戦火への帰還――辺境遊撃隊

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月16日〜07月21日

リプレイ公開日:2007年07月21日

●オープニング

●白馬に乗ったお嬢様――辺境遊撃隊
 新造強襲揚陸艦、ペガサス級三番艦『ホワイトホース』が遂に完成した。
 なお、『八八艦隊計画』によると、このホワイトホースを含むペガサス級四艦にエルタワ級輸送艦四艦を以て八艦の大艦隊戦を想定しているらしい。
 艦長には、19歳の若き女性艦長を起用し、新造艦とのイメージもあり若々しさをアピールしたフレッシュな構成となっている。
【ホワイトホース艦長】
 ラピス・ジュリエッタ 19歳。元ゴーレムのテストパイロット経験者で、貴族出身の超おてんばお嬢様。
 数々の異名を持つ彼女の新しいあだ名は、新造艦ホワイトホースになぞらえて『白馬のお嬢様』。
 
 なお――このホワイトホース。
 公表されているスペックとは若干仕様が異なり現時点でモナルコス(後期型)を三騎搭載してあるのだが、肝心のパイロットの選出が遅れてしまい、結果的に正式パイロットが決定するまでの間、各作戦ごとに人員(兵力)補強をする際冒険者ギルドサイドから募集する事に仮決定した。
 これは試験運用にあてられたものであり、比較的自由に鎧騎士を搭乗させる事の出来るチャンスを多く与えようという一部の思惑もあったようだ。
 半ば実験航海という趣も感じられるホワイトホース隊。
 そういう意味では、この艦にはいくつかの試験的な運用を兼ねた作戦が与えられる事になっている。

●白馬、出撃せり!
 本来は『八八艦隊計画』の本隊へと帰属する事になっているホワイトホース、通称『白馬』。
 ところが、計画とは別に度々、無関係な作戦を押し付けられてしまう事もある。
 彼女たちは折角の最新鋭のフロートシップを持て余すような作戦ばかりが巡ってきてしまい、僚艦からは『辺境遊撃隊』などと揶揄されたりする事も‥‥。結果的に現時点での彼女たちの任務は別働隊任務に終始してしまう事になる。
 だがそれも、『八八艦隊計画』が本格的に稼動するまでの辛抱、といったところだろうか。
 しかし、この「遊撃隊」というスタンスがホワイトホースにとっては比較的自由な作戦が可能になっている。とても『身軽』なのだ。
 さて、ここからが本題。今回の作戦だが――。

●リザベに『還る』為に
「船を、降りたいですって‥‥」
「元々は船を仕上げてくれって依頼だけだったからね。まあ、確かにホワイトホース‥‥この子はクセが強いけどいい子だよ。少しの間だけは様子を見てあげようと思っていたけど――」
 レンジョウは遥か西方の地、リザベの地を望みながら。そよ風に前髪を手でかきあげる。
「前にも言っただろう。アタイはね、やっぱり現場が一番『生きてる』って気がするのさ。だから、戻るよ」
「でも、危険だわ! 噂では砦ひとつが無くなっていたっていうじゃない!」
 ラピスの制止は確かに正論であった。だが、理屈でどうこうという話では無かった。そして、誰も彼女――レンジョウを止める事は出来なかったのである。

 しかし現時点でリザベに帰還するには陸路も海路も穏やかな旅になるとは言えない。緊迫した情勢というのは誰の目で見ても明らかだからだ。
 それに彼女は最前線へと復帰したいと思っていたし、そこにタイミングよくレンジョウの帰還命令(というか、命令など基本的に聞かない為、形式上での『催促状』という形を取っていた)がリザベからメイディアへ送られてきたという訳だ。
 それにより、レンジョウが帰らない理由はひとつも無くなってしまった。引き止めたくとも、それは無理な話である。

 今回の任務は、ゴーレムニストであるレンジョウ・レンゲを護衛しながらリザベへと直行する作戦である。
 レンジョウを送り届ける直前、或いは直後。リザベ領のカオスの地国境付近に近付けば近付くほど戦火に巻き込まれる可能性が高い為、このタイミングでのリザベ行きは非常に危険である。
 しかし彼女を送り届ける事が今回、辺境遊撃隊ことホワイトホース隊(白馬隊)の任務なのである!
 相当数のカオスニアン及び恐獣らがリザベ国境付近に――と言っても、現時点では各砦付近に集中しているらしい――出現しているという情報から、状況によっては戦闘を余儀なくされてしまう場合も可能性としては考えられる。
 そこで今回は対恐獣の為のゴーレム搭乗者だけでなく、対カオスニアン戦闘にも耐え得る、前線で戦える冒険者を募る事にした。

 勿論、全力で戦闘を回避しながら護衛任務を果すという選択肢もあるが、敢えて排除した後安全に届けるという選択肢もある。
 状況によって行動も変化する為、一概にセオリー通り事が運ぶとはいえないかも知れない。
 ただ一つだけ言えるのは、命をかけてもレンジョウをリザベに届ける事――たった、それだけである。
 募集した戦力としての冒険者は十名。また、ホワイトホースに割り当てられているゴーレムは艦載機であるモナルコス後期型が三騎である。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4322 グレナム・ファルゲン(36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●命を賭しても。
「今回の作戦は、レンジョウ・レンゲを護衛しながらリザベまで飛ぶ事。とにかく、それさえ出来ればいいわ」
 ラピスはこの言葉を最後まで喉元まで抑え付けていた。
 だが一度受けた命令は最後までやり通す。例え自らの命を賭けてでも、必ず送り届ける――。

 今回は鎧騎士の搭乗者が三名で、そのうちの一名、ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)の要望で今回の作戦専用にモナルコス一騎をゴーレム弓に換装。更に弓用のチューニングを施し、弓特化ゴーレムとまではいかないまでも、搭乗者の能力と状況如何によっては効果が期待できるかも知れない。
 元々白馬隊は様々な『実験要素』を含んでいる。モナルコスを弓装備に換装しての戦況データ取得などを王宮や工房に報告する事を条件に試験装備仕様を許可された。毎回それらが『通る』かどうかについては難しいところだとは思うが、ともかく今回は多少特別な条件だったらしい。
 果たして、ゴーレム弓を装備したモナルコス一騎と通常装備のモナルコス二騎というバランスでの搭載となった。

「ラピスさんとレンジョウさんははじめまして、かのぅ。よろしくお願いする」
 やや外見よりも古さを感じさせる言葉遣いを見せるシュタール・アイゼナッハ(ea9387)は軽く挨拶すると現在のリザベの情勢を伺ってみる事にした。
「そうね、私が受けた報告では砦がひとつ消滅したほどの威力の『何か』がコングルストに落とされたって事。それが何かは知らされていない。消滅っていうのも言葉通りで、報告どおりならほとんど何も残されていなかったそうよ」
 ラピスが『落とされた』と表現したのにはやや含みのある意味があった。報告でしかないが、どうやら、周囲直径1キロメートルほどの地面がえぐり取られていたらしい。
 そして、それは――まるで隕石がぶつかって形成される――クレーターのようなものだった。
 唯一残されていたのは、焼け朽ちたゴーレム一騎のみ。そしてその中の搭乗者はとてもじゃないが無事ではいられなかっただろうという事。
「今回は襲ってきたカオスニアンの総数が桁違いよ。そこらの小競り合いと思っていたら、痛い目を見るわ」
 こんなタイミングだからこそ、彼女が呼び戻されたのだろう。
 だが、ラピスからしてみると、なにもこんな時に、という気持ちの方が強かっただろうか。
 本人はむしろ待ってましたとばかりのテンションの高さだったが。

 この状況での最前線への帰還とは、無理を通り越して無謀。言葉にこそ出さないが、グレナム・ファルゲン(eb4322)やスレイン・イルーザ(eb7880)だけでなく、誰もがこの作戦の意図に困惑を隠せない。
 それでもこの戦いに『ゴーレム』の存在は必要不可欠であると思うし、それらの担い手としての『ゴーレムニスト』はやはり必要不可欠といえるだろう。つまり、ゴーレムを主軸にしている以上はゴーレムニストの需要は高まる一方であるといえた。
 また、ゴーレムを操る『鎧騎士』の需要も高まる事は間違いない。
 阿修羅の剣を持つ勇者の出現を雲を掴むような思いで待つよりも、目の前の現実と対峙するには文字通り現実的な、メイにとっては当たり前の方針なのではないだろうか。
「あなたたちの使命は、レンジョウをどんな事をしてでも守り抜き、リザベまで送る事よ」
 ラピスの表情は厳しく、いつものまったりとした笑顔は消え失せている。
 最後の言葉がどうしても言えない。
(「――命を賭けるのは、私一人で充分よ‥‥」)

●最大戦速!
 航海士がいれば、というよりも『コンパス』がアトランティスで使用できればどんなに安全な航海が出来るだろう。もう既に答えは出ているがコンパスは使用不能である。そこで必要になってくるのは、非常に原始的ではあるが実は信頼性は機械のそれよりも圧倒的に高いものだ。
 ――ヒューマンパワーである。
 そして、このホワイトホース。強襲揚陸艦の名を冠しているように、相当の機動力を誇っている。
 突撃性能と言ってもいい、巡航速度は時速約70キロほど。最大速度(最大戦速)に至っては、なんと時速100キロを叩き出す。
 直線距離で突破すればメイディアとリザベを数時間で渡ることも、理論上では可能なスペックなのである。
 ただし、残念ながら様々な事情で肝心の『直線距離』での航行は難しく、現時点ではどうしても回り道を余儀なくされてしまう。
 それを支えるのが搭乗員の優良視力などを使った、地道なヒューマンパワーという訳だ。
 ゴーレムに登場しないメンバーとしては風 烈(ea1587)、イリア・アドミナル(ea2564)、ファング・ダイモス(ea7482)らが積極的に警戒担当として活躍する事になった。
 作戦通り、速度と安全なルートを事前に取得しての航行となった為、前半戦は敵影を発見する事なくハイペースで飛ぶことが出来た。
 昼夜を問わずぶっ続けで飛び続ける事も出来たが、いざという時の万全を期すために日が落ちると一時停止をして、短い休息を味わう事になった。
「ティトルに立ち寄り、そのままリザベへ向かうわ。コングルストが消滅して、ラケダイモンが孤立している状態だという事は、もしかしたらコングルストの間から大量のカオスニアンたちが流入している可能性があるという事」
 最悪、このまま孤立したラケダイモンが落とされる可能性も、可能性だけでいうならゼロでは無い。援護に行きたいところだが、今回は目的が違う。

「押し切られたら、厳しいだろうな」
 ジャクリーンとシュタールは護衛対象でありながらも構わず作業を続けるレンジョウの言葉に耳を傾ける。
「しかもラケダイモンもさる事ながらダイテラルだって同じかそれ以上に厳しい。くそ‥‥この子を仕上げたらさっさと船を降りてリザベに帰ってりゃこんな事には」
「レンジョウさんのせいではありませんわ。それにホワイトホースだって、あなたが仕上げたからこそ、こうして立派に飛んでいるのではありませんか」
「そうじゃのぅ。こうしてレンジョウさんを護衛しつつ帰還する為に使われておるしの」
 じっとなんてしていられない。何か手を動かしていないと気が休まらない。
 落ち着かないのだ。何かせずにはいられない。
「あんた、ゴーレムニストを目指してるんだって? そうか、だったら覚えときな。あんたの腕次第でゴーレムと鎧騎士を生かすことも、逆に殺す事だって出来るって事をね」
 真剣な眼差しで作業を続けるレンジョウはシュタールがゴーレムニストを目指している事を聞くと、手を動かしながら話をする。
「正直言うとね、アタイのミスで死なせちゃった人がいてさ‥‥ちょうど、そうだな。なりたてで浮かれてた頃、色んな夢を抱きながら現場で働いてた。同僚がいてさ。アタイと同い年の女でね、そいつには病気がちなちいさい妹がいて、心配性の姉貴って訳。すぐに打ち解けてね、色んな夢を語り合ったっけ。だけどある時かなりの規模のカオスニアンと恐獣の進軍があってさ、その人はアタイの整備したゴーレムに乗って出撃した‥‥」
「‥‥」
「その時、作戦自体は成功して勝利したんだけど一騎だけ大破したんだ。アタイが整備したやつだった」
 唇を噛み締めながら続けるレンジョウの前にいつの間にか集まってきたのは風、イリア、そしてファングの三人。彼らも黙ってその話を聞くことになった。
「ゴーレムニストってのはな。間接的な人殺しだ。そりゃそうだろ? アタイらは戦争っていう殺し合いを自ら選択してんだからね。だからこそ、アタイらはゴーレムをつくるだけじゃない、それを使うやつの命も預かってんだ。この船だってそうさ。アタイはラピスを生かす為に、この船をあいつの思うように動かせる船に仕上げたんだ。つまりは――生かすも殺すも、あんた次第って訳」
 現場主義で言葉足らずかも知れない。それでも彼女の言葉には彼女がゴーレムニストを続ける理由も意味も意義もある。
 シュタールに対してだけではない、自分自身への戒めを込めて、彼女は呟く。
「仲間を殺したくなかったら、いい仕事こなしなよ」
「もしかして、その女の人というのは‥‥」
 一通り聞いた後、ふと気になっていた事を聞き返すジャクリーン。レンジョウはしばらく黙っていたが、短くこう答える。
「――ラピスの姉さんだよ。アタイが死なせっちまったのは‥‥」
 それを聞いた全員は、もうそれ以上何も話せなくなってしまっていた。
 それでも、シュタールにとって現場に生きる彼女の心得はリアルなゴーレムニストの言葉としていつまでも耳に残っていたのである。

●レンジョウ帰還せり。
 リザベ領に入ってからは、やはり緊張感が高まった。まるで空気が違う、ラピスもますます表情がこわばっていくように見える。
 元々メイディアからほとんど出たことの無い彼女にとって、メイディア以外の――外の世界というのはとても珍しい場所であり、遠出をする事も楽しい事のひとつだった。しかし今回は違う、何と言っても、彼女が経験したことのない戦争が今まさに行われているのだから。
 ジャクリーンとイリアはラピスの様子を見に行くものの、天然ボケとも言われる少女の面影は完全に消え失せていた。
「難しそうな顔をしていますわね‥‥」
「話に聞くところによると、ラピスさんとレンジョウさんは古くからのお友達との事。そしてレンジョウさんのお話を聞く限りでは」
「‥‥そう、ですわね」
 二人とも、昨晩のレンジョウの話を思い出して思わず言葉に詰まってしまう。

「ラピスさんが厳しい表情になるのも理解できる」
 ファングは二人の話を耳に入れながらも、視界は外さないでいる。
「あの人は戦争でお姉さんを亡くしているんだ。だから、多分、それで緊張してるんだろう」
「ラピスさんはレンジョウさんを恨んでいないのでしょうか?」
「さあね、恨んでいるとしても、命令だから仕方ないんじゃないのか」
 ラピスとレンジョウの関係は非常に複雑らしい。まだまだ深い所まで話がありそうである。
 事情はともかくとして、ファングの言う通り今回は半ば命令であるといえた。

 ゴーレムニストは製造だけでなく、修理や調整にも手が掛かる。一人で全部こなせるならどんなに気が楽か知れない。
 だがその実、たった一人で出来ることなど、ほとんど無いのである。理論的には『不可能』ではないのだが、恐らく人間である彼女、レンジョウ・レンゲの場合だとあと十年を費やしてもいつもの四人作業から半分程度――この場合二名の作業という意味で――の作業効率しか叩き出せないだろう。
 見習とはいえ、未来のゴーレムニストの可能性を秘めたシュタールも十年も現場にいれば、少しはノウハウも腕に染み込ませる事が出来る筈だ。
 とはいえ、ここまで急速に成長してきたゴーレム開発技術関連である、十年後のさほど遠くない未来には更に進化を遂げ、もしかしたら実質的な単独作業すら可能になる可能性は無きにしも非ずだった。何度も言うが、『可能性』はゼロではない。
 ゴーレム開発だって、最初は突飛な発想から奇抜なアイディアまで千差万別の可能性が生まれては消えていった。
 消去法という訳では無いが、ただし現時点では『使えるものを最優先に』という風潮である故に、『より堅実な』モノ作りを目指しているというのが現状だった。そうでなければモナルコスは量産などされる事はなかっただろう。
 ホワイトホースに格納された三騎のモナルコスも、そういった堅実さを最も代表したゴーレムだからこその配備と言えた。

 ティトルを出発してからしばらくして、リザベに到着。
 風が覗き込んでいた双がん鏡からは所々に煙のようなものが立ち上っているのが見えていた。
「――まだこっちには被害は出ていないみたいだが、所々で燃えている気配があるぜ」
「各員、着地準備! 急いで領主様のところにお連れするわ、護衛の人たちは着いてきてちょうだい」
 ラピスはレンジョウと共に冒険者七名を従えながら急ぎ足で領主のもとへと向かった。

●別々の道へ
「レンゲお姉さん‥‥」
「めそめそすんなよ、女かお前は」
「私は女です! もう、いつもそれなんだから‥‥」
 レンジョウの胸に顔をうずめながら、我慢できずに涙を零してしまうラピス。本当は彼女をこんな危険な場所に送り届けたくなどなかったのである。しかし本人はまるで逆で、メイディアのぬるま湯みたいな生活に嫌気がさしていたという。
 正反対の性格である事は互いに知っていたのだが、だからこそ、二人は互いを心配しあっていたのだ。
「いいかいラピス、寄り道なんかしようとするなよ。いくらあの子があんたの命を守ってくれるっていったって限度がある、それにクルーの命を預かってる身だろ?」
「わかってます」
「だったら、あの子を信じてあげな。アタイが保証するよ」
「‥‥はい」
「それから、わざわざアタイを送ってくれた皆も感謝するぜ。だけど帰りはラピスを、無事にメイディアまで送り届けてやって欲しい」
 レンジョウの言葉に、冒険者たちは深く肯く。
 そしてレンジョウはというと、一休みする時間も惜しいのか一言領主と言葉を交わすと、配備先のチェックなどを開始したのである。
 リザベに優秀なゴーレムニストが帰還したという噂は瞬く間に広がり、現地の鎧騎士たちにもその話は広まっていた。

●ホワイトホース、帰還せり。
 レンジョウを無事リザベまで送り届けた事でホワイトホース隊、通称『辺境遊撃隊』の今回の任務は成功を収める形になった。
 遠くに望むかすかな戦火を垣間見ながらも、涙を飲んでメイディアまで帰還しなければならない。無事に送り届けた事を報告しなければならない。全員の命を預かるラピスは艦長の責任があった
 それでも、ようやく気持ちを切り替えたのか別れの言葉を言えたからなのか、ややすっきりした面持ちになり睨みつけるような厳しい表情から、少々落ち着いた表情へと切り替わっていた。
「皆、今回は本当にありがとう。国境付近の様子を見に行きたいところだけど、私にはメイディアに帰らないとならない使命がある。本当にここを死守したいと願うものがいたならば、正式なリザベからの増援依頼に参加する事。一人でも多くの人を守り、一人でも多くのカオスニアンを打ち倒したい者は、ぜひ協力してあげてもらいたいの」
 カオスニアンとの戦闘に備えた配置だったが、戦わず、逃げ帰ったと笑われてもいい。
 万全の体制で緊張高まるリザベへと向かった白馬隊だが、交戦を避け、『目的』を果し、メイディアへの帰路についた。

 今回の働きに、充分な成果をもたらした辺境遊撃隊。
 要人護衛という任務を二度も果しているという実績が、これからより厳しさを増す情勢の中、それが一つの重要な任務を与えられる事となるのだが‥‥。