燃える瞳の鬼姫
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月23日〜01月28日
リプレイ公開日:2007年01月25日
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●オープニング
アトランティス・メイの国。この国を東西にまたぐ大きな連なりの山脈がある。
ステライド領とセルナー領の境、背後に山を構えコーマ河を迎える立地条件的には実に素晴らしいが残念な事に未だに手付かずの場所を多く持つという、小さな村。
その小さな村は、背後に構える山から採れる山菜の流通で生計を立てているのだが、そんな一見平和そうな村に激震が走った。
――鬼姫があらわれた!
冒険者が山菜採り名人と共に山菜採りの手伝いに山に登った所、今までオールシーズン怪物などに襲われる事の無かった平和な村にオーガの群が突如出現したというのだ。
そして、狂暴なオーガの群を束ねるかのように一人、凄まじいパワーを発揮し冒険者たちに襲い掛かり瀕死の重傷を負わせた女性のオーガがいたという。
オーガにしては、小柄な、だがその両手には巨木をそのまま武器にしたような棍棒と『ナタ』のような形状でありながら、彼女が使うに至ってまるでマインゴーシュのような使い方をしたというマチェットを持ち、強烈な咆哮で冒険者たちを震え上がらせたらしい。
突如あらわれた狂暴なオーガの群に対し、村の住民はあまりにも脆弱すぎた。
対抗する手段を、全くといっていいほど、持ち合わせていないのだ。
冒険者たちは突然の出来事に多少混乱したものの、必死で対抗したが、何よりあのリーダーらしき女性のオーガに、相当てこずってしまった。
仲間が次々倒れていく中、このままでは全滅してしまうと判断した冒険者たちは文字通り命からがら村に逃げてきたという訳なのだった。
これでは村に降りて来るのも時間の問題だ。
そこで村長は、冒険者たちにもう一度彼らを退治してくれるよう頼んだが、あまりの戦力差に皆怖気づいてしまっていた。
冒険者たちは依頼の報酬も受け取る事無くまるで逃げ帰るようにギルドに戻ってしまったのだった。
それから数日、ただでさえ対抗手段を持たない村の住人は恐怖に打ち震え、外出はおろか山から時折聞こえてくる獣の遠吠えにすら怯える日々を送っていた。
このままでは、オーガたちに山を荒らし尽くされてしまう!そうなれば村の財源は尽き、村は廃れ、追われる事になってしまう。
そして、必死にすがり付くように、コーマ河を下ってメイディアにやってきた村長の娘は冒険者ギルドに決死の覚悟で依頼するのだった。
彼女の持つ情報は次の通り。
・山菜を採りに行く時間は毎朝、早朝の事である。
・これまでは一度もオーガなどに襲われたことは無い。
・突如出現したオーガたちは八体。
・うち、一体がリーダー格らしき女性のオーガで、その強さは通常のオーガとは比べ物にならないほどらしい。
(この情報のみ冒険者から得たもの)
・この内、二体のオーガは冒険者により倒されている。彼らに仲間がいなければ、現時点で六体となっている筈だ。
冒険者曰く――『鬼姫』と恐れられた女性のオーガ率いるオーガの群を討伐すべく、ギルドは冒険者を募集する事になったのだが‥‥。
どうやら、一筋縄ではいかないようだ。
●リプレイ本文
●怯える村人たち。
村はじまって以来の危機に直面したのだ。多少の男手があるとはいえ、戦力と呼ぶにはあまりに物足りない。
それでなくとも、人手不足で生産が間に合わない状況だ。その為、臨時的にとはいえ冒険者たちにもその手伝いをしてもらっていたのだが、まさかそのタイミングでオーガに襲われるとは‥‥。
村人たちの顔色は一層悪くなる一方。
唯一の救いは、山菜採りの名人と冒険者たちが出会った場所が、普段はほとんど通らないが天気がよければ足をのばすような場所であったという事だった。
遭遇地点は名人の地理感で移動している上、地図もほぼ役に立たない山林中だ。エルトウィン・クリストフ(ea9085)の提案した山中に罠を張るという作戦は、罠を設置しても正確に作動するか不安が残る。
特に設置場所を的確に指示出来ないのは万が一の事も考慮するとやはり難しいところか。
村人たちに聞き込みをして回ったグラン・バク(ea5229)バルディッシュ・ドゴール(ea5243)らだったが、情報としては依頼時に得られた情報とさほど変わらないものばかりで、特にこれといったものは得られずにいた。
最悪、それこそ一発勝負といわんばかりの状況が彼らを待ち受けていた――。
●鬼姫のてがかり。
「鬼姫の事ですが」
打ち合わせ中、ふとクーフス・クディグレフ(eb7992)は疑問に思っていた事を口にした。
「鬼姫は本当にオーガなんでしょうか? 実は来落した天界人の女戦士などということはないのでしょうか? 行きがかり上、オーガのボスになったとか」
「確かに、よく考えてみるとオーガにメスがいるという話はあまり聞いたことがないわね」
フローラ・ブレイズ(eb7850)やアルク・スターリン(eb3096)はふむふむと肯きながら、作戦を熟考する。
「オーガの言葉を理解出来るかどうかはわかりませんが、もしそうだとすると、何故冒険者たちを襲う必要が?」
どちらにしても不可解であった。
巨大な棍棒とマチェットを振り回し、際立った強さを見せつけたという女性。オーガであろうが人間であろうが、現時点で村に損害が発生している以上は野放しにはしていられない。
出発の前日まで綿密な打ち合わせが展開され、冒険者たちは戦略をしっかりと頭に叩き込んでの掃討作戦がはじまった。
山中では、豊富な山菜が採れるらしい。生食でもいける草類や天界では料理にも使われる事もある香草。
アトランティスでは主に薬草として重宝されるもの、それに茸類。木の実も採れる。
食材の宝庫とも言っていい。オーガたちはこれらを食べ尽くそうとしているのだろうか?
「オーガが菜食主義者だという話は聞いた事はないですが」
アリウス・ステライウス(eb7857)が皮肉ってみる。
遭遇したのは早朝。陽がのぼりはじめる頃だから、視界はそんなに悪くはない。
同じような状況でも冒険者であれば問題なく動けるだろう。足場が悪いのは相手も同じ、特にどちらが有利に働くという事はない筈だ。
●オーガ――怒れる鬼たち。
オーガの中には人間と友好的な者もいるという。しかし知能はさほど高くない事から、腕っぷしでねじ伏せる、いわゆるパワープレイが彼らの戦術といっていい。
通常ならばオーガの数匹程度であれば多少『こなれた』冒険者なら対応に難しくない。
にも関わらず、『鬼姫』率いるオーガの群はそれを大きく逸脱した、特殊な戦闘パターンを持っているようだった。
そうでなければ、簡単に重傷者を出すまでもなかった筈だ。
『鬼姫』と直接やりあった冒険者たちと話を聞くことは残念ながら出来なかったが、相当の手練であったという。
その戦い方もパワープレイ一辺倒ではなく、むしろ相手に合わせつつも強力なパワーを余す事無く使い切るパワーバランスだったらしい。棍棒で殴り倒すだけでなく、相手の攻撃を読みながらマインゴーシュよろしくマチェットで受け流すという戦い方は、戦い慣れしている戦士のそれであった。
他のオーガたちは、というと‥‥。
二体をなんとか倒し逃げる機会を生み出した冒険者の話をまとめると、今まで出会ったオーガの中では手ごたえのある者ではあったが、雑魚とはいわないまでも一対一の状況であれば充分に対応しきれるものだったという。
しかし妙に戦い方が洗練されているように感じたらしい。泥臭いオーガのパワーはどこか影を潜め『鬼姫』のサポートに回ったり、各個撃破を狙った布陣で立ち位置を計算したり――まるで巨大な鏡に映る冒険者たちのような戦いがそこにはあった。
レインフォルス・フォルナード(ea7641)は、あまりにも『らしくない』オーガのやり方にふと疑問符を浮かべる。
「戦術指導でもした者がいるのだろうか?」
「やはり『鬼姫』が特殊すぎるんじゃないでしょうか。考えて戦うオーガなんて、聞いたこともない」
クーフスの予想は、ここに来て微妙に信憑性を帯びてきていた。
「いや、戦い慣れしたオーガもいる事はいる。もしかすると、そういった特殊な環境で戦い抜いた戦士級のオーガなのかも知れん」
「剣を交えればわかる事。今は奴らを見つけ出す事が優先だ」
バルディッシュやグランらは、相手が人間であるかも知れない事をそこまで考えようとせず、敢えて熟練のオーガであるという見解を示した。
●消えた鬼姫。
山中を歩きまわり、しかしそれでもオーガの気配はまるで感じられない。
だが、突然あらわれて、今度は突然いなくなるという事はあるだろうか? 少なくとも、オーガがいたという確実な痕跡は見当たらないが、それらしい感じはする。
露骨な跡を残さないというのも妙なものだ。急いでどこかに向かっていたかのような違和感を残す。
彼らはどこから来て、どこへ行こうというのか――。
だが。
捜索を一旦やめ、休憩しようとしていた矢先。
それは突然嵐のようにやってきた!
「ご、ごはん位たべさせてよ〜っ!」
エルトウィンの悲鳴にも似た叫びが、戦いの合図だった。
ところが、オーガの数がおかしい。
戦闘体勢を維持しながら、前夜行った綿密なミーティングでも想定していなかった『鬼姫』の不在に、一同は一瞬、面食らった。
「どういう事? 依頼とは別のオーガの群なの?」
フローラは作戦通り、戦力の分断を狙う。後退しながら援護するというのは、実は戦略上かなり効果がある。
ただし、それを実行するには緻密な計算と大局を見極める能力が必要だ。クーフスやアルクの足止めを狙った立ち回りも、元々が山林であるという地の利を活かした戦法であるといえた。
「山鬼よ! 人里を襲う理由は何だ!」
バルディッシュの問いに、オーガたちは低く攻撃的な叫びで答えるだけ。
「‥‥く、問答無用というやつか。ならば仕方あるまい」
斬撃から繰り出される凄まじい衝撃波をオーガの群に炸裂させると、鬼姫のいないオーガの群を一人ずつ引き剥がしていく。
エルトウィンもフローラ同様、後退しながらも的確な手さばきで体格差を感じさせない動きで鬼たちを翻弄した。
足場の悪さと立ち位置を常に計算しながらの戦いにおいて、魔法の力は実にナーバスなものだった。アリウスはかろうじてグランへの魔力付与を成功させるものの、その後はじりじりと後退しながら開けた場所へと移動をしていた。
オーガたちは総勢四体。報告よりも二体少なく、更に『鬼姫』らしき女性のオーガも見当たらない。
報告とは別の部隊かと思われていたが、泥臭いオーガの戦い方とは違いあからさまに戦い慣れた感が伝わってきていた。
前衛後衛をしっかり管理しながら、戦力の分断をされてもなお慌てる事無く相手の動きを封じようとしてくる。
厄介な戦い振りである。この妙に慣れた戦い方から、恐らく『鬼姫』配下のオーガであろう事は皆が予想出来ていた。
だが、話し合いには応じるつもりも無いようだった。
しかしいくら戦い慣れしているとはいえ、確固たる戦術を持ち合わせていないグループと実戦と理論を理解しながら戦っているグループとでは、やはり違う。
一瞬のスキを突いた格好でエルトウィンの投げたダーツがオーガの目にヒットし、その勢いを借りた形で切り払ったバルディッシュがオーガの一人を倒した時点で、陣形は一気に冒険者側に有利に傾いた。
それでもオーガたちは、こうする事で全ての者から『鬼姫』を遠ざけるように、足止めをするかの如く最後まで戦い抜く覚悟があったようだ。
まるで彼らがここで暴れる事は――はじめから決まっていたかのように。
だが、必死に抵抗しようと一度崩れた陣形に追い討ちをかけるのは容易だ。
だからこそ、『崩す』という事が、戦闘においては重要なファクターなのだ。
ただ前のめりに剣を振り回したところで、その場だけよければいいというものでは決してない。
果たして――鬼たちとの激闘は――決着した。
「‥‥四体、か。残りは『鬼姫』ともう一人という事だが、まんまと奴らの陽動に引っかかってしまったようだな」
「オーガがたった二体で何をしようというのでしょうね。とはいえ、一体は噂のオーガなのですから、油断できませんが」
「でも、一体どこに行っちゃったのかな? っていうか、そもそも、どこからこっちに降りてきたんだろうね」
村に帰還した冒険者たちが村長に報告を持ち帰ったあと、皆はどうにも釈然としない表情で『鬼姫』の行方を思案していた。
どこから来て。
どこへ行ったのか。
何が目的であったのかも。
今となっては何もわからない。
ただ一つ言える事は、まだ、彼女は生きているという事だ。
突然あらわれ、突然に消えた『鬼姫』――。
本当に彼女は『鬼』だったのだろうか。
そして、彼女はまたいつかどこかで、それこそ突然にあらわれる事があるのだろうか。
今となっては何もわからない。
冒険者の恐怖が生み出した幻影だったのかも知れない。
或いは。
天界の一部地域では泥を体に塗り、害厄から身を守るという事があったという。
人間が赤銅色や青銅色の土や泥を塗りオーガとして生きているという可能性は、完全には否定できなかった。
オーガの村に降りた幼い子がオーガとして生活するというのは、あながちあり得ないという訳でもない。
天界における神話や物語でもそういうくだりは存在する。
事実、オオカミに育てられた少女などは(天界では)現代においても間違いなく存在するのだ。
もちろんアトランティスにそういう事例があったという事は過去に語られたことはない。
だが、クーフスにはその可能性をいつまでも否定する事が出来ずにいた。
オーガ四体を殲滅した後、念の為と山中を再度巡回したが、やはり『鬼姫』はあらわれなかった。
それどころか、今まで一度も怪物や野生動物に襲われた事がないというだけあってなるほど平和そのものだった。
危機が去った事を確かめると、ようやく村人たちの笑顔が戻ってきた。
丁度出荷時期と重なっていた為、採れたての山菜を冒険者にもっていってもらう事ができなかったものの、村長の娘からは報酬とは別に名産品のひとつだという『ハーブティー』を数セットずつが全員に配られた。
村の平和は取り戻された。
だが、どうにも歯切れの悪い成果を残す事となってしまった。
こうして冒険者たちはギルドへとその報告の為、村を後にした。