白馬に乗ったお嬢様――辺境遊撃隊
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月04日〜05月09日
リプレイ公開日:2007年05月05日
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●オープニング
●白馬に乗ったお嬢様――辺境遊撃隊
新造強襲揚陸艦、ペガサス級三番艦『ホワイトホース』が遂に完成した。
なお、『八八艦隊計画』によると、このホワイトホースを含むペガサス級四艦にエルタワ級輸送艦四艦を以て八艦の大艦隊戦を想定しているらしい。
艦長には、19歳の若き女性艦長を起用し、新造艦とのイメージもあり若々しさをアピールしたフレッシュな構成となっている。
【ホワイトホース艦長】
ラピス・ジュリエッタ 19歳。元ゴーレムのテストパイロット経験者で、貴族出身の超おてんばお嬢様。
数々の異名を持つ彼女の新しいあだ名は、新造艦ホワイトホースになぞらえて『白馬のお嬢様』。
なお――このホワイトホース。
公表されているスペックとは若干仕様が異なり現時点でモナルコス(後期型)を三騎搭載してあるのだが、肝心のパイロットの選出が遅れてしまい、結果的に正式パイロットが決定するまでの間、各作戦ごとに人員(兵力)補強をする際冒険者ギルドサイドから募集する事に仮決定した。
これは試験運用にあてられたものであり、比較的自由に鎧騎士を搭乗させる事の出来るチャンスを多く与えようという一部の思惑もあったようだ。
半ば実験航海という趣も感じられるホワイトホース隊。
そういう意味では、この艦にはいくつかの試験的な運用を兼ねた作戦が与えられる事になっている。
●白馬、出撃せり!
本来は『八八艦隊計画』の本隊へと帰属する事になっているホワイトホース、通称『白馬』。
ところが、計画とは別に度々、無関係な作戦を押し付けられてしまう事もある。
彼女たちは折角の最新鋭のフロートシップを持て余すような作戦ばかりが巡ってきてしまい、僚艦からは『辺境遊撃隊』などと揶揄されたりする事も‥‥。結果的に現時点での彼女たちの任務は別働隊任務に終始してしまう事になる。
だがそれも、『八八艦隊計画』が本格的に稼動するまでの辛抱、といったところだろうか。
しかし、この「遊撃隊」というスタンスこそがホワイトホースにとって比較的自由な作戦が可能になっているメリットもある。とても『身軽』なのだ。
さて、ここからが本題。今回の作戦だが――。
●メイの空に異変が?
それは突然の事だった。
目撃情報こそ少なかったが、それは確実に空を渡っていった。
ある者はそれを『黒い怪鳥』と呼び、ある者は『空飛ぶ恐獣』と呼んだ。
――果たしてその実体は。
セルナー領海の上空をシーハリオンの丘側に飛び去った三機のゴーレムグライダーらしき機影を、偶然海上で漁をしていた漁船の乗組員とセルナー北部に暮らす村人が目撃した。
寄せられた情報によると、その三機は一面真っ黒な機体で、メイで作られていた『それ』とはまったく違ったシルエットであったという。
その為、一部では新型ゴーレムグライダーを秘密裏に開発しているのでは? という噂も出たが、メイの国ではそのような公式発表はされていない。
――であれば、もしかすると――敵国の最新鋭機?
そんな噂も飛び出してくる。
一体、謎の怪鳥の正体は何なのか?
新種の鳥類の可能性もあるし、飛行恐獣の可能性だって、完全に否定する事はできない。
渡り鳥の群れの編隊を見間違えただけ、という可能性だってある。
また、隣国での不穏な動きからゴーレムグライダーの可能性も、やはり否定する事はできない。
目撃情報が少なかった事が、混乱と波紋を呼んでしまったこの謎の怪鳥目撃事件。
ところが、事件は意外な方向へと進んでいく。
●ながされて、木片。
怪鳥目撃事件から数日後、セルナー領沿岸に例のゴーレムグライダーのものと思われる木片が流れ着いたというのだ。
ゴーレムグライダーの基本的な骨格は木製である。
天界において、過去の『ヒコウキ』というのは胴体も翼も木製で、それに鉄製のエンジンを載せて飛んでいたらしい。
よくまあそんなバランスの悪そうな組み合わせで飛べるものだと思うが、それにはやはり理由があった。
必要な推進力が得られれば、あとは「浮くしくみ」を与えてやればいいという訳だ。
それがいわゆる『コウクウリキガク』、空力と呼ばれるものだった。
残念ながらメイの国にはこの肝心の空力という学問や知識が、情報としてある程度伝えられているものの、正確に技術として確立されておらずコピーが困難であるという現状があった。
結果的に人型ゴーレムの生産の過熱化などによって自国生産を見送られている状態である。
戦争に「もしも」などという言葉は無意味ではあるが、もし仮にメイが空力技術をものにしていたらその国力と独自の生産ルートによって今よりも有用に活用されていたかも知れない。
もちろん、飛べるだけの代物にそれ以上の価値があるかどうか? という部分や武装や連続稼動時間、また諸々の制限など、クリアすべき課題は数々残されており、結果的に見れば、今と現状はさほど変わらなかったかも知れない。
だが、その目的を限定化することで明確にして、有用性を高めたとしたら?
それが他国、ここでは敢えて隣国であり『敵国』であるバの国と『仮定』しよう。
それが彼らの新たなるスタンダードであるとしたら? なり得るとしたら?
メイでは後回しにされてきた感のあるグライダー技術を逆手に取って、空からの奇襲が可能になったとしたら?
すべては『仮説』でしかないが、どちらにせよ、ゴーレムグライダーと思われる機体の破片が、セルナー領に流れ着いた。本物かどうかは現時点では不明だ。
しかし、今回はこれをすべて回収し持ち帰る事が任務である。
可能であればそれを解析し、完全でなくとも、最低おおまかなシルエットだけでも復元できればと思うが、上記の通りすべてを解析する事は現状かなり難しい。形だけでも判別できるようであれば、という淡い期待が込められているに過ぎなかった。
ともかく、流れ着いた木片をすべて回収せよ!
そして、これがもし他国のものであると判別されれば、領空侵犯された、という可能性も否定できない。
その証拠を揃えることが今回の最大の目的である!
●リプレイ本文
●海の事は漁師に聞け!
「それじゃあ、今回の作戦を説明するわ」
ブリーフィングルームに集められた冒険者たちは艦長から今回の任務について各員から提案されたアイディアの選種取得をまとめあげる。
フロートシップ班とゴーレム班に分かれて作業を行うのだが、今回は更に、セルナー領主及び漁業連合組合、つまりフィッシャーマンズギルド(漁師ギルド)の全面協力を得ることが出来た。
浜辺に打ち上げられたものだけでなく、白馬隊が到着するまでの間に漁などで引き揚げられた部品や断片と思われるものを保管しておいてもらえたのだった。
また、今回の任務で副産物的に回収された魚介類はギルドの収入として提供する事でホワイトホースからの作業人員を大幅に上回る、大規模な回収作戦が実現する運びとなった。
冒険者からすると頼もしい限りだが、結局のところ漁師にしてみればゴミ拾いに突き合わされている訳だからあまり良い顔はしない。
漁師は魚を捕るのが仕事であって、ゴミ拾いをする職業ではないのだ。
それはともかく、フロートシップ班だがこれは海上探査が主な仕事となる。墜落地点を出来るだけ早く確定させ、沈没していればそれを回収可能であれば回収。その他大型の破片などがあればそれを回収する事だ。
そしてゴーレム班は海岸での実作業と、人員交代の時間を見計らっての周辺情報調査が主となる。
「ちゃっちゃと回収して、さっさと組み立てましょうね! 以上、各自解散ッ」
●お約束もあります。
アルミラ・ラフォーレイ(eb7854)の提案していた周辺調査にゴーレムグライダーを使用する案だが、残念ながらこれは無理だった。
というのも、ゴーレムグライダーというのはメイの国では現状ほとんど『役立たず』の代物と化している。一部で利用されているものの、旧式のグライダーを寿命がくるまで騙し騙し使っている程度の状況である。
機体そのものもだが、問題はメイの国ではそれを充分に使いこなせるスキルを持つ者が少ないのも原因の一端となっていた。
よってゴーレムグライダー自体を搭載する事は可能でも、今回の作戦において募集した鎧騎士が全員グライダーを扱いきれる技術を持ち合わせているかどうかを条件付けした場合、『比較的自由に鎧騎士を搭乗させる事の出来るチャンスを多く与える』という前提を自ら狭めてしまう可能性があった。
そういう理由から、グライダーでの調査は今回見送られたという訳だ。
また、エルシード・カペアドール(eb4395)の提案、水魔法の使い手を王宮から借り受けられないか、というものだが、これも実は難しかった。
卓越した能力を持つ技術者を出来るだけ提供してもらいたいところではあるが、今回の作戦はホワイトホースの実力を探る実験航海でもある。
もちろんエルシードやアルミラの全ての提案が却下された訳では無い。先のように今回は漁師たちの全面協力を得る事が出来たし、地上からも海面からも、さらにホワイトホースを使って海上からの調査や回収を行う事も可能になった。
いくら最新鋭の戦艦だって、一隻で出来る事は限られている。そういう意味からすると今回は数の勝負でもあった。
まさしく文字通りの人海戦術だ!
もう一つ今回一つだけ重要な事がある。
漁師や目撃者などの協力者に対して『他国の兵器やモンスターである可能性』を名言する事を避ける事だ。
一般的に見て、不安感を煽る必要はないという判断と、隠蔽するという意味ではなく、確定していない情報を確定情報のように扱うのは非常に危険性が高い為だ。不確定情報を与えて、誤解されるような事は避けたいところである。
●調査は地味でも大事かも?
「ところで‥‥ラピスさん」
「何かしら? キムラ」
木村 美月(ec1847)は以前ラピスと共に交渉依頼に参加した事がある冒険者だった。木村の記憶では、行きはともかく帰りはとんでもない惨状が馬車内で繰り広げられていたものだが、今回はというと。
隣で見ていたフラガ・ラック(eb4532)も艦長の重度の乗り物酔い体質を気にかけていたが、噂以上の激しい『自主規制』により危なくつられてしまいそうな勢いである。
「だ、大丈夫よ‥‥ははは。何せ船とはいえゴーレム。ゴーレムだと思えば――」
言いながら頬を膨らませている。
「この先こんな状態でやっていけるのでしょうか」
木村もフラガも、頼りなさげなラピスを見ながらも、最新鋭の戦艦の安定感にやや興奮していた。乗ってみればすぐにわかる。
フロートシップであるこの船に『快適さ』は必要ないのだろうが、思った以上に快適なのである。キッチンもあればシャワーやトイレまで簡易式とはいえ用意されているのだ。つまり、それらを装備できるほどの大きさがあるともいえる。
「ところで、艦長。このフロートシップ、どの位の速度が出るんですか? 普通の船より「早い」でしょう」
フラガの質問に対して、ラピスは気を取り直して深呼吸をする。
「速度? 通常航行では70キロほど。最大戦速は約100キロほどかしらね。まだ慣らし運転の期間だからそんなに速度は出せないわね。全開で動かすにはもう少し安定させないとならないと思うわ」
ラピスはさらっと答えたが、実はかなりの性能だ。これだけの規模の船がゴーレムグライダーと直線距離で勝るとも劣らない速度で航行可能なのである。当然小回りはきかないが、それにしてもフロートシップの性能はゴーレム特有の鈍足、鈍重のイメージを感じさせない高性能さを誇っているものだ。
いや、どちらかというと、この船が特殊なのかも知れない。
或いは、技術が日進月歩で向上するメイの国にあって、最新鋭のゴーレム製造技術というのはここまで進化したといえるだろうか。
「それに、そんなに速度出してたって、破片を見逃してしまっては意味がないわ。ここは慎重にいかないとね」
木村とフラガの二人にウィンクしてみせると、ラピスは艦長らしく号令をかける。
「微速前進、海上の船と連携して捜索するわよ!」
「アイ・ショーティ! 微速前進」
副艦長が号令に答え、全クルーに指示が伝えられた。
「あ、それでねキムラ。お願いがあるんだけど‥‥」
「私に出来る事があるなら、お手伝いしますよ」
「ありがとう、後でいいから、少しだけマッサージしてもらえないかし――」
また少しだけ頬が膨らんだ。
●ドッグファイトの顛末?
一方ゴーレム班はセルナー領中央から西に400キロほど移動した奥まった場所にある海岸で漁師たちと共同作業をはじめていた。
三騎の搭乗者は一番騎にハルナック・キシュディア(eb4189)二番騎に龍堂光太(eb4257)三番騎にジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が搭乗する事となり、『ゴーレム漁』を漁師たちに見せつける事となった。
一騎でも相当のパワーを発揮するモナルコスが三騎も作業をこなしているのだ。大袈裟でも何でもなく、まさしく百人力といった風でどんどん網を引いていく。その度、魚に貝にとどんどんと引き揚げられていくのだから漁師たちは複雑な面持ちであった。
捕れた魚は漁師たちに配分されるが、その肝心な作業をゴーレムに取られてしまっているのだから、喜ばしい反面、内心脅威も感じていた。
――いずれはこんな巨大な兵器がメイだけでなくアトランティス全土を蹂躙する世界が待ち受けているのだ。
今はまだ生産量も足踏み状態だが、量産技術が確立されコストも量産スパンも軽減されれば爆発的に増殖するであろう、この巨大兵器に一般民である彼らの目にはどう映っているのだろうか?
ちなみにこの海岸、東西に広がっているセルナー領では珍しく南北にのびる形状の海岸を有していた。こういう形状の海岸はセルナー領では大きく二つあり、一つはセルナー中央、もうひとつがセルナー西のこの海岸となっている。
この海岸の南側には国境を挟んで、かの有名な『シーハリオンの丘』がある。有名といっても、観光地などではなく、その影響が強い場所ともされていた。
さて、更に得られた目撃情報を整理しよう。
今回、新たに得られた情報の中に、非常に貴重な情報が加えられた。
三機のゴーレムグライダーらしき機影は、綺麗に編隊を組んで飛んでいた訳ではなく、どちらかというと交戦しているようにも見えたのだという。
状況的には、『墜落』したのではなく『撃墜』されたらしいのである!
どこの国の所属か不明ではあるが、メイの領海内で戦闘が行われ、さらに撃墜されたゴーレムグライダーの破片がセルナーに流れ着いたという事である。
エルシードやアルミラ、それにシルビア・オルテーンシア(eb8174)も加わって聞き込み調査は更に進められたが、やはり目撃者のほとんどは姿が黒かった事を証言した。そして、また、その特徴として複翼を持っていた事も判明した。
複翼機――。メイの国では想像もつかないかも知れないが、天界には過去、複翼機という飛行機が存在した。いわゆる『複葉機』の事で、文字通り主翼が二枚以上あるものを指す。
エンジンパワーの足りなかった時代の産物で、当時は飛行するのに十分な速度を得ることができなかったらしい。
そのため機体を飛ばすには翼面積を大きくする必要があったが、当時の翼は布張り木製の構造で強度がなかった為、翼を上下に配置する複葉が使われたという。
つまり現在におけるゴーレムグライダーの強度問題などを照らし合わせてみると非常に近しい存在であった。
しかし。
『コウクウリキガク』の再現が難しいメイの国ではこの問題が例えクリア出来たとしても量産されるとは思えないが、ゴーレム技術を提供したウィルでは搭乗者のスキルが充実してきているという実情があるにしても、既に単葉機として成立しているゴーレムグライダーをわざわざ複葉機にデチューンする必要性があったのだろうか?
つまり、『撃墜』された可能性のあるグライダーは少なくとも、ウィル製のものではない、ともいえた。
ハルナック、龍堂、ジャクリーンら初回に搭乗した面々はそれぞれエルシード、アルミラ、シルビアと交代して情報の整理を急いでいた。
情報をまとめながら、ハルナックはグライダーでの戦闘を何度も経験している鎧騎士としての悲哀を感じずにはいられなかった。
どんなに技術が進歩しても、やはりゴーレムグライダーは諸刃の剣である事を戦いの度にその身に刻み付けられるのだから。
冒険者として、生と死は紙一重と覚悟はしていてもわざわざ『空飛ぶ棺桶』に好き好んで乗りたいとは思えないからだ。
ゴーレムグライダーの利用価値が無いと断言はしない。
だが、結局のところは使い方次第だし、更に言えばそれを乗りこなせない限りは無用の長物と成り果てるのみである。
それだけ扱いの難しい機体なのだ。その点において人型ゴーレムというのは――特に、今回割り当てられたモナルコスというゴーレムは――非常に『死ににくい』ゴーレムだった。
「グライダーに関しては、個としての戦闘力の向上より、操縦者の死ににくさを重視して開発して欲しいですね」
先ほどまで乗り込んでいたモナルコスを振り返るように見上げながら、鎧騎士として、最も単純で最も尊い、命を預ける為の『安心感』を望むハルナック。
だが、そうは言ってもゴーレムは今のところ、『武具』である。戦争兵器として生産し続けられている以上、安全性能などはむしろ後回しにされても仕方ない現状である。
今回の作戦では調査に使われているし、先日は非常に珍しいケースではあったが民間転用試験として動いている姿を一般公開した事もある。必ずしも『人殺し』の為に使われるばかりという訳ではない。
しかし、これらの用途はメイの国においてはマイノリティな事である事を付け加えておく。今後、ゴーレム機器が充実してくれば白馬隊のように純粋に戦闘する以外の用途にも利用されるだろうが、今は予断を許さない状況である。
そんな動く棺桶とも揶揄されるゴーレム機器にも技術の進歩は見られる。特に現在のメイはとてもその傾向が強い。ゴーレム先進国にも劣らないトライアルアンドエラーの積み重ねは反面、搭乗者のスキルを追い越そうとまでしている。
ゴーレムとパイロットの能力差が逆転しつつあるという事である。
だが、グライダーはその能力差が逆転する事がほとんど無いと言っていい。
不思議な事だが、実際そうなのだから仕方が無い。パイロットの能力が全てのグライダーとパイロット以上の能力を発揮する人型ゴーレムの差は開く一方だ。
●異形の欠片(かけら)
ゴーレム班の作業が着々と進む一方、フロートシップ班にも動きがあった。
どうやら、機体の本体部分と見られる『胴体』が発見されたのだ。
「まだ他の国と思われる船やグライダーが回収に来た形跡は見られませんね」
フラガと木村は甲板から海上を見下ろすようにして覗き込んでいた。
「墜落したグライダーのパイロットは生存しているのでしょうか?」
「そうそう、その事なんだけど‥‥」
フラガの疑問に答えたのは艦長であるラピスだった。
「海難事故の報告がない場所で遭難していた人を発見したという報告を受けたの。救助地点はグライダーの墜落地点とは少し離れていたんだけど、もしかしたら目撃、あるいは関係者かも知れないからって海上騎士団で保護したそうよ。セルナーの病院に運ばれたって」
「その人に面会はできますか?」
「ごめんなさい、今は無理みたい。私も事情聴取したいって言ったんだけど、なんとかっていう官憲に止められてしまったわ」
「地上に上がれば官憲の仕事、って事ですか」
「そういう事。破片を持ち帰って、復元可能なら復元したいって上は思ってるみたいだけど、復元するより事情を知ってる人に聞いた方が早いのにねぇ‥‥」
ラピスは嘆息しながら木村の質問にうな垂れるように答える。
真っ黒く塗られた胴体がフロートシップによって引き揚げられた。
だが――その形状は、一目ではゴーレムグライダーとは思えない異様な姿をしていた。
少なくとも、ウィルで開発されメイにも伝えられている『それ』とは大きく異なる事だけは確実である。それに、見るからに激しい戦闘を感じさせる傷跡が刻まれていた。
「‥‥これは、つまり、撃墜されたと思って間違いないわね」
頭の痛い話だが、深い傷跡を刻み付けられた胴体を目の当たりにしては他に言う言葉も見付からない。
一気に緊迫する白馬隊の面々。
実質三日ほどの調査及び回収作業を終え、何とか破片の六割から七割ほどを回収した冒険者たち。
ホワイトホースと合流した後、様々な情報を整理し報告したものの、肝心のグライダーのパイロットへの接触やこれからの復元作業は難航しそうである。
ところが後日、このゴーレムグライダー墜落事件は姿を変えて新たに浮上する事になるのだった。