ウタウタイの詩

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月11日〜07月16日

リプレイ公開日:2007年07月15日

●オープニング

●失われたエンシェントリリック。
 古くから語り継がれる伝承、伝説。そんな伝説は、時として『舞踏』や『歌』として遺されている事がある。
 現在の吟遊詩人や踊り子は、それを継承して踊り継がれ、また、歌い継がれてゆく後継者たちだった。

 メイの国にもそういった『歌』の形をとった伝承や伝説が幾つもある。もちろん、時代の狭間で完全に途絶えてしまった歌もある。
 だが、稀に、偶然にも突然それらが甦る事もある。
 例えば歌詞こそ途絶えてしまっていてもメロディを覚えている者がいたり、紙が無い時代には石盤に物語を刻み込んだりしたものが発見されたりする。
 そういった一度は消えかけた歌を復元しようと世界の伝承などを『歌』の方面から学ぶ考古学者であり詩人の男がいた。
 彼は元は天界の人間で、突然こちら側に飛ばされてきた一人だった。

 歌だけでなく、楽器などにも詳しい彼はこちらに来てから、間もなくして弦楽器の未熟さに舌を巻いた。
 同時に管楽器の拙さも感じていた。精霊や魔法というファンタジックなものが溢れている世界で、そういった楽器たちはまるで時代に取り残されたような『古さ』を彼に与えるのみだったのである。
 時代的には非常に古いもの、つまり、楽器の黎明期だと判断した彼は調査を進めているうちに、意外なほど打楽器のバリエーションの豊かさに気付かされる。
 元々打楽器の元祖は動物の皮などをなめしたものを使った、太鼓類――。楽器分類学では膜鳴楽器と呼ばれるものが多く、そしてこのアトランティス・東方、メイの国には思った以上に『珍しい動物たち』が多く生息している。
 つまりそれだけ、珍しい動物の皮で珍しい音色の、珍しい打楽器が生まれているという証明でもあったのだ。
 また、吹奏楽からの視点で見ると管楽器は拙いと思われていたが、角笛(元来の意味でのホルン)という文化はメイの国でも通常的に普及していたし、その材料である角そのものが、アトランティス特有のファンタジックな動物たちの角であったりした事を再発見し、驚愕する事になったのである。また木管楽器などの文化も定着していた。

 そして、この考古学者の男が最も驚いたのは、リュートベイルと呼ばれる楽器であった。
 どうやらこのリュートベイル、もちろん楽器としての完成度は現代のものと比較すればやや原始的な構造ではあるものの、その材料である木材が、天界で言うところの『普通』の素材ではない事を知ったのである。
 更に驚くべきはこの楽器、使う者によっては、楽器ではなく『盾代わり』に使っている事があるらしい。
 せっかくの楽器を盾代わりに使うなんて信じられない! 男は驚嘆と少しばかりの苛立ちを覚えるのだった。

●修復師としての意地!
 失われた文化、失われた技術、失われた言葉。時代と共に消えていくそれらを全て救う事は出来ないのかも知れない。
 それでも、少しでも現代に復活させたいと思うのは、彼が考古学を重んじてきたからというだけではなかった。
 その失われつつある文化の片鱗に伝説の真相が隠されていると感じたからであり、そこには、いわゆる。
『男の浪漫』があると感じたからでもあった。

 セルナー領の中央、沿岸部のとあるちいさな村。
 村人もほとんどが新しい村に移動し、残された村人たちがひっそりと暮らしているそんな名も無い村に、その名残があった。
 良質の木材が手に入り、木製の家具や雑貨、そして楽器類などの製造を細々と行ってきた村だ。
 そこでは極稀に、魔力のこもった木材が手に入るという。
 特にオークなどがそうで、オークボウなどの武器にも使われる極上の木材のひとつとされる。また材質から木造の住宅などにも用いられ重宝されるものであるが、そんなオーク材で作られた品々は、独特な力が感じられるという。必ずしも魔力というカテゴリに分類される訳ではないようだが、『不思議』な感じがする事は多いらしい。
 そのせいか、モノによっては安心感を覚えるものもいるし、大儀でいえば強い『木のぬくもり』が感じられる事が多いという。

 ところがその村の木々は年々減少傾向にあり、生産量も減り、その影響から村は過疎化。次第に別の村へと引越しせざるを得ない状況になってしまったのである。
 男はそんなオーク材の評判を聞き、どうしても木材を手に入れたくなった。
 神木と呼ばれる木材でリュートを、自分の手で復元したい――。ただ、それだけの思いだった。

●舞い込んできた、依頼。
 今回はその考古学者の男の護衛と木材の運搬などを手伝ってもらう為に冒険者ギルドに協力依頼がはいった。
 目的は護衛、とあるが、どうやらその村が過疎化した原因のひとつに、森林伐採の影響だけでない、魔物の出現という現象が重なった事が挙げられた。
 また、時折カオスニアンの小規模の群がやって来る事もあるらしい。幸いなのか見放されただけなのか、カオスニアンは村を壊滅させようとはせず、『抜け道』代わりに使っているようにも見えるという情報がある。過疎地である事を隠れ蓑に、ほとんど知られない裏道を見つけ出したのだろうか?
 もしそれが本当なら、カオスニアンの進行、或いは後退、もしくは隠れた拠点の発見にも繋がるかも知れない。
 今回の男の護衛はそんな魔物(と言っても子鬼程度らしい)やカオスニアンらから男を守り、より安全に木材を入手する事である。
 無駄な戦いは出来るだけ避け、彼の目的である楽器作りの手助けをしてもらいたい。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec3308 美剣 亜珠華(29歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●胸いっぱいに吸い込む朝の息吹
「ジャクリーンと申します」
 さわやかな朝の。その青空の下、集まった冒険者たち。ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)はすっと、手を差し伸べ挨拶をすると依頼人である男もそれに応えるように握り返すと自己紹介を返す。
「はじめまして、ああ、まだ名前を言っていなかったね。考古学者であり、楽器奏者。つまりこっちの世界では吟遊詩人をやっているユニウスという者だ。あちらの世界では『ユニ』などと呼ばれていた。今回はよろしく頼むよ」
 ジャクリーンのすぐ傍にはレフェツィア・セヴェナ(ea0356)とシルビア・オルテーンシア(eb8174)のエルフ族がいたし、その後ろにはトリア・サテッレウス(ea1716)と導 蛍石(eb9949)の男性陣が待っていた。
 非常に頼もしい彼ら彼女らの姿を見て、依頼人のユニはそれまで僅かに残っていた不安をようやく拭うことが出来た。エルフ三人娘を見ながら、彼にとってはその物珍しさから上下に舐めるように思わず魅入ってしまったが、シルビアの軽い咳払いで我を取り戻す。
「そうそう、今回は木材の確保という事で事前に荷馬車を用意しておいた。さすがに担いで持ってかえるような代物じゃないからね」
 伐採の許可などもすでに得ているので、事前のトラブルなどはほとんど無いはずである。あるとすればやはり噂通り魔物の不意の出現などのエンカウント位だろうか。
 だが、それを退治してくれる冒険者はここに勢ぞろいしている。余程の事がなければ、問題ないレベルだろう。

「楽器については詳しくありませんがオーク材で出来た品というのは良い物ですからね、私も以前オーク材で出来た弓を使っていましたが手に馴染んで扱い易かったですわ」
 神木と呼ばれるオーク材の入手、という事について以前オーク材を用いて作られた弓を駆っていたジャクリーンからもその使い勝手のよさを聞くことが出来た。
 武器として代表的なのはやはりオークボウなどで、意外な所では酒樽の樽に使われる木材がこのオークである。
 木の性質からすると非常に柔らかいのが特徴で、刃物の通りがよく、その為加工するのに適した木材といえる。一つ注意しておきたいのは、全ての種がこれに当てはまらず、木肌が粗めの堅いものもある。
 しかし共通しているのは加工が比較的楽であるという点。その為椅子などの家具などにも用いられている事が多い。
 また、これらは『キング・オブ・フォレスト』などと呼ばれ、樹形が美しく、豊かな森をつくって生きものを育み、また材としても用途が広く、まさに森の王――。
 原生林で育ったオークの古木には威厳があって、木こりたちも斧を入れるとき畏敬の念を抱くという。
 そういう背景もあり、このオークという木はまさしく神木と呼ばれるに相応しいものと言えた。
 森の民であるエルフたちもその森に根付く巨木としてのオークはよく知っていて、樹齢の長さも長寿のエルフたちにとって馴染みの深いものだろうと思われる。
 ちなみに、酒樽に使われるホワイトオークは樹齢百年以上のものが使われるという。もし時間があったら酒場でも覗いた折に酒樽をあらためて眺めてみてほしい。

 時々戦闘描写などで樽にぶつかったり投げつけたりして壊される描写があるが、個人的にはこんなに尊い木で作られたものをそんなに平気で壊していいのかと、少し悲しくなってしまう事もある。と、それは置いておいて。

「それでは早速出発しましょうか」
 荷馬車に乗り込んだ冒険者と依頼人。手綱をシルビアと導が交代で引いた。
 ペットで馬を用意していた者は随行という形で護衛行を取るのだった。

●そよ風のシンフォニー
「音楽ってすっごいステキだよね。それ一つだけで楽しくなったり悲しくなったり」
「僕たちのいた世界では音楽はとても身近な存在で、音楽を聞くと懐かしい情景が思い出されたりするのですよ」
 レフェツィアの言葉に、ふと、郷愁の念が胸をよぎる。
 もう二度と帰る事は出来ないかも知れない――この世界、アトランティスにいる天界人に話を聞いてもほとんどはこう答える。
 それでも、『こちら』には『こちら』なりの良さがあるし、せっかくこの世界にいるのだから、それを学ぶのも悪くない。帰る事を諦めた訳では無いが、天界人のほとんどはそういった気持ちの切り替えが必要である事には変わりないだろう。
「どんな楽器ができるのか、楽しみですね」
 荷馬車を引く手綱の交代に入った導は、緊張の中にも楽しそうに手綱を握る。
 護衛の為周囲を厳しい表情をして見回している騎士トリアも、オーク材によるリュートの復元という興味深い内容に、内心胸が高鳴っていた。彼の手元には、吸い込まれるように『馴染んだ』リュートベイルが握られているのだ。
「僕は吟遊詩人であり、同時に騎士でもあります。このリュートベイルには楽器として盾として、何度も助けられて来ました」
 リュートベイルを盾として使う事に対して、最初はやや嫌悪感を示していたユニだが、トリアのその言葉の重みにはリュートベイルと同じだけの『経験』という名の説得力があった。
 ――付き合ってきた相方としての、信頼という名の重みだ。

 荷馬車での移動という事もあって、若干行程が遅れてしまい、到着は夕暮れになってしまった。
 この時間から作業というのは色々と面倒なので、今夜は野営して朝一で作業に入ろうという事で全員一致。
 夜間の交代は男性陣と女性陣で交代という事になった。

●ユニ
 ぱちぱちと爆ぜる焚き火の炎を見つめながらトリアはふと思い出したようにちいさな金属製の、更に小さな穴がいつくも空いている箱のようなものを取り出して手渡した。
「実は――これの事なのですが」
「これは、確かにハモニカだね。天界って事は僕がいたところだ。そこから僕の様にこちら側にやってきた楽器って事になる」
「折角ですから、これの使い方を教えて頂けませんか? 息を吹き込む楽器と言うのは分かるのですが、どうにも演奏できなくって」
「ああ、いいとも。ちなみに、この楽器はね吹くだけでなく、逆に吸い込む事でも音が出る珍しい楽器なんだ」
 世界中の吹奏楽器類を捜しても、吸って鳴らす楽器はハーモニカ位なものだろう。彼が言うにはかなりの年代のモノでクラシックなモデルだという。
 ちなみに、厳密には管楽器ではなく、オルガン類に属するものとなっている。吹奏楽器ではあるが『管体』を持っていないのでカテゴリ上ではそういう事になっているらしい。
「ハモニカメーカーなんていうのはそんなに多くは無くて、だからすぐに何だかわかったよ。詳しく言って聞かせても中々理解しにくいだろうから簡単に説明しながら試しに演奏してみようか」
 楽器に詳しいというのは起源などの歴史学知識だけでなく、それをどうやって演奏するものなのかを知る必要がある。特に復元師としては構造理解などにも精通していなければならないからだ。
 そしてトリアのハーモニカはユニの手によって、しばらく眠っていた時を取り戻すかのように深みのある独特の音色を響かせていた。
 言った通り、吹いても吸っても音が変化しながら発せられ、その場の全員は不思議な音色に驚きと今まで聞いたことの無い世界に酔いしれていた。
 ――ところが。
 このハーモニカの、言ってみればこの世のものとは思えない音色に誘われるように、闇夜に黒い影が蠢きはじめていたのである。

●黒い影、来る!
 森林や山の中などで楽器を奏でたことがある者なら、一度は感じた事があるだろう。
 実は木々は呼吸をしていて、楽器に共鳴する事がある。大自然のコーラスといってもいいだろう、そういう不思議な現象が稀に起こることがある。特に木製の楽器だとよりはっきりした共鳴を感じることが出来るという。
 今回は金属製のハーモニカだったが、天界とアトランティスという、二つの異なる世界の邂逅によって別の意味での『反響』が伐採林に響き渡った。
 そしてそれが意外な事に、エルフたちの耳に『あだなすもの』の存在を知らせる事になったのだった――。
「森が‥‥ざわめいています‥‥」
 シルビアの目がふっと厳しくなる。ジャクリーンもレフェツィアも黙ってそれにうなずく。
「魔物を呼び寄せる魔笛、という訳でもあるまいに」
 木々の鳴動に導の持つ木剣も共鳴しているように感じる。素早くデティクトアンデットを唱えて周囲を探るものの、どうやら相手は『不死者』ではないらしく期待通りの結果は得る事ができなかった。或いは、まだ遠いのか――。
 だが、どちらにせよ少なくとも闇夜に溶け込む敵の姿は確実なようである。
 近付かれる前に、レフェツィアは慈愛の神の祝福を皆に与えるとユニと一緒にやや後方に下がった。

 村の報告にあった、魔物とやらか。カオスニアンか。
 しばらく息を潜めていた奴らは、冒険者の数を数えて数的に有利だと思ったのか、勢いよく飛び出してきた!
「噂通り、ゴブリンか」
「少し違いますね、こいつらはホブゴブリンだ。八体、という所ですね」
 トリアと導が隊列を組みなおしぐぐっと前方に出やると、目配せで配置を入れ替えるシルビアとジャクリーン。
 一斉に飛び掛ってきたホブゴブリンの群に対し、その勢いに止む無しと考えた冒険者たちはシルビア、ジャクリーンの二人の弓の援護をもらい、トリアと導は果敢にも応戦体勢に入った!
「少林寺流、蛇絡!」
 導のコンビネーションアタックに、もろにぶち当たった子鬼はたまらずぶっ飛んでいく。
 深夜の森の、ほとんど明かりの無い、闇と静寂の中でトリアは、言葉ではなく行動で『相棒』を使いこなす姿をユニに見せつける事となる。戦う事にのみ使われている訳では無い。
 だが、この世界には敵も多いのである。
 冒険者である以上自分の命は勿論、今回のように依頼人を護衛しながら戦う事は多い。だからこそ、使えるものは使うべきだし、そうする事で『活かされてくる』事も多いのである。
 実際にトリアが取った戦法は非常に効率的で、最小限のダメージに抑えつつ最大限の攻撃にして返す事でリュートベイル本体への蓄積ダメージを極力低減させている。
 吟遊詩人だからこその楽器への愛情と、騎士として戦う側の、命を預ける為の――信頼としての、武器或いは防具への愛情。それらが背後で見ていたユニの目にもはっきりと映し出されていた。
 また、シルビアの弓の正確さ、ジャクリーンのダブルシューティングによるレンジの広いバリエーション豊かな攻撃。前衛と後衛、それぞれバランスの取れた立ち回りのおかげで、ほどなくしてホブゴブリンの群は全滅。
 それからは穏やかな夜を過ごす事が出来た。
 逃げた様子も追っ手の気配もなく、またその後カオスニアンらしき影もなく、朝を迎える事になったのである。

●伐採班と警戒班
 朝になり、早速作業をはじめる事になった伐採班。一応力仕事という事で男性陣が担当する事になった。
 そして昨晩の事もあるので、増援部隊の警戒やカオスニアンが使っている可能性のある『抜け道』の形跡を探索するチームとに分かれた。こちらは森の民、エルフの三人娘が担当だ。

「森林伐採による環境破壊が問題だと、僕のいた世界ではまるで悲鳴の様に叫ばれている。だけど人々は進化を止めることは出来ないんだ。その為には人間達はもっと進化して、今度はその進化を環境へと還元していく時代にしようとしている」
「森を壊すというのは、確かに深刻かも知れませんね」
 ユニはトリアと共に玉のような汗を噴きながら斧を入れる。その一刀一刀の響きが、森に浸透していく。
 神木への感謝を両手に込めて、大きく振りかぶるのだ。
 一本一本の生命に、あるいはアトランティスではそれを『精霊』と呼び、それらを分け与えてもらうという気持ち。
 何年も、何十年も。状態によっては百年を越える愛される木の温もりをいつまでも残しておきたいという純粋な気持ち。
 そういった心が、両手に構える斧に光を宿らせていった。
 さすがに重労働だったのか、ユニは後半バテてしまい結局導にも手伝ってもらい、斧を打ち続ける。

 昼になって戻ってきた三人と一緒に食事を摂ると、疲れた体も忘れるように、ユニとトリアのセッションがはじまった。
 ギャラリーは少ないがオークに対しての感謝の意味合いもあって、森のコンサートはゆったりとした時間をバックに木々に響き渡っていった。音楽は生きている全てのものに安らぎを与える。
 時には勇気づけられ、時には思い出と共に流れてゆく。
 喜びも悲しみも共にあり、それが聞くものに様々な思いを届けていくのである。

 休憩を終えるとまたそれぞれに分かれて、行動を取る。
 しかしどうやら伐採場の付近にはカオスニアンが使っているであろう獣道のようなものは確認できなかった。
 もう少し範囲を広げていけば発見する事はできるかも知れないがそれでは今回の役目とは少しかけ離れてしまう。
 依頼は護衛であり、カオスニアンの発見及び殲滅ではない。確かに『抜け道』ルートの発見が成功すればメイディアにその旨報告し別件で詳しい探索作戦が開始されるかも知れないが、今回は深追いするような状況では無かった。
 伐採班は午後をたっぷり使って、ようやく巨木を倒す事に成功。器具などを使って荷馬車に載せるまででタイムアップ。
 夜を迎えてしまった為、もう一日野営する事となった。

●夜更けのサプライズ
「私は楽器を演奏する腕は持ち合わせておりません。ご迷惑でなければ、貴方がお持ちいただければ、楽器も喜ぶと思いますので、よろしければどうぞ」
 その夜、導はユニにヴァードネの竪琴を譲る事に決めていた。楽器に触れている者の手に渡った方が良いと考えたのだ。
「ふむ‥‥これは‥‥。いいかい、導。実はこの樫の木で作られたハープ、これも実はオーク材で作られているんだよ」
 それを聞いた導も皆も、さすがに驚きを隠せない。
「オークは、その多くが落葉樹だけれど、常緑樹の種も含み、あわせて数百種以上あると言われている。この木も分類ではオークで作られているんだよ」
 もちろん、受け取ったユニもこの竪琴に魔法が込められており、伝承が隠されていると聞くと相当驚いていたようだが。

 夜も更け、交代で夜間の見張りをするもゴブリンらの動きは見られなかった。また『抜け道』から離れているであろう伐採場付近にカオスニアンの影は見当たらなかった。
 そして冒険者らとユニは何事もなく朝を迎え、さわやかな朝の匂いを感じながらも一行は帰路についたのである。
「今回は本当にありがとう助かったよ。僕はこれからこの村に残って少し資料を集めながら復元作業に取り掛かる。もし良かったらその時はまた手伝いに来てくれるとたすかるよ」
 冒険者たちに別れの挨拶をすると、彼は遠くに見えなくなるまで両手を振って冒険者らの帰還を見送っていた。