誰だお前は!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月28日〜11月02日

リプレイ公開日:2006年10月31日

●オープニング

 謎多き正義の大怪盗(自称)、噂が噂を呼び真実はすでに闇の中。そんな義賊と呼ぶに相応しいやっかいな盗賊が現れたのは、メイディアにも天界の影響が少なからずあるからなのだろうか。
(自称)『美少女風水怪盗 怪盗らんま』!
 毎度毎度手書きの予告状を現場に残し、予告日時になると様々なトリックを駆使し高価な宝飾品を盗み出す‥‥予定だったのだが、何時の間にかスケールが小さくなっていってしまい、最近は単なる愉快犯になっている気もする。
 というのも、例えば。
 天界で言うヤクザ屋さんの事務所(天界から単語が流入して、こういうのも現れるようになった)の周りに落とし穴を掘り、事務所を倒壊させる。
 例えば。
 エールを薄めて出している悪徳酒場の厨房に、コードネームGを四万匹ほど解き放つ。
 例えば。
 悪徳高利貸しを詐欺にかけ、証文を回収して燃やしてしまい、なおかつ高利貸しを借金地獄に落とす。

 手間がやたらとかかっている割に、本人はまったくと言っていいほど儲けていない(必要経費分くらいはなんとか無事回収しているらしいが)。だから天界でいう義賊の象徴でもあった何とか小僧みたいに金をばらまくわけでもなく、今まで彼女が市民に施した物で一番高価なものといえば、多分各家庭に卵一個という状態である。
 だが市民の信奉を集め、結構イイ人気者であった。何より金に清く、やることは痛快である。
 が、メイディアの治安を守る者としては看過できない。しかし市民を敵にまわすのも問題である。
 そこで、ちょうど地方から栄転してきたアーケチという官憲をその対策部所に配置し、予算『だけ』を与えるのだった。
「転勤早々、頭が痛いな」

 幾度となく出会う機会はあるのだが、元々物取りだけを専門に扱う訳ではないアーケチはいいように怪盗らんまに遊ばれてしまう。
 大体、自称美少女はともかくとして一体何が風水なのかよくわからない。
 それに、被害を受けた側は大抵よくない噂ばかりが目立つ下町の悪党どもである。罪状さえあればいつでもしょっぴく事が出来るような相手だけが彼女に狙われていたのだ。
 そういう背景もあって、悪い奴らを退治する正義の味方みたいな風に思われているところもある。
 だが、彼女は立派な犯罪者である。このまま野放しにはしておけない。
 そこで彼は冒険者ギルドへと協力を要請し、風のように現れて予告状を残す謎のコスプレ少女を取り押さえようと考えた。

 そんな中。かわいらしい丸文字で、しかも顔文字までデコレーションされた手書きの予告状がとある骨董品屋に届いた。
『贋作を本物と偽って売りつけるなんてサイテー>x< 今夜もばっちり快刀乱麻を断ってみせちゃいます! 美少女風水怪盗らんま!』
 簡潔に書かれてはいるが、予告状の通りならば護衛どころか狙われた古物商は詐欺罪で罪に問われる事となる。
 しかし予告状を鵜呑みにする訳にもいかない。真贋を調べるには余りにも時間が足らないのだ。
 今は犯罪を未然に防ぐ事を優先させる事にしたのだが‥‥。

●今回の参加者

 ea2248 キャプテン・ミストラル(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb7869 風姫 ありす(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7898 ティス・カマーラ(38歳・♂・ウィザード・パラ・メイの国)
 eb8436 田原 太一(26歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

「一番困るもの、ですか? どれも価値のある貴重なものばかりですよ」
 キャプテン・ミストラル(ea2248)の提案で急遽展示品を倉庫に格納する準備がはじまったが、どうやらこの調子では全て収まりきらない様子。冗談まじりに全部をしまっては? なんて言ってはみたものの何を狙われているのかもわからない状態では何を守っていいのかもわからない。
 風姫 ありす(eb7869)も、「いっそ何を奪うとか書いてくれればねえ」と八割ほどを撤去され、閑散としたギャラリーを見回しながら溜息した。

 アーケチの担当した対らんま事件に関して、過去の事件と何か関連性はないかとティス・カマーラ(eb7898)と、田原 太一(eb8436)は三人で事件の関連書類をもう一度洗いなおす事にする。
「被害を受けた人たちって、らんまに狙われて被害を受けてからすぐに別件でつかまっているんですね?」
「そうだな。かといって、証拠もなしに今回狙われた骨董品屋を疑う訳にもいかんのだ。頭の痛いところだよ」
「お店の評判とか、どうなんです?」
 ティスの質問にアーケチは眉をいそめながら「そもそも骨董品なんかは多少金持ちの道楽みたいなものだからな、後は、どうしても金が工面できなくて仕方なしに売りに来る客くらいなものだし」と頭を軽くおさえる。
「お金に困って仕方なく‥‥?」
 ティスと太一の二人はふと、顔を見合わせる。

「これで全部ですねー?」ミストラルが店主に確認を取ると、アーケチたちを呼び戻し倉庫の出入り口付近を閉鎖させた。
「ところで、真贋はっきりしたんですか?」
「‥‥んー、ちょっと気になったのは絵画のほとんどが、変な絵の具なのよねえ」
 ありすの鑑定に確信がない事は全員が承知している。が、あえて彼女が感じた事に解決の糸口が見付かるかもしれない事に、皆は期待するしかない。
「ごくごく少数なんだけど、天界で使われている絵の具で描かれたものがある、と言った方が早いかしら」
「もしかしたら、天界から美術品が流出してきてるって事なのかも」ありすの推理に太一も頷いた。
 そんな中、ティスが思い出したように呟く。
「そういえば、全部はしまい切れなかったんだね」
「あの量じゃね」
「残された品には価値がないって事でしょうか?」
 皮肉まじりに古ぼけた掛け時計などを見回す太一たち。だが、残されたものに、何か引っかかりを覚えたのはティスだった。

 アーケチによると予告状通り、今夜現れるのは間違いないという。
 夜も更け、その闇を切り裂く様に空を翔けるリトルフライから街を見下ろすティスは、ふとアーケチの言葉を思い出していた。
「お店に残されたものって、お金に困った人が売ったものなんだろうな」
 ――ガカッ!
 ほんの一瞬の事だった。店とは全く関係のない場所から爆光がふたつ、同時に輝くのを見つける。爆発音はたいして大きくはないが、地上にいる太一にも聞こえるほどだった。
「な、本命はこっちじゃなかったのですか?」
「わ、わからないけど陽動かも知れない!」
 言い合っている間にも、次々と爆光は広がりを見せる。爆発の規模はほとんどが一瞬のもので破壊力のあるものではなく、どちらかというと閃光弾に近い光である。
「僕は光の方を見てくる、アケーチさんたちに連絡を!」リトルフライをぐぐっ、と旋回させるとティスは閃光の先を見つめた。
 連続で点滅するように次から次へと炸裂する光は、いつしか遥か港までも続いていた。まるで誘導灯、滑走路の灯りにも見えた。
「きっと意味があるんだ、この光の先に絶対何かがある!」

 太一は急いでアーケチやありすの待つ店の中に飛び込んだ。
「ティスが何かを見つけた、外で何かあったみたいです!」
「何ですって? 狙いはここじゃなかったの!」
「待て、これは陽動かも知れない。倉庫の方を見てくる。二人も一緒に来てくれ」
 三人が移動しようとしたその瞬間、今度は倉庫の方から大きな物音がする。
「嘘、何、正面から堂々と来る訳!?」
 待ち伏せしていたミストレスも驚くほどのあからさまな正面突破だった。唯一の出入り口となる正面から、扉に打ち付けた木板を物凄い勢いで外されるような音だ。もしかすると、破壊しているのかも知れないが、内側からでは全く様子がわからない。
 だがこれだけの物音だ、待機しているメンバーたちも気付いている筈だ。今は信じて耐えるしかなかった。

 駆けつけたアーケチたちはその扉を見て、愕然とする。完全に閉鎖したはずの扉の木板が綺麗さっぱり剥がされているのだから。
「どういう‥‥こっちが本命?」
 勢いよく倉庫になだれこむ三人。
 だが。
「あ、あれー? どうしてアケーチさんたちが?」
 拍子抜けしたミストレスの表情に、三人も思わず見合ってしまった。すぐに辺りを見回すが、倉庫に格納されたものはまったく変化なしである。
「まさか、既に誰かに変装してるって事はないでしょうね?」
 ありすがはっとなって意識を集中させようとしたと同時に、今度は開け放たれていた扉が勢いよく閉まってしまった!
 思わず駆け寄って扉を開こうとするがびくともしない。
「しまった! 閉じ込められた!」
「どいて、扉を壊す!」
 太一は渾身の力を込めて扉に突進するが、貴重品を扱う古物商の倉庫の扉である。簡単に壊れてはくれない。
「見事に引っかかってくれちゃったんだね」
 分厚い扉の向こうから、確かに声が聞こえた。
「らんま? らんまなのか!」アーケチが声を荒げると、短い笑い声と共に返事が返ってきた。
「闇に咲く、一輪の希望。悪を絶つ、刃の切っ先。快刀乱麻を断つ乙女! 美少女風水怪盗、怪盗らんま! って今回は姿を見せられないけどね。それとも、見たい?」
「ふざけるな! 今度という今度は、絶対に!」
「そうよ、この美少女歴史学者探偵ありすが、あなたを捕まえてみせる!!」
 ありすたちの叫びに、しかたないなぁ、と言いながら扉の鍵を一瞬で破壊するとそのまま扉を爆砕した!
 重い扉はそのまま倉庫の物品を巻き込みながら倉庫の半ばまで吹き飛んでいった。
「なんて奴だ!」冷や汗まじりで肩膝をついたアーケチに向かって、ひとすじの影がのびる。
「いい線いってたんだけどね、今回もわたしの勝ち、かな」
「どうしてこんな事を! 何で、こういうやり方に拘るんです? あなたのやっている事は、いえ、信念は正しいかもしれない。だけど罪は罪なのよ!」ミストレスの問いに、影は静かに答える。

「正義っていうのはね、ひとつだけじゃないんだよ。それがヒント」

 逆光のせいで、はっきりと姿がみえないが確実に影の正体はらんまだった。
「そういうのは、正しいことをしてから言うものよ!」太一とありすは息を合わせて同時に攻撃を仕掛ける! 更にミストレスの追撃の刃光が連なっていく!
「やったか?」三人はごくりと息を飲む。だが、いつの間にか影は消えうせていた。
 代わりに、一枚のカードが三人の足元に置かれていた。
『今夜も快刀乱麻を断たせていただきました 美少女風水怪盗らんま!』
「な、なんだと‥‥何も奪われてないぞ!?」辺りを見回したアーケチはひとつも触れられていない骨董品に目を配ると、扉で吹き飛ばされ押し潰された絵画十数枚と砕け散った壷数品を見て、軽く舌打ちする。
「まさか、ティスの方が本命だったんじゃ」
「三人は彼の向かった場所に急行してくれ、私はここからはなれる訳にいかない」アーケチを残したまま、ティスの向かった場所へと向かう三人。

 ――夜が明け、全てが明らかになった。
 ティスが向かった先は海岸線に位置する港の倉庫だった。沿岸警備隊と協力して向かったその倉庫内には大量の『同じ絵』が発見された。
 ありすが言った通り、アトランティスでは使われていない塗料が使われている精巧な偽造品であり、天界で描かれたという美術家の作品だった。他にも同様にまったくそっくりそのままの同じ美術品がストックされている事が判明する。
 これは後で判明した事だが、これら全てはあの古物商の所有する別倉庫だったらしい。天界からの美術品となれば希少性は高く、道楽が高値ででも欲しがる。それを狙った悪質な偽造品販売を秘密裏に行っていたというのだ。
 当然、この古物商店主は即日、捕らえられた。
 そして、これも後日わかった事なのだが、らんまに盗まれたものは倉庫内にあったものではなく、店内に残された骨董品としてはほとんど価値のないものばかりだったらしい。しかし警備する対象として除外されていたため、盗品としては扱われない事となった。
「まんまと逃げられるわ、引っ掻き回されるわで大変だったですねー。私たちの力が及ばずすみませんでしたアケーチさん」
「いや、だが例の古物商が悪質な偽造品で逮捕できたのは君たちがあの倉庫を見つけてくれたからだ。感謝するよ」
「うー、結局僕だけらんまの事、見られなかったのかー。ねぇねぇ、どうだった? かわいかった?」
「逆光で姿は見えなかったわよ」ちょっぴり残念そうなティスを慰めるように正体を暴けなかった三人は困ったような笑顔を見せる。
「盗まれたものって、お店に残っていたものだったんですか」
「ああ、警備対象から見事に外された文字通り残り物だった」
「価値、かぁ。僕はあんまりよくわかんないけど、もしかしたら、らんまって最初からあの古ぼけた物品を狙っていたんじゃないかな?」
 ティスの言葉に、皆は思わず納得の表情をうかべてしまった。
「こほん、今回は怪盗らんまには逃げられてしまったが盗品の被害もなかった、被害がなかったという事は、今回の依頼は成功という事になるな。ありがとう、君たちには感謝しているよ。だが、最後にひとつだけいいかな」
 アーケチがこほんと咳払いすると、一言。
「私は『アーケチ』だ、アケーチではない。以上、解散!」