ナーガ族の消失

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月15日〜04月20日

リプレイ公開日:2007年04月17日

●オープニング

●苦悩するレイネ……。
 無残にも殺され、奪われたたナーガ族の遺骸を取り戻すべく一人旅立った女性のナーガ、レイネ。
 遺骸を持ち去ったカオスニアンたちが砂漠に向かったという情報を一度は掴んだものの、一回目の捜索では姿はおろか、足跡ひとつ探せないままに終了してしまった。
 その後の情報は入っておらず、ただただカオスニアンらの暴力の前に屈してしまった事に激しい怒りと無念さを感じるレイネ。
 目の前で殺された者もいた、先祖の骸が眠る墓まで荒らされた。
 この、言葉にならない思いを、どうしていいのかわからず、レイネは夜も眠れない日々が続いた。
 そんな中――彼女にメイディア側から突然の呼び出しがかかる。
 ステライド城に向かったレイネはそこで、驚くべき情報を聞かされる事になる。

「そ、それは……真実(まこと)の事であるか……」
 直接国王から話を持ちかけられた訳ではなかったが、伝令の者に信じられない情報を聞かされて、驚きのあまり、それ以上言葉を発する事ができなかった。
 その情報とは。

 実はレイネの村がカオスニアンの襲撃を受けた際、命をかけても最も守らなければならない存在があった。
 一人のナーガ族の少女、フェイエス。
 まだ幼い彼女はナーガとしてはまだ若く、世間の事も何もわかっていない。しかし、そんな彼女には、ひとつだけ信じられないような奇跡の力を持って生まれてきた。
 神の眷属に最も近いと謳われたナーガ族において、まさしく『竜の巫女』に相応しい、伝説の『白い鱗を持つナーガ』だったのだ。
 白蛇のナーガというのは非常に稀な存在である。
 一部では数千年に一度とも数万年に一度とも言われているほどの珍しさゆえに、生まれただけで、『運命に導かれし者』(=勇者?)としてナーガ族にとって最高の位が与えられる存在だ。

 その白蛇のナーガ、フェイエスが行方不明になったというのだ。
 行方不明になる直前に、村の長老はフェイエスから「レイネに大切な話をしなければならない」と聞かされていたが、それは伝令の者に任せて、身を隠しておけときつく叱ったという。
 その直後の事だ。
 フェイエスは恐らく、一人で村を抜け、レイネのいるメイディアまで行こうとしているらしい。

 しかし、もし彼女がカオスニアンに襲われてしまったら――。
 そして。
 カオスニアンたちは、この『竜の巫女』白蛇のナーガを手中に収めようと、幾度となく襲い掛かってきたのだろうか?

●命をかけるべき、存在――。
 そして今回の情報によると、行方不明だったフェイエスが無事リザベで保護された、という吉報がもたらされる事になったのだ。
 メイディアに向かっていたはずの少女が、なぜリザベに辿り着いたのかは不明だが、ともかく、無事である事が判明する。
 その報せを受け、心底安堵するレイネ。
 しかし。

 殺された者たちの無念をいまだ晴らす事が出来ないでいる自己嫌悪に苛まれながらも、今は奇跡の少女、白蛇のナーガフェイエスを迎えに行かねばならない。
 苦悩するレイネだが、悩んでいる暇はない。
 一刻も早く、フェイエスを迎えに行き、彼女を命をかけて守らねば!
 行方不明になっていた彼女を引き取りに行くべく、レイネは急遽メイディアからリザベへと向かう事を決心する。

 そこで今回の依頼は、レイネと共にリザベへと向かい、フェイエスと呼ばれるナーガの少女をメイディアまで護衛しながら戻ってくる事だ。なお、今回は特別護衛任務の為、交通手段は陸路・海路、どちらを選択しても構わないが、基本的に迅速に事を運ばなければならない点にある。
 また、特殊任務の為、報酬は通常よりも多くなっている。
 カオスニアンたちの本当の狙いがもしフェイエスであったとしたら、保護されているリザベでも襲撃を受けるかも知れないし、或いは戻ってくる途中の人数の少ない護衛中に狙いを定めてくるかも知れない。
 ナーガ族の中でも特別視されている存在であるフェイエスのような珍しいナーガを人目に晒してしまった事は今更どうする事もできないが、村に連れ戻すよりもメイディアで保護してもらった方が圧倒的に安全である事に皮肉を感じるがカオスニアンと恐獣。そしてレイネが驚愕した――『巨人』――が再び現れたら、それに対抗できるのは、メイディアの誇る『巨人』しかいない。
 そのどれもが、あって欲しくない事態である事には変わりは無い。
 ともかく、一刻も早く、フェイエスの元へ向かわねば‥‥!

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb7879 ツヴァイ・イクス(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)
 eb8300 ズドゲラデイン・ドデゲスデン(53歳・♂・鎧騎士・ドワーフ・メイの国)
 eb9812 シルヴァ・クロイツ(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ラフィリンス・ヴィアド(ea9026

●リプレイ本文

●はじまりの朝。
「先行して、フェイエスの安全を確保‥‥か。ふむ」
 風 烈(ea1587)とシルヴァ・クロイツ(eb9812)はレイネに行きの行程で先行班を投入しフェイエスの身の安全を確保するという旨の提案をした。これは今回依頼を受けた冒険者の相談の結果だという。少し悩んでいたレイネだったが、二人の提案を呑んだ。
「わかった。本来は我が全て責任を果さねばならぬのだが、事態が事態。二人とも、宜しく頼む」
「ああ、任せてくれ! だがな、レイネさん、あんたの責任もあるだろうが俺たちにだって責任があるって事を忘れてくれるな」
「風の言う通りだ。それに、生きていただけでも良しとするべきだろう」
 風とシルヴァの言葉に素直に肯くレイネ。
 かくして、二人は疾風に翔けるが如く、文字通り飛ぶような速度で疾走していった。
「‥‥ところであの男、なぜ背中に犬を背負っていったのだ」
 風の後姿を見ながら、レイネは何故かとても気になっていた事を思わず呟いた。

 レイネはふと残された護衛組を見回して、少し驚いたような表情を見せる。
 特に、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)やジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)、ツヴァイ・イクス(eb7879)をじっくり見比べている。
 三人は妙にじろじろ見られている事に気付きはしたものの、一体それが何を意味しているのか今いち理解出来ずにいた。
 視線に耐えられず、思わず口を開いてしまったのはジャクリーンだった。
「わ、私たちに何か‥‥」
「いや、もしかすると‥‥いや、何でもない」
 別に彼女は隠し事をするつもりではなかったのだが、それが冒険者にとって不安材料となってしまっては不味い。
 ジャクリーンは道中ナーガ族についての話を聞くつもりでいたので、せっかくだからと話を聞きだす事にする。
「宜しければナーガ族について御聞かせ頂けませんか?」

●伝説の少女。
 フェイエス――竜人族の言葉で『信頼に足る者』を意味する。
 ナーガ族は元々仲間意識が非常に強い種族であり、戦いこそ好まないが自衛や一旦仲間が傷付くような事があれば全力で戦うという性質を持つ。
 レイネがメイディアにやってきたのも同じ村で二度もカオスニアンに襲撃を受け、更に非道な行いを見せ付けられた事から、その無念を晴らすべく『一人で』砂漠を横断しようとしたり(止められたが)、仲間の事になると普段の達観したような冷静さからは想像も出来ない情念が秘められているのだ。
 フェイエスはその名の通り、ナーガの最も強い『思い』を名前に込めたものだ。それだけ、レイネたちはこの伝説の白い鱗を持つナーガの少女を、ある意味での『象徴』にしたかったのだろう。そして、それだけの力が彼女にはあるのだ。
「ところで、空を飛べるとか、火を噴けるとか、変身出来るというのは本当ですか?」
 あくまでも噂でしかない部分を突いてみるジャクリーン。だが、レイネはきょとんとした表情をしてみせる。
「可能だ。人間型生物に変身することが出来る、今回はもしかするとそれで偽装する事になるかもしれぬな」
 いともあっさりと肯定するレイネ。
 全て真実であった。だが、それを見たものがいなかったから噂でしかなかったのだ。むしろ、レイネからすると単に聞かれなかったから答えなかっただけ、という風にも取れるほど平然の体で答えている。
 だが――。
 ここで気になる言葉をもう一度聞き返すことになったのは、同じくじろじろと見られていたツヴァイだった。
「気になったんだが、偽装、とはどういう事だ?」
「うむ。フェイエスもまた我らと同じナーガの巫女。人間と同じ姿に変身する事は可能だ。普段あまりそういう事はしないのだが、今回は特別、彼女には人間に変身してもらう」
 あらためて、レフェツィア・ジャクリーン・ツヴァイの三人を見て考えが固まったようだ。
「彼女の髪も、お前達と同じ銀色。つまり、お前達にこんな任を任せてしまうのは申し訳ないところだが、囮になってもらう可能性があるのだが‥‥どうだ」
 そう。三人の意外な共通点はその透き通った銀の髪なのだ。
 白い鱗に銀の髪、そして瞳の色すらも銀に輝き、肌の色は透き通るような白い玉肌。ここまで真っ白なナーガというのは非常に珍しい。
 その特殊性から、生まれながらに特別な存在とされてきた。
「いや、いくらなんでも俺は無理だろ!?」
「肌を白く塗ればいいんじゃない?」
 ツヴァイの突っ込みにニコニコとボケ返しをしたのはエイジス・レーヴァティン(ea9907)。
「護衛任務に囮役っていうのは、まあ、ある話ですし。構いませんよ」
 と、これはジャクリーン。レフェツィアも意外なほど単純に快諾してみせる。
「これも依頼のうちだと思えば、ね」
「いやいやいやいや、待て、別に囮が嫌だという事じゃない! しかしだ!」
「しかし?」
「う‥‥わ、わかった。レイネ殿とフェイエス殿の為とあらば、やむなしか」
 ツヴァイはやや冷や汗まじりながら、うな垂れる。
 そんな少しばかり肩を落とし気味のツヴァイをルイス・マリスカル(ea3063)ズドゲラデイン・ドデゲスデン(eb8300)が慰める形になった。

●先行班、異常なし?
 文字通り先行し、行く先に障害があればそれを排除し、後から来る護衛隊の安全を確保しつつ早急に現地へと到着してフェイエスの安全を確保するのが風とシルヴァの二名である。
 実際のところ、先行組は非常にスムーズな進行で、特にこれといった問題が見付からなかった。
 だが、彼らの尋常ならざるその移動速度こそが、今回は若干裏目に出てしまったかも知れない。そして、荷物をほとんど持たない軽装そのものが最大の原因とも言えた。
 主に隊商を狙い、金目の物を強奪しにやってくる懲りない面々。通称ゴブリン通りのゴブリンがまったく姿を現さなかったのだ。
 二人はてっきり既に殲滅され、現れなかったのだろうとばかり思っていたのだが、どうやら違っていた。
 ――単に余りにも速過ぎて狙いを固める事が出来なかったのだ!
 ゴブリン達は意外としつこい事で有名だが、逆の意味で諦めも早かったりする。非常に矛盾しているかも知れないが、結局はこの一言で言い表せる。非常に『単純』で、本当に『懲りない』のだ。
 彼らはひっそりと待ち構えていたのだが、二人の圧倒的なスピードの前に唖然とするばかりで手が出せなかったのだった。結局ひとしきり悩んだあげく、よし、次にしよう、などと考え直したという訳だ。
 果たして風とシルヴァの二人は無事にリザベに何事も無く到着し、フェイエスの元に行くことになるのだが‥‥。

「先行組は何をしてたんぢゃ!? まさか二人ともやられてしまったんぢゃあるまいな!」
 ズドゲラデインは二人の安否を心配しながらも、ゴブリン達をなぎ倒しながら叫んだ。
 どう見ても襲ってくださいといわんばかりの馬車と護衛隊を見つけると何も考えずに突っ込んできたゴブリン共にあっという間に囲まれると、先に行った二人の事をどうしても考えてしまう冒険者達。しかし彼らの任務はこういった障害を完全に排除し、安全に目的地まで運ぶのが仕事である。レフェツィアがレイネに祝福の息吹を与えると、エイジス、ツヴァイ、そしてズドゲラデインが剣を抜いてそれに答えた!
 ルイスは馬車の馬をなだめるようにしてから、レイネに合図を送る。
「少しばかり、邪魔者が現れたようです。が、ご安心を。後は我々が処理しますから」

 わらわらと群がる十数体のゴブリンに突っ込んで行ったのはツヴァイ、そして後から大きく振りかぶってなぎ払うズドゲラデイン。そして急激な戦闘状態に突入し、突然笑顔を失ったのはエイジスだった。
 ツヴァイとズドゲラデインが雑魚ゴブリンを紙屑のように吹き飛ばしている最中、エイジスはふっ、とまるで人が変わったかのように無表情になると一発一発を急所のみに当てていく。
 その切っ先に触れたゴブリンたちは特に大きな外傷がないにも関わらず即死していく! 本当の急所というのは、痛みすら感じる暇も無く死んでいくものである事を、エイジスは無言のまま証明してみせた。
 勢いで動の戦いを演じるツヴァイとズドゲラデインに対し、余計な動きを取らず、一撃必中・一撃必殺の静の戦いを演じるのはエイジスと援護に回ったジャクリーンだ。
 わずか十数分間の出来事であったものの、ゴブリン達の死骸とその形勢不利と見て逃走した彼らをみやると、どっと緊張の糸が解けるように感じられた。結果的には、その疲れもあって、レイネを乗せた馬車と護衛隊の冒険者たちはそれから数時間進んだ後、夜営する事になった。

「まさか往路で狙われるとはね」
 いつものニコニコ顔に戻っているエイジスに突っ込み返したかったツヴァイだったが、色々考えて、やめた。  
「しかし、先行班は一体どうしちゃったんだろう?」
「そうだな、だが、二人だって冒険者だ。そう簡単にはやられないだろう」
 そう言ってはみたものの、やはり護衛組にとって二人の安否を心配する色は浮かぶ。先行班と同じ道中で、彼らは見付からず、馬車組だけ狙われるというのはどうにも納得できない。
 何かあったのでは? という疑問は誰にも浮かぶだろう。

 一方――。
 先行班は無事リザベに到着し、すぐにフェイエスが保護されているという施設に向かった。
 通された先では、レイネの言うとおり、透き通るような白い肌の銀の髪の少女が佇んでいた。
 あまりの美しさに言葉を失う風とシルヴァ。
 ゆっくりと振り返ると、ナーガの少女は囁くように静かな声で問い掛けた。
「レイネお姉さまは‥‥」
「ああ、レイネさんなら、後から追いついてくるよ。すぐに迎えに来てくれる」
「そう」

●再会。
 ようやく追いついたレイネ達一行。先の戦闘の事もあり、非常に緊張した面持ちである。先行した二人がもしかしたら到着していないのではという心配もあったからだ。
 ところが――。
「レイネお姉さま!」
 通された部屋の先にいたのはまだ幼さを残す少女のナーガ。彼女こそが『運命に導かれし者』の称号を持つ伝説の少女、フェイエスである。
 レイネに抱きつく少女の双眸からは、大粒の涙が溢れていた。
 それまで必死に堪えていたものが、ここに来て爆発してしまったのだろう。
「フェイエス‥‥」
 少女の肩を強く抱きしめるレイネ。

「思ったよりも遅れて来たが、何かあったのか?」
「そりゃこっちのセリフだ。先行班が襲われたんじゃないかってこっちじゃ余計な心配したんだからな」
「どういう事だ? ツヴァイ」
 先行班にゴブリン通りでの戦闘を話したところ、風とシルヴァは思わず見合って驚いたような表情を見せた。
 まさか見逃していたとは、という気持ちも無いでは無かったが、目的は最優先でのリザベ直行だった。申し訳ないと思いつつも、両班共に無事辿り着いた事にようやく一安心の一同。

「それにしても――」
 何故こんな無茶をしてまでレイネに会おうとしていたのか。レイネにとっても、今回の依頼を受けた冒険者たちにとっても、最大の疑問だった。
「ずっと感じていた事があるのです。もちろん、これが真実であるかどうかはわかりません。わかりませんが、どうしてもお姉さまに伝えたい事があったのです」
「ずっと、感じていた事?」
「わたしたちの村を襲った、あの巨人と黒き者どもの事です」
 巨人。そして黒き者。黙って聞いていた冒険者の耳に飛び込んできたのは、間違いない。
 ゴーレムとカオスニアンの事だ。
「あの時助けてくれた人間たちは、あの巨人の正体が何であるか、答えられないようでしたが‥‥もちろんわたしもアレが何であるかまでははっきりわかりません。しかし、感じたのです。同じ匂いであることに」
「同じ、匂い?」
 別にフェイエスは何か必要以上に特殊な能力を持っている訳ではない。あくまでも、彼女の感じる直感みたいなものである。
 思わずその言葉につられてしまったのはエイジスだった。
「この子の口癖、といえばいいのか。フェイエスの『感覚的』な表現のひとつだ」
 フェイエスの言う意味を冒険者たちにわかりやすくする為、レイネなりに噛み砕いて説明する。
「ゴーレムはカオスニアンたちと深く関わりあっているという事だ。あの時、我らを襲ったあの巨人‥‥所属不明とか言われたが、どういう意味なのかわからなかった。だが、我もメイディアで調べているうちに色々その意味がわかりはじめていた所だ」
 報告書『ナーガ族の憂鬱』において、その所属不明ゴーレムがレイネやフェイエスを襲ったのは事実ではあるが結局その正体を明かす事ができなかった。しかし、フェイエスはあのゴーレムがカオスニアンと同じところからやってきたものだと言うのだ。
 しかし、カオスニアンがゴーレムを操ったという記録は残されていない。
 そして、カオスニアンと関わりを持ち、ゴーレムを操ることが出来る鎧騎士を持ち合わせている国といえば――。

「お爺さまに話をしても、聞く耳持たず。ですがレイネお姉さまがひとり旅立ってしまった。誰かがこれを伝えねばと」
「それでお前が‥‥」
「すみません。どうしても、お姉さまに伝えたくて‥‥」
 重すぎる期待から逃げ出したいという気持ちも、正直あっただろう。だからといってその責を逃れる為だけに自らの命を顧みず単身でレイネと同じ旅をはじめたのは無謀にも程がある。
 レイネは彼女の無茶っぷりに半ば呆れながらも、しかしレイネ自身の旅のきっかけを作った先の事件を振り返り、どうしても叱り付ける事が出来なかった。それでも。
「だが、お前は我々の希望。お前が我々にとってどれだけ大事な存在であるか、理解していない訳ではあるまい?」
 覚悟はしていた。しかし一番フェイエスにとって大切なレイネという女性が旅立ってしまった事で彼女の心にひどく大きな不安が付きまとう事になったのも、また事実だった。
 思わず、しゅんとなってしまうフェイエス。
「この子だって、皆に迷惑かけた事は理解している筈だ」
 重圧や、責任の重さを身に刻み込んでいる者だけが言える、静かな言葉がツヴァイから洩れる。
「ごめんなさい、お姉さま‥‥ごめんなさい」
 何度も謝りながら、泣きじゃくるフェイエス。どんなに位が高かろうが、彼女はまだ幼い少女である。
 感情をコントロールする術を、彼女はまだ知らない。

 レイネは村に連れて帰ろうと一度は提案するも、フェイエスはどうしても首を縦に振ろうとしない。一緒にいた方がいいと言うのだ。
 確かに状況的に見て、今彼女を村に返すのは、得策ではなかった。またいつ家出されてもおかしくないからだ。
 レイネは彼女の強い思いに折れる形で、メイディアに彼女を連れて行く事を承諾する。
 レイネとフェイエス。冒険者たちはふたりのナーガをこうしてメイディアに送り届ける事となった。