湖の主釣り

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月02日〜08月09日

リプレイ公開日:2007年08月04日

●オープニング

●とある湖の話
 その湖にひとりで赴き、願い事を三回言ってから湖を背にして硬貨を一枚投げ入れると、湖の主が現れて一度だけ願いを聞いてくれるという――。
 いわゆる『都市伝説』が、古くから言い伝えられている場所がある。
 真相は不明だが、メイディアの北西、セルナーの国境付近にあるというその湖は意外と観光地化しているような所だったりする。
 本当の名前は定かではないが、通称「恋の主湖」などと呼ばれているらしいのだ。
 ちなみに、その湖の主が何なのか、誰もその姿を見た者はおらず、今の今まで本当に現れた事があるという人はいないとの事。
 しかし不思議な事に、願いが叶うというのは本物のようで『願いが叶った』者が言うには、成功した時は主の声が聞こえただとか湖面が鈍い光を放っただとか言われている。

●湖の不穏な影
 そんな通称『恋の主湖』に、ここ最近悪い噂が流れ始めている。
 というのも、どうやら湖の主こと、恋の主が凶暴化して願掛けをしに来る人間を次々襲っているのらしいのだ。
 以前にもそういう噂は無かった訳では無い。
 しかし、それまでは強欲な人間が心清き主に成敗されたとか、その湖に投げ入れた硬貨を狙った賊が主の怒りに触れて呪われたとか、追い払われたといった程度の内容であり、一般人に危害が及ぶなどという事はほとんど無かったという。
 ところが、ここ三週間ほどから急激にそういった一般人までもが巻き込まれるような事件に発展してしまっていた。
 現時点では死亡者までは出ていないが、「引きずり込まれて溺れそうになった」という報告例はいくつもあがっているし、しかしなぜか一様に姿までははっきり見ていないというのである。
 何故か?
 理由は、その状況下にある。
 この願掛け、再現してみるとすぐに理解出来るだろう。

『その湖にひとりで赴き』『願い事を三回言ってから』『湖を背にして硬貨を一枚投げ入れる』。

 つまり、誰一人として他者の目撃情報はなく、被害者は犯人が潜んでいるであろうと思われる湖面を見ていないのだ。
 さらに不意に湖に引きずり込まれてしまえば突然の出来事にパニックを引き起こし正常な判断など出来るはずもない。
 姿無き犯行を繰り返す怒れる湖の主に対し、不安の声があがっている。
 そこで今回はメイディアの治安を守る官憲から事件の情報収集及び現場捜索などを含んだ内容で、冒険者ギルドに応援要請が出されたという訳だ。

●主を釣れ!?
 とある事件がきっかけで街の顔としても定着しつつあった官憲アーケチは引退し、その後任としてメイディアにやってきた官憲が今回の事件担当となった。
 女性官憲で、着任早々に問題騒動を引き起こした上、毎回彼女が担当する事件は大混乱が付きまとうという曰く付きの『悪女』或いは『死神』モーリィ。
 観光客が悪い噂を聞き、少なくなっているらしいこの時期に徹底して湖の捜索を行い、原因を割り出し、解決させるまでが今回の任務となった。
 期限は一週間。応援人数は十名。
 潜水班も投入され、かなり大規模な捜索が行われる事になっている。

 さて、肝心の『恋の主湖』の主がいるかどうかは不明だが、湖そのものの概要を説明しよう。
 湖は比較的小ぶりなもので、それほど大きくは無い。
 面積150000平方メートル
 周囲長2キロメートル
 最大水深12メートル
 平均水深6メートル
 数値は大体の目安で、約、がつくが淡水の構造湖である。
 実はこの湖、釣りも楽しめるスポットでオールシーズン様々な魚が取れるらしい。

 冒険者らは湖畔の情報収集及び生態調査の協力、及び潜水可能なら潜水や水泳技術などを使っての湖面調査の協力をお願いしたい。
 ただし報告例にもあるとおり、湖に引きずり込まれたり、湖で『主』に相当するものが出現する可能性もある。出来れば主が大人しくしてくれていればありがたいが、そうでない場合は出発前に各々で相談の上、担当官憲モーリィの指示に従ってもらいたい。

 美しい湖であり、また観光スポットであるだけに、そういった悪い噂もこの際拭い去ってしまいたいところである。

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb7898 ティス・カマーラ(38歳・♂・ウィザード・パラ・メイの国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●主を探せ!
「ったくよォ‥‥こんな辺ぴな場所まで捜査しろってかい。まったく難儀な商売だねぇ、官憲ってのはさ」
 真っ赤な髪、真っ赤な瞳、そして真っ赤なルージュにこれまた真っ赤な煙管。一目見た瞬間、誰でもが思うのは。
 ――姐御肌の女性像、だろうか。
 前任であった真面目な青年だった官憲アーケチとは真逆と言ってもいい。このイメージが『不真面目さ』のあらわれなのかどうかはわからない。
 だが、彼女。官憲モーリィは、今、確実に。非常に、不機嫌だった。

 そんな彼女の心とは裏腹に、噂の恋の主湖は大自然の豊かさを象徴するような美しい光景を見せる。一見して、ここが惨劇の舞台とは到底思えないほどである。
 ルメリア・アドミナル(ea8594)イリア・アドミナル(ea2564)の二人はボートに乗り込んで湖面の調査を開始した。
「この様な素晴らしい景色の場所で悪戯とは、感心出来ませんわね」
 元々自然の中で生まれたエルフという種族の特性から、命の源でもある水に棲む悪夢をルメリアは見逃すことが出来なかった。それはルメリアの姪であるイリアにとっても同じで、水の精霊に深く関わる魔法を学んだ彼女にしてみれば面白くない事この上ない。
 表面には出さないが不機嫌さだけで言えばモーリィ以上だったかも知れない。
 それでも、調査を進めるのは美しい景色を守るという単純な理由でも充分だったと言えた。
「あっ」
 突然イリアが声を上げる。その声から表情を読み取ったルメリアははっとなって振り返った。傍を周回していた導 蛍石(eb9949)のボートからも聞こえる。
 さらに上空からふらふらと湖を覗き込んでいたティス・カマーラ(eb7898)にもイリアの声は聞き取れ、何事かと振り返ると‥‥。
「あん? 何さ、いたかい? 主って奴が」
「違います、モーリィさん。今、湖に灰を落としましたね? 綺麗な湖の平和を取り戻そうという事で調査をしているのに、そういう事をしていいのですか」
「何を言うかと思ったら、そんな事かい」
「そんな事って‥‥」
「灰ってのはね、土壌を豊かにするもんさ。水の中に入りゃ不純物を吸収もしてくれる。だから、アタイは灰は土に、自然に還すもんだと思ってるのさ。だから灰皿なんて使ったこともないよ」
 彼女の言い分が正論だとは言わない。ついでにいうと、あまり真似しない方がいいだろう。
 だが、一方で彼女の言い分はまかり通っているが、行為としてはあまり気持ちのいいものではなかった。
「でしたら。静観を壊さぬように、煙管を吹かすのも少しは控えていただきたいものですわね」
「ふん。アンタたちは黙って主探ししてな、余計な事に気を取られて犯人を取り逃がす事にならないようにしっかり探すんだよ。ほらぁ、そこォ! さぼってんじゃねぇ! 湖に落とすぞ!」
 初日からやりにくい現場主任が来たものだと四人は少々呆れていた。

 一方、湖畔で周辺調査をして回っていた結城 梢(eb7900)は観光に訪れていた一般人にも出くわしたが、まだそれほど例の事件に関わる『悪い噂』を知っている者が少ない事に気がついた。
「おかしいですね‥‥こういう噂は人づてで意外に広まるのは早いはずですが」
 だからこそ、まだ『恋の主湖』には人が来るし、逆にこうして官憲や冒険者らが調査に乗り出している事の方がある意味ショッキングな出来事だったのだろう。
 聞き込み調査の段階ではじめて聞いたという者が圧倒的な中、そもそも、彼らはこの湖の『主』が何者なのかを知らずにいた事が判明する。
 ある者は巨大な魚だといい、あるものは湖の湖面に溜まった硬貨を狙った盗賊が怖がらせているだとか、水の竜、サーペントが主だとかその説は多岐に渡り、正確な情報がなかなか掴めない。
「盗賊、ですか。可能性とはいえ、万が一盗賊だとしたら‥‥これは少々やっかいですねえ」
 また、湖に投げ込まれた硬貨の件に関して聞き込みをしてみると意外な事が判明した。そのほとんどは(一般的な事情を含めて)銅貨である事が判明。
 その銅が酸化して、緑青(ろくしょう、銅に付着するサビの一種)を吐き出し、それが湖を汚染しているのではないか? という天界からの科学者の意見(モーリィ率いる官憲チームの一人の意見)もあった、が。
 実は過去において緑青は毒性の高いものであったとされているが、(天界の)現代ではその定説も覆されてきつつある。
 その原因は緑青そのものではなく、銅に含まれるヒ素の混入が原因で、それによりヒ素中毒になる事から『緑青は毒』という因縁を生み出してしまったのだ。
 メイの金属製錬技術は未発達な状況である事から、メイの事情だけで見ると知らず知らずのうちに水質汚染をしていたという可能性も無いとは言い切れない部分がある事は一応付け加えておく。
 結城も天界から降りてきた一人であり、そういった部分では銅貨による水質汚染の線は完全に否定出来ない立場でもあったからだ。
「湖に投げ落とされた硬貨の引き上げなども考えないといけないかも知れないですねえ」
 それが結果的に湖の浄化に繋がれば、少しは貢献出来るだろう。結城は調査をまとめると一日丸まるボートで動き回ってくたくたの冒険者らをねぎらいつつも報告する。

●湖の底に突入せよ?
「そのロクショウっていうのがよくわからんが、つまり願掛けに使われた硬貨を拾い集めていけば『主』の怒りも収まるって、そういう事かい? お嬢ちゃん」
「はあ‥‥まあ、これは一つの可能性として、ですけど」
 まったりとした口調の結城が調査報告を述べると、溜息まじりに煙管の煙をくゆらせるモーリィ。初日の捜査を終え、キャンプ設営を完了して夕食が皆に振舞われた。今回はどうやら食事には困らないようである。
「確かに水質汚染を食い止めれば、主さんが暴れたりする理由もないかも知れないね」
 ティスも結城の意見に賛同した。

「それも一つの理由かも知れませんわね。でもわたくしはもう少し別の理由があるような気がするの」
 一方。ルメリアとイリアは湖面を覗き込みながら、見慣れない魚が泳いでいる事に気がついた。天界では一般的に見かけるようになった魚だが、アトランティスでは非常に珍しい魚だ。ちなみに、ブルーギルという名の魚である。
 しかも、かなりの数だ。
「繁殖力が強いのかも。食べられるかどうかは知らないですけど、かなり多いわ」
 イリアも『その事』に気付いていた。
 二人の意見を聞く限り、それは恐らく『外来種』と呼ばれる繁殖力が強く、かつ、敵対生物がいない事で成立する爆発的に増殖する生態系の危惧であった。二人はそのいわゆる外来種の危険性を知らないが、それでも風変わりな光景を目の当たりにすると、やはり『湖自体に』何か問題があるのではないかと感じていたのである。

「そういえば‥‥」
 二人の率直な感想を聞いているうちに、ボートで湖面を調査する前に聞き込みをしていた導も、二人の言う魚の事に関しての情報を得ていた事を明かす。
 導の聞いた話だと、ここでよく釣りをするという人間から事情を聞くとここでしか釣れない、しかも毎回爆釣の、しかも焼いて食べるとかなり美味しいと評判の魚がいるらしい事が判明した。
 二人の意見と確かに似たようなものだった事から、信憑性は高まった。
「じゃあ、その魚が沢山いると主が暴れる理由になるのかい?」
 モーリィはそう問い掛けると、全員黙りこんでしまう。あくまで可能性の話であって、そこから抜け出すにはやはり事実を掴み取るしかない。
「アタイらは明日も調査をする。アンタらは湖に潜ってみるかい? その方がてっとりばやいっていや、てっとりばやいからね」
「主っていうのが、湖の中にいるんならね。その方が確実かも知れないね」

●湖の真実――。
 二日目。昼前からいつものように観光客が現れ始める。
 そんなに恋を成就させたいのか、願掛けという行為自体がそこまで一般的なのかはわからないが、とにかく人気は衰えることを知らない。もし先の被害報告が無く、それがただの噂だったなら官憲までが出るような事件ではないのだが‥‥。
 しかし、噂はあくまでも噂。その噂を流した者が必ずいるはずなのだ。
 一体誰が、何の目的で噂を流したのだろうか? この湖に因縁深い何者かの存在がいるのだろうか。
 恋が実らず、逆恨みして流した噂に尾ひれがつき、その噂に乗じて愉快犯が噂通りの悪戯を続ける。なんて事は状況的には完全に否定出来ない。それだけ人の思いというのは深いのである。
 しかしそういう事であれば、人間というのはとても欲深い。強欲な種族である。それゆえ、純粋な面もあるのだが。

 ともかく。
 二日目は冒険者全員で湖の中に潜り、先ずは結城の得た情報から銅貨などの硬貨を回収する事に決まった。ちなみに投げ入れる場所はほぼ決まっていて、投げ入れて落ちる場所もおのずと集中している。
 そういう意味では『襲われる場所』の特定も容易であった。が、集中的に辺りを捜索するもやはり手がかりが得られなかった。
 銅貨による水質汚染が怒りに触れた訳ではないのだろうか?

 またルメリア、イリア、そして導。三人の見解による魚の異常増殖の線で探ってみるも、確かにかなりの多さに魚個体の大きさもなかなかなものだったが、襲われるほどの危険性は感じられなかった。
 なお釣りを楽しむ者からの参考にバター焼きにすると美味しいとの事で、二日目の夕食は魚を少量確保して振舞われた。
「うーん。湖に入ったら、主が怒って襲ってくるかと思っていたけど‥‥」
「もっと深い場所でないと見つからないのかしら?」
「しかし襲われた場所というのは硬貨を投げ入れる場所に近い。浅瀬側の方がいる確立は高いと思う」
 ティス、ルメリア、導。三者三様の感想が洩れる。イリアと結城は夜間の交代の為に早めに休息をとっていた。
「しかし、このままでは安心して湖の景色を眺める事も叶いませんわね」
「徹底的にやるしかないですね」
 回収された硬貨は、モーリィらが押収する事になった。冒険者らの計らいでこれは領国に納め、このお金を使って綺麗な湖の管理維持を行って欲しいというものだった。
 それにはモーリィも納得し、賛成してくれた。
 しかし問題は残されている。硬貨は回収し、現時点ではその線での『汚染』を止めた。だが、観光客は絶えない。
 また再び投げ入れられる可能性は高い事から事件の真相が判明するまでの間、投げ入れることを止めるように特定の場所に立て札をかけて注意を呼びかける事となった。
「あれ? ところで、モーリィさんは?」
 ふと辺りを見回したティスはモーリィがいなくなっている事に気がついた。他の官憲に聞いてみるもわからないと言う。
 何かあったのでは、と不安がよぎったその時――。

 湖から激しく水を打つ音が聞こえてきたのである!

●決着!
 眠っているイリアと結城を起こし冒険者らが湖に辿り着くと、モーリィが暴れるようにしながら湖に引きずり込まれている最中だった!
 硬貨を投げ入れるスポットには彼女の愛用の煙管が一つ、ポツリと落ちていた。
「っぷあ! く、くそっ、放せこのやろゴボッ!!」
「モーリィさん!」
 イリアは全員にウォーターダイブを付与すると、急いで湖面に飛び込んだ。
「モーリィさんを浮上させるから、イリアは沈む前に彼女にウォーターダイブをかけてあげて!」
 水中ではライトニングサンダーボルトを使うのはあまりにも危険性が高い事から、雷撃での戦法では手が出せない。
「僕が試そうとしてたのに、先にモーリィさんが試してたとはね」
「そんな事しようとしてたのか」
「まあ、ね」
 ティスの、恋の成就の願掛け再現のアイディアに思わず突っ込んでしまう導。
「あたしの出番‥‥ですかねえ」
 ブレスセンサーで位置と個体の大きさを測ろうとしたのだ。モーリィはとてつもない速度で湖の中央側、つまり水深の深い方に引きずり込まれている。
 そして引きずり込んだ相手は、例の恐れられているという『怒れる主』であろう。
「大きい。あたしたちとほとんど同じくらいの大きさですよ」
「そんなに大きいの? あれだけ探したのに影ひとつ見つからなかったのに」
「奥に潜んでいたのでしょう」
 ゴボボッ!
 最後に一息何とか深く息を吸い込んだモーリィは引きずられるままに沈んでしまう!
「モーリィさんっ!」
 このままでは彼女は溺れ死んでしまう。五人は急いで湖の中央へと向かった!
 そこで五人が見たものとは――。

 イリアがウォーターボムで『犯人』とモーリィを巻き込みつつ流れを水面へと浮上させるようにするとルメリアがトルネードを使って更に巻き上げていく! 水中で行っている分、全員が流れに巻き込まれるが、モーリィを呼吸させるにはそれしか方法が無かった。
 直前にリトルフライを唱えていたティスはそのタイミングで空に飛び出すと、目を回しながらぐるぐる流れに身を任せているモーリィを『主』から引き離すことに成功。
 そのまま引き上げられなかったが、湖畔まで引っ張って行く事は出来たのである。それを確認すると、ルメリアたちは一度湖から上がろうとした――のだが。

 無事救出されたモーリィ。
 彼女はそれから、息をふき返すと全員に即座に撤退を命じる。
 突然の撤収命令に意味もわからず困惑する冒険者たち。
 説明を求めたところ、モーリィは実に冷静にこう答える。

 どうやらこの湖の主は近いうちにこの湖を去るらしい。
 怪我をして、この湖に隠れていたがそれが癒えればすぐにでも自分達の国に帰る事を約束する。自分達に構わなければ手を出さないと。
 実は――湖の底にいたのは、数人の人魚だった。
 とある戦争に巻き込まれた彼女たちは片腕や片目を失うほどの痛手を負い、命からがら逃げ延びて来た人魚達だったのである。
 傷の手当てをしていた彼女たちはしばらく休息目的でこの湖に滞在していたが足並みを揃えて帰国する予定だったらしい。

「しかし、本当に襲われていないとしたら、一体誰がそんな噂を‥‥」
「あいつらが人間に変身して、人々にふれまわったんじゃないのかね。噂を流せば人が少なくなるだろうって事でね。どっちにしても、これはアタイだけの問題じゃなくなっちまった。だから捜査はこれで終わり、こっちはこっちで報告するだけさ」
 こうして調査は打ち切りを余儀なくされてしまった。
 ところが予告通りの後日再調査を決行したモーリィは、確かに彼女たちが湖から姿を消した事を確認。
 その後の被害例は一切報告されていない。
 はじめから、この湖には主などおらず、噂の怒れる主というのは人魚たちが作り出した幻だったという訳だ。

 こうして、恋の主湖事件は解決した。
 更に後日――モーリィの元に一通のシフール便が届けられる事になるのだが、それはまた、別のお話‥‥。