪盗殺しの一団をついに捕縛したのであった。
休暇はこういった形で終わったが、キサラは勝者の特権として、捕虜から身代を巻き上げ、ひとり頭金貨3枚を得る事に成功した。更に自分は、理介と濡瑠の小太刀を、入手したのであった。
「これが勝者の特権ってね?」
しかし、インプはパリ方面に向かい飛び去った。だが、遠距離攻撃魔法の無いこの一団では為す術が無いのであった。
休暇は終わった。これが冒険の顛末である。