白蛇のお嬢様――辺境遊撃隊
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月30日〜06月04日
リプレイ公開日:2007年06月02日
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●オープニング
●白馬に乗ったお嬢様――辺境遊撃隊
新造強襲揚陸艦、ペガサス級三番艦『ホワイトホース』が遂に完成した。
なお、『八八艦隊計画』によると、このホワイトホースを含むペガサス級四艦にエルタワ級輸送艦四艦を以て八艦の大艦隊戦を想定しているらしい。
艦長には、19歳の若き女性艦長を起用し、新造艦とのイメージもあり若々しさをアピールしたフレッシュな構成となっている。
【ホワイトホース艦長】
ラピス・ジュリエッタ 19歳。元ゴーレムのテストパイロット経験者で、貴族出身の超おてんばお嬢様。
数々の異名を持つ彼女の新しいあだ名は、新造艦ホワイトホースになぞらえて『白馬のお嬢様』。
なお――このホワイトホース。
公表されているスペックとは若干仕様が異なり現時点でモナルコス(後期型)を三騎搭載してあるのだが、肝心のパイロットの選出が遅れてしまい、結果的に正式パイロットが決定するまでの間、各作戦ごとに人員(兵力)補強をする際冒険者ギルドサイドから募集する事に仮決定した。
これは試験運用にあてられたものであり、比較的自由に鎧騎士を搭乗させる事の出来るチャンスを多く与えようという一部の思惑もあったようだ。
半ば実験航海という趣も感じられるホワイトホース隊。
そういう意味では、この艦にはいくつかの試験的な運用を兼ねた作戦が与えられる事になっている。
●白馬、出撃せり!
本来は『八八艦隊計画』の本隊へと帰属する事になっているホワイトホース、通称『白馬』。
ところが、計画とは別に度々、無関係な作戦を押し付けられてしまう事もある。
彼女たちは折角の最新鋭のフロートシップを持て余すような作戦ばかりが巡ってきてしまい、僚艦からは『辺境遊撃隊』などと揶揄されたりする事も‥‥。結果的に現時点での彼女たちの任務は別働隊任務に終始してしまう事になる。
だがそれも、『八八艦隊計画』が本格的に稼動するまでの辛抱、といったところだろうか。
しかし、この「遊撃隊」というスタンスがホワイトホースにとっては比較的自由な作戦が可能になっている。とても『身軽』なのだ。
さて、ここからが本題。今回の作戦だが――。
●サミアド戦線異常あり?
と、その前に。
「は? どういう事ですか、これから作戦がはじまるっていうのに。はあ、はい、わかりました‥‥」
作戦開始直前に入ってきた緊急連絡が、ラピスの頭を悩ませた。
というのも‥‥。
これからはじまるのはサミアド砂漠の東側をメインにした哨戒任務である。ここ最近活発化してきているカオスニアンと恐獣の拠点のひとつとも言われているサミアド砂漠だが、未だ拡大し続ける砂漠化の影響を調べるのとカオスニアンらの生息数を確認する事が今回の任務だった。
状況が状況なだけに、突然の戦闘突入も避けられない厳しい任務ではあるのだが、そんな事はおかまいなしに、今回の上層部からのお守りの任務が与えられた、という訳だ。
ナーガ族の女性、フェイエス――白い鱗を持つ、伝説の竜の巫女。
彼女はレイネと行動を共にしていたが、先日レイネがある村に調査に向かってしまい、その留守の間、保護してもらいたいという依頼がラピスに回ってきたという訳である。
何でも屋といえばいいのか、辺境遊撃隊ことホワイトホース隊はこういう、一見雑務に見える仕事も同時にこなさなければならない状況だった。とはいえ、ナーガ族の保護というのははっきり言って超一級の護衛任務である。
ちなみに艦長ラピスと竜の巫女フェイエスは以前一度だけ顔を合わせたことがあるが、基本的にナーガ族との接点はない。
それどころか、レイネとの接点もない。警護任務でないかぎり、これから付き合いが広がるとも思えない。
それでも、ラピスは命令だから仕方がないと諦め、お守りを預かってしまった。
ラピス本人は非常に微妙な性格ではあるが、能力はずばぬけている。だからこそ彼女が最新鋭のフロートシップを任されているのだし、ホワイトホース隊はエリート精鋭部隊だ。そういう意味でも、ラピスに任せたいという上層部の思惑はたんにお荷物預けとして考えている訳ではない事を付け加えておく。
しかし、本来の任務は続行しなくてはならなかった。
サミアド砂漠の侵食を止める方法があるのかどうかはわからない。だが、広がり続ける砂漠の中に、明確な『敵』が潜んでいるというのならそれを叩かねばならない。
今回は砂漠の東側を中心に哨戒任務にあたるのだが、ちょうど砂漠の果て辺りに村があるらしい。そこには頻繁にとはいかないまでも度々カオスニアンが現れたり目撃されたりする事の多い場所で、このまま砂漠化が進めばいずれはこの村も砂に飲み込まれてしまうかも知れないという。
砂漠化が進む前はこの辺りは荒野で、多少の岩場もあったとされていた。
「一先ず、フェイエスの事は私に任せて。皆はサミアド砂漠東部哨戒任務に集中して欲しいわ」
事前情報によると、大型恐獣『ティラノサウルス・レックス』と呼ばれる恐獣が最低でも二体は確認されている。カオスニアンの数や他サイズの恐獣は報告に入っていないが、野生の恐獣が単体でぶらついているなんて事はここ最近の動きからすると想像しにくい。
おそらくカオスニアンが絡んでいる事が予想される。
基本的に哨戒任務であるが、相手が白馬隊を発見して敵対行動を取ってくるようであればそれを迎撃する。
なお、今回もホワイトホースに搭載されているゴーレムは三体、モナルコス後期型である。
大型恐獣、ティラノサウルス・レックスは非常に獰猛であり、カオスニアンが絡んでくればかなりの強敵となる。
一体だけでも凶悪さを誇る恐獣だが、二体が同時に出現するといくらモナルコスでも万全の用意と戦略を練らなければ有利に戦いを運ぶことが出来ない。
警戒だけでなく、対応力も要求される厳しい任務となる事が予想される。
●リプレイ本文
●砂の海に、眠れ。
アトランティス東方、メイの国の中央部を蝕んでいる、広大な砂漠地帯――サミアド砂漠。
天界にも砂漠というのは世界各地に点在し、今もなお、砂漠化が進んでいるという。
さすがにメイの国の砂漠とはその発生源は同じではないが、時を経て拡大し続けている現状はほとんど変わりないといえる。
砂漠といっても、サミアド砂漠はかなりの広範囲である。その為、地域によってまるで違う姿を見せてくれた。
サミアド砂漠が『砂漠化』する前は、未踏の荒野だったらしい。それがカオスの穴が出現してから、その影響を受けて、急速に拡大侵食したという。
厳密に言うと、そういう意味でサミアド砂漠の『砂漠』は最初に思い浮かべる砂の海のイメージとは多少の違いがある。
もちろん、それもこの砂漠地帯の各地の状況によっても差異はあるのだが。
今回ホワイトホース隊が哨戒任務にあたったサミアド砂漠東部地域は、いわゆる『シルクロード』のような熱砂の海ではなく、どちらかというと岩石砂漠、と呼ばれる乾燥地帯がほとんどである。
これは礫砂漠と呼ばれるものと非常に状態が酷似しており、言ってみればまだ岩場の原型を留めていると言っても差し支えないだろう。
だが、これもまたいずれは砂に飲まれていく宿命(さだめ)なのだろうか? このまま放って置けば、確実に死の大地となる事に危機感を覚える人間が、今のメイの国にはどれ程いるのだろうか。
カオスの穴が開いてから砂漠化が拡大したという話は理解してもらえたと思うが、カオスニアンらカオスの存在は砂漠で活動するのに適した種族なのだろうか?
このままメイの国がカオスの勢力に討たれ、滅んだとして、カオスニアンたちは広がり続ける砂漠の民として生き続ける事が出来るのだろうか?
疑問は尽きない。今回はそういう意味でも本格的な生態調査に乗り込んだという訳だ。
フロートシップを使っての大掛かりな作戦はこれまで多く実践してはいない。既に何度かは調査隊を送ってみたが、やはりあまりの広大さはそれだけでネックとなっていた。陸上部隊だけだと、効率が悪いのである。
だが――。
「モルナコスを下ろさずに、グライダーを運用できるだけの余地があればいいが‥‥」
移動手段として、或いは偵察の為にゴーレムグライダーの搭載を提案していたグレイ・マリガン(eb4157)だったが、これは残念ながら却下されてしまった。というのも、これにも理由があった。
ともかく、このサミアド砂漠というのは余りにも広い。広大すぎる事による、グライダーの飛行航続時間と搭乗者の体力の問題がクリアー出来なかった為である。
ほとんど見た目で位置を判断できないくらいの広大な場所をたった一騎で周回など不可能だし、昼間は暑さに、夜間は寒さによる異常な温度差を克服する事が可能かというと、やはりこれにも個人差がある。また、夜間となると尚の事、暗さによる飛行障害が発生するのは目に見えており、現実的ではないと判断された為だ。
「クルーの安全を確保するのも、私の仕事なの。今回は作戦上の都合で却下したけど、別にあなたの意見を否定している訳ではないから」
船を預かる艦長としてのラピスは、船も、搭乗者全員の命もそれ以上に重く扱っている。そういう意味で言えば、グライダーを用意する位なら、むしろ地上部隊用にチャリオットを用意した方がまだ現実味があるだろうか。
しかし、グレイの提案が必ずしも間違いという訳では無い。空からの状況判断が出来る事はホワイトホースの利点であるし、偵察任務そのものの用途としてのグライダーが作戦によって非常に有効である事は、ゴーレムグライダー先進国であるウィルで証明されている。
そういう意味で空からの偵察を申し出てきたシルビア・オルテーンシア(eb8174)には、単騎という非常に厳しい任務でも意義のある意見だったかも知れない。
ただ、砂漠地というのは言ってみれば『快適な時間』という時間帯がない。唯一あるとすれば、夜明けごろの数十分からせいぜい一〜二時間程度だろうか。夕暮れはどうかというと、実は夕暮れの視認性というのは非常に悪い。これは人間の目の構造上そうなっているらしいが、冒険者にそう説明したところで理解を得られるかは疑問である。
●戦えない、ジレンマ。
今回の任務は哨戒任務であり、戦う必要性は全くといっていいほど無い訳だが、これには冒険者を含めた白馬隊のジレンマというか、それなりの葛藤があった。
それでなくとも、この戦艦ホワイトホースは強襲艦である。戦いの為に生まれた船だ。それに、モナルコスも三騎を搭載し、最大火力を持つ精霊砲一基にバリスタ八基と戦闘力は計り知れないものを持つ。
ある程度の相手なら過剰とも言えるスペックを誇るこの白馬隊は存在そのものが『最強の矛』の一つに数えられる戦力となる。だが、一方で『辺境遊撃隊』などと比喩される面も持つ。
哨戒体制は昼間のチームがルメリア・アドミナル(ea8594)、龍堂光太(eb4257)、フラガ・ラック(eb4532)、スレイン・イルーザ(eb7880)、そして、カロ・カイリ・コートン(eb8962)が担当する事になった。
初日は広域探査及び哨戒任務となる。その為、メンバーは船から見下ろす形で地形の記憶や地図の作成などを行っていた。地上に降りて調査(アタック)をかけるのは情報がまとまり次第、という事になる。
冒険者を含めた甲板上のクルーは暑さとの戦いを演じる事になってしまったが、そんな時にこそ、ややこしい事態に陥ったりするものだ。ただでさえ集中力が切れ切れになりそうな所に、慌ててラピスがやって来たのである。
「フェイエス様がいなくなった!?」
「フェイエスって、あの噂のナーガ様じゃろ‥‥ん、そう言えば、一目見て挨拶しておきたかったがミーティングの時には見かけなかったぜよ?」
フラガとカロは搭乗してから、既に乗っている筈のナーガの少女を見かけていないと首を振った。
「いいえ? お見受けしませんでしたわ。何でしたら、ブレスセンサーなどで調べてみましょうか」
ルメリアも見ていない、という。玉のような汗を噴出しながら、懸命に日陰などをこしらえて哨戒に挑んでいる龍堂も同じだった。
「すまない、わからないな」
スレインも龍堂と同じ答えを返してきた。
どうやら、外には出ていないらしい。しかし、一体どこへ消えたのだろうか? クルー全員に聞きまわるというのも妙な不安感を煽りそうなのでビジターに近い冒険者らに聞いてみたのだが、こちら側には出てきていないのだろうか。
ラピスはそのままフェイエスの事は他言無用で哨戒にあたって欲しいと指示を与えると困り顔のまま戻っていく。
しかし、気にするなと言われても、相手は伝説の『竜の巫女』である。確かに地上から目をそらす訳にはいかないが、気にはなる冒険者達であった。
しかし――作戦中に起こった謎の失踪事件が解決したのは、何と翌日の朝になってからだった!
●ゴーストタウンの亡霊――かつて、そこにあったもの。
夜間の哨戒担当はマグナ・アドミラル(ea4868)、ハルナック・キシュディア(eb4189)、エルシード・カペアドール(eb4395)とグレイ、シルビアの五名だ。
いくらフロートシップとはいえ、実は夜間の航海というのはあまり一般的ではないが太陽の無いアトランティスでは夜間の星を標に航海する事もある。が、どちらかというと、日中、大きな目印を標に目視で移動する事の方が圧倒的に多い。
速度を落としゆっくりと周遊するように移動するなら、不可能という訳ではないが、碇泊して強襲に備えて待機及び警戒任務というのがセオリーだろう。
そこで出撃したのが、シルビアだった。シルビアは今作戦にグリフォンのレェオーネを駆り、周回しながら索敵警戒を行う事にしていた。碇泊している事と、絶対に先走らないで異変があったら戻ってくる事を約束させ、送り出された。
そこでシルビアは、砂に埋もれた瓦礫を発見する。
「砂漠というのはもっと砂だらけだと思っていたから、恐獣――T・レックス――が砂漠にいる事を不自然に思っていたけれど‥‥岩場のある場所も多いのね。少し認識が甘かったかも知れないわ」
サミアド砂漠が拡大する前の事を考えてみれば、荒野で岩場があった事はある程度想像は付く。しかし、砂漠という名前とイメージだけで想像していたものにも地域によってバリエーションに富んでいる事を身を持って知る事となった。
シルビアの発見した瓦礫は、それなりの規模で、完全な姿は判別できないもののそこがかつて人が住んでいたであろう廃墟のひとつであろう事を確認出来た。だが、人の気配は既に無く、それはまさしく砂の海に飲み込まれた『ゴーストタウン』だったのである。
強烈な砂と風の威力で風化した瓦礫の、かつて街か何かであったろう姿は変わり果て、朽ち果てた姿となって浮かび上がっていた。
「このまま砂漠が広がり続ければ、いずれ、メイの国の全てが砂に飲まれていくのでしょうか‥‥」
シルビアの生まれたメイの、エルフたちが暮らしている森たちも。季節の花や果実を実らせる山々や澄んだ清流の川も。
『カオスの穴』がある限り、メイの国は蝕まれ、この砂漠に飲み込まれてしまう。
無意識のうちにグリフォンの頭を撫で付けて、青く透き通った瞳を僅かに滲ませる。
「絶対に‥‥そんな事はさせない‥‥!」
●寝ぼけ姫、フェイエス!?
一睡もせずに探し回っていたラピス。ところが一向に見付かる気配がない、全部の部屋を見て回って、トイレの中やシャワー室まで覗いたが結局見付からなかった。
ところが、日がのぼってまたもや灼熱の地獄を感じ始める頃になって、ようやくフェイエスはひょっこりと現れた!
「すいません、あまりにも暑かったので、ひんやりとしているところを探していたら、いつの間にか眠ってしまって」
どうやら、食料保管庫の奥の方に入り込んだまま寝過ごしたらしい。人騒がせなお子様である。
二日目に突入し、昼間のメンバーに交代してからの発見だったため、初日の夜間メンバーはまだ知らされていないが一先ず安堵する冒険者たち。
フラガは前回の作戦にも参加している冒険者のひとりで、フェイエスをラピスの代わりに船内案内役を買って出てくれていた。
そこでフラガは姉の様に慕っているというナーガの女性、レイネの事を聞くのだった。
なお初日の夜のうちに発見されたゴーストタウンの報告で、付近の探索を行ったが、カオスニアンや恐獣がこの辺りを拠点にしているというような事はなかったようである。またTレックスの発見も無かった事を付け加えておく。
夜になり、交代したチームがようやくフェイエスが戻ってきたと聞かされると彼らもまた、一安心の様子を見せていた。
「あまり艦長に心配をかけるではないぞ」
マグナは大柄な体で、小さな少女の頭を撫でるように諭す。グレイやハルナックは言葉こそ少なかったが、軽く会釈してフェイエスを改めてその目に焼き付けているようだった。
見れば見るほど美しい鱗と、その身の神々しさ。肌の白さも相まって無垢な印象は、そのイメージ通りの純真さを持ち合わせていた。
出撃待機をしていたシルビアと、彼女と打ち合わせをしていたエルシードの前にも現れ、挨拶を交わすと、昼間の哨戒担当らにも色々と話をして見せた。
「こんなに寒かったら、冬眠したくなるんじゃないのか」
冗談とも本気とも取れないグレイのそっけない言葉にも、実は少しだけ眠い、と明かすフェイエスの笑顔は厳しい寒さに耐えながらの警戒態勢の中にあって、何ともいえない『あたたかさ』をもたらしたのだった。
●戦わない、戦い!
異変を感じたのは三日目、東部哨戒任務も佳境に入り、間もなくほぼ区域内を探査し終えようとした時の事である!
内陸部は文字通り砂地としての砂漠が広がっているが、そうなると見付けやすいのが足跡だった。もちろん、風が強くすぐにその足跡も埋まってしまう事もある。だが、こちらに運がよければ、或いは相手の運がとことん無ければ『彼ら』の足取りが掴みやすくなったりするものだ。
薄っすらと残る足跡を発見したのはルメリアだった。しかもかなり移動している。どちらから来て、どちらへ向かっている足跡なのかは一度降りて調べないと判らない為、すぐさま地上部隊を投入する事を提案した冒険者たち。
ラピスもそれには承諾せざるを得ず、万全を期してモナルコス一騎と日中担当の冒険者らを降ろすと詳しく調べさせた。
それによると、大型恐獣の足跡でなく、中型に近い恐獣の――少なくとも五〜六体程度の――群れの移動である事を突き止めたのである。中型ならばモナルコスでも対処可能だが、砂漠での応戦は出来るだけ避けたい所だ。
「しっかし、変だにゃあ。トカゲ共だけしかいなかった、というのはどうにも納得できん」
「恐獣の背に乗って、移動した、とか?」
「もう移動したのかしら? 近くにブレスセンサーがかかるような対象はいないようですわ」
見渡す限りの足跡見回してみたが、やはりかなり以前に通った道ですでに近くにはいないようだった。そして残された『彼ら』の足は、より砂漠の奥深く、中央部へと続いていた。カロ、フラガ、そしてルメリアは足跡近くに生体反応を確認するに至らず、嘆息交じりに蜃気楼のような揺らぎを見つめていた。
「深追いするな、と念を押されているからね。先ずは恐獣の足跡だった事やその数を報告する事が優先事項だと思う」
砂を払いながら立ち上がった龍堂はあくまでも冷静に情報を整理する。
皆もその意見には賛同し、ある程度情報を絞った上で手早く撤退をはじめるのだった。
●恐獣はどこへ往く。
これまでサミアド砂漠で交戦があった地域というのは、実は今回担当した東部地域ではない。
多いのはむしろ内陸部で最も『砂漠らしい』場所で、そして次いでカオスニアンが猛威を振るうリザベ領に近い砂漠地帯の西部周辺と見られている。
東部は比較的侵食度合いがゆるく、砂漠としての歴史は浅いのである。だからこその哨戒任務であり、周辺警戒としての生態調査だった。今回の大規模調査によって、現時点ではサミアド砂漠東部の危険性は多少緩和されたようにも見えるが、安心するのはまだ早い。
この調査により、より多くの情報が整備され、焦点が絞られた事になるからだ。
次回以降、中央部から西部の調査が行われた場合はより危険性が高まるだろうが、更なる調査が必要になる事だろう。
尚、今回の『自主規制』はカウントせず――運が良かったのか、悪かったのかは、不明。