巨大滝の裏に謎の生物を見た!
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月15日〜05月20日
リプレイ公開日:2007年05月17日
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●オープニング
●巨大滝の裏に謎の生物を見た!
山と森に囲まれた小さな村に異変が起こったのはここ二年ほど前からである。
急激に魔物による被害が多発し、その原因がわからないまま村は窮地に立たされた。
村人たちは正体不明の怪物にただただ恐れおののくばかり。勇気ある村人数人が被害を食い止めようと魔物を追ったが、結局その足取りを追うことが出来なかった。
そしてつい先日の事、襲われた村人の子供だった少年たちが魔物の居場所を偶然にも発見したのだった。
村から十数キロ離れた更に山奥に、比較的大きな滝がある。そして、その滝の裏側に偶然洞窟を発見したのである!
最初は遊びのついでに探検ごっこでもしようと潜入したのだが、非常に暗く、足元もかなりごつごつしていて歩きにくい。
またたいまつの火も頼りなく、引き返さざるを得なくなってしまった。
軽い気持ちで洞窟に入ったはいいが、途中で中にいる怪物に少年たちは襲われてしまう!
必死の思いで逃げてきたが、逃げ遅れたのか怪物に殺されたのか五人いた少年達は滝の入り口まで来た時には三人になっていた。
残り二人は‥‥。
泣きながら帰ってきた少年達、そこで初めて事情を知った大人たちは急遽洞窟に突入することを提案したが、あまりにも危険すぎる為、冒険者たちの協力を要請した。
●自然の迷宮、その奥に潜む謎の巨大生物は実在した!!
少年達は怯えきっていたが、何とか洞窟の状況をいくつか取得出来たので整理してみよう。
【洞窟の様子】
洞窟は村から北へ約十三キロほど行った場所で、川と滝がある。その真裏に自然に出来たと思われる鍾乳洞のような洞窟があった。
入り口は一つで、かなり暗く、コケの臭いかジメジメした感じで気持ち悪かったらしい。
足場は悪く、歩きにくいのと足元が滑りやすかった。
ゆるいS字カーブの一本道を直線距離にして約三十メートルほど進んだ場所に少し開けた場所がある。そこだけ一段低くなっていて、楕円形の水溜りがいくつか確認する事が出来た。
その先に三つの穴があり、更に先に進めそうな感じがしたという。
少年らはそこから先に進むことも検討していたが、この開けた場所で暗闇に紛れて怪物が襲ってきたらしいのだ。
【怪物の特徴】
キーキーという奇声を発しながら鳥のような羽ばたきが聞こえたらしい。天井はそこだけ高かったが、天井にびっしりと真っ黒い何かが何百と蠢いていたように見えたという。
更に一際大きいヘビのようなムカデのような体の長い怪物が二匹か三匹くらい、気持ち悪いガサガサという音を立てて迫ってきたらしい。それらが一斉に襲ってきたとの事。
余りの怖さの為、はっきりとした姿は覚えていないらしい。
三人は何とか戻ってくる事は出来たが、残り二人は結局それから二日経っても帰ってこない。
絶望的な状況の中、謎の巨大生物の真実と少年救出をかけた洞窟調査隊が結成された!
今回の任務は、滝の裏の洞窟の調査及び、要救助者の少年二名の救出及び、危険生物の排除である。
洞窟を直進した後に広がっているという場所から三つの穴のどれかに引き摺り込まれた可能性もあり、少年救出を優先するが魔物を退治する事で今後の村の影響も緩和される事を考慮し、それらを排除する事も冒険者たちに課せられた任務とする。
今回は三チームに分かれて行動してもらう事になりそうだが、あまり派手な魔法やスキルは洞窟を破壊してしまう恐れもあり注意してもらいたい。
次いで、犬や猫などの比較的体の小さいペットはまだしも、馬などの大型のペットは洞窟調査に適していないと思われる。共に行動する際は滝の入り口で待機してもらうなりして、対処してもらいたい。
また、犬などを使って臭いを追わせる方法は難しいのではないかと見られている。理由は洞窟の中が怪物のものなのか洞窟本来のものなのか、かなり悪臭に満ちていたらしい。
これは少年らの情報であり、本当に難しいかどうかは直接現地で確かめるしか術は無いようだ。
●リプレイ本文
●違和感――。
村に到着して、村の代表である村長と逃げ帰ってきた子供たちに事情を聞き始めて、冒険者たちはあからさまな違和感を覚える。
どうやら村の被害を与えている魔物と、子供たちの襲われた怪物とは別物のようだったからだ。
依頼内容からすると、同一であると思われていた村を襲う魔物は洞窟のそれとは違うようである。しかし、今回の任務は人命優先。
洞窟内から逃げ遅れたと思われた少年二名の救出である。
「逃げ遅れたという子供達のお名前を伺っておきますわ。洞窟の中で呼びかけて反応があればすぐに急行できますし」
ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)は確認事項として洞窟の情報だけでなく、子供達の特徴や名前などのチェックをする。
「ご安心を。子供達は必ず私達で救出しますわ」
また、月下部 有里(eb4494)は村の被害状況を探っていた。
彼女の得た情報は今回、直接洞窟調査との関連性を持たなかったが、元々はこの村をたびたび襲う魔物の被害から来たものだ。無視するわけにもいかないだろう。
気になった部分といえば、魔物は深夜村に降りてきて、人の生き血を啜るというものだ。アトランティスに『吸血鬼』という存在は稀な存在だが、能力として『血を吸う』怪物はいくつか存在する。
大量に血液を吸い取られ干からびて死んでいる村人が発見されたのが二年前。それから時期は問わず、死亡する村人は減少したが、それでも朝になると瀕死の村人が発見されるという事例は絶えなかった。
問題は毎夜現れるという訳ではないという事。そして一度吸血された村人が発見されるとしばらく被害が出ないというものだ。
「子供たちの怪物情報とは違うわね」
なお、最初の事件が起こる前後で何かしらの変化が村にあったかどうかは確認できなかった。
●ダンジョン&レスキュー!
ティス・カマーラ(eb7898)の提案によって、事前情報のあった洞窟深部から三つに分かれる穴への突入班が決定した。
正面から左側を第一班のアレス・メルリード(ea0454)と月下部、ジャクリーンの三名。
真中を第二班のランディ・マクファーレン(ea1702)、アシュレー・ウォルサム(ea0244)、そしてエル・カルデア(eb8542)の三名。
最後の右側を山野田吾作(ea2019)とティス、そして今回天界から落ちてきてはじめての依頼となったヴェルジェイク・バックゴースト(ec2575)の三名が固める事となった。
各班ともに丁度三人ずつという事でバランスのよい配置となったが、ヴェルジェイクは何をするにも初めての経験という事もあり、かなり緊張した様子だった。それでも、月下部という天界人の『先輩』がいた事で大分気が楽になったようだが。
洞窟入り口付近の滝は非常に綺麗な場所で、水も清んでおり、貴重な水を確保するのにも最適な場所である。
ランディは、ペットの妖精に滝の周りに群生している樹木に問いかけをするよう指示をするものの、答えは『いなかった』という事らしかった。もちろん、人間がこの滝の近くを通りかかる事はたまにある事らしく、正確にそれらの行動を覚えているかといわれれば記憶力の高い人間でも難しいところではある。
手回し発電ライトという天界からの照明器具は、従来のたいまつやランタンといった照明器具とは全く違う、異様なほど高性能なアイテムである。今回はそれを使用しての探索となるのだが、その強烈な光は洞窟の中をかなり正確な部分まで映し出していた。
たいまつやランタンなどの発光では足りないところだが、これならある程度の奥も見通すことが出来た。
「この先が広場になっているようです。子供たちが襲われたポイントでもあるから充分注意しましょう」
エルは慎重に歩きながらも全員に声をかける。
岩場のせいだけでなく、湿った空気とまとわりつくような嫌な『臭い』が平衡感覚を着実に麻痺させていく。
だが――。
この臭い、ある程度の冒険者なら一度は覚えのあるものだった。
「アシュレー」
「‥‥あ、ああ。子供達が本当に無事ならいいけどね」
ランディとアシュレーは目配せしながらの会話をする。
(間違いない。――死臭だ――)
●ショートコゥズ・アンド・バッドリザルト
広場まで到達した冒険者たち。少年達の証言通りの水溜りのような部分がいくつか見受けられる。
「天井は、と‥‥うっ!」
ライトとランタン、たいまつの炎で照らし出された天井には、あり得ない光景が映し出された。
ティスはあまりの凄惨な光景に思わず声を失ってしまう。つられて見上げたヴェルジェイクも、一瞬何かわからなかったが、それが『何か』理解した瞬間、胸から喉元までこみ上げてくるものを堪えられずにもどしてしまった。
「大丈夫、ヴェルジェイク?」
「いきなりこれはキツかったかも知れない‥‥」
月下部はヴェルジェイクとティスの方に寄り、落ち着かせようとした。が――。
「来るぞッ! アシュレー、いけるか?」
「任せて、あんたたちは足元に気をつけて防御態勢を!」
いきなり眩しい光をぶち当てられた、天井にいた『何か』は、それが人間である事を感知すると急降下して突っ込んできたのだ!
アシュレーは通路では射撃体勢もままならなかったが、広場でならいつもと変わらぬ動きで一連の動作を長年の体に染み込んだ指と腕の一挙一動のそれを一瞬でこなす。
落ちるように突っ込んできたそれは、翼を広げると全幅1メートルはゆうにありそうな吸血コウモリである!
「だけど、こっちのが速いんだよッ!!」
アシュレーの構えとコウモリの急降下速度の一騎打ちとなったこの一瞬の攻防は、アシュレーの勝利かと思われた。
しかし。
ほぼ同時に灯りの範囲外から灯りに引き寄せられるように、蠢くように『壁』が動く気配を感じたのは山野だった。
「むっ!? 殺気ッ!」
ちょうどティスとヴェルジェイク、そして月下部が後退した背後である!
壁が動いたのではない。壁から、這い出してきたのだ!
「きゃあ!?」
思わず悲鳴をあげる月下部。いち早く回復していたティスは、月下部とヴェルジェイクを庇うように雷を打ち込もうとするが、薄っすらと浮かび上がるそれが『一体ではない』事に愕然とする。
「こんなにいるの!」
狙いを定められないティスは一瞬、躊躇してしまう。
――その一瞬が、まるでスローモーションのように永遠を感じさせた。
脳天をぶち抜いた矢と共に巨大なコウモリがそのまま水溜りに落下して飛沫をあげると、その空間の揺れに反応した壁際のそれが一斉に動き出す!
「壁から離れろ!」
ランディが指示を出すと山野、そしてアレスの三人で即座に壁に当てられたライトに映った巨大なムカデに突っ込んでゆく。
天井を照らすジャクリーンとアシュレーは更に落下してくる巨大コウモリ二体に対応する為動けないでいた。
「左を照らして!」
「はいっ!」
足元の悪さや視界の悪さなど言い訳にできない。こういう時に真の力が出せないようでは冒険者とはいえないのだ。
「次、右ッ!」
優良視力と直感の高さで正確に敵影を映し出すジャクリーンとアシュレーのコンビネーションは天井からの刺客を次々と打ち落としていく。今は――天井にはりつけられたように吊るされた人間の死骸を――気にしている余裕は無かった。
●残酷な結末
広場での戦闘が一通り終了した後、冒険者全員は絶望に充ちた表情で天井を見上げるしか無かった。
「こんな‥‥酷い‥‥」
ジャクリーンとヴェルジェイクは何度も吐き気を覚えるが、何とかごまかすように自分を落ち着かせる事に専念する。
「村がこいつらに襲われたのかな?」
ティスは巨大な吸血コウモリの死骸と天井にはりつけられている人間の死骸を交互に見比べてみる。
「吸血といっても、方法は色々あるのよ。それに、村の被害状況とは少し状況が違うみたいね」
月下部はティスのリトルフライを使って下ろされた死体の様子を確認しながら、死亡時期を大まかに予想する。
おそらく死体の腐乱状況からみると吸血されたのが先かムカデの毒に犯されたのが先か、ともかく身元を確認出来るほど確実な状態では無かったのである。
天井に貼り付けられていた死体が腐臭となって洞窟内に充満していたのが原因で怪物が住み着いたという可能性もある。
人間がここを住み処としていた形跡はほとんど見られないが、人の手が一切加わっていない、という訳でもなさそうであったからだ。
探索された跡がいくつか見受けられた。
下ろされた死体は全部で六体。だが、その死体の中には子供の姿は見受けられない。
もしかすると、まだどこかに取り残されているかもしれない。だが、子供達の名前を何度呼んでも返事は返ってこないまま。
入り口通路から広場まではくまなく捜索したが子供の姿は確認できなかった。
そしてこの広場の天井にもいなかったとなると、残された道は三つに分かれた空洞。
この穴の先にいる可能性が高かった。
「しかしこの調子では、生存確率は低いかも知れない‥‥」
アレスは先の戦闘を楽にこなしたとは思っていなかった。
冒険者だからこそ咄嗟の判断や行動が出来るのであって、何も経験のない少年たちがこれだけの数の相手ができるとは思えなかったのだ。最悪のケースを想定しても、おかしくない状況である。
三班は各員万全の態勢を整えると、慎重に突入を開始した。
●最大の幸運
第一班のアレスと月下部、ジャクリーンの三名は左側の空洞内部に侵入してから、やや登り坂になっている事に気がついた。
他の穴はどうかは、まだ定時連絡まで間があるからわからないが、ともかく、段々と傾斜がきつくなって来ている。
だが、空気の流れる感覚はほとんどない。
呼吸を探るブレスセンサーも洞窟内では冒険者の呼吸も感じ取れてしまう為、やや判断がつきにくい。それにあまり微弱な呼吸だと感性を研ぎ澄ましていないと察知するのにも苦労する。
これは同じ探知系のバイブレーションセンサーも同様である。
更に真っ暗な洞窟を十数メートルのぼると、水の流れる少し開けた場所に出た。川の水が浸透して通り道になっているのだろうか。さっきのよどんだ水溜りとは違って、岩間でろ過された極上の水がゆっくりと流れ落ちていた。
三人は一端戻ろうと踵を返したところ、奥まった場所に何かの影を見付けた! またも魔物かと思われた、その姿は――。
ぐったりと横になって倒れている子供の姿を、灯りが映し出した。
第一発見者が月下部のいるチームであった事は最大の幸運だった。衰弱してはいるが、奇跡的に命に別状は無かった。
子供たちは襲われた時パニックを引き起こし、何とか逃げ延びようと穴の中に飛び込んだものの、この行き止まりまで辿り着き出口まで戻るに戻れない状況に陥ってしまったのだった。
幸いな事に広場にいた怪物たちはこちらまで追っては来ず、そして、水が確保された状態で数日間隔離されていた、という訳だ。
毒に冒されているという事もなく、怪我もたいしたものではないようだ。気絶していたので、無理には起こさず、広場にある死体を見せずに済んだ事も結果的には幸運といえた。適切な処置を施された少年たちは無事、村に帰還する事ができたのだった。
●村の悩みは解決したか?
少年らは無事保護され、村に帰還する事に成功した。
洞窟にあった死体も村に運び込まれたが、それらはどれも魔物討伐から帰らぬ村人たちのなれの果てだったらしい。
だが、問題の吸血コウモリは全て退治した。毒を持つムカデも殲滅した。
これで全てが解決したかに見えた。
――しかし。
月下部だけはどうしても納得する事ができなかったのである。
村をたびたび襲っているのは、洞窟で退治した怪物たちではないような気がしたのだ。
「こっちの世界は、私たちのいた世界とは生態系も随分違うものよ‥‥空想物語で登場する伝説の生き物だっている。私の常識じゃ追いつかない、想像を絶する魔物がいる。血を吸われた村人の状態を確認してみないとわからないけれど、これで村の危機が去ったというのは早計かも知れないわね」
だが、それを確認する手立ては何一つない。
ともかく、今回の任務は残酷な結果と幸運入り混じった結果をもたらす事となった。
村に戻された遺体は村全体でしめやかに葬儀が行われた。
少年たちは殺された大人たちの姿をその目に焼き付けて――現実を――目の当たりにする。
もっと早く捜索活動が出来ていたなら、被害ももっと少なくて済んだかも知れない。
だが、子供達が生きていてくれた事は素直に喜ばしい事だった。この事件をきっかけに、大人へと成長してくれたら、と望むばかりである。
目的は果したが、胸の奥にじんわりと残る悔しさと、わずかな違和感を残したまま冒険者たちの依頼はこうして終了したのだった。