ナーガ族の退屈
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月13日〜01月18日
リプレイ公開日:2007年01月16日
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●オープニング
とある寝具メーカー開発部長、サラは悩んでいた。
冒険者も愛用する、寝袋。この寝袋の新製品プロジェクトが企画され、そのプロジェクトの部長として任命されたのが彼女だ。
「より快適に、より使いやすく、より軽く、より保温性を保ち、通気性もよく、何より安全な寝袋を作れ」
言うだけなら簡単だが、確かに言いたいことはよくわかる。
何せ現在流通している寝袋はとても原始的で、とてもじゃないが『快適』ではない。使いやすさはともかく、かさばるし保温性にいたってはかなり心もとない。
通気性もよくとなると、生地や設計そのものから見直さなくてはならない。
しかし、そうそう簡単に新製品開発の目玉となるような要素がみつからないまま、プロジェクトは暗礁に乗り上げたような状況に叩き込まれてしまった、という訳だ。
サラはもう、若くはない。中年女性として、冷えというのは確かに重大な悩みである。そういう意味でも寝袋の保温性というのはとても大きな意味を持っていた。
一方、ぬいぐるみメーカー開発部長、ケイトも悩んでいた。
全身ぬいぐるみ、通称『まるごと』シリーズの新モデルの企画がスタートし、そのプロジェクトに任命されたのが彼女だ。
「まるごと着ぐるみシリーズの新しいものを作れ、今まで以上に、インパクトのある、機能性に優れたものを完成せよ」
これまで以上の――インパクトなど、元からインパクトだけはほぼ最大級のブランドであるまるごとシリーズに――更にインパクトを求めるなど無茶もいいところだった。
だが、今までの実績や企画開発力を買われ、遂に与えられたまるごとシリーズの新製品開発プロジェクトだ。ここで失敗する訳にはいかない。
しかし、ケイトもまた、これといったアイディアが浮かばないまま行き詰まりを感じてしまっていた。
二人は、気晴らしに酒場へとやってきた。
そこで彼女達は偶然出会う事になる。
二人はすぐに打ち解けると、互いの悩みを打ち明けながら、いつの間にか朝をむかえてしまう。
彼女達の悩みをあらわすようにどんよりと深い、暗い雲を見上げながら苦笑する二人が別れを惜しみながら帰路につこうとしたその時。
二人にとって、救いの神が遂に現れた!
ちょうど二人が帰ろうとした時、ある冒険者たちに守られるように守護される竜人を見かけたのだ。
その姿は伝説の竜と見紛うばかりの出で立ちで、神秘的な美しさを醸し出していた。
サラとケイトの見たもの、それこそ、ナーガ族の女性レイネだったのだ――。
なぜか二人はレイネを見た瞬間、同じ電流が走った! これだ! と。
そして、二人はレイネを引き止めると頭を下げ、すがるように懇願するのだった。
「‥‥つまり、我に二人の協力をせよ、と」
「はい。お願いします! あなたの力が必要なのです!」
本来ならレイネは二人に協力するほど余裕はなかったが、自分自身も人間達に協力を求めている立場である事を思い返すと、ゆっくりと肯いた。
「して、我はどのような事をすればよいのか?」
「はい、ナーガ様をモデルに新製品を開発したいのです!」
こうして、寝具メーカーとぬいぐるみメーカーとナーガ族の信じられないような夢のコラボレーションが実現する事になった!
新製品は着ぐるみの保温性とインパクトを併せ持ちながらも寝袋としても使えるという魅力のアイテム――。
『まるごとナーガさん寝袋(仮称)』だ。
だが、これが本格的に製品化されるにはそれぞれの機能を充分に発揮するものでないとならない。
試作品はいくつか作られたが、なかなかまとまらない。
ここまできたらやりきるしかない。しかし、最後の最後で、何か足りないような気がするのだ。
このままでは、完成する事は不可能だ。
「せっかくナーガ様にまで頼み込んで作ってきたプロジェクト、ここで諦める訳には、絶対にいかない!」
二人の闘志は燃え上がる!
最終的なデザイン案と試作品が数点、完成した。
そこで、実際に冒険に出発する冒険者に寝袋を試用してもらおうと冒険者ギルドへと協力の要請を出したのだった。
これを実戦で試用し、実用化されると認められれば遂に製品化だ。
実はこの最終試用テストにもサラとケイト、そしてなぜかレイネも同行する事になったのだが‥‥。
●リプレイ本文
「さて、今回『まるごとナーガさん寝袋(仮称)』の試用テストにお集まりいただき、誠にありがとうございます」
「今回皆様に試用していただく試作品はそれぞれ、リアルタイプ屋内専用、同屋外兼用、デフォルメタイプ屋内専用、同屋外兼用、それからおしゃれタイプをご用意しております!」
自身満々の二人の解説に、モデルになったナーガの女性、レイネがふと眉をひそめ頭をひねる。
「‥‥おしゃれタイプ?」
デフォルメタイプはいままでの『まるごと』シリーズを踏襲したタイプの寝袋である。
そもそもなぜまるごとシリーズでありながら、今回寝袋機能を付加させる事が出来たのか。
それには非常に重要なヒントがレイネ自身のシルエットに隠されていた。
一般的にはまだ認知度は低いが、そもそもナーガの女性にしか見られない特徴が、その外観ではっきりと見て取れる部分がある。
それこそが『ナーガの女性の下半身が両足ではなく、蛇のような形状である』という事だ。
この事に関し、レイネはナーガの男性は人間と同様、二足であるという事をはっきりと明言しており、この蛇のような胴体は女性特有のものだという事を説明してくれていた。
そこで、着ぐるみの保温性に寝袋的なシルエットを加味して再構成されたのが、今回企画された『まるごとナーガさん寝袋(仮称)』だったという訳だ。
敢えて、さんと注記してあるのはこの為だ。もし二人が男性のナーガと出会ってインスピレーションを受けたとすれば、間違いなく寝袋にはならず普段通りの『まるごとナーガ(仮称)』といった製品と化していただろう。
大人の男性でも全身がすっぽりと収まるそれは、まさしくフリーサイズといっていい。まるごとシリーズを装着した事のある冒険者なら、その保温性は寒冷地や冬季においては信頼性があるという事を覚えているものも多いだろう。
レフェツィア・セヴェナ(ea0356)もまるごとシリーズの経験者であった。
「はわわ〜‥‥ぽかぽかあったかー」
まだ寝袋として中に入ってもいないのに、そのぬいぐるみのような優しい肌触りのもこもこ感に、甘い溜息を洩らしながら頬ずりするレフェツィア。
「ほあほあもこもこしてて、これぞまるごとシリーズって感じ!」
直感的な発言ではあるが、デフォルメタイプの見た目はまさしく『まるごと』の最もまるごとらしさを強調したデザインになっている。
ちなみにレフェツィアがすりすりしているのは屋内専用だ。
また、実用性とまるごとシリーズの長所を併せ持つものがリアルタイプになる。
「これは‥‥あんまりかわいくないですね」
ソフィア・ファーリーフ(ea3972)、フォーレ・ネーヴ(eb2093)といった女性陣からは微妙に不評ではあるが、今度は逆にマイケル・クリーブランド(eb4141)やティス・カマーラ(eb7898)といった男性陣には「かっこいい」という感想も聞かれた。
レイネも実はこのリアルタイプには興味を示していて、しかし、広げるとぐったりとした女性ナーガの雰囲気も見られ、先日奇襲され傷付き倒れた仲間たちの事を思い浮かべてしまう。
――それほどまでに、リアルなのだった。
「なんだか、しんなりしたナーガ様みたい」
レフェツィアのストレートな意見に、サラもケイトも真剣に聞き入れている。概ね女性陣からはあまり外見的にはよろしくないようだ。
しかしながら、そのリアルな再現度にマイケルはかなり興奮していた。
「ヒーローショーとかに出てくる怪獣とか、そんな感じだと思うが、とにかくこの質感といい、やたらとリアルでいいな」
「なんだか、本当にナーガ様が寝ているみたいだよね!」
ティスも興味津々の様子だった。
レイネもティスらの言葉に肯いている。こちらは屋内専用、屋外兼用ともにリアルな質感を重視した為、若干堅苦しい印象を受ける。
実際の着用感も寝袋のそれとも、ぬいぐるみのそれとも違う、新しい着用感だった。
「なんか内側もごつごつしてる、けど、場所が安定してたらすやすや寝れるかな?」
フォーレは見かけよりは安定感のある形状に、いくらか妥協点を見つけたようだ。
最後に、今回参加したほぼ全員が説明の段階で想像すら出来なかったおしゃれタイプだ。
モデルであるレイネすら疑問符を浮かべる謎のタイプ、おしゃれタイプ。一体どんなものか、というと‥‥。
「一体、どこがどうおしゃれなんですかー!?」
ソフィアが突っ込みの先陣を切った。
実はこれは正確に言うと、寝袋でも、ぬいぐるみでもなかった。
言ってみると――抱き枕のそれに、非常に酷似しているもの、と言えた。
「これは多くのデザインの中でも画期的なデザインですが、残念ながら寝袋とは言い難い最終案になってしまいました。しかしながら、屋内専用で枕として活用できればと思い、このような形にしてみました! どうですか! これでいつでもナーガ様といっしょ!」
サラご自慢の一品といってもいい、アトランティスには画期的なアイディアを打ち出してきた。
これにもマイケルは食いついてきた。
「これは俺も知ってる。抱き枕だ」
「だきまくら?」
天界では一般的に普及しているのだろうか、マイケルはおしゃれタイプをひょいと取り上げると、実際の使い方を説明する。
「つまり、こう、ベッドなんかで両手両足をこうして‥‥間に挟むようにして‥‥ってなんだ、おい、なんで皆引いてるんだよ!」
「いや、なんか、ちょっといやらしい‥‥」
「えー!?」
――そんな中。
「しかし、これは、ふむ‥‥なかなか」
冒険者たちが微妙に引いている最中、レイネは地味に気に入ったらしくふむふむと納得しながら巻きついていた。
「‥‥絞め殺してるように見える‥‥」
夜になりお酒が入っているソフィアがぽつりと零す。
これにはサラもケイトも一瞬、呆然としてしまったが。
どのタイプも、現時点ではやはり一長一短。寝袋としての保温性はともかく、着ぐるみとしては両足が使えない以上、立つのは可能でも歩く事は困難だ。ぴょんぴょん飛び跳ね移動する事は出来そうだが、これでは行動にかなりの制約がかかってしまう。
逆に寝袋として見た場合、外観を着ぐるみに合わせてしまうとどうしても大きくなってしまい、携帯性、重量共に妥協点までは到達しなかった。
「やはり簡単には製品化には結びつかないのかしら」
サラ、ケイトの二人は冒険者たちの率直な意見や様々なリアクションを見ながら、データを取り続けた。
「ところで、このまっしろいオオカミは吹雪を吹けるんだよね? ちょっと弱めに吹いてもらって、寒い所でも使えるか実験できないかな?」
ティスの提案は非常に画期的ではあったが、とてつもなく大きな賭けでもあった。
「弱めに、ね。どうだろう、大丈夫かな?」
レフェツィアはフロストウルフのプリンを優しく撫でつけると、耐寒性能を引き出すための最終調整として吹雪のブレスを一回、射程ぎりぎりの距離から吹かせる事にした。
「さすがに中に入ってると危ないから、寝袋だけでも当ててみよう」
本当は中に入った状態の方が正しいデータが取れるかも知れないが、負傷者が出るような事があれば計画は一瞬にして水の泡と化す。
屋外兼用の二つのタイプにブレスをあてると、みるみる外側がまっしろな雪と氷に包まれてしまった。
「うーん、リアルタイプのはもうかちこちだ。ぬいぐるみの方は外側だけ少し凍ってるけど、中は無事みたい」
リアルタイプの素材はやはりここでも厳しい評価を受けた。斬新なアイディアと素材、そしてデザインなだけに非常に惜しい所だが、残念ながら寝袋は遊びで使うものではない。やはり実用性あってのものだ。
逆にいつものタイプでもあるデフォルメタイプは今までの実績がものを言い、寒さにはめっぽう強い事が試作品の段階でも証明されたのが印象的だった。
見た目のかわいらしさ、サイズ、保温性、そして耐寒性能。こちらは圧倒的にデフォルメタイプが有利である。
ただし、携帯性、重量、肝心の寝心地には問題が残った。
全日程を終え、ようやく戻れる頃には、冒険者たちの顔にも普段使い慣れている寝袋とは違うタイプを使用した事による疲労感が見えていた。
だが、この疲労感もいずれ完成するであろう新しい寝袋への貴重なデータ提供かと思えば安いものである。
「皆さんから頂いた貴重な情報、大変感謝いたします! これにて試用テストは終了です、本当にありがとうございました!」
「野生の動物や怪物たちに襲われることも無く、無事に終えられた事に感謝しています。そして、これがギルドからの報酬とは別に、我々からのお礼です、受け取ってください」
現物支給かと微妙に期待していた冒険者もいたが、サラ、ケイトの二人からは各1Gずつ、計2Gがギルドの報酬とは別に、全員に配られる形となった。
冒険者たちと別れた後、サラとケイトはレイネに深く頭を下げた。
「本当に色々とありがとうございました! 私達も一皮むけたような気がします!」
「ナーガ様に出会えた事に感謝しています。ありがとうございました」
二人は一つ、壁を越えたような、清々しい表情でレイネを見送る。
――最後にレイネは二人にそっと耳打ちすると、返ってきたその表情に笑顔を見せた。
彼女がこれから向かう先は、灼熱の大地。そして昼夜の差が60℃前後にも及ぶという前代未聞の過酷な場所だ。
その旅立ちを前に、彼女もまた、ひとつのヒントを人間から得る事となる。
ナーガ族の魂を持ち帰るための厳しい道のり。
ここから本当の旅がはじまる。