強襲! ジェットストリーム三人娘!?
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月20日〜03月23日
リプレイ公開日:2007年03月21日
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●オープニング
●誰も知らない『闇』のはじまり――。
いつからなのか。
アトランティス東方、メイの国。
その首都にある闘技場にはいつからか見えざる闇に飲み込まれようとしていた。
参加者には何の罪もない。むしろ何も知らない事が、この『闇』がはびこってしまった最たる要因だったのかも知れない。
だが、確実に侵食している『闇』を断ち切る快刀が遂に現れた。
事の発端はあくまでも噂に過ぎなかった。
闘技場で、八百長試合が行われているという噂が、まるで亡霊の如く浮き上がってきたのだ。
当然、闘技場の参加者の中にそれで得をする人間がいるかは不透明で、損得問題で言えば参加者が『勝敗が決する場』において、そこまでして負ける必要性があるのかも不明である。
結局、決定的な証拠が見付からないまま、八百長問題はすぐに終息を迎えるかに見えた。
ところが、この噂からリークされた不明情報の中にとんでもない情報が紛れ込んでいた!
「賭け試合? まさか、そんな事、本気ですると思ってる?」
「いや、これはあくまでも君自身だけに関わる問題じゃない。闘技場に関わる全ての人間に対して、だ。だから真面目に答えてもらいたい」
いつもは和やかな雰囲気で酒を酌み交わす仲の二人だが、今夜ばかりは互いに真剣だ。
「バカな‥‥そんな事ありえないよ。少なくとも、あたいたちは自分自身の腕試しの為に戦(や)りあってる。お金の為だったら、むしろ冒険者ギルドの依頼に参加して得た方が収入としてはまっとうだし、よほどいいお金になると思う」
「ふむ。そうか、そうだな。だが、覚えておいてくれ、八百長かどうかという問題とは関連付けていない。あくまでも秘密裏に行われているという噂が、どこまで参加者の中に浸透しているのかが聞きたかっただけだ」
「アーケチ‥‥。あんた、この間から、変だよ。そんなにあたいの言う事が信じられないっていうの?」
「私は‥‥私は真実が知りたいだけだ」
さっぱりとした短めの金髪をかきあげると、ジョッキに残ったエールをぐいと飲み干し、ジョッキをテーブルにこれでもかという程打ち付けてから。
「最低。あんたは‥‥あたいらの味方だと、思ってたよ」
酒代を投げ捨てるようにして、怒りの為か酔いの為か、上気した頬を隠しもせず勢いよく酒場を出て行ったのは、赤くて三倍と噂の少女だった。
残されたアーケチと呼ばれた男性は、振り返る事もなく、ぐい、とエールを飲み込んだ。
闘技場に関して調査を続けるうちに、秘密裏に賭け試合を行っているという情報がリークされた。
その情報を追っていくと、今度はその賭け試合で不正に得た金が、他国に流出している可能性までもが明らかになってきた。
不正な賭け試合をセッティングしているのはメイの人間ではなく、他国、あるいはカオスニアンの可能性が浮上し、その情報の裏を取るべくに敢えて闘技場に近しい存在である少女に白羽の矢を立てた。
しかしそれ以上の情報をアーケチは得ることが出来なかった。
それどころか、自身の友人をも疑ってかからねばならない自分の仕事に、彼女の信用も、自分自身も押し潰されそうになっていた。
そんな中、事態は急展開を迎える――。
●強襲、ジェットストリーム攻撃!?
――闘技場に、旋風一閃。
突如現れたみっつの影が、闘技場を激震させる!
特別大会として催されたレベルフリー、バトルロワイヤル方式の大会が今まさに開始されようとしていた。
最大の盛り上がりを見せる闘技場に、参加登録されていない正体不明の、カオスニアンが突如乱入してきた!
三体は、開始早々、男女・レベル・職に関係なく手当たり次第にぶちのめしていく。
突然の乱入に戸惑う参加者の中には、闘技場の華ともいえる赤くて三倍と評判の少女もおり、文字通り激戦に身を投じていた!
そんな彼女達の激闘を知ってか知らずか、緊急連絡が入ったアーケチら官憲は急遽、冒険者たちを集いカオスニアン討伐隊を結成する。
目的は大会の中止とカオスニアンの拘束及び確保。
尚、今回は人員増強と現地での対応強化体制を、緊急事態の為、現地で負傷していない大会参加者を討伐隊に加える事で対応。
大会参加者と討伐隊を再編し、これに対応する事も検討されている。
しかし人員の収集をかけている間に入った情報によると、どうやらカオスニアンは三体だけではないらしい。
しかも、小型の恐獣までもが闘技場に乱入してきたという。
非常に厳しい筈のセキュリティレベルを誇るメイディアに、突如巻き起こった最悪の展開。
このままでは大会参加者どころか観客にまで被害が及んでしまうだろう。
一刻も早く冒険者たちを募り、早急に現地に到着、拘束し確保せねばならない。
確実な情報を得る為、現れたというカオスニアンたちを殺してはならない。
逃げ足の速いという噂もあるが、逃がしてもならない。
恐獣は非常に狂暴で抑えきれない場合もある為、出来るだけ殺さないで捕獲しておきたい。
条件は非常に厳しいが、混乱に乗じて闘技場を荒らした理由は聞き出さなくては――!
易々とカオスニアンや恐獣を首都に潜入させられたという事実にアーケチは戦慄を覚えたが、八百長試合や賭け試合といった情報の中に隠れた裏側にある『闇』の可能性――カオスニアンや他国からの密入国者の影が浮かび上がってきている事を再び噛み締める事となる。
内部にも、関与している者がいるかも知れない。
だが、今は気持ちをリセットし、カオスニアン討伐隊の事だけを考えるようにしていた。
●リプレイ本文
●コロッセオ――円形闘技場の悪夢。
メイの国に造られた闘技場が『コロッセオ』と呼ばれるのは、メイディアに闘技場が建設された時代から、既に天界人がこのアトランティス東方に降り立っている事を証明してみせた。
メイの国の名所のひとつにあがる闘技場の傍に石像が建てられているという話は聞かないが、こうした円形闘技場を総称してコロッセオと呼称しているのが今の闘技場の所以である。
しかし闘技場と呼ぶに相応しい巨大さと石造りの重厚さは見る者を圧倒し、そしてそこで行われる戦いは多くの国民を魅了し続けてきた。闘技場で行われる試合というのはメイの国民にとっては大衆娯楽のひとつとして定着しているし、試合自体も腕に覚えある屈強な戦士たちが真剣勝負を挑む一大イベントホールとして機能しているのは間違いなかった。
しかも今回は、異例のバトルロワイヤル大会で観客もかなり期待し、集まってきていたという。
そんな大観衆の前で、ひとたび混乱が生じるとそれは波紋のように大きくなり、いずれ大パニックを引き起こす!
カオスニアンたちは確実にそれを狙っていた筈だ。
最初に乱入した三人の女性のカオスニアンたちの暴れっぷりは半端ではなく、それこそ殺し合いに踊り出てきたかのように狂気に満ちた戦い方を見せていたという。
何が起こったのかわからない観客たちは、最初ただの見世物かと思っていたが、一人二人と本当に殺されているのを見るなり血の気が引いていく。そして観客から悲鳴が出ると、観客はパニックを引き起こし我先に闘技場から逃げようと必死にもがいた。
結果。闘技場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した、という訳だ。
「状況は刻一刻と変化している! 我々は観客達の誘導や安全確保に最善を尽くす。それでは、各自、作戦通りに」
●戦いの神は舞い降りて。
パトリアンナ・ケイジ(ea0353)、フィアッセ・クリステラ(ea7174)、そして本多風露(ea8650)の三人は本陣を避け、突っ込むと見せかけて内周付近から恐獣を各個撃破を狙う作戦に出た。
だが――。
いや、確かにどこからか恐獣が発する強烈な咆哮は聞こえる。しかし、その姿は皆目見付からない。
会場中を見回して、三人は戦慄した。
――――ブラフだ!!
観衆を利用して混乱を引き起こすと同時に、闘技場全体を狂乱の舞台に仕立てあげる事で、バトルロワイヤルの参加者達を動揺させる。
単純なトリックだ。
だが、単純なだけに効果だけは一度成功すると凄まじい威力を発揮する。
そして混乱に乗じてカオスニアンたちは殺戮の限りを尽くす、という訳だ。
「やられた‥‥騙まし討ちって奴か!」
「まって、パトリアンナ! あれ、真っ黒い恐獣!」
「黒い、恐獣?」
パトリアンナと本多はフィアッセの指差す方に振り向いた。そこにいたのは、今まで見た事もない黒い鱗を持つ巨大な恐獣の姿だった!
「って……なんだありゃ? あれが?」
パトリアンナがふと目を凝らして見ると、確かにそれは恐獣であった。ただし。恐獣を模した、人形で、だ。
「二重のブラフかよ! そうか‥‥こんな混乱の中じゃ冷静になれる筈がない。あんな『ハッタリ』でも充分に効果はある、ってか」
「ハッタリ?」
「元から恐獣なんていなかったのさ、だけど見てみなよ、この混乱の最中に、あんなのを見せられたら‥‥」
「あっ、そうか!」
レインフォルス・フォルナード(ea7641)、黄麗香(ea8046)、オードフェルト・ベルゼビュート(eb0200)の三人は最終的に合流するポイントからずれ、内周の死角となるやや奥まった場所まで突っ切っていった。
中央付近の騒ぎに目をやると、確かにバトルロワイヤルらしく、文字通りの乱戦が繰り広げられている。いくら三体のカオスニアンが大暴れしているとはいえ、あれだけの数を一手に捌けるものだろうか? やはり応援部隊のカオスニアンと恐獣たちがいてもおかしくない状況である。
その割には――。
走りながら黄は会場を見回してみるが、脅威となるべき恐獣の姿は見て取れない。
「何か、おかしくない?」
「ああ」
「確かに。恐獣の鳴き声みたいなのは聞こえるが、報告みたいな小型の恐獣なんてどこにも」
「カオスニアンだって、十人はいるって。なのに、何かおかしいよ、絶対!」
黄の違和感の正体はすぐに明らかになる。
「まさか、これって」
大小の悲鳴と絶叫と恐獣の咆哮とが、津波のように会場を埋め尽くす。あまりの大音量に一瞬、方向感覚が失われそうになる位に。
そして。
三人はこれから起こる――あまりの光景に絶句する事になる。
陸奥勇人(ea3329)とマグナ・アドミラル(ea4868)の二人は闘技場中央付近にいる目的の三人組に向かって一直線に突き進んだ。
「何だ、この感じ」
「うむ」
一番の違和感は、まるで報告と違うという事だった。確かにバトルロワイヤルは行われているようだが、増援部隊らしき姿が見られない。
「もう、倒されたのか? まさかな、それじゃ、この混乱の説明がつかない」
「だが。三体のカオスニアンというのは本当にいるようだぞ」
「ああ。それじゃあ、俺たちは俺たちの仕事をしようぜ」
陸奥の掛け声に、気合で答えるマグナ。
●止まらない衝動――。
陸奥とマグナが一直線にカオスニアンたちの前に向かっている、今まさにその最中。
大混乱の渦に揺れるコロッセオに更なる激震が訪れた!
三体確認されたカオスニアンのうち一体は体に似合わずふた回り程大きな×字型のロングボウを担ぐと、火矢を取り出し。
事もあろうに、『味方』を火矢で打ち抜いたのだ!
いや。
実際には、完全なるトリックを利用した更なる混乱だった。
カオスニアンが打ち抜いたのは、真っ黒い油が塗りこまれた、よく燃える木偶人形だったのである!
「――そういう事か!!」
全く別方向にいるパトリアンナと黄は同時に叫ぶ。
ただのハッタリではない。幾重にも張り巡らされた、陰湿極まりない、そして用意周到に計算し尽くされた『罠』なのだ。
そして、更に驚愕の出来事が冒険者を襲う。
カオスニアンが更に狙ったのは、またもや『味方』だった。
しかも今度は人形ではない、今度は仲間を狙い撃ちし爆炎に包み込んだのだ!
「な‥‥どういう?」
呆気に取られるフィアッセたち。
一方。レインフォルス、オードフェルトらの外周組も信じられない、という表情で愕然とする。
「ちょっとまって、なんで‥‥あんなに燃えてるの」
黄の一言で、はっとなる面々。
業火に塗れ、走り回り、のた打ち回りながら絶叫し、数人のバトルロワイヤル参加者を巻き込み、炎が巻き上がる!
「おいおい、マジかよ」
オードフェルトの悪い予感は的中した。
狙い撃ちされたカオスニアンは『味方』ではなかった。いや、正確には、打ち抜かれたのは『カオスニアン』ですらない。
「あれは‥‥油をたっぷり染み込まされた‥‥」
それ以上、言葉を続けることが出来なかった。
混乱を嘲笑うかのように、次々と火矢が放たれると、会場の至るところから火災が発生する!
事態は、最悪の方向へと直走って行く。
●反撃の冒険者達!
体勢を立て直すため急遽作戦変更をしたのは、恐獣担当と増援カオスニアン担当の二組だった。
二組は一先ず観客の非難状況を見定めながら合流ポイントへと向かう。状況が悪化している今、人員は分散しているより多く集められた方が効果的であるからだ。
「あっちが弓なら、私だって!」
フィアッセの持つオークボウも、カオスニアンが持っているものに引けを取らない長身の弓である。女性の平均身長よりはやや高めな彼女の、更に一回り大きい弓は、やはり意外にも『ケレン味』が効いていると言えた。『ハッタリにはハッタリ』で応戦する。
「下手に近づくわけにはいかないからね‥‥距離をとらないと‥‥」
きりきり、と独特の弓引き音が手首にその威力を伝える。威力と命中率を同時に達成する上質なオークボウとフィアッセの相性はベストマッチといえた。
運のいい事に、カオスニアンたちは弓を操る一体を庇う為に援護体勢で密集している。そうなれば今度はフィアッセの、通称『トリプルシューティング』の絶好の間合いだ。
だが――。
ほぼ同時に着矢した矢はそのどれもが回避、或いは防御されてしまう。それどころか、フィアッセが弓で狙っているという事に気付かれてしまった。
「なんてドジなの、私。敵の足を止める事さえできないなんて」
それでも、同じ弓を使う者としての意地と不屈の闘志は消されはしない。かといって、攻撃の手を緩める訳にいかない。
だが、同じ場所から撃ち込んでいる事が悟られれば、射角の問題でどうしても不利になる。それは中央付近で囲まれているカオスニアン達も同じだ。
「そこっ! そろそろ止まってよ!」
苛立っている訳ではなかった。だが、弓の引き合いがここまで白熱するとはフィアッセ自身も思っていなかっただろう。
カオスニアンたちの真の狙いは何だったのか。
アーケチたちが燃える闘技場で必死の避難誘導をしている最中、カオスニアンたちは遂に最後の作戦を完遂させようとしていた。
しかし彼女達の本当の『ターゲット』は、既にコロッセオから姿を消している事に気付いていない。
そして、事態は更に加速していく――。
陸奥とマグナはカオスニアン三体と対峙する。
「へ‥‥一つ聞いておくぜ。お前ら、ガス・クドより強いか?」
不敵な笑みを浮かべながら、剣を握りなおす陸奥。
「雑魚が‥‥ガス・クド様に向かって何て口の聞き方だ。いいだろう、貴様から先に殺してやる。オルティ、マーシュ、奴にトリプラーを掛けるぞ」
隊長格の女戦士が叫ぶと、荒れ狂う闘技場に一際大きな砂埃が舞い上がった!
「マグナ!」
「おう!」
カオスニアン達の攻撃タイミングはわからない。だが、やるならここしかない事を二人は直感していた。
――この一撃が生死を分かつ。
砂埃が晴れたと思った瞬間、既にカオスニアンはマグナの背後に移動した陸奥を一撃に屠るべく一気に間合いを詰めて来る!
「こいつ、来るのか!?」
マグナは覚悟を決めると、正面から堂々と突っ込んでくるカオスニアンをこれまた正面から迎え撃つ形で防ぎきる選択をした。
隊長格の女戦士がマグナに切りかかろうとしたその瞬間――。
「もう、このタイミングしかねえだろうが!!」
陸奥がマグナの肩を借りての奇跡の二段跳躍を成功させる!
大空に駆けるは――だが、その影は一つではなかった!
「な‥‥!」
空高く舞い上がった陸奥の三倍近い高度で追い抜き、空を駆けたのは――。
「やってくれる!」
「これ以上好き勝手やらせはしないッ!」
二つの影が、三体が連なっているカオスニアンたちに急降下していく!
奇襲攻撃に奇襲攻撃を重ねる、一か八かの生死を分かつ人生の中でも数少ない劇的なカウンターが――今。
●クライマックス――熱く、なれ!
しかし。
相当の弓技を持ったカオスニアンがいる事を、二人は甘く見ていた。
いくら上空からの奇襲とはいえ、この激戦を怪我ひとつなく演じてきた三人組だ。それすら対応するのは訳も無い。
自由落下状態の体では、防御も何も無い。まさしく浮遊する的である!
「くっそ、間に合え‥‥ッ!」
神業とも思える速度で二本の矢を番えたカオスニアンは、容赦なく弓を引いて見せる。
奇跡のカウンターは悪夢のような最悪の展開を迎えてしまった。
このままでは。
だが、奇跡は決して奇跡で終わらない。いや、これはもう奇跡ではなかった。
仲間達の信頼と、信念、そして絶対に諦めない、折れない心が引き寄せた『運命』が劇的な幕切れを演出してみせる!
「させないって、言ってるでしょ!」
完全に動きが止まっている的に命中させる事など、今のフィアッセにとっては実に簡単な事だった。
弓手が矢を放つまでの僅かのタイミングで、文字通り急所を狙った必殺の一矢が放たれた――。
上空から強襲した陸奥は、フィアッセの放った矢に打ち抜かれ動きが止まった弓手に一撃。更に豪槍が降り注ぎ、軽装のカオスニアンの胴体をぶち抜く! 槍は弓手を貫いてそのまま地面に激突した。
「弓のマーシュがや、やられた」
隊長格の女戦士が狼狽する。
「トリプラーをすり抜けるなんて信じられん‥‥」
「だが――『奴』がいない。作戦も考え直さねばならん」
弓手を欠いたカオスニアン達はぐるりと闘技場を見回して再度確認すると、目配せして最後の『罠』を発動させた!
それまでただ燃えさかるだけだった恐獣を模した火ダルマが、まるで連鎖するかの如く爆発したのだ!
次々と爆発炎上する人形の欠片は、炎の雨と化して闘技場に降り注ぐ。
「もうお前達には用はない、ここが貴様らの墓場と知れ!」
そう言うと二体のカオスニアンは燃えさかる炎の中に飛び込んで――消えた。
ようやく観客達が避難を終える頃には、今度は闘技場全体に火の粉が降り注ぎ、そこら中を巻き込んで火の手が広がっていた。
爆発は収まったが火災は今の冒険者たちにはどうする事も出来ない。
四方を炎に囲まれ、絶体絶命のピンチとなった冒険者達。傷付き倒れたバトルロワイヤル参加者達も、完全に逃げ遅れた格好になってしまっていた。
もう駄目か、と思われたその時。
それまで晴天だったメイディアの空に暗雲が立ち込める。程なくしてまるでスコールのような土砂降りが闘技場にこびりついた血と炎を洗い流すかのように降り注いだのだった。
その雨のおかげで、火の勢いは衰え、やがては鎮火した。
●『闇』の鎖は断ち切れず‥‥。
「恐獣も、増援したカオスニアンも全くの偽物だった、と」
報告を受けたアーケチは闘技場で起こった一連の事件をまとめながら、嘆息する。
死亡したと見られるバトルロワイヤル参加者とその名簿を照らし合わせながらの確認がされた。
後で判明した事だが、どうやらその中で二名ほど行方不明になっている参加者がいたらしい事が判明した。
またこれも後日判明した事だが、その二名の参加者はいずれも偽名であったらしい事。更にカオスニアンと関わりのある容疑がかけられかねてから調査対象とされていた人物であった事までが明らかになった。
その二名はアーケチが受けた情報の中にもそれらしい記述があり、賭け試合や八百長疑惑の核となる人物ではないかとの疑惑が持たれていた人物だった。
その二名が揃って行方不明となっている事と、突如乱入したカオスニアンとの関係に繋がりがあるのかはまだ不明のままだ。
結局、闘技場での騒動は鎮静化したものの、何一つ手がかりを得られないまま終息を迎えようとしていた。
しかし、この事件がきっかけとなり、再びカオスニアンたちが蠢き始める事を。
今は、誰もが知る由も無かった。
そして。
そして、もう一つ。
大きなうねりが生まれ始めようとしていた――。