純白と鮮血

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月11日〜04月16日

リプレイ公開日:2007年04月13日

●オープニング

●純白の奇跡『ブラン』
 希少な鉱物、ブランシュ鉱、通称『ブラン』が採掘された。
 ブランとは――アトランティスでもほとんど流通しないほど貴重な希少金属のひとつで、魔法の物品の材料として使用される、大変価値の高い金属として知られている。
「ブラン」とは、古代魔法語で「白」を意味する「ブランシュ」が語源であり、原石である「ブランシュ鉱」は非常に脆い消し炭のような物だが、火系の精霊魔法の力で溶かして不純物を取り除くと、真っ白い金属になる。
 この白さが、その名を物語っているといえる。
 また、精練されたブランというのは、鋼を遥かに上回る高い強度を持ち、しなやかで柔軟な特性を持っているうえ魔力を帯びた金属でもあるため、たったの一つまみの小石だけでも金貨百枚以上の価値を持つといわれている。

 未加工のブランだが、実はブランは加工が難しく、しかも非常に高価なため現地では加工されずそのまま輸送される事になっている。
 輸送隊に追従する特別警備隊は非常に厳重で、ちょっとやそっとでは襲撃される事もなく、襲撃されても今までは楽に対処できていた。
 ところが先日、従来の警備隊を勤めていたチームの半分が急に引退してしまった。
 メンバー全員の引退理由はどれもはっきりしたものだったが、突然の事だったので、一部の噂ではどこかに引き抜かれたのでは? という説が強まった。
 彼らの事情はともかくとして、その穴埋めという事で正式な警備隊が組まれるまでの臨時警護任務が急遽、冒険者ギルドに要請された。
 実はブラン鉱山までのルートは非公開とされている為、どのルートでどう動くかをギルド内で指示する事は出来ない。
 そして、担当したメンバーはブラン鉱山に関する全ての情報を口外しないように徹底されている。
 貴重な鉱山であり、それがカオスニアンなどの国益を脅かす『脅威』に知られない為に、である。

 ところが、元警備隊のメンバーが半数以上抜けた途端に、カオスニアンたちはその機会を待っていたかのように怒涛の襲撃を繰り返し、遂には輸送隊と臨時警備隊は全滅。
 何と、輸送途中の未加工のブラン鉱が強奪されてしまった!

 そして、ここに『良い報せ』と、『悪い報せ』のふたつがある。
 良い報せ――というのは尊い犠牲者に申し訳ない事かも知れないが、実はこの輸送隊と警備隊が全滅したのは鉱山から遥かに離れた地点だった事が、後日判明したという事だった。
 悪い報せ――というのも、残念なことに全滅してしまった彼らの無念もではあるのだが、その彼らが襲われた場所にある。

 その襲撃地点は‥‥海上であった事だ!

 この事件がきっかけとなり、冒険者ギルドに大人数枠の依頼がたんまりと舞い込んできた。
 正規の警備隊が結成されるまでの臨時の輸送警備隊員10名。
 カオスニアンからの襲撃と思われ全滅した輸送隊の乗った船の調査団8名。
 そして、襲撃され、強奪されたと思われるブランの塊を回収する為に組まれたスペシャルチーム8名。
 さて、今回の依頼内容だが‥‥。

●追撃し、奪われたブランを回収せよ!
 今回募集されたのは、襲撃され、強奪されたと思われるブラン鉱を回収する為に組まれたスペシャルチームだ。
 被害状況とその後の海上騎士団の調査から襲撃地点及び逃走ルートがほぼ確定した為、今回は多くの人員を確保して追撃にあたろうという訳だ。

 実は未加工のブランシュ鉱自体は、非常に不細工‥‥というか、ただの黒い消し炭みたいなものであり、一般的に知られるような『白いもの』というイメージはまったくない。
 それどころか、専門家が見極めないと、何が何だかわからないようなものである。
 精錬されたブランのイメージだけは広く一般に知られているが、だからといって、多くの一般人の目にほとんど触れる事もない。
 そういう意味において、実際のブランの知識というのは実は曖昧さが先に立つような代物でしかない。
 実際に、未加工のものと精錬された後のものを同一だと思う人間は、ほとんどいないといっていい。それほどギャップが激しいものなのだ。
 砂金などのように、目で見てこれだ! といえるビジュアルイメージがないのは、少々寂しいものがあるのだが。
 天界の歴史でもあったように一部地域でゴールドラッシュに胸躍らせて夢を広げる人々、という姿を見られないのは、残念ながら「希少性が高い」というだけではないように思えて仕方がない。

 そんな一見無価値のように見える黒い消し炭のようなものを仰々しく運んでいる姿は実に不思議な光景だ。
 しかし。
 カオスニアンたちに未加工のブランシュ鉱の価値が理解できているのだろうか?
 大事そうに運んでいるから、きっと金目のものなのだ! と邪推しているだけなのではないだろうか?
 実際、見た目が地味すぎる為か貴金属などに目をつける子豚や子犬や、子鬼のモンスターどもはほとんど見向きもしない。
 襲ってくるのは大抵がカオスニアンだけだった。
 誰かが――恐らくはバの国と関連性の高いカオスニアンだけに――彼らにその知識を叩き込んでいる可能性は否めない。

●純白と鮮血
 今回の事件は、セルナー領海からメイディアの北東海側の海上で襲撃されたという報告から、犯人グループはそのまま時計回りにメイディア東海の『マイの海』を抜け、メイの国に広がる南海『ルラの海』を横断し、リザベ領南端のラケダイモンの傍を強行突破し国外脱出を試みているのだろうと予想された。

 そこで、今回は三つの作戦プランが用意された。
 尚、すでにラケダイモンには連絡を入れてある為、最終防衛線をそこに設置してある。
 先ずは、メイディアからマイの海を抜けるルートで阻止する案。
 次いで、メイディア南海ルラの海を抜けるルートで阻止する案。
 最後はラケダイモンに先回りし、強行突破しようとする彼らを最終防衛線で撃破、回収する事だ。
 出来るだけ早い段階で阻止できるのが望ましいが、相手もかつては無敵を誇った輸送特別護衛隊を破った強敵である。下手を打つと返り討ちにされる可能性だって、充分にある。
 今回は、海上騎士団も応援に駆けつけてくれるという事で戦力としては不足はないかも知れないが、ここ最近のカオスニアンの暗躍ぶりは非常に狡猾で、大胆で、そして益々凶暴化の一途を辿っている。

 そんなカオスニアンどもに鉄槌を下し、殲滅せよ!
 何としてもブランシュ鉱を回収し、メイディアに持ち帰れ!!

●今回の参加者

 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea9525 朴 光一(34歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1633 フランカ・ライプニッツ(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 eb4189 ハルナック・キシュディア(23歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 ec1847 木村 美月(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●海は広いし、大きいし、で。
 本来ならばすぐに連絡が届くはずの事項も、連絡を入れられる要員がひとりも残らなかった事に今回の大きな犠牲の後が伺えた。
 全滅さえしていなければ、もっと早い段階で連絡し、そして敵の戦力や状況、もちろん逃走経路までもが判明していたはずだ。
 相手も必死だった事には違いないが、それゆえ今回は非常に不透明な状況下で追走する事になってしまった。
 バルディッシュ・ドゴール(ea5243)は皮肉にも快晴の空と真っ青に広がる海をぐるりと見回しながら嘆息する。
「しかしカオスは誰からブランの事を聞いたのやら‥‥何より海上でどうやってブラン輸送隊を補足したのか。事前に情報が漏れていたとしか思えん」
 状況的には追走する側よりも逃走する方が圧倒的に有利である。
 理由は大きく二つある。
 既に全滅した輸送隊の例にもあるように、無敵を謳われた特殊警備隊を討ち、そしてまんまとブランシュ鉱を強奪した手腕からみて、相当の戦力である事。
 そして、全滅させられた事で、ある程度の戦力予想はつくものの、肝心の船の速度がどれほどなのか不透明であ事。
 だが、そんな計画性のある作戦を、いくら準備万端に行えたとしても全滅に追いやれる事が可能なのか?
 ――メイの上層部に内通者がいるということか。
 バルディッシュはその考えに、自分で戦慄を覚えてしまう。
 だが、その可能性は、より思いがけない方向に突き進んでしまう事になるのだった。

●冒険者たちの不安。
 非常に不利な状況の中、唯一の希望があるとしたら。
 それは、先の襲撃でただ黙ってやられる筈のない輸送船団がどこまで応戦し、敵戦力を削いだか。激しい抵抗の末、カオスニアンたちにどこまで深手を負わせたかにかかっていた。
 そして、今回非常に頼もしかったのは冒険者のほとんどが優良視力を持っていた事だ。
 バルディッシュもそうであるようにアハメス・パミ(ea3641)、レインフォルス・フォルナード(ea7641)、朴 光一(ea9525)、フランカ・ライプニッツ(eb1633)、そしてハルナック・キシュディア(eb4189)とその熟練度こそバラバラではあるが海という広大な場所において彼らの『眼』は追いかける側の数少ない利点でもある。
 特に今回は風の強い中、何とか頑張ってマストのより上空を飛行しながら索敵を行っていたフランカ。彼女の大活躍のおかげで、追走側での不利をより抑える事に成功していたのだから。
 もちろん、長距離や超高度は無理である。それに船だって相当の速度だ。進んでいる間は吹き飛ばされてしまうのを防ぐ為、ジーゲンにつかまって‥‥というか乗っかっていた。
 万が一こちら側が沈没しても、ジーゲンがフランカを乗せて泳いで帰ってくれそうな勢いである。
 
 敵船がゴーレムシップである可能性や、カオスニアンといえば恐獣という組み合わせも視野に入れていたパトリアンナ・ケイジ(ea0353)だが、可能性だけでいうならゼロではないにしろ、今回は非常に低確率である事が予想された。
 恐獣を船で運ぶという状況と、それを戦力にするというやり方が現時点で確立されていないというのもあるが、元々沈没させる可能性を残しながら敢えて恐獣で白兵戦に突入するのは攻める側からすると非効率極まりない。それでなくとも厳重な警備体制だった輸送船団に対してその戦法はあまりにも無謀だ。
 これが陸地であったなら、陸と空からの強襲で圧倒出来た可能性もあるが、海の上で同じ戦法が通用するとは思えなかった。

 またゴーレムシップの可能性だが、これも確立としては低い。理由は単純だ。
 未だ現状で――カオスニアンがゴーレムを操縦しているという――事実が判明していないからだ。
 もしゴーレムシップを使っていたとしたら、それは少なくとも、襲撃した犯人グループがカオスニアン「だけ」でない事を、最悪の場合、敵国の兵力としての戦力を要している事になる。
 仮にそうだとしたら、追走する側がどれだけ不利になるかは一目瞭然。
 それはもうはっきり言って、正真正銘の『戦争』になる。
 わざわざそれだけのリスクを負っても(敵国の証明をしてまで)襲撃する理由があるか?
 そこまでブランが枯渇しているのか?
 そう考えると、カオスニアンが単独で行っている可能性の方が高い。もちろん、バルディッシュが考えていたように、裏で何者かが絡んでいる事は想像に難しくない。
 しかし簡単に尻尾を出さないのも、カオスニアンがカオスニアンである事を証明しているのだ。

●最善の選択!
 メイの国に広がる南海『ルラの海』海上で応戦する戦法を選択した冒険者達。
 実はこのプランでは最も効率のいいルートであった。
 追走側にはもうひとつ有利な点がある。それは、連絡と連携が可能である点だ。
 ルラの海まで下がる事で、一旦マイの海で抜けられてもその連絡を受けることが出来、仮に抜けられてしまってもラケダイモンで挟み撃ち出来るという絶好のポジションなのだ。
 連絡を受けることが出来れば、戦力も当然把握出来、応戦するのにも万全の体制で行える。
 一見不利な追走側でも唯一真正面から対応可能な作戦プランなのである!
 仮にマイの海で交戦していれば、更に戦力が削ぎ落とされているだろうし、ルラの海で迎え撃とうとしているチームに加わっている冒険者たちは追う側にしては最小限にデメリットを消化している状況なのだ。
 実に色々な意味で最善の選択であり、実に『美味しいポジション』なのである。

 アハメスや朴、ハルナックらは戦闘に備え、船上に撒く為の砂や矢盾の設置に尽力する。
「私は今回サポート役です。サポートとはいっても同等でサポートらしく目立ちもしませんが、力のある方々の力がより発揮できるよう努力する方が作戦の成功に寄与すると思いますので」
 謙遜するハルナックだが、表立って戦う者もいればこうした準備やサポートの為に動く者もいる。そうやって互いに場を借り役割を持って行うことが海の上で生存確率を高めるという事を知っているのだ。
「海で悪事を働こうなんて、そもそもが間違ってる。海ってのぁな、いっちばん正直なんだよ! 嘘なんてつけないもんだ。ヤツらが海に逃げたってんだったら、海のルールってもんを教えてやらぁ! ……です」
 思わず口から洩れてしまった言葉を、無理やり丁寧語でおさめたのは朴だった。海で慣らした男としてのごくごく当たり前の、そして素直な今の気持ちでもある。海でカオスニアンに好き勝手やられるという事が正直腹立たしかったのだ。
 その憤りは、他の面々にも伝わって、そして全員の気持ちが固まっていった。
 準備が着々と進む中、遂にカオスニアンが奪取したとみられるブランシュ鉱を載せた船がこちらに向かっているという情報が届けられた! いよいよ、本番だ!

●突撃!
 どうやらカオスニアンは輸送船団の船をそのまま使って輸送した訳ではなさそうだ。強襲した後、輸送専用に割り当てられた船を用意し、それに載せ替えた後移動を開始したと見られる。
 戦闘に使われたものは傷が深かったのか、乗り捨てられていたと報告も入っている。つまり、船そのものはほとんど新品同様という事だ。発見を遅らせる為に荷物を移し変えて偽装した、とも考えられる。
 ここ最近のカオスニアンのやり口は巧妙且つ大胆にして狡猾極まりない。
 力押しだけで押し通そうとしていた頃に比べると非常にやりづらい相手になってきているのは確実である。

 相手がどうあれ、既にこちらに向かっている事は確実だ。
 今は、真実よりも事実を優先すべきだろう。現時点で冒険者達に求められているものは、ブランの回収とカオスニアンの殲滅である!
「来ました! やはり報告とはまるで違う船ですけれど、こちらに近付いてきています!」
 マストよりも上空から予想地点を図りながら見回していたフランカが、こちら側に接近する船を発見。
 その報告を全員が受けてから、一気に緊張が高まる!
「乗り込んで戦うか、船の防御か、どちらにせよ‥‥相手の好きにはさせんよ!」
 レインフォルスは、剣をぐいと握りなおしながら示された方角を睨みつける。

 海上騎士団の猛烈な矢を浴びながらも一向に止まる気配を見せない船を見て、全員が覚悟を決めた。
 ――これだ!!
 ここからは無敵の輸送船団を撃滅せしめた強敵との海戦だ。
 一瞬でも気を許すと即、命を落としかねない。だが――。
 最初の矢はあくまでも牽制である。これで大人しく止まれば、無駄に殺さず捕らえるつもりだった。
 しかし。
 相手は決死の覚悟だった! 最初から潰す気で火矢を放ってくる!
 炎を纏った雨はスコールのように激しく降り注ぎ、海上騎士団の船一隻の甲板上を火の海に変えた!
「第二波の前に多少強引でもいい、腹を打ち抜くつもりで突っ込め!」
 後は我々がやる! 接舷し白兵戦で決着を着けるつもりで叫ぶバルディッシュ。
「うまく回り込んでくれれば‥‥風も強いから不意の揺れには気をつけてくださいッ」
 海戦経験と船舶関係に多少なりとも知識を持つアハメスが注意を促し、全員が風と波、そして船の挙動を全身で受け止めるように構えていく。しかし、予想外に相手の動きが早い。今度は準備のいる火矢とは違う通常矢を使って速度で攻める冒険者の船に仕掛けてくる!
 かなり強引に突っ込んだおかげか、強風を活かして突撃したのが功を奏したのか、とにかく予想を上回る矢の反撃を前に何とか最小限のダメージで最悪のタイミングを外す事に成功した。一気に肉迫する!
 ゴグッヴァアアアア!!
 強烈な衝撃と何かに飲み込まれたような海の底にまで伝わる激突音が互いの船を激しく揺らす!
 この瞬間、冒険者たちは作戦の第一段階を成功させた事を確信する。動けなくなった船を囲む事など、赤子の手をひねるよりも容易であるからだ。
 しかしここから先は今まで以上に死との隣り合わせとなる。
 しかし、接舷を成功させたからには乗り込むか、或いは乗り込まれるだけである。だったら攻めて、攻めて、攻め抜くしかない。
 パトリアンナ、アハメス、バルディッシュ、レインフォルスを先頭に、朴やフランカ、ハルナックらはサポートに回り攻めと防御を両立させる方向で動く。それでなくとも思ったよりも動きにくい船上、足場も悪ければ波の揺れ、そして敵も味方も入り乱れての乱戦で互いに一瞬の油断が生死を分かつのだ。
 突撃していく戦闘班を勇気付けるように叫ぶ朴。
「背中は任せときな! 船には一歩たりともあがらせねぇぜ!!」
 フランカは一瞬にして混戦状態になった船上をみながら、人目につかないようにするりと敵船の背後に回っていく。何か考えがあるようだ。
「‥‥どうか、みつかりませんように‥‥」
 果たして、フランカは難なく敵船の背後に回りこむ事に成功する。
 そして、その事が激しさを増す戦闘の果て。その運命を握ることになるとは――。

「目の付け所はよかった。だから。リスクの再計算をしにきてやったぜ!」
 パトリアンナは激しく揺れる船上に臆する事無く、咆哮をあげる! 剣と剣の重苦しくも派手な激突音があちこちから響き渡る船上を素早く見回すパトリアンナは、相手の船から奪ったブランシュ鉱が包まれたと思われるカバーに覆われた個所を見つけた。
 バルディッシュに目配せすると、二人はそちらに近付いて、確認する。
「‥‥間違いない、これだ」
 うなずくパトリアンナ。確かに真っ黒な『何か』である。これが本当に真っ白い『ブラン』になるとは信じれらないが、ともかく、非常に貴重なものである事は間違いない。
 ブランシュ鉱を見つけた事で、作戦の第二段階までが成功する。しかし、状況はいよいよ切迫していた。

●逆転の一撃! そして
 接舷時にダメージを加えてしまった事で、カオスニアンの‥‥というより、ブランシュ鉱の載った船が大きくバランスを崩してしまったのだ。このままでは、カオスの者共はともかく、せっかくのブランシュ鉱が海の藻屑となってしまう!
「まずい‥‥これは、ブランが落とされるぞ!」
 カバーにつかまって叫ぶバルディッシュ。
「こりゃ、まずいね! あたしらまで叩き落されるぞ!」
「振り落とされないように気をつけて! 巻き込まれたら一瞬で飲み込まれます!」
 パトリアンナとアハメスもまた必死にしがみつくように足場を固めて叫ぶ。
 だが、大きくバランスを崩した船はそのまま横倒しになりそうな勢いである。誰もが転覆の危機を予想し、戦慄する。

「ま、間に合って‥‥っ!」
 この大ピンチに最後のチャンスをかけてフランカが飛ぶ!
 彼女が選択したのは、転覆しそうな船をローリンググラビティで力場を反転させ、最悪の事態――転覆を回避させる事だ。
 だが、たった一発の、そして効果範囲のちいさすぎるローリンググラビティが成功するだろうか?
「それでもッ!」
 真横から撃てば傾いた力は逆転し、その勢いで横転を防げるかも知れない。どう考えても不可能に近い可能性ではある。
 それでも。
「やってみないとわからない!」
 フランカが運を天に任せて高速詠唱でローリンググラビティをぶち込む!
 打ち込んだ瞬間、それまでの勢いが急激に収まり始める。瞬間的にだが、傾くスピードが一点だけ反転したのだから当然だ。
 船体の重さの為、浮かす事ができなかったものの、慣性の法則を止めた事は絶好のチャンスとなった。
 とはいえ、完璧に止めた訳ではない。結果的に転覆させないだけの勢いを保てなかったものの、その『時間』が最大の功績となった!
 フランカのローリンググラビティで『耐えた』船は反対側からも海上騎士団の船が接舷し、船を固定したのだ!

 それが最終的にカオスニアンの殲滅とブランシュ鉱の回収の両立を可能にしてくれたのだった――。

●強奪の代償――。
 状況的に非常に切迫していた事と、本来ならば捕縛して口を割らせようと思っていたカオスニアンだが、手加減していたら転覆しようがお構いなしに暴れまくる死に物狂いの抵抗もあり、やむなく殲滅を余儀なくされてしまった。
 海の戦いで少しでも油断すると、一気に形勢逆転する事もある。苦しい選択ではあったが倒すしか道が無かった。

 ――しかし。
 カオスニアンを全て討ち倒してしまった為に残された謎も多い。
 なぜ輸送隊が全滅したのか、船はどうやって調達したのか、ブラン鉱山の位置を知られたのか、最終的な被害状況は、などなど詳しい事はメイディアに戻ってからの徹底した調査に委ねることになるだろう。

 しかしながら、一先ず、今回の作戦は最優先であるブランシュ鉱を回収した事で大成功を収めたのだった。