新春激走!犬ゾリ猛レース!

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月03日〜01月06日

リプレイ公開日:2007年01月06日

●オープニング

●リュージュ――木ゾリと呼ばれるもの。
 天界では古くから存在する木ゾリ。元は冬道の運搬や冬のソリ遊びとして親しまれたもので、当時は貨物馬車の運搬などで車輪が雪道に埋まってしまう悩みがあった。それを解決したのが、ソリの原型だ。
 それが次第に小型化され、一人乗りや二人乗りのソリ、舵と制動機の備わったソリなどが生まれた。
 だが現在のメイにおいて概念として取り入れられているものは非常に原始的なもので、また、伝わり方も非常に古風なものを再現する事しか出来なかったのだった。
 ゆえに、メイのソリは馬が引く大きな木ゾリが冬道の一般的な陸路運搬を担うことになった。
 それよりも小型で軽量化された一人と少量の荷物を載せられる犬ソリはいささかマイナーよりで、未だ発展途上である。

 その犬ソリをもっとメイの民に知ってもらい、親しんでもらおうと考えたとある行商人がこの冬、賞金をかけた一大犬ソリレースを催す事を決意した!
 その名も、『第一回 チキチキ犬ゾリ猛レース!』――。
 今回は第一回という事で、小型の一人乗り用木ゾリに犬一匹、200mの直線を競う『ワンドッグストレート200』の一般参加を募集する事になった。
 加えて、通常はソリを引く訓練をされた犬が引くレースだが、犬をペットにしている冒険者たちは自分の犬を引かせる事も可能となった。自ペット使用の場合は事前に申請の上、レース当日まで講習のため1Gを講習料として支払う事になっている。

●特殊レギュレーション
 そして参加ルールとして特殊なのは、シフールとパラが小柄で体重も軽いという事が他の参加者のハンディにならない為、シフールは飛行はもちろん不可で、シフールとパラはソリに重量ハンディが課せられる事となった。
 載せる重量はそれぞれ55kg(シフール)と35kg(パラ)となる。ちなみに、この重量ハンディを途中で落としてゴールしてしまったら失格となる。ただし、落としても拾ってゴールすれば問題はない。

 また、ジャイアントは残念ながらワンドッグストレートの参加資格が与えられないが、天界でいう輓馬(ばんば)――つまり馬に重量貨物を載せたソリ――で直線を競うレースが同時開催で行われる予定である。
 こちらも距離は犬ゾリ『ワンドッグストレート200』同様、直線200mの着順を争うものだ。
 元々は障害物レースだがメイには輓馬(ばんば)と呼ばれる種がいない。そういう事もあり、ウォーホースのチャリオット障害物レースの様なものを想像していただければご理解しやすいかと思われる。
 障害物といっても、坂がふたつだけしかない。だが、たかが坂と侮ってはならない。引くソリの重量はジャイアント用に調整されてはいるが騎乗するのがジャイアントである。
 強靭な肉体とバネ、そして瞬発力と持久力を併せ持つハイブリッドなウォーホースといえどもジャイアントを載せて坂を上るというのは非常に困難である。しかもかなりの盛り土がされており急勾配となっている。
 ジャイアントはこちらの大会にエントリーしてもらいたい。こちらもウォーホースを所持していれば講習料1Gを支払う事で自ペットを参加させる事が出来る。

●いぬぞり、だいすき。
 さて、メインレースとなる『ワンドッグストレート』へと話を戻そう。
 スポーツとしての認知度はマイナーだが、非常にシンプルでわかりやすい事から説明も容易で参加も簡単という事で、実は『冬の遊び』としては一般に広く普及している。なにせ犬にソリを引いてもらって、誰が早くゴールするかを競争するだけなのだ。
 今回は一位、二位、三位までに賞金が与えられる。
 それ以下は残念ながら賞金はない。その代わり参加賞として丁寧に「いぬぞり だいすき」と縫い付けられた(なぜかひらがなで、アトランティス人は読むことが出来ない)『刺繍入りハンカチーフ』が参加者全員に配られる予定だ。

 最速の称号をかけた大レース、果たして誰が『第一回 チキチキ犬ゾリ猛レース!』の覇者となるのか。
 ニューイヤーイベントとして、こぞって参加してもらいたい。

●今回の参加者

 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3490 サクラ・スノゥフラゥズ(19歳・♀・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 eb3526 アルフレッド・ラグナーソン(33歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ec0291 ポヨポヨーン・ポコポコ(28歳・♀・ウィザード・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●圧倒的なまでの銀世界。
 見渡す全てが青空と雪原の白銀だ。吸い込む空気は透き通るようにクリアで、新鮮だった。
 確かに気温は氷点下を記録し、体感的にも寒いかも知れない。
 だが、その寒さを吹き飛ばすほど、会場の熱気は凄まじかった。
 この日の為に集まった勇者達は、今、銀色の大地に降り立った! と思ったら、ひとり思いっきりすっころんでしこたま頭を打ち付けた勇者もいたりした‥‥が、とにかく集まった!

 今回参加者の中には自分の愛着あるペットと共にレースに参加しようという者も少なからずあった。
 その中の二人が、陸奥 勇人(ea3329)とサクラ・スノゥフラゥズ(eb3490)だ。
 ちなみに講習と実技の二科目で、その内容はレース参加に向けての基本的なルールや犬ぞりの歴史、それから犬に取り付けるハーネス(器具の名前で、馬の『鞍』みたいなもの)やソリの説明や重量配分(ハンディキャップの重量物の説明)などを含めた一時間半ほどの講習だ。
 実技はペットの犬に対しては、特に厳しい特訓などはなく、しつけの延長で行われる。先ほど説明された器具の取り付けや、肝心な『物を引かせる』という事に慣れさせる訓練などが行われた。犬たちには共通の号令を覚えさせる事になるが、しつけが行き届いてさえいればすぐに覚えられるものばかりである。
 一通りおさらいしておこう。号令はコマンドといい、基本形は、
「進め=ゴーアヘッド」「右=ジー」「左=ハー」「立止=ステイ」「止まれ=ウォー」
 以上の五つである。ステイとウォーの違いは、ステイは発進前のスターティングポジション、ウォーはブレーキの号令と解釈すれば分かりやすいだろうか。

 レースのルールなどは全員が再度説明などをされてはいるが、自身のペットと一緒に走ることが出来る参加者としてはいっそう熱が入るというものだ。
 コース自体は勾配のない、平坦な一直線の道を犬ゾリで駆け抜けるだけだ。だが、犬とマッシャー(犬ゾリの騎乗者の事をマッシャーと呼ぶ)との呼吸を合わせないと勝利には結びつかない。
 犬と人間とソリの相性は、実は勝敗に意外なほど重要な部分を担っているのだ。
 本来は頭数無制限で長距離を走るレースが主だったが、ここ最近になって個人でも参戦出来るように、一頭からはじめられるようルールやレギュレーションを工夫してきた。
 犬種に関しては自由である。ただし、中型犬が一番レースには向いているようだ。
 そういう意味では今回講習を受けた陸奥とハスキー犬・氷雨(ひさめ)との相性は素晴らしく、特に相性ばっちりであるといえる。後はこの短時間の訓練によってどれだけ氷雨がハーネスやソリに慣れるか、という所か。
 同じく陸奥に誘われる形で参戦したサクラとその愛犬、柴犬・湖瑠璃(コルリ)。柴犬は小型ではあるが寒さには以外に強く、環境の適応力はなかなかのもの。その適応力を活かして、ハーネスやソリの感覚を慣れさせる事が可能であれば面白い勝負が出来るかも知れない。
 サクラはエルフであり、小柄な女性だ。牽引する湖瑠璃は小型犬だが、自身の体重の軽さは武器になるといえる。

 アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)にも愛犬はいたが、今回は参戦見送りを決めた。彼の愛犬はハスキーという事で将来が期待できるかも知れない、それに若いうちから訓練をさせておけば、或いは――期待は高まる。
 彼もエルフであり、比較的体重は軽量な方である。一般的な人間の体格よりもほっそりとしているので長身ではあるが体重はそれほど重くない。その軽さはスプリントレースでは非常に有利に働くはずだ。

●真・剣・勝・負!
 実際の勝負はトーナメント方式で、A組とB組に分かれ予選レースをする。その勝者四組が決勝レースへとコマを進める事が出来る。
 つまり決勝レースは全八組の出走で行われるという訳だ。そういう意味ではほぼ一発勝負といっても過言ではない。
 百戦錬磨のマッシャーでも、犬たちの機嫌を損ねれば勝ち続けることは不可能なのだ。
 今回は直線レースではあるが、スタートラインからゴールラインまでには特にこれといったラインは引かれていない。
 密着さえしていなければスタートの位置付けは自由度が高くなっている。ちなみにこのルールが適用されているので、先行した組が後から来る組の進路を妨害するような位置で走ってもルール上は問題ない。ただし、追突、接触などはペナルティが発生するので充分注意したい。

 レース前にコースの事前下見などをする組もいる。
「やはり冬ですので冷えますね」
 サクラの手は、照れながらも笑いかける陸奥の手を優しく包み込む。
 それから、これからはじまるレースの緊張感からなのか、それでも二人の手は少しの間だけ、固く握り締められた。
「勇人様、勝負です!」
「おう! 真剣勝負だ、手は抜かないぜ」
「はい!」

 新春初レースという事で、会場は大いに盛り上がった。何せお祭りや賑やかな事が大好きだし、勝負とはいえほとんどの者は娯楽として楽しみに見学に来た者たちだ。
 銀色の平原。この高速バトルを制するのは一体誰なのか――。

●決勝レース、それはドラマティックに決する世界
 予選A組、B組のレース結果が発表され、遂に決勝に勝ちあがった八名の勇者が出揃った!
 勝ち上がった勇者の中には、陸奥・サクラ・アルフレッドの名前もある。嬉しさ反面、本番は次の決勝という事で緊張感は更に高まっている、安堵はしていられない。
「先ほどは運良く勝てましたが、次は予選を勝ち上がった人たちばかり‥‥強敵ばかりですが、狙うは優勝ただひとつです」
 不安は残る。だが、それでも優勝をかけた真剣勝負だ。
 一度戦いの中に入ればやはり狙うのは一番だけだった。参加者は当然優勝を目指して走ってきた。
 思いが強ければ、その熱意は必ず犬にも届くだろう。
 陸奥と氷雨、そしてサクラと湖瑠璃のペアにも自然とそういう熱意が伝わっているはずだ。

 緊張が銀世界を包み込む。
 白い吐息が、澄み渡る青空に溶けかけた、その時。
 遂にワンドッグストレート最終決戦の火蓋が切って落とされた!

●戦い終わって‥‥。
「いやぁ、まさかこんな結果になるとはな」
「本当、勝負の世界というものは蓋を開けるまでわからないものですね」
 レースの余韻を愉しみながら、暖かい飲み物などを飲みながらペットたちとふれあい、談笑している参加者の姿があった。
 決勝レースは初心者たちが混じっているとは思えないほど白熱したレース展開だった。
 直線を半分ほど過ぎた辺りでアルフレッド組がすぅっと前に出、そのまま抜けきるかと思われたその時、陸奥の斜め後ろを走行していたサクラ・湖瑠璃組の速度がぐんぐんと上がっていった。
 一瞬何が起こったのかわからなかったのは、実はサクラ本人だった。
 平坦だと思われていたコースだが、コースそのものの整地状況がその天候の変化によって他の場所よりもフラットだった事が後になって判明したのだ。
 予選まではぎりぎり路面状況はキープされていたものの、午後の決勝では快晴だったおかげで雪原は若干雪が解けかけ、路面はぐしょぐしょ。そのおかげでほぼ全組の走行がベストではなかったのだ。
 その感覚はソリ初心者である陸奥やアルフレッドにも足元から伝わっていた。
 その中で唯一天候に左右されず、絶好のコース取りで走り、さしきったのがサクラ・湖瑠璃組だった!

 湖瑠璃をもふもふと抱きしめたり撫でたりとスキンシップを取りながらも満面の笑みを浮かべるサクラ。
「うーむ‥‥やはりまるごとばがんくんでは空気抵抗が‥‥いや、まるごともなるこすじゃなかったからか?」
「私のペットももう少し成長していれば一緒に参加させたかったのですが」
 皆、戦い終わってようやくその緊張がほぐれたのか、優しい顔に戻っていた。特に自分の飼っているペットとこうしてゆっくりと過ごせるのは冒険者としては一種の癒しでもあった。

 決勝レースの結果は、一位優勝がサクラ・湖瑠璃組。サクラ組に抜かれた後すぐにコースを変更したのが功を奏した陸奥・氷雨組が二位。アルフレッド組は一時はトップを走っていたものの残念ながら結果は三位となった。
 ちなみに今回は初心者メインのイベントレースの為、賞金は一位=5G、二位=3G、三位=1Gとなった。
 陸奥・サクラの二人はペットの講習を受けているのでそれぞれ1Gを大会主催に支払い、サクラは4Gを、陸奥は2Gを。アルフレッドは1Gをそれぞれ手に入れることになった。
 また、レース参加者には参加賞として、「いぬぞり だいすき」と縫い付けられた記念品の『刺繍入りハンカチーフ』が全員に配られた。

 ある者は来年も開催されるであろう大会に向け、更なる高みを目指し、ある者は勝利の美酒に酔った。
 白銀の世界に燃え上がった熱い雪上バトル、初代最速女王はサクラ・スノゥフラゥズが手にした。
 大会は終了した。だが、冬季恒例の行事として今後も続けられていく事だろう。

 ――次回『第二回 チキチキ犬ゾリ猛レース!』へ向けて、新しい一歩を踏み出す時が来た!