双子の魔女が見た未来
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月27日〜03月04日
リプレイ公開日:2007年03月01日
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●オープニング
四方を山に囲まれたとある小さな村には、昔から悪い魔女が住んでいるという伝説が語り継がれていた。
だから、決して魔女の住む家には近付いてはならない、と。
だが、それは村人たちが作り出した悪い噂。
最近の子供達は実に疑り深いもので、大人たちが厳しく言いつけているのに、怖いもの見たさに近付いては自分がどれだけ勇気があるのかを競い合ったりしていた。
それが本当にただの噂であれば、この平和は続いたかも知れない――。
ここ一、二ヶ月の間の事だ。
双子の魔女が小さな村の住人をさらっているという噂が現実に起こり出したのは。
子供、大人、老人。時には馬や犬を連れていた者もいたらしいが、とにかく魔女が住むという家に近付いた者がつぎつぎ行方不明になっているというのだ。
救出しようとした男達までもが、帰ってこないという事で、さすがに困り果てた村長は残された男達をメイディアに送り、冒険者たちに村人の救出を依頼する。
そんな中、魔女が村におりてくると、ある条件と引き換えにさらった村人たちを解放するという。
村人の開放、交換条件は若い男女の血を提供する事。
できるだけ多くの血が必要である事。
対象年齢は下は十五、上は二十五程度。男女比は特に問わず。
提供出来ない場合はさらった村人を殺し、全ての血を奪う。
が、もし協力してくれればさらった村人も開放し、今後村人を襲ったりさらったりはしない。村にも近付かないと約束した。
協力してくれる場合、多少血を分けてもらう事になるが、傷は、必要な血が採取できればすぐにその傷を癒すようにする。
非協力的、或いはその要求が得られない場合はその限りではない。
ちなみに双子の魔女はかなり前からそこに住んでいる筈だが、村におりてきた姿を見た村人たちはにわかにそれを信じられずにいた。
当時村長が若かりし頃に住み始めたらしい魔女たちはまだ少女だったという。
ところがそれから数十年は隔てているにも関わらず、肌の色艶もよくくすみもシワも目立たず‥‥とはいえ室内にこもりきりだったせいか色白ではあるが、思っていたより随分若作りに見えたからだ。
魔女達は当時とある有名な大魔法使いの弟子であったが、ある時から『不老不死』の魅力に憑かれてしまい当時噂でしかなかった美と健康の叡智を物理的に挑戦しつづけ、その為、破門されてしまった。
その大魔法使いはその後、大きな戦いの中で命を落としてしまい彼女達を知る者はすでにない。
天界では今でこそ『アンチエイジング』という技術や理論が確立されはじめているが、今も昔も特に女性は生まれてから死ぬまで、いつまでも美しくいたいと願うものらしい。
マムシやスッポンの生き血を飲む事で、不老不死を得られると信じられてきたように。
また、一角獣(ユニコーン)の血や角を煎じて飲んだり、人魚(マーメイド)の肉を喰らう事で永遠の命と美と若さを得られると信じられてきたように。
そして。
過去、天界で三大美女とよばれたとある女性のように若い男女の血の風呂につかり、永遠の若さを得ようとしたように。
そう――血が必要なのだ。
健康な体をもつ若い男女の、新鮮な血が。
彼女達は、不老不死の理論を完全に確立した訳ではない。ある貴族に彼女達の研究が知れ、不老不死の秘術を賜ろうとしたが『未完成』である事を理由にそれを断ったという噂話もある。
だが、未完成だからこそ、物理的に可能な事であれば倫理観などぶち壊してでも試してみたくなる。
それがどんなに非人道的でも、だ。
それが彼女達が望んだ全てだった。
村長他、村人のほとんどの意見は、さらわれた者が無事に無事に帰ってくればいいという。
そして、その方法は問わない、と。
そんな彼女達に対し――。
開放してもらうよう説得するか、協力するか。
或いは双子の魔女を打ち倒し、村人たちを救出するか。
――その選択肢は、冒険者たちに委ねられた。
●リプレイ本文
●血――命のカタチ
命、生命を形あるものと認識しようとした時、一体何が「それ」にあたるのだろう。
双子の魔女は十にも満たない幼い頃から生命というものをモノとして認識してきた。
だが、それを証明するものは何も無い。
有形の存在では無いのか? だが、命がある、という事は確かに自分やそれだけでない他の生物においても存在している。
やはり「命」とはそこにあるのだ。
生と死は「命」という存在において、最も強い意味を持つ。
そして、死は魔女たちにとって、最も恐ろしい事のひとつだった。
彼女達にとっての死とは、それを認識させる現象である老化についても同義であった。
――人は、老いて、朽ち果てる。
老いとは、確かに「死」を認めさせる残酷な現実なのだ。
生まれてから死ぬまでに、死を思う事を一切考えない者などいない。
例えば愛する者を失った時、そこにはやはり「死」を直視しなくてはならない現実があるし、自身が病や怪我、或いは寿命によって命の終わりを感じる時には避けられない「死」への思いを視る事となる。
そして魔女達はその「死」の中に、確かなモノを見つける。
多くの命が一度に失われる事がある。戦争だ。
そして失われる命の跡には、何が残っていただろうか?
魔女達が見た命の終わりには――大量の「命のカタチ」が流れ落ちていた。
●冒険者たちの選択
冒険者たちは、正直迷っていた。
それは当然だったかも知れない。何故なら、すでに相手には誘拐された村人たちという最大のカードを手にしているのだ。
下手に動けばそれこそ最悪の事態になる。
最善の策を探るべく、綿密な話し合いが行われた結果。
「魔女の要求をのみ、最低限の協力をしつつ、人質の開放を望む」
という意見がまとまった。
魔女たちがなぜ血を望むのか、実ははっきりしていない。つっこんだ部分では何一つわからずにいる冒険者たちにとっては英断としか言い様が無かった。
さらった村人の中には子供も老人もいた。
だが、その人質には一切手を出していない事も疑問だった。
彼女達の真意がわからない――。これからの交渉にとって、非常につらい状況であると言えた。
それでも、人質に危害を加えていないという現状から見て充分に交渉に応じるつもりであると判断するしかない。ポジティヴに考えてみてはいるが、相当の覚悟が必要となる。
当初、冒険者ギルドに血液の提供を依頼しろという旨のカードを用意していたパトリアンナ・ケイジ(ea0353)、ハルナック・キシュディア(eb4189)、モネタ・メイデュー(ec1231)らだったがその間の人質の身の保証が無い。
無事だったとしても、その依頼が成立するかどうかもわからない。
その間、人質となってしまった村人たちはどうなってしまうのだろうか――。
村長らはこれには反対だった。出来ればもっと早く解決して開放してもらいたいというのだ。
心情としては、ごく当たり前ではあるが村人たちの身の安全を最優先すると考えた場合、このカードは使うべきではないと判断された。
しかし、協力する場合どこまで血液が必要なのだろうか。
血の風呂に浸かろうなどと考えているのだとしたら、凄まじい事態を引き起こそうとしている事になる。
一般的な、といってもメイの一般家庭には希少ではあるバスタブの容量は約200リットル。
人間の平均的な血液量は、約5リットルほど。
そして、一度に大量に出血した場合、1リットルほどでショック症状を引き起こしてしまう。
そのぎりぎりである1リットルを採取した場合、最低でも200人が必要である。
大量殺戮をもいとわない魔女の要求する血液量は、つまり常識や良心を逸脱したものであるといえた。
だが、これまで魔女に殺されたという例はない。
当然血を抜かれたという話もない。
しかしここに来て、急に血を欲しているのにはやはり理由があるのだろう。
しかも要求は大量の血液だ。
子供や老人のものではなく、あくまでも若い男女に限られているのにも理由があるのだろうが、その為に人質を取って要求してくるのは非人道的な行為である事も確かだった。
●超交渉術、発揮!?
全員の意見の言い分を、最も効率的に相手に呑ませるには互いに妥協する一線をどこまで引き出せるかによる。
そして、交渉を成功させるには、三つの役割が必要だ。
「交渉」「記録」そして、「決定」――この三権分立こそが交渉の大きなステップとなり、どれかが破綻した段階で交渉は決裂する。
ルメリア・アドミナル(ea8594)は商人としての交渉術こそ長けているものの、人質解放の為の交渉術とは違い、いつも以上に慎重に進めなくてはならないプレッシャーがある。
相手を知る事こそ、最大の材料である。そして相手の求めるものをその言葉の中にどれだけ含まれているのかを探り、導くのだ。
感情的に動いてはいけない事は、頭ではわかっていてもどうしようもない事がある。
それでも動いてはならない。
武装を解除する事から――はじめる必要があった。
こちらの目的はあくまで村人の開放だ。
当然、人質の身の安全が確保されたままの、開放である。
村長を含めた残された村人たちの中で、相手の条件に合った若い男女に対し血液の提供を提案するパトリアンナ。
一応の了解は得たものの、被害が広がらないように交渉はしっかりと締結しなければならない事を再認識する冒険者達。
そして。
遂に静かなる戦いがはじまった。
「本格的な交渉に入る前に確認させていただきたい。あなた方は天界人についてどの程度ご存じですか?」
ハルナックの質問に対し、怪訝そうな表情を浮かべるのは被っていたフードを下ろした片方の魔女の方だった。
もう一方の魔女はフードのままで、はっきりとその表情を読み取ることは難しい。
「天界‥‥それがどうかしたのか」
「いえ、天界人に対する一般的な知識ではなく、その中に存在する、アトランティスとは異質な技術体系を修めた医者についてです」
「我々は医者を求めているのではない。どうやら見当違いだったようだな」
「彼らは千年以上の歴史の中で組織的に数千数万の同胞を人体実験で消費し、治療や美容に関する技を飛躍的に高めてきたそうです」
「‥‥‥‥」
「もちろん公的な場では決して認めないでしょうが、人体を扱う技術を見れば、長くそれに関わってきたあなた方ならばすぐにそのことが分かるでしょう」
フードの魔女は口を開かず、交渉に応じている魔女も口を真一文字に閉ざしている。
「この国において彼らと最も確実に接触する方法は‥‥」
「もう一度だけ言うぞ。我々は医者を求めているのではない、血液だ。そちらに用意がないのなら、仕方ない」
「まって――」
ハルナックのやり取りが微妙に厳しくなってきた状況から、一度整理するようにルメリアは会話を止める。
「ここからは正式な交渉。あなたたちと争うつもりもないです。ご覧の通り、私たちは武装を解除して交渉にあたっておりますし、そちらも要求を呑んでいただけるなら村人を解放すると約束してくれました」
フードの魔女はゆっくりと肯くと、スポークスマンの魔女も口を開いた。
●急展開? 魔女たちの真意
「そうだ。ひとつだけ言っておくが、我々は無理やり村人を襲って誘拐した訳ではない。我々のテリトリーに無断で侵入した挙句、逆に我々に襲い掛かった者共だ。彼らを拘束するのは、開放した後再度襲ってくるか知れないという不確定要素があるからで、実験に使うつもりで拘束している訳ではない」
「な‥‥」
村人たちの言葉とはまるで違う。
「開放を約束はするが、その後我々に対して攻撃的である場合は正当防衛するしかない。今回はその意味を込めて拘束したと、村の者には説明してあるのだがな」
そんな説明、受けていない――。
冒険者全員、戦慄する。村人が嘘をついて依頼したのか、魔女たちが嘘をついているのかはわからない。
だが、決定的な部分で食い違っているのは確かだ。
人質にされた村人たちは子供や老人も含まれているが、それらも彼女達が言うように攻撃的だったのだろうか?
「我々には血が必要だ。だが、それを邪魔する者も多くいる。我々はそういう騒がしいのは好みではない、むしろ一切関わってもらいたくない程なのだ。しかし村の者は我々をうとましく思っているのは想像に難しくない、かといってこの家は昔から我々のもので彼らの言い分だけを聞いて追われる訳にもいかない」
悪い魔女が住んでいるというのは、あくまでも村人が作り出した悪い噂である。
その真実は当人しか知らない。それ位は理解出来ていたはずだった。
しかし、彼女達が口にした言葉は想像を絶するほど食い違っていた。
「それでも、私たちは依頼を完遂しなければね」
導 蛍石(eb9949)は嘆息しながらも、一息落ち着かせながら口を開く。
「選択肢が限られているならば、やれる範囲のことでやりましょう」
その一言で冒険者たち一同は我に返った。
今やらなくてはならない事は、あくまでも依頼通り村人を解放する事なのだから。
ルメリアはあらためて交渉を切り出す。
「血液は提供できます。ただし、そちらが満足出来るほど大量に提供できるかは、人質の開放によりますし‥‥一度に大量の血液提供は個人レベルでは達成できない事をご理解ください」
「理解している。ひとりふたりの致死量を搾り取ろうと考えていない。だからこそ多くの人間が必要なのだ」
「多くの人間から、少しずつ。そういう事でいいですね」
「そうだ。どれ位用意できるのか、聞かせてもらおうか」
初老、といったところなのだろうか。だが、非常に健康そうな顔つきの魔女は厳しい表情を崩す事無く交渉を続ける。
パトリアンナは、しかし、肝心の「こちら側」の要求を求めた。
「そちらが行動を起こしてしまった以上、口約束では足りない。村人を先に解放してください。本当に村人を傷つけないし約束は守るとアピールして頂かないと、誘拐犯を信用することはできない。村人もきっと納得しない」
すると、またもフードの魔女がゆっくりとうなずいた。
「再度確認するが‥‥解放後、こちらに干渉しない事が条件になる」
「その点はこちらも村長らと今後の対応について話し合います」
●一転・二転・三転と
フードの魔女がひとり研究所兼自宅に戻ってしばらく、互いに距離をおきながら待機している所に開放された村人たちがあらわれた。
人数と特徴を確認しながら、冒険者たちの側に歩かせる。
「人数、合ってますね‥‥」
導とモネタは全員の開放を確認すると、人質にされた村人たちに外傷などがない等、回復も必要なしと判断した。
ところが、ここで村人たちの対応は一変する。
血の提供どころか、魔女たちを追い出そうとしたのだ!
「そんな、話が違うじゃないですか村長さん!」
止めようとしたルメリアたちだが、村人たちの怒りは収まる気配がない。
このままでは冒険者たちにとっても、魔女たちにとっても、そして村人たちにも最悪の状況に陥る事になる。
「やはりな‥‥我々を快く思っていない事は知っていたがこれほどとはな」
「ち、違うんです、これには訳が!」
「騒がしいのは――好きじゃない」
いつの間にか戻ってきていたフードの魔女がはじめて口を開く。
そして、その拍子に――フードがはらりと解け落ちた。
その瞬間、冒険者たちはその姿に驚愕する!
確か。聞いた話では、その魔女たちは『双子』だった筈だ。
それが、何だ。
「あんた‥‥」
パトリアンナが絶句しながらも凝視する。間違いない、面影が交渉人の魔女と重なる事を。
だが。
同い年とは、とても思えない。
いや、「これ」が本当の彼女達の姿なのだろうか。
「私もよ、姉さん‥‥騒がしいのは好みじゃない」
「あんたたち‥‥双子なんじゃ‥‥」
そこには老婆がいた。
同じ時を共に生きてきたはずの双子の姉妹の姿とは思えない、まるで母子ほども離れているように見えるその姿に冒険者たちは言葉が出てこない。
「紛れもなく、我々は双子だ。だが、ある時姉は急激な肉体の変化を引き起こす呪いにかかってしまった。このままだと、後一年持つかどうか‥‥」
「呪い、ですって?」
彼女の言葉が真実なのかはわからない。だが、その「肉体の変化」は間違いなく老婆の魔女に襲い掛かっていた。
「姉さんの最後の望みは――」
「もういいの」
「姉さん!」
「人は生まれたら死ぬしかない。終わりにしましょう、村の人間も私たちを恐れている。これ以上、あなたに辛い思いをさせたくないの」
久しく外に出ていないのか、交渉人の妹よりも肌の色が悪い。
まるで病人かと思うほど、青白い肌は荒れ、しわも酷く浮かび上がっている。
老婆は激しく咳き込むと、吐血した。
その量は、とてもじゃないが、たすかりそうもない程の。
「血が‥‥必要なのだ‥‥! 姉さんを治す為に、必要なのだッ! 村人は開放した、だから、だから血を、血をわけてくれ!!」
頼む。頼むから。
血を――ッ!
原因は何だったのか。
今となってはわからない。もしかしたら、天界から落ちてきたアトランティスの医学にとって未知の病原体だったのかも知れないし、彼女たちの繰り返してきた実験によって現在のメイでは完治しない病気に感染したものかも知れない。
姉は本来の寿命だったのかも知れないし、妹の方が倍程の生命をもつ超人だったのかも知れない。
本当に、呪いだったのかも――。
結局。
村人たちは無条件で開放され、双子の魔女の姉はほぼ自己崩壊状態で絶命した。
姉が死んで、妹は血液の要求を取り下げる形になり、交渉は打ち切られる事となった。
残された魔女の妹はその後研究所だった家を壊し、村から姿を消したという。
村人たちは無事開放され、結果的には魔女たちをも追い出すことに成功した村長は最大級の感謝を冒険者たちに贈った。
「もう少し早く、交渉が成立すれば彼女はまだ生きていられたのかも」
依頼は無事成功し、冒険者たちにとっては誇るべき事だ。だが、一方で酷く苦しい結末を見る事となった。
「後味が悪いってのは、どうしようもないもんだね」
「妹の方のあの若さって、結局、何だったんだろうか?」
パトリアンナとモネタは苦々しい表情を浮かべながら、首を左右に振るしかない。
「長生きしすぎるというのも、辛いものだよ」
ハルナック、導、そして直接交渉に応じていたエルフ、ルメリアたちは長寿の種族独特の苦しみを滲ませる。
生きたくても生きられない苦しさ。
生き続けたいと願う人間の本質。
全ては闇に葬られた。
――その後。
魔女はメイの国を転々としているという風の噂だけが、ゆっくりと空を撫でていた。