必殺! お探シフール

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月04日〜06月09日

リプレイ公開日:2007年06月06日

●オープニング

●必殺! お探シフール
 アトランティス東方・メイの国に、彼女はいた。
 仕事柄、本名を明かせないらしい、シフール便では最速の名を欲しいままにしているマルルの自称ライバル。
 元暗殺部隊に配属されていた(らしい)彼女は今は『ただの』よろず屋を営んでいる。
 ちなみに、本人は『必殺! お探シフールのお姉さん』を名乗っているようである。
 本来のシフール便だけでなく、司会業や名前通りのもの探し、簡単な探偵業のようなものまで幅広く活動している。
 現在はメイディアに拠点を移して、のんびりと余生(?)を過ごしているらしい彼女の、やっている事というのは。
 簡単にいうと『何でも屋』である。
 何でも屋というからには何でも仕事にしてしまう訳なのだが、今回ばかりは彼女も請け負った事を多少後悔しつつあった。

●仕返し代行業
 そう。恨みつらみを晴らしたいという復讐代行、もう少し柔らかい表現をするならば『仕返し』代行を彼女が担当する事になった、という訳だ。
 本来ならば当人たちで行われるべき問題ではあるが、今回は依頼主がどうしてもと彼女に頭を下げた為、仕方なしに引き受けたのだが‥‥。

 そもそもなぜ仕返しなどをする気になったのか――。

 仕事によっては彼女一人ではこなせないものもある。そんな仕事でも引き受けてしまうという事自体おかしな話だが、彼女の場合引き受けてから困り果てて冒険者ギルドに飛び込むという事も、『たまに』ではあるが、ある。
 今回の場合も『たまたま』そういう難題であったため、冒険者ギルドに協力要請を出したという訳だ。

 やろうと思えば一人でも出来る、と思ってはみたものの、そういう場合は大きなリスクを伴う事を彼女は知っている。
 リスクを最小限にして依頼を成功させるには、使えるものは何でも使うのが流儀でもあった。
 依頼主はある商人の男で、復讐相手は分かれた元妻。既に修羅場の雰囲気をかもし出している、これ以上ない最悪の組み合わせである。
 どういう事なのか事情を聞くと、どうやらこの男‥‥妻の悪癖でもある消費癖に我慢できずに、これまで幾度も注意してみたものの何度言っても無駄遣いして、反省の色もなかった事にさじを投げる形で離婚を突きつけたらしいのだ。
 すると彼女は猛烈な勢いで怒り出し、信じられないような桁違いの慰謝料を払えと言い出したものだから、呆れてしまう。
 何とかそれでも長いすり合わせの結果、互いに譲歩しあっての離婚が成立した。

 それからである。
 どうも、分かれたはずの妻が元夫である商人の男に嫌がらせ行為を働いているらしいのだ。よっぽど分かれるのに反対だったのか、彼の持つ財産が惜しかったのか、ともかく、元妻の嫌がらせ行為は聞けば聞くほど凄まじいものだった。
 しかし官憲などに泣きついてもこういうトラブルは彼らの役ではない。
 結局色々なつてを使って最後に行き着いた場所が、『何でも屋』であるところのお姉さんのところだった、という訳だ。

 一応依頼を受けるかどうかは依頼主である元夫の身辺調査で、彼が潔白であれば依頼を受けるというダブルコンタクトで引き受ける事になったのだが、彼に嘘はなく、回りからも気さくな良い人間の評判が高く、裏の無さそうな事が判明した。
 そういう訳で今回の依頼を受ける事になったのだが――。
 一番の疑問が彼女の脳裏に浮かぶ。
「なぜこんなに人のよさそうな人間が、いくら嫌がらせを受けているからといって復讐する事を選んだのだろう?」
 依頼主の男にもそれなりに理由はあるのだろう。だが、それは彼の言葉では全ては計り知ることは出来ない。
 復讐するからには、男の方にも『黒い衝動』があるはずなのだ。
 依頼は『元妻への復讐』だが、それと同時に依頼主の動悸をも読み取らなくてはならなかった。

●何でもこなすよなんでも屋
 さて今回冒険者ギルドに要請されたのは女性エキストラ数人と仮装や役作りが得意な『役者』気質のある冒険者である。
 実は、元夫が嫌がらせを受けているのは彼本人だけに留まらず、彼と再婚を考えているらしいとある女性にも及んでいる事が判明したのだ。
 元妻の動悸は、おそらく、再婚の阻止であろうと思われる。
 今回はその元妻の妨害工作を阻止し、商人の男性の再婚を成立させる事が大まかな任務である。
 直接的な『復讐』を冒険者ギルドでは承認できないので、シフールのお姉さんは『役者』の調達という名義で立ち回ってもらいたいと協力を依頼したのだ。

 冒険者たちは一応の事情を聞くことになるが、やる事は以下の通り。
・依頼主の商人の男の身柄を警護する事。
・商人の男の再婚相手である女性を警護する事。
・そして婚約パーティに訪れるであろう元妻を二人から遠ざけ、シフールのお姉さんに任せる事。
 そして、充分にパーティを楽しめる事、である。

 ちなみに、わざと婚約パーティの日程を元妻の耳に入れるように仕向けておいた。
 これによって、元妻は激昂しパーティをぶち壊そうと、強行手段に出ることを決意。
 なんと、パーティ会場に武装した男達を突入させ、物理的にパーティそのものを崩壊させようとしたのである!
 用意されたのは、戦士級の男が六人――だが、一体こんな男達を元妻はどうやって引き込んだのかは不明である。

 そして、パーティ当日の夜が静かにやってきたのだった‥‥。

●今回の参加者

 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb3526 アルフレッド・ラグナーソン(33歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb4189 ハルナック・キシュディア(23歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4494 月下部 有里(34歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8962 カロ・カイリ・コートン(34歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8985 暁 幻二(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb9700 リアレス・アルシェル(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 ec2998 アーシュ・クロスタン(18歳・♀・バード・エルフ・メイの国)

●リプレイ本文

●いくつかの、選択肢。
 今回の婚約パーティ。――なぜ『パーティ警備』として冒険者ギルドに依頼がこなかったのだろう?
 正式な依頼であれば、武装して警備にあたる事が出来たのに。――では、非合法な依頼だったのだろうか?
 今までの冒険者ギルドの依頼の中ではかなり特殊なケースとなる今回の警備スタイルだが、意外と女性陣はノリ気だった。
 チャイナドレスで決めているのは月下部 有里(eb4494)とカロ・カイリ・コートン(eb8962)の二人。
 リアレス・アルシェル(eb9700)はノーブリスキルトをしっとりと着こなしているし、『給仕役』をかって出たのは結城 梢(eb7900)の方はというと、役どおりの支給品モノのメイド服で決めてきた。
 ルメリア・アドミナル(ea8594)も礼服であるが、魔法詠唱に関しては何の問題もないようでいつもの自然体でいられた。
 男性陣もハルナック・キシュディア(eb4189)はフォーマルな礼服を着こなし、アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)も『神父役』として礼式のいでたちである。

 大柄な体躯で威圧的にならないようマグナ・アドミラル(ea4868)と血気盛んな暁幻二(eb8985)は会場内から死角になり、且つ、索敵可能範囲の広くとれるような場所に待機する事で『かりそめ』の婚約パーティがはじまった!
 かりそめ、とはいえ、婚約そのものは正式なものである。だがその実、このパーティはパーティを滅茶苦茶にしようと企む元妻を誘い込み、逆に懲らしめるという二面性をもっていた。
「折角じゃ、『フリ』と言わずに楽しんでしまおう。タダ飯タダ酒、これほど美味い物は無いからにゃあ!」
 どこかの無駄遣いの貴族によく見られる、金ばかりかけた豪勢なパーティというのとは違い、商人はその辺りしっかりしている。とはいえ、見栄えだけでいえば、見劣りするものではなかった。
 貴族の社交界があれだけ豪華なのにはそれなりの理由があるが、そのくだりは省いておこう。

 食事も、酒も、冒険者たちがいつも口にするものとはワンランク程度ではあるがグレードが高くなっていて、つまむだけでもこれはこれで豪華な気分になれる。特に酒は商人の目利きで選び抜かれた極上の一品である。
 全く飲めない人間でも、一口、舐めるだけでも飲んでもらいたい一本だと、商人の男は明るく言った。
 そんな事はおかまいなしに、もりもり飲んだり食べたりしているのは、カロであった。
「お気に召しましたか?」
 結城はメイド然とした格好と口調で、警戒しながらもにこやかな笑顔で言い放つ。
「おお、おまえさんも飲めばいいのに」
「メイドは勝手に飲みませんよ。まぁ、邪魔にならないようにしましょう。しかし、商人さんの方も何故復讐などと言う行為をすることにしたのでしょう‥‥謎ですねえ」
「う〜ん。しかし、復讐とは穏やかで無いにゃあ。余程耐え兼ねたのであろうか‥‥? ま、我々は仕事をこなすのみ、か」
「そうですねえ‥‥ともかく、上手くいくことを祈りましょう‥‥」
 二人は肯くと、またそれぞれの持ち場に歩いて行く。あくまでも、自然に。

●高まる緊張と、引き金。
「ところで、その元妻って人はどんな人なんです?」
 商人の男に、分かれた元妻の特徴や性格などいわゆる人となりを聞いてみる事にしたのは、リアレスとカロだった。
 証言によると、顔もスタイルも、性格もよく、仕事も出来る一見するとパーフェクトウーマンだったという。
 だが、結婚してから間もなくして、元からだったらしい性格が一気に噴き出してきたらしい。
 それが驚くべき彼女の実体だった。
 その実体、というのが、先の通りの『浪費癖』である。女の見栄というのは恐ろしいもので、結婚したら有り金全部を自分の自由に使っていいものだと勘違いしていたのか、文字通り湯水の如く使いまくった。
 最初の頃は買いたいものも買えなかった事へのせめてもの慰めとして許していたが、それが甘かった。むしろ、それこそがこの破滅を招いた最初のきっかけとなってしまったのだから、後の祭りといわざるを得ないかも知れない。
「そりゃあ、旦那の方にも責任の一端はあるぜよ。ま、元奥さんってのも、悪いんじゃろうが」
 結局、タガが外れた元妻は財の魔力に取り憑かれたように、無駄遣いをし続けてしまったのだった。そして、それは加速度をつけてエスカレートする。
 止まらない暴走列車みたいな妻の浪費は留まることを知らなかった。
「‥‥そこまでいくと、元妻さんも悪くなってきますね」
 何度も注意したが、一度許してしまった事を撤回するのかという言葉のやり取りもあり、一歩も引かない様子の元妻。
 使いすぎである事を認識しているのかと聞くと、使いすぎではないと言いはる。それどころか、これは妻として当然の権利だし、商人の妻であるが故に身なりをしっかりしないと、儲かっていないとなめられてしまうだろう、と。
 彼女は自らの正当性を強くアピールしたのだった。
 そして、また無駄遣いの日々が続いたある日、商人の男は遂に我慢の限界がやってきて、離婚を決めたという訳だ。

「まあ、きっかけは確かに商人の旦那さんにもあるけど、それでもそれを盾にして正当化するっていうのはね‥‥」
 商人の男の警備を担当していた月下部も事情を聞きながら、嘆息してみせる。
「まるっきり昼ドラじゃないの」
 しかし、やはり気になるのは、分かれた後になぜ元妻が嫌がらせを続けたのかという部分と、その元妻へ復讐しようと思ったのか、である。

●お姉さん、裏を取る。
 冒険者一同は、パーティを楽しみながら護衛をするという任務にぎこちなくなる感覚も残ってはいたが、それなりにこなしていた。
 しかし、依頼人であるシフールのお姉さんがまるでやってこない。まさか、今夜のパーティの事を忘れているのだろうか?
「問題は‥‥謎のしふしふさんですねえ‥‥何処にいつ現れるのでしょうか」
「元暗殺部隊に所属していた、とか。それでも、単身で国家の要人すらやれてしまいそうな能力を持つ天界人を何人も見た後では、今更その程度で驚けないですよ」
 結城とハルナックが飲み物を受け渡しする短い間に交わす会話の中にも、いつ現れるとも知れないお姉さんの事を気にかける一面があった。結城も天界人の冒険者ではあるが、ハルナックの言うような『超人』クラスとはやや縁遠い為か、思わず言葉に詰まり、うーん、と、苦笑するしかなかったのだが。

 一方、窓際の視界に隠れ、息を潜める暁。
「本当は新妻に密着してオレの闘いぶりを見せてやりたかったところだが‥‥」
 さすがに会場をぶち壊しにくる予定の武装集団を追い返すには充分かもしれないが、彼の持つマグナブローは、まだまだ熟練のそれとは言えない。不用意に乱発して、会場に被害を及ぼしかねない。
 大胆な行動を起こすには、先ずは冷静に、状況を見定めてからが鉄則である。
 今は、抑え時、という訳だ。
 そして――。
 目を光らせていた暁の視界に、闇に紛れて動きを見せる者がいた。
 その数‥‥約、六人。報告どおりだ。
 新たな――やや物騒な『来客』のお出ましを知らせるように、暁は冒険者たちにわかるようにサインを送る。
 いよいよ、本格的な作戦が開始されようとしていた!

 暁の連絡を受け、マグナと結城も会場にやってきた。壁際には、マグナの用意したリュートベイルも飾られている。
 決して完璧な装備ではない。それでも完璧にこなさなくてはならない。
 これが冒険者に要求された技術であるし、逆に言えばそれを『こなせる』と思ったからこそ、参加した依頼である。

 静かに進行するこちらの作戦にまるで気付いていないのか、慎重に位置を調節している様子の武装集団。
 或いは、正面から、乗り込んでくるつもりか――。

●戦いは、一閃に。
 流石に、会場をめちゃくちゃにするという名目で殺人までは請け負っていないであろう武装集団だが、件をどこまで受けたのかまでは計り知れない。武装集団は、ゆっくりと剣を引き抜いた。

「外から来るなら、外で処理した方が早いかも知れないわね」
 月下部とカロ、それからリアレスは商人の男とその婚約者の女性に危険が及ばないように平静を装いながらも、いつでも対応出来るような位置まで下がりつつ警戒を強める。
 やや作戦不足だった感もあるものの、それでも臨機応変に立ち回るのが、彼らの『仕事』だ。
「でも、さすがに乱闘騒ぎになったら、催し物では済まなさそうだにゃあ」
 ハルナック、アルフレッド、ルメリアもそれぞれ準備万端といった様子である。
「回り込んできたぜ」
 冒険者たちは、この会場で起こるであろうこれからの一瞬の出来事を、あくまでも即興であると説明するつもりだった。
 商人の男も、それは了承していた事だ。何も知らないのは、婚約者の女性、ただ一人。

 どうして、武装集団に襲わせる必要があったのか。これにはひとつ、重要な理由がある。
 それは、『首謀者』である元妻を引きずり出す事にあった。
 最初は、相手にやりたいようにやらせるしか、この作戦は効果を発揮しない。
 そして、遂に、武装集団は動き出したのである!

●復讐の真実――。
 武装集団は堂々と正面から突入すると、『役者』たちは驚いたり、悲鳴をあげたりして侵入を知らせた。あくまでも、知らなかった振りで。
「どうしたんでしょうね、外が、騒がしい」
 わざとそんな事を言って、ルメリアが所定の位置につく。同時に、結城もルメリアと一緒に受付側へと回りこんだ。
 最初は戸惑いながらも、注意を促す。
 それでも、構わずに歩いてきたら、逃げる振りをして、隠れる。
 そして会場内に侵入したところを見計らって、エキストラたちに号令し、会場封鎖しながら、逃げ道をふさぐ。
 最後に二人が挟み撃ちする形で会場に追い込みをかける、という訳だ。

(上手くいったら、女優になれるかも知れませんねえ)
 結城は、迫真の演技で怯えながら声をかけてみる。だが、男達はまるで気にも止めていない。
 ただのメイドだと思い込んでいた。
 ルメリアも悲鳴をあげながら、逃げまどう振りをしているが、それにさえ、気付いていない。
 ここまでは完全に作戦通り。このまま会場に突入してくれれば後は中で待ち受けている冒険者たちが処理してくれるだろう。
 ――だが、この時。
 ルメリアは見知らぬ女性が一人、紛れ込んでくるのを見逃してはいなかった。

 一気に踏み込んだ彼らはわざと派手な攻撃でテーブルなどを叩き壊してきた! 見せしめの為に壊されたテーブルは、無残にも真っ二つに割れ、崩れ落ちた。
「きゃああああ!」
 婚約者の悲鳴が響いた――が。
 巨大な体躯を見せつけるマグナを筆頭に、ドレッシーな格好でありながら、どこか一筋縄ではいかなさそうな雰囲気を漂わせる男女に。
 そこでようやく、彼らは気付いたのである。
 そして、彼らは後に『二度とごめんだ』と思えるほどの波状攻撃をしこたまぶち込まれてしまう事になる。
 それはそうだろう。
 アルフレッドが高速コアギュレイトで動きを封じると月下部、結城、そしてルメリアの三方向からのライトニングサンダーボルトの一閃が駆け抜け、今度は暁のマグナブローで炎が吹き上がり、更に態勢を整えようと移動した相手には、ライトニングトラップが炸裂した。
 恐らく、『こんな筈じゃなかった』と思っただろう。
 一気に陣形を崩された武装グループは、混乱のまま、今度はマグナ、カロ、ハルナック、リアレスが待ち受ける中央側に押し込まれてしまう。
「いっつあしょーうたーいむ!」
 カロは両手にはめ込まれた金属製のナックルを二回、ガインガインと鳴らし、絞り込むようにひねりを加えて重い拳を打ち込む!
「でんじ、ナッコゥ!」
 なにがでんじなのかはわからないが、何となく気に入ったらしい。カロはそのまま怪しげな八の字を横にしたような軌道でゆらゆらと武装集団の一人に踏み込むと、でんじでんじ言いながら素早さを活かしながらも強烈なパンチを繰り出していった。
 ハルナックとリアレスもナイフの二刀流を巧みに使い分けながら、相手を無力化していく。
「結婚パーティーといえば、女性にとっては一生に一度の夢、それを邪魔して恥ずかしくないの!?」
 乙女の怒りは野暮な男達を叩き伏せる!
 しかしやはり一撃の重さだけなら、マグナの豪腕は凄まじかった。相手は完全武装の戦士たちにも関わらず、そんな事お構いなしにして巨大な真鉄の煙管を横殴りに振り払うと、一人の頬をえぐるようにめり込んで紙屑みたいにぶっとばしていった!
 一撃で、気絶させるほど、強烈な一発だ――。
 武装集団は完全に負けを痛感したのか、突如、降伏する。全員、武装解除という事で剣を床に捨てたのだった。

●互いの言い分。
 武装集団によるパーティ会場の妨害工作は見事なまでに失敗した。元妻はそれを背後で確認すると、悔しさに涙を滲ませる。
「あの女が、私の夫を奪ったのよ!」
「‥‥そう。だったら、はっきりそう元旦那さんに話してあげれば?」
「もっと早くにあの人の浮気を知っていたら‥‥まるで私が全部悪いみたいに皆に言いふらしてまわって! 許せなかったのよ!」
 元妻は確かに浪費癖があったし、元夫の商人に対して正当性を訴えた。それは認める、という。
 しかし、許せなかったのはそれが原因ではなかったのである。
 実は、商人の男。あの婚約者の女性にまんまと騙されていたのだ――。
 いや、騙されていたのは、婚約者の女性だったのかも知れない。

 商人の男はたった一度だけ浮気をした。
 その浮気相手が非常に頭のいい女性で、浮気を餌に、妻と別れさせる事に成功し再婚の約束をさせたのだ。
 理由は何でもよかった。だから彼女は裏で、元妻が無駄遣いしている事を回りに言いふらし、評判を失墜させたのである。
 その浮気相手こそが、婚約者の女性という訳だ。

 元妻は二人の思惑に巻き込まれ離婚させられてしまったのである。だが、実際には、その後浮気していた事を知り、悲しみは怒りに変貌していった。
 また、元妻は商人の元夫の事をずっと愛していた。それだけは真実である。
 裏切られたと知った彼女は、激怒し、夫とその婚約者との再婚をなんとしてでも阻止したかった、という訳だ。

 一方商人の男は元妻の浪費にうんざりしていた事と、都合よく美貌の浮気相手を見つけたものだから、それがバレる事を恐れた。
 そこで離婚を決めたのだ。
 そして過激な嫌がらせを受けた商人は浮気がバレてしまった事にようやく気付き、今度こそ引導を渡す為に『復讐』を依頼したのである! 何せ、浮気相手は、元妻とは違い、地位も名誉も金もあるとある令嬢だったのだから。

「ふん‥‥今回の仕置きは――きついわよ‥‥!」

 なお、今回の依頼で最後にシフールのお姉さんが『誰に』お仕置きをしたのかは、非公開のままである。