ナーガ族の暴走
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月29日〜06月03日
リプレイ公開日:2007年06月02日
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●オープニング
●異変‥‥
それは、小さな北の村の異変からはじまった。
村に一人の女性が現れ、それから数日が経過した頃、最初の事件が起こったのだ。
村のはずれで男性二名の変死体が発見された。
最初に発見したのは朝早く仕事に向おうとしていた一人の初老の男。
彼の証言によると、発見された場所は彼の仕事場からさほど離れていない。第一発見者という事で疑いの目をかけられた初老の男だったが、彼には動悸もなければ大の男二人組を殺せるほどの力もなかった。
しかもその変死体は文字通り「普通に死んでいる」訳ではなかった。
まるでミイラのように干からびて、しわしわの皮と骨しか残っていないような状況で死んでいたのである。
後日判明した事だが、実はこの変死事件が起こる数年前から山二つほど離れた南の小さな村で同じような『吸血殺人事件』が起こっていた。
先日その村では、原因となったであろう魔物の退治が報告され、それから吸血事件は途絶えたらしいが、今度はまるで伝染するかのように被害が出たという訳だ。
当時の『吸血殺人事件』が行われた村では、一切何の前触れもなく悪夢がはじまったとされていた。
だが、事件前後で何かが変化していたのは間違いない。
唯一無関係だと思われていた、一人の女性の存在が知られるまでは――。
●二年前の事件――。
一方、魔物を排除し平和が戻った南の村では、一人の女性が村から姿を消した事が判明する。
生物学者を名乗るその女性は昼間はほとんど外出せず、夜になると姿を見せる事が多かったらしい。
交流はほとんどなく、研究対象が多いという理由でこの村に来たという事以外ほとんど会話らしい会話をしていなかった為、村人たちからはやや溶け込めないでいるようだったという。
彼女がその南の村にやってきた数日後、最初の事件が起こった。
それが『吸血殺人事件』と呼ばれる悪夢のはじまりだった。当時の事件の第一発見者は少年で、犬を散歩につれていった時に発見したという。被害者はミイラのように干からびて死んでいたらしい。
その後事件は村の奥にある滝の裏にあったとある洞窟にいた魔物であり、この事件の犯人と思われる吸血コウモリらを退治した事で解決したかにみえた。
しかし。
本当の解決を見ていなかったのである。
●犯人はナーガ様!?
悪夢が伝染したかのように侵食されていく。
突如引き起こされた前代未聞の殺人事件に、村中が戦慄した。
ところが――捜査を進めているうちに意外な犯人像が浮かび上がってきたのである。
二年前に起こった南の村の『吸血殺人事件』の発見者の一人である少年が唯一目撃した情報によると、犯人はヘビ女だったというのだ。
最初は毒蛇が村人を襲っているかと思っていた少年だが、月明かりに映った『ヘビ女』をはっきりと確認した。
ところが村人たちは全くそれを相手にしようとはしなかった。
捜査をしていた官憲たちも子供の言う事とまるで相手にしない。
ヘビの姿をした女性など、あり得ない。村人たちは少年の言葉を冗談か何かと思い込んでいた。
なぜなら、事件は結局滝の裏の洞窟に潜む魔物を倒した事で吸血殺人事件が再発しなくなったからである。その事で、やはり犯人はヘビ女の仕業ではないと結論付けられたのだった。
しかし、事態は急変する――。
北の村で、新たな変死体が発見された。
そして、ここでも犯人の姿を目撃したという報告例があった。その犯人とは‥‥。
――『ナーガ族の女性』だった、というのだ。
ヘビの体をもち、相手を締め上げるようにして殺して、血をすすったのだ、と。
何故それが『ナーガ族』だとわかったのか? とはいえ、かなりの暗がりで、確定情報ではない。
目撃者によると、メイディアで見かけた竜人族の女性とそっくりだったという事。
ヘビの体をもって、女の人といえば、ナーガ族しかいないと思ったらしい事を話してくれた。
この情報がレイネの耳に入ったのは、北の村の事件が起こってから、五日後の事である。
レイネは同じナーガ族の者が人々を襲う事に正直疑問をもっていたが、村人は恐怖に怯えて暮らしているらしい。レイネはあくまでも『ナーガ族の無実』を証明する為に北の村へ向かう事になった。
●生物学者の女性が鍵を握る?
【生物学者の特徴】
色白の女性で、年は二十半ばから後半くらい。やや不健康な細身だが、性格は大人しい。元は生物学を専門とする知識人で森に生息する珍しい動植物の観察や研究をしているらしい。
特に薬草関係に興味を移しており、最近までは南の村の森から段々と北上するように調査研究の足を広げていた事から拠点を北の村へと移したとの事。
薬学知識もそこそこあり、植物の知識もある。
北の村に来た理由は上記の通りで、彼女本人は悲劇の吸血殺人事件に関してはほとんど何もわからないという。
だが、何も知らない、という割には何かを隠しているような雰囲気をもっていた。
南の村での事件をある程度知っているはずの生物学者の女性が今回の事件の焦点になったのはそれから数日経過してからの事だった。
しかし、彼女はヘビの体をしてはおらず、結局犯人である決定的な証拠を得られず釈放された。
だが、少なくとも彼女は何らかの事情を知っているようである。過去数年にわたって『吸血殺人事件』のあった村に暮らしており、そして彼女がこの村に引越してから、事件が起こったのだから。
犯人と思われる、ヘビ女との関連性があるのかはわからない。
そしてそれが『ナーガ族の女性』であるかどうかもわからない。
共通して事情を知っているのは、生物学者の女性だけである。
レイネは『ナーガ族の無実』を証明するべく、その生物学者の女性にコンタクトを取ろうとしていた。
何か隠さなければならない事情があるのなら、もし彼女が本当に関係ないとしたらそれを助ける事になるのだからと説得しそれを明かしてもらわなくてはならない。
また、目撃者を一人ずつ呼び、本当にナーガだったかを確認するのも重要なファクターのひとつとなる。
レイネと共に生物学者のもとに赴くチームと目撃者情報を再確認しつつ村、及びその周辺に異変がないかを調査するチームに分かれての行動となりそうだ。
生物学者とヘビ女、そしてナーガと吸血殺人事件――いくつもの影が絡み合い、悲劇はまた繰り返されてしまうのだろうか?
●夜が、来る!
今回の事件において最大の容疑者であり、最も事情を知っていたとされる生物学者の女性が再び拘束された夜、再び事件は引き起こされる。
つまり――彼女が直接の犯人ではないことが、証明されたのである!
という事は、やはり別の誰かが‥‥『ヘビ女』あるいは本当に『ナーガの女性』が犯人なのだろうか?
止まらない夜の悲劇に、冒険者とレイネはどう立ち向かう‥‥?
●リプレイ本文
●明けない夜はない。
南の村から森を抜け、北の村へと移動するように発生した怪死事件の謎を追うべく派遣された冒険者たち。
今回の依頼で、大きなアドバンテージを取れたのは南の村の事件の一部を知っている冒険者がいた事だ。
それが、アレス・メルリード(ea0454)とエル・カルデア(eb8542)の二名である。特にエルは以前にもレイネと面を合わせており、今回の事件とナーガの関連性を知る者の一人でもあった。
「前回のあの村の事件は解決していなかった?」
南の森で起こった吸血殺人事件の真相かと思われた、滝の裏の魔物たち。だが、魔物の被害がなくなった事で事件そのものも解決したと思い込んでいたのは、やはり考えが甘かった。
前回の事件の詳細は『巨大滝の裏に謎の生物を見た!』にて記録されている。
「とは言え‥‥」
イリア・アドミナル(ea2564)は改めて事件の関連性を整理してみながら、嘆息していた。
「ナーガ様が犯人? いえ、必ず別の犯人が居る筈です」
同行したレイネの事は詳しく知らないが、ナーガ族はそんな自ら相手を傷つけるような種族ではない事は理解出来る。特にレイネは大人しい部類に入るし、むしろもっと喋って欲しい位寡黙なタイプのナーガである。
「事前情報から整理してみたんですが、ナーガというよりラーミアのそれに近いものと考えています。上半身は女性なのですが、下半身が蛇の姿をしています。これだけでは確かに一見ナーガ族と見間違われてもおかしくないですが‥‥」
イリアは他にもイリュージョンで幻覚を見せたり、相手を魅了して吸血する、などの特徴を冒険者とレイネたち全員に説明した。
実は天界でもラーミアと呼ばれる存在はいるが、アトランティスではやや一般的ではない。全く見ないという訳では無い。だが、一般的な知識ではないようである。
もちろん、調べれば、比較的簡単に情報を得ることは出来るが、その程度である。
それよりもメイの国では圧倒的に竜族の(畏怖を含めての)口伝が根強い。それだけアトランティス東方のメイでは『ドラゴン』という種族が特別なものである事を証明しているのだった。
「‥‥まさか、ラーミアはムーンロードの魔法を使って月道を越え、ジ・アースから来たのではあるまいな」
うろ覚えだったラーミアの特徴を聞きながら、シャルグ・ザーン(ea0827)はメイで事件扱いされるほど特殊な『吸血』という行為は、やはり重要なポイントなのだという事を再確認する。
「アトランティスにはラミアがいないのかな‥‥? それと、レイネさんは相手が「ナーガ」であるかどうか確認することは出来るそうだが、それ以外に、人間に擬態したラミアなどは見分けられるのか?」
「既に変身されているのを暴く事は出来ないが、暴く事が出来ないだけで、それが変身しているであろう事を確認するだけなら可能かも知れない。変身というものは、一見完璧に見えるが、『完全』ではない。どこかに必ず元の姿を匂わせているものだ」
レイネはオルステッド・ブライオン(ea2449)の疑問に答えるような形で、注意深く相手を観察するように促した。
また、相手の「魅了」などの特殊能力に対する耐性についてを尋ねられると、レイネは深く肯くと。
「我は精神魔法を無効化する事は可能だが、全てのナーガがそれを持ち合わせている訳では無い。『普通』のナーガでは、恐らく無理であろうな。お前達も心してかからねば、あっという間に『持っていかれる』ぞ‥‥」
『それ』が厳密に魔法かどうかはさておいて、精神攻撃に対するそれなりの耐性を持っている事を明かしたレイネは、思い出したように、あるものを取り出した。
「‥‥そ、それは‥‥?」
思わず目を丸くして驚いたのはイリアとアレスだった。
「うむ。これはな、『まるごとナーガさん寝袋』と呼ばれるものだ。我が本来の姿で村に行けば必ず動揺が広がろう、だが、これさえあれば、『これ』と比較する事である程度の判別もつきやすいというものだ」
レイネが持ってきたのは、『まるごと』シリーズの試作品で超レアモノのひとつに数えられるリアルタイプのまるごとナーガさん寝袋だった。もちろん、まだ市販されていない。
着ぐるみのようで、着ぐるみでなく。寝袋のようで、寝袋でない。やや存在意義の薄めの不思議な出で立ちだが、まさかこんな時にこれが役に立つ日がやってこようとは。
しんなりと横たわるリアルなナーガ様寝袋に、微妙に引き気味の冒険者たち。リアルすぎて、逆に怖い。
●ナーガ対ラーミア!?
村に到着して、先ずは班分けをする冒険者一行。
生物学者の調査をするのはレイネ、アレス、オルステッド、そしてイリアだ。
村の目撃情報などを詳しく調べるのはシャルグとエルで、事情を聞く際にはレイネから借りたリアルタイプのまるごとナーガさんを見せたりする事も考慮している。
「さて、本当にラミアが絡んでくるとなると、相当注意しないとならないでしょうね」
「変身、武器耐性、魅了‥‥さらに再生までとなると、厄介極まりないのである」
詳しい目撃情報を得ようと、主だった目撃者を集めてその特徴を聞き出していた二人は、最初に犯人を『ナーガ』ではないかと思ったという目撃者に事情を話した。
「すまぬが、今度の事件の事で話をお聞かせ願いたい」
しかしその目撃者も、ラーミアの特徴とを比べられると言葉を濁らせてしまった。確かに吸血現場を目撃したが、それがナーガかと言われると自信が無いのだそうだ。
ただ、メイディアで見かけたナーガ族の女性を見た後だったので、つい、勘違いしてしまったかも知れない。そう洩らす目撃者の言葉に、確信へと変わる二人。
――やはり、ナーガ族ではなく、ラーミアの仕業だ。
一方、重要参考人として厳重なチェックを受けている生物学者の身辺調査に回ったチームは、精神的な行動を阻害する魅了やイリュージョンを警戒する。オーラエリベイションなどで集中力を高め、相手の初段を回避する作戦だ。
ところが、生物学者の様子はこちらを敵対視するでもなく、穏やかな反応を示したのである。
「少なくとも、彼女はナーガではない」
レイネはそう言うと、嘆息する。アレスはそれを確認すると、口を開いた。
「質問をいくつか。まずは事件について知ってる範囲のことを聞かせてもらおうかな」
「知っていると言われましても‥‥」
あくまで、関係ないという事を前提に彼女はゆっくりと話だした。
珍しいハーブがあるという情報を聞いた彼女は、その所在と資料としての採取を求め南の森の近くにある村へとやって来たのだという。
小さいが、流れの穏やかな清流の傍に、水辺にしか咲かない貴重な薬草があるらしく、彼女は村人の案内を受けたりして森を回っていた。そこに現れたのが――。
「その人の事を、詳しく聞かせてもらえませんか?」
現れたのは、とても美しい女性だったという。だが、その顔色はひどく青ざめており、衰弱していた。彼女はその女性を介抱しようと村に連れ帰ったのだが、それが悲劇のはじまりだった。
「その女性、下半身は蛇でしたか?」
アレスの問いに、彼女は首を横に振った。どうやって森を歩いてきたのか、女性がどこへ向かおうとしていたのかはわからない。だが、とても静かで穏やかな表情(かお)をしていたという。
「では、犯人の心当たりは」
「あの女性が犯人であるという証拠はありませんし、私は彼女が犯人だとも思えません。ただ――」
ただ、その女性は生物学者が北の村に行く事を告げると一緒に行きたいと言い出してきたのである。そして、女性は北の村に旅人として
、生物学者は調べ物のため引越しという形でやって来たのだ。
「この村に来た新しい人間は、あなただけじゃない、と」
アレスはそこまで聞いて、レイネと目を合わせてみせた。レイネは黙っていたが、思いは同じだったようである。
「その人と――会うことは出来ますか?」
その女性、昼間は滅多に顔をださないが、夜になるとたまに散歩がてら村の酒場に顔を出すらしい。
彼女を追って、夜合流する事を決めていた各班はやはり夜にしか遭遇できないという事に緊張感を滲ませていた。もしラーミアであれば、夜は彼女の独壇場――得意のフィールドで対面する事になるのだから。
「ところで、この人間を一緒に連れて来てよかったのか?」
「どういう事です、レイネさん」
「魅了されていたとしたら、我らの行動を阻害する可能性があろう? 敵に回る事も考慮せねばなるまい。それはお前達にも言える事だがな」
「そういう事なら、やはりアイスコフィンの出番でしょう」
イリアだけでなく、夜間の戦闘が不利である事を熟知して敢えて相手の動きを物理的に封じ、かつ戦える時間帯を日中にする事で対処しようと考えていたようだ。
特にアイスコフィン専門以上の場合、相手の効果範囲外からでもその動きを封じ氷結させる事が出来る。
不用意に近付かず、ほぼ完全に無効化出来るレイネに直接交渉を任せるべきだろうか。だが、そうなるとナーガは誰が守る?
どちらにもリスクはある。
「‥‥だが、ナーガとラーミア。戦闘力だけなら、ナーガが本気を出せば軽く決着はつきそうだ‥‥」
オルステッドは万が一の事を考えながら、だが一方でナーガの強さに対しても不安を感じるほど弱い存在ではないと考えてもいた。
そして、それは確かに正解でもある。
必ず会えるとは限らないが、最も多くの目撃情報があった酒場に到着する冒険者たち。
メイディアにあるものとはまた違っていて、小さなバーカウンターのみの立ち飲みパブのような酒場である。そもそもテーブルがあって、食事もできて、というスタイルの酒場はよほど大きな都市でない限り多くは無い。
そこに生物学者を連れて冒険者がやってきたのだから、騒ぎが出ないはずもなかった。いくら事情があるとはいえ、酔った男達が生物学者に絡みはじめるのは避けられないようだ。
対して生物学者の女性も疑われ続けている事をあまり否定しないものだから、余計にややこしくなる。はっきり違うと言えば済む問題かと言われれば、それでもただでは済まされないだろう事を、彼女は既に学んでいたのである。だからこそ、敢えて何も言わなかったのだ。
酔っ払った男数人が生物学者を囲むように意味不明な因縁をつけてくるのを見、思わず止めようとした騎士アレスと騎士シャルグ。
だが、それが既に相手の『罠』であった事に――誰も気がつかなかったのである。
●機転!
最初に異変を感じ取ったのは、イリア、エルのウィザード組とオルステッドだった。やや遅れ気味で酒場に到着したのが、結果的にこの状況を『見抜く』事になったのである。
一種異様な光景に、息を飲むイリアたち。
あわやケンカのはじまりそうな緊迫感と、一番奥でバーのマスターと軽く会話していた女性の、まるで気にも止めていないような談笑。
同じ場所で同じ時間にありそうな光景ではない。
特に狭い酒場である。一度ゴタゴタが起これば、全員が巻き込まれるのも時間の問題だった。
「待って、これ以上、踏み込まないで!」
イリアの直感が、警戒のアラートを響かせる。
だが時すでに遅し。アレスとシャルグは生物学者を守る為、一気に踏み込んでしまっていたのである!
反射的に距離を置いたイリアとエルの二人は、『遭遇』した場所が余りにも狭すぎる事に戦慄する。
――魔法が撃てない!
魅了やイリュージョンなどの精神魔法は非常に厄介で、基本的に全てが対象となる。そしてそれが効果を発揮するとすぐには元に戻す事が難しい。
「アレスさん、シャルグさん!」
呼び戻そうとするが、まるで聞こえていない二人は酒場の酔っ払い共と今にも争いをはじめそうな勢いだった。
「‥‥どういう事だ‥‥まさか、もうはじまっているのか?」
オルステッドの言葉に、肯く二人。そうこうしている内に、レイネはひとり、奥へと進んでいく。
「レイネさん! 戻ってください!」
慌てて呼び戻そうとするエルの言葉も空しく、奥へと踏み込んでいくレイネ。彼女もまた、『罠』にはまったのだろうか?
「アイスコフィンで凍らせるにしたって、こんなに狭くて、見えにくい場所じゃ‥‥」
「かと言って、アグラベイジョンをかけてもこちらからは踏み込めないですよ」
「‥‥だったら、こうしよう。エルさん、イリアさん、少し作戦があるんだが‥‥」
オルステッドの作戦に、イリアもエルも、やれるだけの事をしてみようと深く肯いてみせる。
三人が得意な戦法で、それをコンビネーションで発動させるのだ。
つまり、エルがアグラベイジョンで邪魔な対象に動きの制限を加え、オルステッドがローズホイップで転倒させたり引き寄せたりして目標指定をしやすくさせる。
その上でムーンアローやアイスコフィンを決める、という戦法である。魅了の範囲外からこのコンビネーションを決める事が出来れば、ほぼ無傷で捕らえる事も可能ではないかと考えたのだ。
果たして――。
●決着!
彼女も――或いは既に――覚悟していたのかも知れない。
対峙した女性はレイネの眼光に、語る言葉を失う。
更に絶妙すぎるタイミングでレイネの背後、つまり酒場の入り口側で一瞬の交錯劇が行われ、追撃をかけるように、イリアの魔法が女性を氷柱へと導いた。
オルステッドはそれを確認すると内部に飛び込んで酔っ払いたちを外に放り出し、アレスたちを効果範囲外へと引き出したのである。
レイネの救出に向かおうとしたオルステッドは、だが、彼女が操られていない事に気付く。
「‥‥どうして、こんな無茶を‥‥」
「前もって言っておいただろう、我に心を惑わす子供騙しなど通用しない事を」
結局。
村のほとんどが、そして生物学者もラーミアの魅了に知らず知らずの間に掛かっており、誰も彼女を疑問に思わなかったのだった。
それ故、『よそ者』である生物学者だけが疑われた、という訳だ。だが、それも、生物学者の証言が無ければ誰もその事に疑問を抱かなかっただろう。
氷が溶けた後、ラーミアは倒された。
飢えを乾かす為に人間を襲い続ける行為を甘んじて許す訳にはいかなかった。
その後、レイネはラーミアとの違いを説明する為村人を集め、また、冒険者たちもこれ以上ナーガを侮辱せぬように言葉を強くして説得にあたり、納得させた。
「全く、はた迷惑な話であったな」
豪気に笑うシャルグに、レイネの表情は複雑だった。
「結局、人間の為になってしまったな。元は我らの誤解を解く旅だったのだが‥‥」
「南北の村の被害もなくなり、レイネさんの誤解も解け、僕たちも成功報酬を得る。これだけじゃ、ダメ、かな?」
イリアがいたずらっぽく笑う。
「ふむ‥‥今回はそうしておくか」
こうして『吸血殺人事件』は幕を閉じるのだった。