お嬢様とゴーレムニストと時々ナーガ様っ
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月16日〜04月23日
リプレイ公開日:2007年04月17日
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●オープニング
●導かれ、動き出す運命のプロローグ
ラピス・ジュリエッタ――それが彼女の名前だ。
本人曰く、19歳の健康的な女子であり、現役ゴーレム開発の主に起動実験で活躍するテストパイロット。
つまり、女性の鎧騎士、である。
彼女の鎧騎士としての実力は相当のもので、その高い集中力と瞬間的な爆発力は起動実験や限界稼動実験などの場において有用な実験データを提供できるとあって、そこそこ評判のよい鎧騎士だ。
工房関係連中には頼りがいのあるラピス。そんな彼女には、実は非常にどうしようもない欠点が、たったひとつだけある。
――とんでもない重度の乗り物酔い体質なのである!
下手な話、起動実験では信頼のおける彼女だが、長時間の耐久実験などはもう駄目で、それがゴーレムだけならまだ慰めようもあったかも知れない。
人型ゴーレムだけでなく、馬や馬車、船までまるで駄目というのだから、処置の施しようがない。
それでもゴーレムのテストパイロットなどが出来る環境というのは、恵まれているのか、彼女にとっては地獄なのか、計り知ることは難しい所だ。
そんな彼女に、今回は特別任務が与えられる事になった。
●あの人のもとへ‥‥!
メイディアで生まれたラピスは、生まれてこのかた、メイディアを出たことが一度もない。
そんな事情を知ってか知らずか、ともかく彼女にとある任務が与えられた。
その任務というのは、現在バの国との境界線に近い最前線であるリザベ領にいる、とある女性ゴーレムニストをメイディアに呼び戻す事だ。
彼女の名は、レンジョウ・レンゲ。
29歳にしてベテランに名を連ねる『腕だけは確かな』ゴーレムニストである。
なぜ彼女がメイディアに呼び戻される事になったのか。これには理由があった。
近く完成予定となっている『八八艦隊計画』のうちの一隻、三番艦の最終調整を彼女に任せたいという強い要望があった為だ。
しかしレンジョウは現場にいたい、と、ことごとくその「提案」を突っぱねてしまう。絶対的な命令ではなく、敢えて彼女の意思でメイディアに来てもらわなければ、彼女本来の『腕のよさ』が発揮されないとわかっていたからだ。
腕は確かだが、非常に気難しく、頑固なのだ。意地とプライドもあるのだろう、職人らしいといえばらしいが、本来なら処分されてもおかしくはない彼女の行動は、「失うには惜しい腕」を持ち合わせているからに他ならない。
そこで最後の手段として使者を現地に向かわせる事で何とか説得しよう、という事で抜擢されたのがラピスだったという訳だ。
実はラピスとレンジョウは旧知の仲であり、彼女の面識ある人間をやる事でよりスムーズな呼び戻しが可能ではないか? と考えたらしい。
ただし、急務のため、交渉期限は一週間。
そして、ラピス一人だけにその任を任せてしまったのだから大変だ。
期限は一週間、そしてメイディアから出たこともない少女。この組み合わせはどう考えても無謀だった。
だが、ラピスは諦めない!
「こんな時こそ、冒険者ギルド! ああ、冒険者ってすばらしい! でも‥‥冒険者ってどんなひとたち??」
基本的に他の事に興味を持たなかった彼女は冒険者ギルドの事までは考えが及んだものの、そこがどんなところで、何をする場所なのかあまりよくわかっていなかった。
公称19歳。はっきり言って、相当のおバカ‥‥いや、世間を知らないお嬢様である。
●お願いします! 助けてください! お願いします!
「とにかく、人が欲しいの。あと、馬車とかも借りれます?」
冒険者ギルドの受け付けで、ラピスとにらめっこする形の案内人。
「そうですね。それでしたら、説得交渉そのものはお客様が主導で行って、行き帰りに必要な人員を護衛兼用で依頼される、という事でよろしいでしょうか?」
「そうね。何人くらいお手伝いしてもらえます?」
「何人と言われましても、お客様のご依頼の内容によりますが」
「だから、さっきから何度も言ってるでしょう」
――と、まあ、とにかく、依頼の仕方も案内人が舌を巻くほど素人以下だったりした。
それでも、何とか(互いに)粘り強い交渉を続けた結果、得られた情報と依頼が以下となった。
メイディア−リザベ−メイディアまでの行程を馬車を使用して往復する。
ゴーレムニスト・レンジョウを一週間以内にメイディアに連れ戻す。
その為の行き帰りを護衛する冒険者を募集する。
というものだ。
今回は陸路という事で、一般街道を通るのだが、実は先日殲滅したはずの通称・ゴブリン通りのゴブリンがまたもや復活してきているという噂を耳にした。
何度追い払っても何故か気付くと復活するという繁殖力の高さと懲りない性格はいかがなものかと思われるが、実際また隊商などが襲われているという情報がいくつか入ってきている。
今回は要人警護という事で特に慎重に動いてもらいたい。
「そうそう、お客様」
「何? まだ何か必要な申請があったかしら」
「いえ、これはお節介かも知れませんが、夜はまだまだ冷えますし、防寒具やランタンなどの照明、それから保存食などは充分確保されてから出発された方がよろしいですよ。寝袋などを用意されますと、いざという際に役に立ちましょう」
「ふむふむ‥‥おつかい行くのも大変だわ、色々揃えないといけない訳ね。ありがとう、出発までに用意しておくわ」
●急変!? 大変!? ラピスを探せ!!
出発までしばらく時間が空いたラピスは冒険者ギルドで勧められたとおり、色々と買い物にいそしんでいた。
使ったことの無いようなものばかりで、どうにもちんぷんかんぷんだが、店主にその使用方法などを教えられながら揃えていく。
「へぇ、これがまるごとナーガさん寝袋っていうの」
「ああ、それは非売品ですよ。それはとても貴重なものでしてね、ナーガ族の方がわざわざ監修して製作されたって一品です」
「なんだか下の方が蛇っぽいけど、どうして?」
「どうしてもなにも、ナーガ様は下半身が蛇のようなお姿ですから」
「えっ!? そうなの!!」
――基本的に、ほとんど何も知らないのが、彼女の特徴である。
それゆえ、何もかもが『新鮮』なのだ。瞳はキラキラ、ドキドキ、ワクワク。
まるで少女に戻ったかのようなはしゃぎっぷりであった。
ところが、出発直前になって、ラピスに大事な事を言い忘れていた。
リザベに到着した時、レンジョウとの面会だけでなく、もう一人、会わなければならない者がいた。
ラピスがリザベに到着する前後に合流するであろう『ナーガ様』に面会しろという命令だ――。
彼女がリザベで面会できなければ、ラピスにはまた一週間後までに『ナーガ様』と会う機会が遅れてしまう。
どうにかして一度顔合わせさせておきたいのだが‥‥。
結局、ラピスは出発直前まで慌ただしく動き回っていて捕まることが無かった。
そこで伝令の者は冒険者ギルドにラピスの出発に関わる言伝を預けることにした。
しかし、ラピスは出発時刻に遅刻!
重要な言伝は冒険者たちが伝える事になった。
彼女とレンジョウとの交渉、そして『ナーガ様』との面会のチャンスは冒険者たちに委ねられた!
●リプレイ本文
●お嬢様、ナーガ族を知ったかぶる!
「ナーガ様。知ってる知ってる、蛇っぽい人よね」
やたらと偏った、しかも先日知ったばかりの知識を自信満々に語るのは、毎度おなじみ‥‥でもない気がするラピス嬢。
木村 美月(ec1847)ら冒険者たちからの言伝をメモしておいた事項を正確に伝えた結果だった。
ちなみにラピスはまだ知らないようだが、ナーガ族というのは男女でその姿が違う。だから、同じナーガ族でも人間の様に体格そのものが似ているという事はない。
男性のナーガは体つきこそ人間のそれに近いが、首から上はまさしく『竜』そのもの。ナーガ族を『竜人族』と呼ばれる事があるのも、彼ら男性の姿を指している事が多い。
逆に女性のナーガ。つまりラピスの知っているそれは、上半身こそ人間に近いものの、下半身が蛇の姿を持つ。
またこれは共通事項ではあるが、男女ともに広げると3m程になる翼が背中にある。格納する事が出来、普段はその翼を広げることはないが、飛翔する事も出来るらしい。
また、息(ブレス)を吐くことが出来るらしい。その威力の程は、竜の名を持つだけの事はある、とだけ言っておく。
そして更に。
通常はナーガ族の持つ鱗は基調として緑色である事は知られているが、非常に稀にだが緑色ではない鱗を持つナーガも生まれる事があるのだという。竜(ドラゴン)にも属性により鱗の色が違う種が存在するが、それとの関係はまだ明らかにされていない。
出来るだけ打ち合わせを行ってから出発出来ればよかったのだが、結局ラピスの遅刻によって往路はとにかく慌ただしくはじまった。
それでもルシール・アッシュモア(eb9356)はお守りをラピスに手渡した。
「あ、お守りあげるから手ぇ出して。これで大丈夫☆」
見慣れぬお守りを手渡され、当初船での渡航を嫌がっていたラピスに、驚くべき効果をもたらした!
「わ、わたしもしかして乗り物酔いしなくなった!? いやー長生きはするものよねぇ〜」
にこにこ顔のラピスだが、それが『船乗りのお守り』である事を知らなかった。
●お嬢様、ゴーレムニストを語る!
結局、ラピスは伝令通り、ナーガ様に面会するという選択肢を選んだ。もちろん面会後であればレンジョウを連れ帰る為に尽力する事になるが、交渉の最初は冒険者たちが握る事になる。
そこでアルヴィス・スヴィバル(ea2804)とハルナック・キシュディア(eb4189)、そして木村の三人はその最初の説得交渉にあたる役としてラピスにレンジョウの人となりというものを聞くことになった。
「うーん‥‥どんな人かっていうとね。とっても優しいお姉さんだよ。わたしが子供の頃にとってもお世話になった人で、昔からゴーレムに対しては凄く興味があったみたい。だけど、ちょっと変なところがあって」
「変なところ?」
木村に聞き返されたラピスは少し考えながら、言っていいのか悪いのか微妙な表情をしながら。
「ええ、何と言うか‥‥彼女はとってもお寝坊さんね。一日の半分以上、いや、下手すると何日もずーっと寝てるかもって位寝ているのよね」
ラピスの言葉の意味を理解するのに、三人は僅かに時間を要した。相手は最前線で活躍する言ってみれば現場主義の第一人者である。
緊張感に満ち、少しでも気を許せば一気に情勢が変わるかも知れない場所で、眠れるはずがない。
「猫みたいな人って言えばいいのかな? 気が変わりやすくて、たっぷり寝ていて、だけどとっても優しい人。あ、でも気をつけて、彼女、寝起きだけはすごく悪くって、気持ちよく寝ている所を邪魔されたら大変な事になっちゃうから」
「寝起きが悪いって‥‥」
アルヴィスたちは互いに見合いながら、神妙な面持ちである。
「ところで、ラピスさんは『八八艦隊計画』の事やレンジョウさんが担当する事になるかも知れない三番艦について、何か知っていますか?」
出発前にある程度の情報を仕入れてきたハルナックは、改めて整理する形でラピスに問い掛けた。
「ええ、『八八艦隊計画』の事ならある程度はね。多分、三番艦っていうのは建造中の強襲揚陸艦、ペガサス級三番艦の事を指しているんだと思うわ」
ペガサス級四艦にエルタワ級輸送艦四艦を以て八艦の大艦隊戦を想定しているらしい、文字通りの『八八艦隊計画』。
その事を言っているのだろう、とラピスは解釈しているようだ。
強襲揚陸艦、ペガサス級三番艦『ホワイトホース』――。
ゴーレムを使ったゴーレム戦を想定したもので、船体中央にゴーレム格納庫を装備する。スペック的には大型金属ゴーレム一騎を搭載出来、騎馬を含む兵力二十名分を収納可能。
また精霊砲(ファイアエレメンタルキャノン)をふたつ、大弩弓(バリスタ)をやっつ装備した超攻撃型強襲揚陸艦である。
ただし、現時点では大型金属ゴーレムの実用化の目処など問題点も残されている為、多少オーバースペックと言えなくもないが、激化するゴーレム競争間において、様々な可能性や将来性を持たせてあるという事を証明してみせていた。
今回説得交渉にあたる三人だけでなく、フォーレ・ネーヴ(eb2093)やジャスティン・ディアブローニ(eb8297)らも、さすがにこの戦艦に驚きを隠せなかったようだ。
「そんな凄い船を任せようっていうんだから、現場主義っていうなら喜んで飛んでいきそうなものなのにね」
フォーレが率直な感想を浮かべる。確かに、これだけの計画である、関われるだけでも相当の名誉であるし、ゴーレムニストの観点からも相当の興味を持ちそうな話題性ある代物ではあると思うのだが‥‥。
●お嬢様、ナーガ様に会いに行く!
「それじゃあ、行って来ます」
ぶおんぶおん手を振りながら、フォーレとルシールを連れて分かれたラピス達一行。
実はラピスたちがナーガ様に面会をする、というのは相手側には既に伝えられていた。だから「会えばわかる」と言われていたのだ。
ところが――。
「ちょっと、面会できないってどういう事!?」
さすがのお嬢様もこれには驚きを隠せない。せっかく会いに来いと言われてはるばるメイディアからやってきたというのに。
一体どういう事かを詰め寄ろうとしたラピス。このままでは事情がかみ合わない状況のまま面倒な事になりそうである!
ところが。
ぶーっとほっぺを膨らませて怒りを表現しているお嬢様の横をすり抜けて来た冒険者二人。途方に暮れている三人を横目で見やりながらも手紙のようなものを渡すと、なぜかすんなり通しているではないか!
「ちょ、ひどい! わたしたちも通してくれたっていいじゃない! どうしてあの人たちは通してわたしを通せないの!!」
不公平もいいところである。ところが、それからしばらくして面会が許される。どうやら先方が許可を出したらしい。
果たして、彼女は晴れてナーガ様と面会にこじつける事が出来たのである。
お目付け役で同行していたフォーレとルシールも共に通された先には――ナーガの少女が――椅子に座っていた。
「レイ‥‥レインさんだったっけ? わたしはあなたに会うように言われて来たの、会えばわかるって言われていたのだけど、どういう事かしら?」
「レイネお姉さまなら、まだ来ていません」
「は? でもわたしはナーガ様に会ってくれって。ほら、あなたって蛇っぽいしナーガ様なんじゃないのかしら」
いきなり失礼な物言いではあるが、ストレートな分だけ質問の意味は正確に相手に伝わる。恐らくはじめて女性ナーガと対面してみれば、その事しか考えられないほど、直感的に下半身に目がいってしまうのは仕方のないところだ。
「私はフェイス。いえ‥‥皆はフェイエスと呼びます。そして、確かに私はナーガ族の者ですが」
やはりどうしても蛇身の『うねり』が気になってしまうラピス。何となく、蛇に睨まれたカエル的にも見える対照的な二人。
「‥‥そ、そうよね。蛇っぽいものね、ナーガ様よね。間違いないわ。けど‥‥」
「人違い、という事でしょう。ですが――あなたとはまたいつか別の場所でもう一度出会えると思います」
「は、はあ‥‥」
ようやく会えたナーガ様がラピスの命ぜられたナーガ様ではなかったとは、何と言う皮肉!
ところが、フェイエスの言葉が、後日『本当になる』とは、この時誰しもが思いも寄らなかった。
ラピスはレイネというナーガの女性と面会する予定だった。が、予想外のフェイエスとの面会によって、彼女たちの運命はがらりと変わってしまうのだった。
不思議な雰囲気を持つ、ナーガの少女フェイエスとラピス・ジュリエッタの出会いは、『必然』の『運命』だったのかも知れない。
しかし、実質的なスケジュールの都合で、ラピスは結局肝心のレイネとの面会はできないままリザベを後にする事になってしまった。
フェイエスと名乗った少女はラピスの事をレイネに話しておく事を約束してくれたので、今は彼女の言葉を信じるしかない。
ラピスからしてみると、『ナーガ様』には会えたんだからいいや、という心持ちであっただろう。
複雑な心境ではあるが、役は果した。
ともかく、レンジョウとの交渉の最終決着をつける為にも、今はのんびりしている暇はなかった。
●冒険者ネゴシエイターズ!
交渉役を担当するのは、アルヴィス、ハルナック、木村。そしてサポートとしてジャスティンだ。四人はラピスに言われた通りにリザベに到着すると三人と分かれて行動する事になった。
噂では最高の腕と、頑固な性格を持つというまるっきり『職人気質』のゴーレムニストだという。その反面、ラピスから見るととても優しい人柄らしい。
「今回の経験はきっとこれからの役に立つと思うよ。それに何より、面白そうだと思わないかい?」
「アタイは行かないよ。確かに戦艦の仕上げなんて中々面白いかも知れないけどさ」
「だったら。でも、自信が無い訳じゃないようだけど、何故そこまで現場に拘るのかな?」
先ずはアルヴィスの先制だ。だが、やはりレンジョウは首を縦に振ろうとはしない。
「あんなお坊ちゃまお嬢ちゃんばっかりの場所にいたら、ぬるくって仕方ない。アタイはね、ゴーレムと触れ合うのも好きだけど、今日を生きられるかもわからないこの『瞬間』を常に感じていたいのさ」
長く戦場に生きる人間の、行き着く『場所』がそれだ。一度戦場に慣れてしまえば、平和な暮らしがあまりにも薄く生温いのかを心身共に痛いぐらい思い知らされる事となる。
所謂――『戦争病』ともいえる感覚であった。戦いの中に身を投じている冒険者の中に、ここまで『瞬間』を感じていたい刹那主義がいるかどうかはわからないが、少なくとも彼女は類稀な卓越した才能を持ち、そして死と常に隣り合わせの現場で生き続ける事で自分の存在証明をしたがっているといえる。
だからこそ、戦地から「外される」というのが耐えられないというのもあるのだろう。そして、それが最大の彼女の拘りといえた。
だが、その拘りこそが彼女を連れ帰る為の最大の焦点でもある。
その為、命令では彼女は真の力を発揮しない。もちろん、命令であれば従うだろう、だが、その猫のような気難しさは即戦力を必要とするゴーレム工房においてネックと言わざるを得ない。だからこそ、自主的な移動を望んだのである。
本来交渉というのはたっぷりと時間をかける必要があった。急いては事を仕損じるを地でいく方法論の一つである。しかし残念ながらその時間が今回交渉組に用意されてはいない。
今度はハルナックが『三番艦』の調整に関われる事の魅力を説いてみせる。
戦場に一番近い場所にいるレンジョウにとって、新造戦艦の魅力は充分に通用するだろう。
「現場現場、と言うようだが、その現場を救う為の新鋭艦に携わるのがそんなに嫌なのか?」
ジャスティンも少しだけ間に入るように説得に加わる。
「別に調整するのは構わない、けど、だったらこっちに持って来ればいいのさ。そうしたら、いつだって出撃出来るようにして差し上げましょう?」
「メイディアでは自分の腕を最大限に発揮出来ないと? それとも、自分がいなければ現場が成り立たないと思っているのか? それこそ傲慢だ、君は結局仲間を信用していない」
「言ってくれるね。アタイをそんなに連れて行きたいんなら、力ずくでやってみなよ」
相手を挑発するような形になってしまったジャスティン。しかし、やや険悪になってしまった状況をなんとか打破する救世主が現れる。
「まあまあ、レンジョウくん。確かに近くでなきゃ見えない事もある。でも、離れなくちゃ見えない事も沢山あるんじゃないかな?」
一旦現場から離れて、第三者視点で見つめなおす事も必要なのでは、と説くアルヴィスの助け舟だ。
多角的に物事を見定めて欲しいという気持ちが、そういう言葉を投げかけたのだ。
「それに、ジャスティンくんだってあなたを責めている訳じゃないよ。仲間を信用、信頼していれば現場から少し離れていたってすぐに戻ることが出来るでしょ」
「仲間、か。アンタたち冒険者ってのも、仲間を信用してるからこうしてあの子の代わりにアタイを説得しに来たんだよな‥‥」
レンジョウの脳裏に、懐かしい少女の面影が浮かび上がる。
「‥‥ラピス、か‥‥」
「お久しぶり。レンゲお姉さん」
懐かしいような、少し大人びたような馴染みある声で呼びかけられ、思わず振り向くレンジョウ。
その先には――。
●お嬢様とゴーレムニストと、時々ナーガ様っ!
最終的にフォーレ、そしてルシールも加わって、全員が見守る中、レンジョウはラピスに押し切られた形で承諾するに至った。
もちろん、ここに至るまでの過程でアルヴィスら四名の粘り強い交渉が彼女を揺り動かしていた事は事実である。
一時は危ぶまれた説得交渉ではあるが、何とか無事そのピンチを乗り越え、成功達成したのだ。
復路でのラピスのげっそりとした表情と『自主規制』はここでは語らないが、ともかく、フェイエスとレンジョウ。
彼女にとっての二人との大きな出会いが、後に大きな運命を左右する事になる。
そしてその『出会い』こそが、これからはじまる強襲揚陸艦、ペガサス級三番艦――『ホワイトホース』――に関わる人物らに、大きな意味を持たせることになる。
そして、今回の依頼に関わった冒険者たちはその運命の出会いの、最初の目撃者となるのだった。
――ちなみに。
復路、ゴブリン通りに戦闘痕が残されていたものの、これといった障害も無く、ラピスの『自主規制』のみが響き渡っていたという。