『闇』の鎖、その傷跡は癒えたか?

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月26日〜07月01日

リプレイ公開日:2007年06月28日

●オープニング

●闇の鎖の傷跡は癒えたか?
 闘技場襲撃事件からしばらく――。
 修復工事の方は大分進み、以前よりも広く、使いやすく、そして観戦側も見やすくなったと評判のメイディアの闘技場。
 かねてからの強い要望もあり、今回はリニューアル記念として、特別大会が催されることとなった。

 その名も、エキシヴィジョンマッチ3on3バトル!

 その名の通り、三対三のチーム戦で行われるこの変則バトル大会。
 実はこの大会、告知する前から予約が殺到し、結局冒険者ギルド枠はたったの2チームだけとなってしまった。
 ちなみに、赤くて三倍で有名な少女も積極的に参加募集の予約に回っていたが、何故か抽選洩れしまくり、結局枠からは外れてしまったらしい。枕を血涙で濡らしたとか濡らさなかったとか‥‥。
 それはともかく、2チーム計6名の募集が冒険者ギルドに与えられたのは対人戦に意欲を燃やす冒険者たちにとっては中々のチャンスではないだろうか。
 募集枠が非常に少なく、厳しい状態かも知れないが参加できればかなりの幸運である。
 運も実力のうち、とは――天界の言葉にもある――言うが、すでにここから戦いははじまっているのかも知れない。
 また、いつもの闘技場のスタイルである『一対一』というシンプルな形式ではなく、非常に戦略度の高い『三対三』という形式も今回のバトルのポイントである。
 通常ワンマンプレイでパワーやスピードで押し通せば倒せる相手でも、敵味方入り乱れて戦う三対三というフィールドでは自分だけでなく、見方の連携の成功に加え相手の連携を阻止するという非常にテクニカルな戦い方が必要になってくる。
 この戦いに勝利するには、そういったコンビネーションを構築しながらの戦闘スタイルを要求されるのである。

 また今回はエキシヴィジョンマッチという名の通り、殺し合いはしない。
 気絶させる事で相手をノックアウトさせたとみなす。やや甘い判定かも知れないが、これはチーム戦であって、個人戦ではない。
 相手を死に追いやる事よりも、自分達の味方をどうやって守りきりながら戦えるかを最も重要なファクターとして定めている為である。
 防衛戦が頻繁に行われるリザベ領の砦などでは、特にそういった仲間間の連携が必要不可欠であり、これからの対カオス戦においても非常に重要な戦い方であるといえた。
 そういう意味から見ても、今回の特別大会は非常に有意義であると思われる。
 ぜひ積極的に参加してもらいたい。

 ルールは以下の通り。

●エキシヴィジョンマッチ3on3バトル特別大会のルール。
・人数は三人一組。
・対戦形式は三対三のチーム戦で、うち二名を気絶或いは戦闘不能状態にさせた時点で勝利とみなす。
・基本的に殺傷(重傷〜瀕死を含む。一撃死などのオーバーキルは除く)禁止。
 スキル併用によるオーバーキルは大会主催側で復活費用を負担するが、過失によってオーバーキルした者に対して罰金或いは反則負けの適用がかせられる場合がある。これは大会主催側の判断によって決定される事とする。
・武器や魔法には基本制限なし、ただし、攻撃魔法詠唱のみ『高速詠唱』禁止とする。補助、回復系はその限りではない。
・レベル、職業の制限なし、種族の制限もない。
・ペットの大会参加は不可。ペット同伴の場合は大会側で一時預かりとする。

※プレイングの指定
 今回は非常に特殊なルール下で行われる為、プレイング(戦闘行動)にもある程度のテンプレートを用意させてもらった。

 大まかに説明すると‥‥
1・イニシアチヴの指定
 俊敏の高い順から行動を起こす。同じ俊敏値を持つ場合は知力が高い方から行動を起こす。
 それでも同じ場合はほぼ同時に行動を起こしたとみなす。
2・行動の指定
 参加者全員が行動を終了した時点で1ターン(T)とし、全6ターンで戦闘終了となる。
 そこで、1Tから6Tまでを攻撃、防御、移動などの行動指定に割り振ってもらう。
(例1・1T目味方○○と敵Aに対して接近して、スキル○○を使用しながら斬りつける)
(例2・4T目味方の状況を見ながら、○○が傷付いていれば援護に向かいそうでなければ、敵Bに対し追撃魔法を死角から詠唱)などなど。
3・勝敗判定
 6T終了時点でも上記のルールに添って行動不能者が二名いない場合は、三名の累積ダメージの少ない(より被害の少ない)方を勝利チームとする。
 ターン制となる以上は、回避率の高さ、抵抗力の強さ、そしていかにダメージを通さないか、仲間を守れるかというチームワークが必要不可欠となる。

 通常のプレイングに、6Tまでの行動を指定するという感覚でとらえてくれればいい。
 なお指定なしの場合は、行動していない(戦闘不能状態などの行動不能時も同様の処理を行う)とみなす。
 また、全体に効果を及ぼすスキルを使用する場合は指定は特に必要ないが、相手を指定しなければならないスキルを使用する場合に指定なしの場合は発動しない。

 熟考し、慎重にかつ大胆に行動をする事が望ましい。
 共闘の意味とその意義を改めて感じる事になるだろう。

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3527 ルーク・マクレイ(41歳・♂・鎧騎士・人間・イギリス王国)
 eb7879 ツヴァイ・イクス(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)
 ec0993 アンドレア・サイフォス(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)

●サポート参加者

アシャンティーア・ライオット(eb3575

●リプレイ本文

●激闘開始!
 六人全員が出揃った。高水準、高レベル帯が集まったと言われる今大会でもかなりの豪傑揃いだ。 
 それぞれがそれぞれに戦う理由がある。生き延びなければならない理由がある。
 ――それが攻める戦いであろうと、守る戦いであろうと。
 観客たちだけでなく、闘技場の外にまでその滾る熱気が放出されていた。そして、遂に、戦闘開始の合図と共に地響きみたいなオーディエンスの咆哮が響き渡った!

 開始の合図と同時にほぼ全員が動き出す。だが、大事な事がある、それはイニシアチヴだ。もちろん『ほぼ』同時に動いている分、その差は歴然としたものではなく、状況によっては僅かなニュアンスでしかない場合もある。
 しかし実際にはその一瞬の決断、一瞬の差で勝敗が決するケースも少なくない。
 理由は簡単だ、その一瞬で――生死のプライオリティが――決するからである。
 闘技場での通常大会で一度でも苦渋を舐めた事がある者なら理解できるはずだ。そのイニシアチヴの差で、結果、「何もさせてもらえなかった」という事が往々にしてある事を。
 特に短期決戦ではそういう一瞬の差は大局をも動かす事がある。時間制限のある今大会のルールの中では、特にそのイニシアチヴの差は如実に物語ってくれる。

 最初に動き出したのは、ツヴァイだった。金や銀糸が縫い込まれた高価そうなローブを脱ぎ捨てた彼女は全員の行動を取らせる前に、一気にトリッキーな罠を仕掛ける! 事前に『ある細工』を施していた縄ひょうをイリアに投げつけ、呪文詠唱を潰しにかかる作戦に出た!
 布陣が完全ではないところに、高速のナイフが飛んできたのである。
 イリアはとにかく、アイスコフィンで凍結させる事で戦線離脱させたかった。ルール通りの2KOのひとりをアンドレアと考えていたのだ。しかし、いきなりのツヴァイの縄ひょうが飛んできたのを回避するしかない! そこから反撃するにはやはり高速詠唱でのアイスコフィンしかないが‥‥。
「!?」
 ツヴァイの投擲した縄ひょうから、仕掛けが発動する! 呪文詠唱を投げナイフで阻止するのではない。『物理的に』詠唱不能状態にし、戦力を削る戦法だったのだ! ナイフの根元にくくりつけられていた袋がツヴァイの引き抜く動作と共に炸裂し、内容物がぶち撒けられたのである。
 ――それはメイで日常的に見られる、スパイスの一種だった。
 回避しながらの詠唱を試みようとしていたイリアは、この一瞬で口の動きが止まってしまう。いや、すでに遅かった。気がついた時には舞い散っていたのだから。
「(‥‥少し、吸い込んだかも)」
 少し肺に入ったかどうかは定かではないが、この瞬間、短期決戦におけるイニシアチヴの優位は一気に『紅い三連星』に傾いた。このまま押し切られるのを嫌ったイリアは『散らす』為にアンドレアを中心にしたアイスブリザードを発動させる。
 アイスブリザードは攻撃魔法だ。高速詠唱が使えない以上、通常詠唱に切り替えるしかないのが辛かった、しかも例のスパイスは髪の毛や服にも僅かに残っているから思い切り息を吸い込む事も出来ない。一息で詠唱を終えるしか、このターンで生き残る術はない。
 しかしこれがイニシアチヴの残酷な一面。全体的にほぼ同時に全員が動いている現実世界は、口よりも先に手が出るのが早かったりするものだ。イリアとフォーリィ、そしてアンドレアはほとんど同時に動いていたのだから。
「何でもいいけど、赤さにかけてなら負けないわよ!」
 フォーリィは渾身の力を込めて爆熱の波動をイリアを中心に振り抜いた!
 ツヴァイの最初の罠を回避した事が彼女にとっての最大のミスだったかも知れない。イリアも必死で詠唱を続けながらの行動は不可能だという事は身を持って覚えているし、このタイミングが一番危険な状態である事も知っていた。しかも。
「――くしゅっ!」
 人間だろうが、エルフだろうが、鼻という器官があれば当然鼻水も出るしくしゃみも出る。誘発されれば、尚のこと。
 更に、先に倒しておきたかったアンドレアがツヴァイと同じく、距離を取ってのスピアの投擲を仕掛けてきたのだ! 徹底的に魔法使いから潰していくという勝負に徹した戦法はとにかく、イリアにとってはかなり厳しいものとなった。
 だが――。
 フォーリィのコンボアタックとアンドレアのスピアが到達する寸前で陣形が完成したルークとマグナによって物理的に遮断されてしまう。いや、この場合、肉壁に『吸収』されたと言った方が近いかも知れない。ダメージにはなるが、狙わせないという作戦だ。
 一点集中で距離を取ってのウィザード狙いの『紅い三連星』に対し、とにかく強靭な肉体で壁となりイリアのアイスコフィンで戦闘不能にする事でルール上の勝利をもぎ取ろうとする『チームアドミナル』。

 一巡目では投擲と奇策を散りばめての優位に立った『紅い三連星』だが、それも、この二巡目以降では苦し紛れでしかない。
 ここからは接近戦に持ち込むしかなかった。
 ともかく、ウィザード潰しを成功させなければ最後の最後まで苦しい展開になる事は目に見えて明らかだったからだ。
 ツヴァイは一気に迫撃する!
 すぐ背後にはフォーリィもいる、このタイミングで自分たちの戦況をショートレンジにしない限り、優位は保てない事を知っているからだ。
 目の前には、マグナ。そしてルークを挟んでイリアがいる。前衛の壁二人を突破しなければならない所だが、その部分で言えばツヴァイは楽だった。倒すことは出来なくとも、すり抜けるだけなら今の彼女でも何とかなりそうだったからだ。
 一瞬の隙を影を縫うように踏み込んだツヴァイがイリアを狙った!
 だが、大会のルールを熟読していたイリアはここで秘策を放つ。
 接近戦を嫌う一点に狙われたイリアは、速度の点で一枚上手のツヴァイはともかく、威力が脅威となるフォーリィとぎりぎりの距離感を保つアンドレアのどちらかに狙いをつけなければ、先手を取られた後手の劣勢は覆せないと踏んだ。難しい選択だったが、頭と体に付着したスパイスを払い落としながら後退する事を選んだ。
 時間稼ぎに高速詠唱ミストフィールドを展開すると『チームアドミナル』は更に距離を取り、アイスコフィンの準備の為の布石を稼ぐ作戦に切り替えたのである。
 この濃霧が今まで優位だったマージンを一気にゼロに持っていく鍵だったのかも知れない。視界を遮られたツヴァイとフォーリィ、そして距離を取っていたアンドレアは『その場』から移動しなくてはならなくなったのである!
 だが、霧の中に消えた三人を追うには余りにリスキーすぎる。だがそれを嫌って後退すれば、距離を取られて一人ずつアイスコフィンの餌食だ。
 ルークとマグナはイリアの生み出した霧に乗じて彼女を守る為、無理にツヴァイらを迎え撃たず後退に準じる。次の一手で逆襲の輪舞曲(ロンド)を奏でる為に――。

 深い霧を抜け出したのは、ツヴァイ。今までの流れから見て常に先手で動ける事を知った彼女はともかくその速度を維持する事に全力を注ぐ。フットワークを活かしたアウトレンジからの踏み込みを狙っているのか、無理に突っ込まずにいるのが不気味に映る。またも何か秘策を思いついたのだろうか?
 だが、それはイリアにとってはベストな結果を残してくれた。最大のチャンスである! しかし、狙うべき相手が濃霧から抜け出してきていない事に気付いた彼女は、またもアイスコフィンではなくアイスブリザードを選択せざるを得ない。その一瞬の判断が、戦いの均衡を打ち破るターニングポイントでもあった。
 もたついているフォーリィとアンドレアは見えない場所から襲い掛かる凍てつく吐息に成す術がなかった!
 それでも、その吹雪が吹いている方向こそがイリアのいる場所を示している。二人は直感だけを頼りにアイスブリザードの風上に向かって突っ込むしか他、残されていなかった。この場でもたもたしていたら、何度でも同じ手を喰らってしまう。一度二度なら体力も持つだろうが、それでは全滅してしまうだろうからだ。
 ――抜け出すしか勝ち目はない!
 ツヴァイだけ抜け出していたが、もしこのタイミングで近付いていたらイリアは狙いを変えて彼女を氷の棺にぶち込んでいただろう。しかしそれをしなかった、イリアの選択は、実は正解だった。ルールでは全てのターンが終了した時点で、累積ダメージの少ないチームに勝ちが与えられる。つまり、攻撃してこない相手なら相手をせずに『削って』いけばいい。攻撃してくればカウンターすればいいのだ。
『チームアドミナル』は徹底した防壁と一気に行動不能にさせるアイスコフィン、そして遠距離からのアイスブリザードがある。
 ブリザードは高速詠唱が使えないが、時間稼ぎさえ可能ならさして問題ではない。何とか霧から抜け出したフォーリィとアンドレアだが、このターンからじりじりと『紅い三連星』はその優位を覆される事になる。
 しかし、霧の中から姿をあらわしたのは――破滅の蒼眼をたたえた赤い髪の魔神だった‥‥。

●激闘クライマックス!
 マグナを相手にカウンター封じを狙うツヴァイ。フェイントを効かせた戦いはトリッキーな戦術と相まって更に相手を『深読み』させる。
 まだ何かあるのではないか? どちらが陽動なのか? 或いはこれが本命か?
 その考える時間を与える事で更に不意を突く隙が生まれる。フェイントというのは単体では成立しにくいものだが、今回は初手からの布石があり、時折正面からの攻撃を加える事で惑わす事に成功していた。
 致命傷となる一撃を加える事ができないツヴァイだが、『削る』事なら出来ると踏んだツヴァイはイリア狙いからマグナという壁に傷をつける方法へと切り替えたのだ。思惑通り、デッドorライブで致命傷を免れているマグナだが肝心のカウンターが狙えない。一発逆転をはらんだ戦法だが、カウンター抜きで通常攻撃するしか選択肢がなくなっていたのは、計算外だったかも知れない。
 それでも鉄壁とも思える強靭な鋼の肉体はツヴァイの奇策をものともせず、その豪腕から繰り出される魔力を帯びた斬馬刀の一撃は、幾度となく依頼を共にしてきた『戦友』をも震え上がらせるに充分だったといえる。
 イリアはソルフの実で魔力を充填すると、マグナとルークに守られる形で、体勢を整える。
 最後の最後まで――生き残れば勝機はある!
 ここからは一気に乱戦状態に突入した。
 フォーリィは遂にルークを捉えると大振りの斧に気圧される事無くポイントアタックで連続攻撃するとルークはそれをデッドorライブで致命傷から免れる戦法とカースエグゼキューショナーズの一撃で対抗する!
 アンドレアは距離を保ちながらもマグナの気を逸らしつつまだ生き残っているイリアを狙い、踏み込んでいく。ツヴァイと剣を交えていたマグナは苦しい体勢でアンドレアの前に立ちふさがった。
 だがその一瞬の攻防はアンドレアに味方する!
 マグナが壁になった代わりに、その視界が遮られたのだ。イリアはアンドレアの更に一歩踏み込んだ剣を避けられず、ふとももに激痛を覚える。
「痛ッ‥‥!」
「よしッ!」
 かすり傷でも、蓄積されれば効果がある。それでなくともこのまま戦闘終了すればこのダメージはリザルトに影響するのだ。
 アンドレアの一撃は確実にヒットしたのだ。後は回復する暇さえ与えなければ――。

 ドシッ

「カースエグゼキューショナーズの威力は、折り紙付きだ」
「‥‥な、に‥‥」
「この一撃で、全てを刈り取ってみせるぜ!」
 ルークの、防御からの反転。鉄壁の防御、命尽きるまで守り通すと覚悟したその強い心から生み出される、血塗られた剛斧がアンドレアの不安定な体勢をぶち抜くように吹き飛ばした!
 目の前はマグナに阻害され、かろうじてイリアに届いた刃は切っ先だけ。その背後から2メートルはある長い柄を持つ処刑斧が視界の外から真横になぎ払われたのだ。
 アンドレアは強烈な衝撃を左わき腹に覚えながら、自分の両足が闘技場から浮き上がるのを感じる――。
「ヴッフ‥‥ッ!?」
 ルークとアンドレアの実力差はほとんどない。身長も体重も、ほぼ変わりない。その二人の明暗をはっきりさせたのは、一瞬の油断と、温存した体力の差だった。
 アンドレアはイリアにダメージを与えた事で自分達に『巡り』が回ってきたと安堵したのである、ところが後手の『後の先』を貫いたルークがその油断を、文字通り刈り取ったのだ。さすがに不安定な姿勢だったのはアンドレアと同じ条件だった為一刀両断に伏す事こそ出来なかったが一気に『チームアドミナル』側に有利な条件へと移り変わる。
 女性にしては大柄なアンドレアさえも軽く吹き飛ばした威力は、『処刑執行人』の異名を証明させるに充分だった。アンドレアはその一撃で、不意を突かれ一瞬息をする事ができない状態へと追いやられる。
 フォーリィの攻撃を耐え抜いたからこそ可能になったルークの起死回生の一撃だ!
 更にマグナがフォーリィを狙い引き寄せるように斬馬刀を振り降ろす! しかし届くか届かないかという絶妙な立ち位置で、しかもフォーリィがルークに袖を掴んで引き抜くように壁代わりに回避した事でなぎ払う事が出来ない!
「微温(ぬる)いよ‥‥」
 フォーリィの口元が、いびつに歪む――狂化だ。いつもの明るい彼女の面影は無く、そこにいるのはサディスティックキルマシーン。
 戦いは、遂に最終局面を迎えた。

●決着!
 互いの執念。互いのプライドがぶつかり合った。どちらも退かず、どちらも負けるつもりなどなかった。
 だが、勝負は最後の最後、たった一撃で決したのである。

Q:急にウォーターボムが来た?
「急や――じゃなかった。あれは無理、避けられる訳ないよ! ああ、残念、悔っしいなー」
 試合終了後に彼女は嘆息しながら答えた。

 決着は、やはりウィザードのイリアが鍵を握っていた。もちろんそれを守り続けたマグナとルークがいたからこそだが。
 最終ターン、イリアの放ったウォーターボムがフォーリィに直撃。その直撃でフォーリィの体力が底を付いた。
 気力だけで膝をつく事は無かったが、試合終了の合図は既に記憶が無かったと語る。冷静に事を運んでいれば、回避の余地は残されていたかもしれないが、あの極限状態で彼女が『狂化』しない可能性はほとんどゼロに等しい。

 もちろん、条件さえそろえば、どちらにも勝機はあった。だが、その勝機を掴む事がどれだけ重要なのか。
 それは最後まで自分の仕事をこなす事だ。それが最大に集約されているのが、連携である。これから先どんな依頼があろうと、互いの役目を果すことが出来れば必ず目的を達成できるだろう。
 今大会の稀に見る激闘、ベストマッチ賞を得た二つのチームは特別報奨として金貨十枚を特別支給された。