霧中の敵を討て!
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 98 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月02日〜02月05日
リプレイ公開日:2007年02月02日
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●オープニング
遊覧船沈没事件から数週間が経ち、海の平和は一旦は静寂を取り戻したかに見えた。
しかし、新たな脅威がメイを襲うことになる。
深い霧の中から浮かび上がる、まるで幽霊船のような海賊船が現れたというのだ。
所属不明の海賊団。彼らは深い霧がメイの海を覆うと出現し、不幸にも海に出てしまい霧に飲まれてしまった船を次々襲い、酷い時には船ごと沈没させる残虐非道な連中だという。
晴天に恵まれる事の多いメイの国周辺海域ではあるが、海の天候というのは時に気まぐれだ。
さっきまで晴れていたのにあっという間に曇天に変わり、雨や風が強くなるという事もままにある。
そんな荒天の状態に限って出現するというのだから、たちが悪い。乗組員たちは船を守りながら防戦しなければならないが、貿易船などは天候と海賊に対して同時に対処しにくい一面がある。
そこで海上騎士団の登場という訳だ。
だが、濃霧の中では索敵するのは困難を極める。霧の中、捜索活動をしている合間に襲われるというケースも少なからずあった。
まるで海上騎士団を嘲笑うかのように霧中に暗躍する謎の海賊たちに、騎士団も成す術を持たなかった。
しかし、海の平和を守る為、彼らを野放しには出来ない。
海上騎士団は領主に人員増強を求める事にした。かくしてその許可は下り、遂にその依頼先が冒険者へと回ってきた。
ほとんど謎だらけの見えざる敵に対し、対抗しうる手段はただ一つ。
出現情報をとにかく多く聞き込みし、彼らの辿る海路を見つけあぶり出す事だ。
そして霧の深い日には囮用の船に冒険者たちを乗り込ませ巡回、海賊が襲来し、万が一の時にはそこで足止めしてもらい、騎士団が一気に叩くという戦法が掲げられた!
情報を集めているうちにも襲われる被害は後を絶たず、海の民たちは文字通り暗雲たちこめた只中に投げ込まれるような日々を送っていた。満足に船を動かせない日もあった。
このままでは貿易流通にも差し支える。危機感がつのり、騎士団にも焦りの色が浮かび始めた時。
例の海賊船の出現ポイントがほぼ確定したという情報が届けられた!
しかも出発の日はあいにくの曇天。海の機嫌は悪いが、討伐するにはうってつけとなる。
冒険者たちはメイの海を荒らす海賊たちを打ち倒すべく、囮用の船に乗り込んで‥‥。
●リプレイ本文
●濃霧に潜む悪夢――。
「それにしてもおかしいな、わざわざ船を沈めて討伐される危険性を増やすとは? 単に愚かなのか、それとも、裏に強力な支援者がいるのか」
謎の海賊船が引き起こした一連の事件、そのやり口に素直な疑問を浮かべる風 烈(ea1587)。
襲撃を受け、何とか生き延びた船乗りたちや海上騎士団に事情を聞き込んでいたファング・ダイモス(ea7482)や同行したジャスティン・ディアブローニ(eb8297)らは、不思議そうな表情でそれに答える。
「私も被害を受けた船員や海上騎士団と話をさせていただいたんですが、どうも、よくわからないんです‥‥。というのも、どうやら船は一隻だった筈なのに急に二隻にも三隻にもなって襲い掛かってきたとか、どこから襲ってきたかまったくわからないうちに乗船され襲われたとか、とにかく神出鬼没という他ないやり方だったと聞いています」
「神出鬼没‥‥幽霊船という噂もやぶさかではないという事か」
「霧に隠れ、船を襲い非道を働く等、許しがたい悪党ですわね」
龍堂 光太(eb4257)、ルメリア・アドミナル(ea8594)の二人も、ファングたちの報告に多分な憤りを含ませていた。
船が急に増えたり減ったりする筈が無い。いくら天界から見てファンタジックな世界であろうと、そこまで便利には――というより、理不尽な事は――いく訳が無いのだ。
だが、遠目の利く船乗りたちの目をも欺き、超接近戦になってはじめて気が付き、しかもその時点で既に戦闘回避不能状態に陥るなど考えられるだろうか。
天界の航空機にはステルス戦闘機や爆撃機のようにレーダーに全く映らずに目標地点まで到達出来るというシステム構造があるが、目視不可能という訳ではない。
船が増えたり、目に見えないというのは、どう考えてもおかしい事に誰もが気付く筈だった。
だが、実際に起こっている。
被害が増えないうちに駆逐せねば、海の安全を守る海上騎士団の威信にも関わるし、漁業や海路を利用する商船なども不安や不満は溜まっていく一方である。
「船に木製の盾と案山子を満載し、敵に矢を射掛けさせるのぢゃ」
ズドゲラデイン・ドデゲスデン(eb8300)と風の提案で、『カカシ』が作られる事になった。農業ではおなじみの『カカシ』ではあるが偽装にはぴったりである、見通しが悪い霧の中ではハッタリにもなる。
ちなみに弓戦を想定しての対防御ではあるが、アトランティスでの弓というのは実はそこまで超遠距離を正確に射抜けるほど弓自体が進化していない。優良視力や魔法力を駆使しての遠距離視覚は発達していても弓本体や弦などの技術はそれに追いついていないというのが現状だ。
その為、もっぱら中間距離からの一斉射撃による『数撃ちゃ当たる』という戦法を取られる事が多いのだ。
実際船上では波で揺れるし、どちらの船も動いている。いくら腕が正確でも的確に命中させるのは困難である場合が多い。
もちろん、特注品の最新技術が投入された業物(わざもの)の弓であればそのスキルを十二分に引き出せるだろうが、海賊船にそこまで特化した船員と弓があるかどうかは不明である。
とはいえ、準備をするのとしないのとでは天地程の差が出るだろう。そこそこの性能でも、大量に投入されれば数の暴力になる。
『カカシ』と矢盾、そして火矢対策として消化用に砂や水、或いは泥の準備をしておけば、万が一の時にも反撃の時間を作る事が出来るだろう。
また、ルメリアの提案による救命道具と、小船を囮の船に備え付けるよう事前の準備をしておいた。
●幽霊船の真実――。
何故、霧の深い日にしかあらわれないのだろう?
誰しもが最初の疑問にぶち当たる。なにか理由があるのだろうが、その非道なやり口とは裏腹に天候に左右される海賊というのも妙な話だった。
いよいよ出発という時間だが、海の天候は非常に読みにくい。晴れているのに波は荒れていたり、曇っていても波は安定している事なんていうのはザラで、突然スコールのように快晴の空から大雨が降ってくる事もまるで当然とばかりに起こり得るのだ。
囮に使う船に乗り込んだ冒険者たち一同は、それぞれに準備をすすめてきた。万全の準備だが、見るからに迎撃しに来ましたといった雰囲気は感じられない。見事に一般船舶風の出で立ちに、一同は納得するように配置についた。
一日目。
薄曇りの一日だった。気温も低く、風は強くないものの魚影を見下ろす事は出来ない。
風は船上でひとり黙々と型稽古をしていた。船での動きを体に覚え込ませる為のようで、運動不足になりがちな船上での準備運動代わりになっているようだ。
優良視力をもつルメリアとファング、そして風の三人が交代で目視警戒を担当する事になり襲撃に備えていた。
しかし、この日は例の海賊船は出現せず。
二日目。
運が良いのか悪いのか、見事なまでに快晴。
少々湿度が高かったものの、波も穏やかで、風もちょうどいい。本来ならば航海日和というところだが、これでは当分海賊はあらわれそうにない。
しかし初日から比べると海上騎士団との連携もスムーズになり、体勢も整えられるようになってきていた。もし初日に襲われていたなら、相当の混乱が予想されていただろう。
●そして、運命の三日目――。
晴れた日の夜というのは、実は霧になりやすい。水面の気温が上昇した状態で、冷たい空気が流れ込むと水蒸気が急激に冷却され、湿気を多分に含んだ水分が一気に霧状になる。
これを『蒸気霧』といい、それが広範囲で一気に起こると視界を遮る程の強烈な濃霧へと激変する。二日目の湿度が微妙に高かったのも原因の一つだったろう。霧は様々な状況変化が複数以上同時に起こると発生しやすくなるのだ。
そして自然現象は、時にとてつもない脅威と化す。それを利用し、幽霊船と噂されるような神出鬼没さで出現し強襲してくるのだ。
相手は恐らく霧の発生条件をはっきりと理解しているのだろう。でなければ霧の日だけ出現できるなどという芸当など出来はしない。
突如発生した霧に冒険者たちはいよいよかと警戒を強めた。場所、方位といった位置情報はかろうじて把握できるが、確かに回りは霧に飲まれ何も見えない。下手をすると、船の先端から後部までを確認する事が出来ないほどだ。
これではいくら視力がよくても、遠くを確認する事など不可能だった。
どこかで海上騎士団も哨戒している筈だが、こんな状態では本当に援護してくれるのか不安になってくる。
しかし、夜半にかけて船の気配は無い。
遠くの船に居場所を伝える為、霧の中では灯を灯す事がある。そうしなければ、もし航行してきた船が間近にいた場合激突の危険性もあるからだ。
通常は出来るだけ船を移動させず、霧が晴れるのを待ってから航海を再開するが、急行の場合はそれに限らない。
どちらにしても、夜ならば明かりが必要である。だが、それは逆に相手に位置を教えてしまうという諸刃の剣と化す。
――緊張は高まる。
どこから来るのかわからない亡霊のような相手に、絶好の機会を与える事になるのは乗り込んでいる冒険者にとってはとてつもないストレスになった。更に夜となればただでさえ視界は悪化する、夜目を利かせようにも、この霧では本来の能力を発揮することも叶わない。
全神経を集中し、警戒するが、しかし。
冒険者たちは、暗闇の中から忍び寄る影を見つけられずにいた。
ところが、事態は急変する!
それは夜も明けようとする朝方の事だ。
空も大分白けてきて、深い群青や漆黒から抜けた頃合。音も無く『それ』は忍び寄ってきたのだった!
一瞬何が起こったのかわからなかった。
どうやって近付いたのか。いや、正確には、この瞬間ですら事態は飲み込めない――。
本当に見えない敵が音も立てずに忍び寄り、矢の洪水を浴びせ掛けてきたのだ!
「な、なんぢゃ!? どういう事か、姿がまるで見えん!」
いきなりの先制攻撃にズドゲラデインたちは矢の飛んでくる方向を注視するものの、だが――あり得ない事だが――そこに船を見付ける事が出来ない。
いくら何でも、常識外れだった。本当に幽霊船なのではないだろうか?
しかし、矢は本物だ。敵は確かに『そこ』にいる筈なのだ。
ともかく。
かくして、見えざる敵との戦闘に突入した!
海上騎士団に発見されやすいよう、上空に向け合図を送ると、すぐに迎撃の態勢を取る冒険者たち。
とにかく、戦闘を長引かせ騎士団の到着を待たねばどうしようもない。この船で出来る事はぎりぎりまで引き寄せて相手の動きを封じる事だ。
だが、全力で潰しにかかられたら――。物品を盗む可能性がある以上、いきなり沈めるかというと疑問が残る。
しかし。不思議なのは、優良視力をもつ三人ですら相手を補足できない事だ。
ただ、ファングは奇妙な『ざらつき』を感じていた。
その瞬間、全員が戦慄する。――目の前に、船影が浮かび上がったからだ!
「なんだこの船は!!」
激突されそうな程の近距離に迫られるまで、まったく見えなかった船の全体が、ここにきて一気に浮かび上がったのだ。
そこでやっと船の正体が判明した。
「バカな‥‥白い船だと!?」
霧の深い朝方、前後左右、上下どこを見回しても真っ白な世界の中で白い船体は絶好のカモフラージュだったろう。
なぜ霧の深い日にだけ出現したのか、ようやく理解できる。
濃霧に紛れるのに最適なのだ、この船は! 船体、至る場所が真っ白に塗られている。もちろんマストも白い色だ。
船長の趣味なのか、快晴の航海では驚くほど目立つだろうこの船体、霧の中で近寄られても相手より先に攻撃を仕掛けられるし、戦力を削り取った状況なら乗り込んでの強奪も容易だ。何より混乱と打撃を同時に行う事が出来た。
囮の船も、その例にもれず見事なまでに先制されてしまったのだ。絶好の機会を相手側に与えてしまったのは正直、痛い。
だが、相手を欺く作戦が功を奏したと気付かれるまで、時間を稼ぐ事は出来ただろう。
いつもの戦法で、海賊船側は相当、楽勝気分でいたのは想像に難しくない。案の定、接近してきた船から、何十人という数の海賊たちが乗り込んできた!
しかしそれこそ冒険者たちの思うつぼ。足止めという最大の目的は相手の油断から、見事に成功する!
乗り込んで、そこではじめて罠であると気付かされたのだ。
だが、何もせず引き返せる筈もない。
海賊たちは剣を抜き、何でもいいから金目になりそうなものを見回しながら手近な船員に襲い掛かった。
『風の息吹よ、吐息の囁きを捕え、我に伝えん‥‥大いなる風よ、覆いつくす霧を吹き飛ばせ!』
ルメリアの引き起こした爆風で霧に強烈な渦をぶち当てると、それに巻き込まれた海賊たちはぼとぼとと船から転落していった。
魔法の『暴風』がルメリアなら、船上の『暴風』は風とファングだ。次々と沸いてくる海賊たちを文字通り吹き飛ばし、船外へ叩き落とす!
龍堂、ジャスティン、ズドゲラデインの三人も援護しながらの防戦が展開する――。
そして――上空に合図を送ったのが確認され、海上騎士団は防戦状態の囮船を援護しながら海賊船を包囲した!
亡霊船と噂された凶悪な海賊は、自身の慢心から遂にその最期を迎える事になった。
果たして、海上騎士団は海賊らを全員確保。海賊船も回収され、船長含む船員たちは厳しい罰を受ける事となる。
「まさか真っ白い船だったとは思いませんでしたわ‥‥」
「本来なら、ド派手な船だったんぢゃろうが、あの霧に紛れられては」
「もしあれが突入せずに周遊しながらじわじわ攻めていたら、こちらもどうなるかわかりませんでしたね」
「奴らが裏で何者かと繋がっているとしたら、と考えていたがそうでは無かった様だな」
船での戦闘を終えて一息ついた冒険者たちは海上騎士団の船に移動し、傷だらけになってしまった囮の船は海賊船同様、回収される事になった。
これは後日談だが、その後、霧の日に海賊に襲われたという報告はない。