ナーガ族の動揺
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月26日〜07月31日
リプレイ公開日:2007年08月02日
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●オープニング
●苦悩、焦燥。
レイネは悩んでいた。
元々は自分達の村に突如カオスニアンたちがやってきて、更に恐獣、『ゴーレム』と呼ばれる巨人までもが襲い掛かった事が発端だった。二度三度と人間達にその危機を救ってもらった恩はある。
だが、実際にはレイネの中では複雑な思いが交錯していたのだった。
今、時代は『人間達の時代』であるといえた。それは歴史からみても、明らかだ。
だからこそ竜人族は歴史の表舞台から姿を消すように隠匿した生活を送る事を決めた。
人間の時代に、我々の出る幕は無い――レイネはその考えを変えるつもりはなかった。
だが、そんな中、伝説の竜の巫女フェイエスが人間達によって救出(実際には保護)された事を知り、まだ世間を知らない無垢な少女フェイエスの人間への興味を一方では危険視し、一方ではフェイエスを救った人間達への恩がある。
ターニングポイントに立たされたレイネは、苦悩する。
「だが、まだ先祖の魂を侮辱した奴らへの鉄槌は果せていない。私はまだ、やり残した事があるのだ‥‥」
フェイエスを村に帰すのは、それが済んでからでも遅くは無い。
レイネには、レイネの使命があるからだ。
●砂漠の中心で吼える竜人。
確かレイネはフェイエスに留守番を頼んでいたはずなのだが、なぜかフェイエスはサミアド砂漠へと足を運んでいたらしい。
そんな危険地帯へよくもまあ行こうという気になったものだ。無謀さはレイネの比ではない。
もちろん、一人で事を成すという意志の強さと行動力はレイネも持ち合わせているが、それを何も真似しなくともよいではないか。
フェイエスがレイネに憧れる余り、そういう『無茶』も『無謀』も真似してしまっているのなら、やはりレイネとしては手本を見せる事こそ彼女への躾になると思うしかなかった。
しかし彼女にはやり遂げなければならない使命がある。
その為には、ひとつ大事な事をフェイエスに教えなければならないという事に、レイネは、ようやく気付いたのだった。
本来なら、自分達の事は自分達で解決することが望ましい。
しかし、それだけが『正解』ではない。
特に、人間の時代だからこそ、彼ら人間とのこれからの付き合い方というものをフェイエスに教えなければならなかったのである。
そこでレイネの選択した一つの回答が、『受け入れる』という、単純なようでいて奥深い――心の問題だった。
●レイネ、再び。
竜人族の誇りと名誉。そして先祖の魂を取り戻すべく、時には強襲してくる敵に立ち向かわなければならなかった。
温厚な性格だからこそ、立ち止まる事もあった。
竜の巫女、フェイエスと再び出会う事も出来た。
彼女が今、成さねばならぬ事は、たった一つ。
「もう一度、サミアド砂漠へゆこう‥‥」
それだけだった。
●西方戦線とサミアド砂漠。
一方メイディアは激震していた。リザベが圧倒的な数のカオスニアンと恐獣の部隊に襲われているというのだ!
大規模な戦闘がリザベ領各地で行われているらしい。
更に、国境付近の防衛砦の一つが壊滅――正確には『消滅』――したらしいとの事。
この非常体勢のタイミングにサミアド砂漠に向かうという事がどういう意味を持っているのか、彼女にも理解は出来ていた。
だが彼女の中で先祖の魂を侮辱したカオスニアンへの怒りはおさまらない。せめて遺骸を取り戻し、故郷の地に還し、眠りにつかせたいという思いがすべてに優先した。
「決着を着けるには、今しかあるまい」
そこで今回はフェイエスのお守りをしながらもサミアド砂漠へ向かい、無事で帰ってきたという優秀な部隊、ホワイトホース隊に同行を依頼したのである。
しかもそのホワイトホース隊、とあるゴーレムニストを護衛しながら戦火に塗れるリザベに先日送り届けたばかりと聞く。
それだけの実績をあげてきた部隊である。フェイエスの事もあるので、礼をしたいと思っていたし、そういう意味では多少の信頼性を感じていたのだった。
帰還したばかりの白馬隊の艦長に話を聞きに行くと、かなりの難色を示したものの上層部からの推薦もあり何とか引き受けてくれる事になった。
しかし帰還したばかりなので人員が不足しているという。
そこでレイネはホワイトホースに搭乗する人員募集の為、冒険者ギルドへと依頼の要請をした。
●リプレイ本文
●隠された、意味。
「さて、準備はいいかしら? 今回の作戦についてだけど」
ブリーフィングルームでラピスは今回の作戦について軽く説明をする。状況は作戦前とほぼ現状変わらず、問題はその名の通り目的の場所が『隠し』キャンプである事だ。
隠す意味があり、隠す必要性があるから、隠していたのだろう。
そういう意味では何かしらの『重要な』施設である事はかろうじて、うかがい知る事が出来た。しかし実際にその重要な部分が何であるかは不透明である。
しかし、いくら隠されているとはいえ、カオスニアンらのキャンプの発見報告があったという事は、つまり、見つけることは可能であるという事だ。
●逆襲のレイネ!
「ドラグーン‥‥か、巨人に力を貸すという話は聞いたことは無いが、我らは竜人族特有の言葉で奏でる詠唱言語がある。しかし、それは我々が生きていないと不可能だし、死人を生き返らせでもしない限り無理だ」
イェーガー・ラタイン(ea6382)が友人から聞いたという、別の国の話からナーガ族が関わる『巨人』――つまりゴーレムがあるという情報を聞くと、レイネはその内容から人体実験のような異様な、悪意にも似た雰囲気を感じ取る。
だが、彼女の言う通り、竜人族特有の言語による『ドラゴンホーラー』と呼ばれる秘術体系を持ち合わせている事は、メイの国以外の国でも図書館などで念入りに調べ上げれば資料として残されている。
同じく、彼女の通り、呪文の一種であるので詠唱が必要である。
つまり死人に口なしとも言える『遺骸』にその能力はありえないのだ。
「ナーガ族の遺体を使ってゴーレムを作るなんて話もあるみたいだけど、どんなことをするんだろう? ウィルの工房見学の時にそんな技術につながる説明あったかな?」
カーラ・アショーリカ(eb8306)は耳に聞いた話をさらりと流すようにレイネに問い掛ける。
これはあくまで予測、予想でしかありませんが――と切り出したのはフラガ・ラック(eb4532)だった。
「私の予測としてはカオスニアンは竜の力を求めたのではないかと考えています。つまり敵の狙いはドラグーンの創造。ゴーレムに竜の力を付与するために一連の蛮行を行ったのではないでしょうか」
アトランティスでも遥か彼方、ウィルの国ではドラグーンなるゴーレムがすでに完成しているらしい。だがそれが実際どんなものなのかは現在のメイの、冒険者レベルではほとんど知られていない現状である。現地で関与している者はいないようで、噂程度の事しかわからないようだ。
「そんな事のために我らを利用しようと‥‥それだけならまだしも、我らが先祖の魂までも奪ったというのか」
レイネは悔しさと怒りを混ぜたような厳しい表情をしてみせる。
「ゴーレムと言う力を手にしたとしても、偉大なる守護者にして、我等を見守るナーガ様達に対する畏敬の念を忘れる事は、許されない。カオスニアンからナーガ様達の遺体を取り戻しましょう」
本当にゴーレムの為なのかは、行ってみないとわからない。それでもイリア・アドミナル(ea2564)も奥歯を噛み締め、自分に言い聞かせるように決意を述べる。
シャルグ・ザーン(ea0827)、音無 響(eb4482)、フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)、フィーノ・ホークアイ(ec1370)らも今度こそ奪還成功を約束するように深く肯く。
「何にせよ、制圧よりも、ナーガの方々の遺体を確保する事が優先だ」
ファング・ダイモス(ea7482)は言いながら、ラピスから得た情報を元におおよその隠しキャンプの予測地点を割り出す。
「ブレスセンサーで数なんかを感知出来るかも知れないから、第一斑はその辺りを中心に様子を見てきてくれる? 音無とカーラ、フィオレンティナはいつでもモナルコスを‥‥出せるように準備だけはしておいて」
一瞬モナルコスの名を出した瞬間、言葉に詰まったラピス。
「どうかしたのら?」
カーラが聞き返したが、ラピスは何でもないわと指示を再開した。姉同然で育ててもらった女性の姿を、今、振り返っている暇は無い。
●極寒の夜間戦闘!
――まさかこういう事だったとは。
強襲に成功した白馬隊率いる冒険者チームが発見した『隠し』キャンプはまるで突然に、まさしく亡霊のように砂漠のど真ん中に浮かび上がったのである!
「まさか、布と砂をカモフラージュ代わりに使うとはのう‥‥上空から、見えるはずが無い」
フィーノは今回の作戦で、恐らく、最も強運の持ち主だっただろう。偶然発動したブレスセンサーに見回りをしていたカオスニアンの息遣いが聞き取れたからだ。
そこから方角を再確認、相手に悟られないように夜を待ち、音無・カーラ・フィオレンティナのモナルコス隊とイェーガーもバリスタの弓を引くホワイトホースの全力戦闘で強襲する案が正式に採用された。
残りの地上部隊の冒険者たちはゴーレム戦闘に入る前に、これまた布と砂で覆われた投石器を発見。
それにしても、あまりにも巧妙すぎた。布に樹液を塗り、砂を散布し『砂漠のカーテン』をキャンプの広域に覆いかけ、一番発見率が高いであろう上空からの発見を回避していたのである。
そもそもフロートシップの巡航速度は約時速70キロ、かなりの速度だ。さらに高度もそこそこ取らないとならない。その盲点をついた最大の効果を発揮するカモフラージュ作戦だったのだ。
しかしそれも地上からだと効果も半減、確かに発見自体は難しいが、上空からよりは遥かに見付けやすかった。
カオスニアンの重要施設なのだろうか? そこまで厳重にする必要があるのだろうか?
ともかく夜襲をかける事でカオスニアンに打撃を与え、早い段階で対空兵器となり得る投石器を沈黙させる必要があった。
この作戦、この隠しキャンプのキモは、間違いなく用途不明のカタパルトだからである。
そして地上部隊はホワイトホース及びモナルコスの侵攻方向から逆を取り、左右からの挟み込みで打撃を与える方法を取った。
火矢で攻め込めば簡単に攻略出来たかも知れない。しかしそれをしなかった、いや出来なかったのには理由がある。
この隠しキャンプにはレイネが探している竜人族の先祖の魂が保管されている可能性があったからだ。
どちらにせよ、投石器を破壊し、遺骸を奪還する事さえ出来ればあとはそのまま連れ帰る為に撤退しても構わなかったし、全員がそれで納得していた。
最大の目標は制圧や破壊目的ではない。あくまでも遺骸を持ち帰る事だけなのだから。
果たして冒険者たちは見事に一基だけあった投石器を破壊、レイネたち地上部隊はそのまま施設に突入していった。
●巨人の怒りを受けよ!
「絶対、お前達の好きにはさせない!」
綺麗な顔立ちをしているが、その表情は真剣そのものだった。音無はフィオレンティナ、カーラと共に正面から中型恐獣を討ちに立ち上がる。
「行こう、フィオさん、カーラさん」
二人に合図を送ると、強襲作戦とは思えない正々堂々真正面からのアプローチで攻めに入る三騎。
施設から戦力を引き摺り出すようにして、強大な力で圧倒するゴーレム。
確かにモナルコス三騎で中型恐獣とカオスニアンの応戦は厳しかったかも知れない。それでも、絶対に諦めたくは無かった。
何のためにここまで来たのか、ここで諦めたら全ては水の泡だ。
恐獣の突進にあわせて、フェイントアタックを繰り出すカーラとフィオレンティナ。あの鈍重なモナルコスが彼女らにかかればまるで踊り子だ。もちろん、軽快なステップ、とまではいかないが。
動きが遅い割に流れるような足運びと無駄のない太刀筋は西洋ではなく、東洋でいう、『日舞』のような流麗さがあった。
重いモナルコスをして、ここまで砂漠で動けるなら相当のものだろう。
モナルコス特有のパワープレイではない分、正統派の戦術から見るとやや特異に見えるかも知れないが、モナルコスは後期型になって従来の『汎用性』がより高まった。そういう意味で言うと、どんなスタイルの鎧騎士が登場してもパフォーマンスを落とさないという利点がある。
特化した鎧騎士とゴーレムの組み合わせほどではないが、それでも今回のように奇襲を絡めた戦術においてはかなりの効果を発揮していたようだった。
「これしきどーってことないもんね!」
中型恐獣の攻撃を盾で受け流しながら、フィオレンティナは音無のテレパシーによるジャミングアタックで一瞬動きが止まった恐獣に振り下ろしの一撃を直撃させる! そのまま勢いで骨ごと腕を引き千切っていった!
「思考をコントロールしたりする事はできないけど‥‥」
「一瞬でも足を止めてくれるなら、充分!」
「このまま殲滅させちゃおう! あっ、まだ壊しちゃだめだった」
●奪還!
モナルコス三騎によるド派手な陽動のおかげで手薄になった背後から施設への侵入を果したレイネたち。
そこで地上部隊の冒険者たちは信じられない光景を目の当たりにする。
「これは‥‥どういう事ですかレイネさん!」
「眠っている、の――?」
「いや、違う。我々の亡骸は、こうして保存され、永遠に朽ちぬ肉体と精神で精霊と交わるのだ。ようやく遭えた‥‥ようやく‥‥」
それまで口を真一文字に、厳しい表情を見せることがほとんどだったレイネから、大粒の涙が溢れてきた。
しかし感動の再会をしている余裕はない。外では音無たちモナルコス隊やラピスやフェイエス達が乗るホワイトホースが激闘を繰り広げているのである。とにかく、回収せねば!
しかし、こういう大事な時に、邪魔者というのは現れるものだ。侵入に気付いたカオスニアン六体が施設の方に突入してきたのである!
「問題ない。全てなぎ倒す」
ファングは突入してきたカオスニアンに、爆裂の、超破壊力を惜しげも無く繰り出す一撃を見舞った。
室内である事を忘れた為か、凄まじい轟音でカオスニアンの束ごと吹き飛ばしてしまう!
フラガはその破壊力にはっと我に返ると、とっさに叫ぶ。
「ちょっと、あんまり暴れるとナーガ様の遺体に!」
レイネは駆けるように素早く近付くと遺体の損傷具合を確かめる。
「棺もそのまま残されているな。‥‥ん? やはり、熱で早まってしまったか‥‥」
「どうされました、レイネ様」
「後で説明する、すまないが、手伝ってもらえないだろうか」
「当たり前じゃないですか、その為に来たんですもの」
ファング、フラガ、そしてイリアはレイネと共にまるで眠っているように横たわった骸の棺を全員で引き出した。
一撃で屠ったかと思われたカオスニアンの生き残りが応援を呼ぶ為に逃げ出していた事も気付かぬままに。
しかし。
「貴様ら、ナーガの遺体をどうするつもりであるか。死者の尊厳すら汚すとは不届き千万!」
逃げ出してきたカオスニアンを押さえつけるように立ちはだかったのは――騎馬とランスで武装したシャルグだった。
結局出口の付近で応援を呼ぶはずだったカオスニアンはその場で倒された。その頃にはモナルコス隊は恐獣を三体とも倒し、それに巻き込まれたように吹き飛ばしたカオスニアンたちもかなりの数、なぎ倒されていたのである。
●眠れる魂の帰還。
まるで生きているように眠ったままの姿を保っていた、ナーガ族の遺骸。
レイネの話によると、これは一種の『ミイラ』なのだそうだ。
「ハンズ・オブ・グローリー‥‥」
思わず息を飲んだ音無はそう呟いていた。
死蝋と呼ばれるもので、ミイラと同じ『永久死体』の一種と言われている。
一般的にミイラと呼ばれる永久死体と大きく違う点はその生成される環境にあった。
ミイラは乾燥した場所で生成されるが、死蝋は湿潤かつ低温の環境において生成される。
天界にもミイラ同様、死蝋は保存されていて例えば『ロザリア・ロンバルド』の死蝋は世界一美しい永久死体として有名であるという。
「こんな事って、本当にあるんですね」
「黒き者どもが何を狙って我らの魂を奪ったのかは結局聞き出せなかったが、無事全ての骸を取り戻す事が出来た。保存状態が悪く、崩れかけている者もいるが、手厚く葬って、もう一度安らかに眠ってもらう事になるだろう」
直接村に戻りたい所だが、作戦として一旦は全員で帰還しなければならない。
レイネたちはナーガ族の遺骸をメイディアに持ち帰り、霊安室で短い間だけ保存してもらう事にした。
すぐに村に連れ帰ってやりたい所をぐっと我慢するレイネ。
「今回の我々の願いに協力してくれた人間、エルフ、ジャイアント、パラ、シフール他全ての者たちに、深い礼を言おう。本来は我々自身が解決しなければならない事だが、やはり一人では叶わぬ事を何度も思い知らされた。だが、お前達『冒険者』というものは互いに互いを信頼し、助け合う事の大事さ、素晴らしさを我々に教えてくれた。何度礼を言っても足らぬほどだ。感謝する」
深く頭を下げるレイネ。それはナーガ族にとっての、いや、レイネにとっても。
ほんのちいさな――変化でもあった。
ともかく、これにてナーガ族の遺骸回収及び、カオスニアンの隠しキャンプをほぼ壊滅状態にしたという大きな戦果も持ち帰る事に成功したのである!